【マリみてSS(由乃、祐麒他)】ぱられる! 10<笙子・乃梨子ー2>

 

 倒れそうになった祐麒は、思わず隣にいた笙子の腕を掴んでしまった。しかし、華奢な笙子が祐麒の勢いを止め切れるわけもなく、二人でもつれるようにしてスライダーに飛び込んでしまった。
「うわ、うわ、うわあああっ!?」
「きゃああああっ!?」
 とりあえず笙子を守らないと、とは思うが、凄いスピードで滑り落ちていくから簡単にいくわけもない。しがみついてくる笙子の体を感じながら、ただ勢いに任せて下のプールに向かってゆく。
 長く見えたスライダーも滑り始めればあっという間で、瞬く間にプールに到着し、着水とともに激しい水しぶきが舞い上がる。
「ぶあっ! げほっ、はっ」
 変な体勢のまま滑って落ちて、思いっきり口と鼻の中に水が入ってしまい、水から顔を出すと同時にせき込んでむせる。
「しょ、笙子、だいじょうぶか?」
 それでも年上の威厳を見せるべく、すぐに気を取り直して笙子の名を呼ぶが、咳き込みながらなので格好がつかないことこの上ない。
「う、うん、大丈夫。あー、びっくりしたぁ」
 目の前で、笙子が立ち上がる。当たり前だが頭から水をかぶって、ふわふわした綺麗な髪の毛もびしょぬれで、髪の毛の先から水が滴り落ちている。
「ごめん、倒れそうになってつい……って、しょ、笙子っ」
 改めて笙子の方に目を向けて、思わず見入ってしまう。
「どうしたの、祐麒お兄ちゃん……え、あ、やっ!?」
 祐麒の視線を受けて、笙子も気がついた。ウォータースライダーで滑っている勢いでずれたのか、水着のブラが上にずれていたのだ。幸いというか、引っかかったのか完全にずれてしまってはいないが、それでも球体の下半分が見えてしまっている状態だった。
 赤くなりながら胸を隠して後ろを向く笙子だが、そこでまた祐麒は目を丸くする。水着のパンツの方も、滑っているうちに際どく食い込んでしまっていて、可愛らしいお尻が随分と顔を見せていたのだ。
「や、やだ、見ないでよ、もう!」
 慌てて水着を直す笙子だったが。
「きゃああああああっ、笙子、危ないどいてーっ!」
「え……うわああああっ」
 悲鳴の次の瞬間には、派手な水しぶき。
 続いて滑ってきた乃梨子が着水したのだが、かなりの勢いで飛び込んできて、勢いあまって笙子にしがみつく格好になった。そして、乃梨子は笙子のパンツをひっつかんでプールに水没する。
 祐麒の目に、笙子のお尻が完全な形で映る。
「~~~~~~っっっ!!!」
 声にならない悲鳴をあげて、プールの中にしゃがみ込む笙子。
「みみみ、み、見た、祐麒お兄ちゃんっ!?」
「え、み、いや見てない、ちょっとだけしか」
「ううううううぅーーーーっ!!」
 顔を真っ赤にして、涙目で見つめてくる笙子。
 申し訳ないと思いつつも、しばらくは忘れられそうにない衝撃的な光景であった。

「ただいまー」
 帰りに乃梨子とファーストフードでお喋りしていたら、少し遅くなってしまった。ポテトとナゲットを食べたせいか、お腹もあまり減っていない。申し訳ないけれど、夕食は後にさせてもらおうかな、なんて笙子は考える。
 しかし今日は、思いがけない僥倖であった。たまたま乃梨子と遊びに行ったプールで、祐麒と出会うとは。水着も今年新調したものだったし、少しはアピールできたかな、なんて思う。あの、ウォータースライダーでのハプニングは恥ずかしかったけれど、それでも、祐麒が悩殺されてくれていれば、災い転じて、ということにもなる。中学の頃から胸がどんどん成長して、今では結構、自慢できるくらいになっていると自負している。色々と苦労もあるけれど、男の人は大抵、胸の大きい女の人が好きだというから、生かさない手はない。
「うーん、だけどなぁ」
 唸る。
 ライバルが多いのも事実だから。
 幼馴染という特権を持っている由乃と令。それに、由乃の友人である蔦子もなんとなく祐麒のことを意識しているようだったし。あと、いきなり祐麒に抱きついてきた三奈子という先輩、天然なのか計算なのか分からないが、要注意である。みんな美人だし、令、三奈子、蔦子は胸も大きかった。いや、それ以上に、どこか大人っぽいスタイルを持っているように感じた。胸の大きさだったら笙子だってそれなりだが、どうにも全体的に子供っぽい気がする。これでは、いつまでたっても妹的存在でしかいられない。
 ため息をつく。
 妹という立場が嫌なわけではないし、可愛がってもらえるのはうれしいけれど、もう一歩先に進みたいというのが、笙子の希望だった。中学のときは学区が離れてしまったけれど、こうして同じ高校に入学したのだ、昔からの想いをどうにか届けたい。
 そのためには、もっと自分を磨いて、もっと祐麒との距離を縮めなければならない。
 部屋で一人、気合を入れていると、扉をノックする音が。
「笙子、晩御飯よ」
「はーい」
 気合を入れたら、少しお腹もすいてきた気がして、やっぱりちゃんと食べようと立ち上がる。
 部屋を出ると、姉の克美が立っていた。夏だというのに、まっ白い肌に長袖のシャツなのは、肌が弱いからというのと、図書館の空調が効きすぎて冷えるから。勉強ばかりしている姉は、いったい、何が楽しいのだろうかと不思議に思う。
「ねえお姉ちゃん、せっかく夏休みなのに、なんでそんなに勉強ばかりしているの」
「夏休み明けたら教育実習でしょう、不安だし、色々と準備もしないといけないし」
「あ、そっか。リリアンに来るんだよね、うわー」
「何よ、その声は。嫌なの?」
「そりゃ、あんまね。だってお姉ちゃんが先生で来るんでしょ、なんかやりにくい」
「それはこっちの台詞よ。笙子がいたら、やりづらいわ」
 そこでお互い、なんとなく苦笑い。
 中学に入った頃、ちょっとしたことで克美とすれ違ったのだが、中学の終わりに和解して、それからは随分と仲良くなった。
 だけど。
「……どうしたの笙子。ほら、行くわよ」
「あ、うん」
 なぜだろうか、不穏な予感が笙子につきまとう。
「今日は笙子の好きな特製ロールキャベツよ。いらないなら食べちゃうわよ」
「あ、待って、だめーっ」
 すたすたと歩いて行く克美に追い付き、腕にしがみつく。
 リビングの方から漂ってくる甘いロールキャベツの匂いに心を躍らせ、ちょっとした嫌な気持ちも霧散する。
 今度、このロールキャベツの作り方を母に教わって、祐麒にご馳走してあげようなんて考え、笙子はテンションをあげるのであった。

 

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