【マリみてSS(由乃、祐麒他)】ぱられる! 10<令・三奈子ー2>

 

 三奈子の手に握られているものに目を移す。
「アイスキャンデー、ですか」
「そうだよー」
 えへへ、と嬉しそうに笑う三奈子。バニラかミルクか、白くて冷たくて美味しそうなアイスキャンデーを手にご機嫌である。
 三奈子はさっそく、アイスを口に含む。
「あむ」
 小さな口を開けて、先端に唇をつける。
「うーん、冷たくて美味しい~っ」
 さらに舌で丹念に舐めていく。
 その口の中に出たり入ったりする白い棒を見ていると、なんともいえない艶めかしさを感じてしまうのは気のせいだろうか。
 音を立ててしゃぶり、舌を這わせる様がエロティックに映って見えるのは、祐麒の心が純粋ではないせいだろうか。
「ん、どうしたの。欲しいの? 一口あげようか」
 じっと見つめていたせいだろうか、勘違いした三奈子がアイスを口から離し、祐麒の方に差し向けてきた。
「いえ、いいですよ、そんな」
 さすがに頷くこともできず、首を横に振ると、遠慮しなくていいのにと言いながら、三奈子は再びアイスを食べようとする。
 と、そこで。
「ひゃあっ!」
 悲鳴があがった。
 何事かと思うと、太陽の熱を受けて思いのほか早くアイスが溶け出したのか、アイスが三奈子の胸に垂れ落ちていた。
「やだ、もったいなーい、って、わ、あ、あっ」
 滴が落ちるどころではなかった。緩くなったアイスは棒からずるりと抜け、豊満な三奈子の胸の谷間に落ちて挟まった。
「ひあああ、冷たいっ! でも勿体ないっ! あ、でもダメっ!」
 束の間、もだえていた三奈子であったが、冷たさに屈したのかアイスを諦めることにしたようだ。とはいえ、食べかけでもあったし、ほとんどは溶けてしまっていたが。
「あーあ、勿体ない。べとべとするし」
 名残惜しそうにしている三奈子だが、口の端から、首筋、胸の膨らみ、谷間と満遍なく白くてどろりとした液体が垂れ、それを指ですくって口に含む姿がヤバすぎる。
「もったいないから令、舐める?」
「いらないわよ、何言っているのよ、早く体を洗ってきなさい」
 すげなく断る令。名残惜しそうに自分の体を見下ろしている三奈子。
「うーん。祐麒くん、どう?」
「え、ええっ!? どど、どうって言われましても」
「なーんてね、冗談。じゃあちょっと、体洗ってくるね」
 真っ赤になっている祐麒など気にした風もなく、三奈子は軽やかな足取りで去ってゆく。
「……何を想像したの?」
 後には、刺さるような令の冷たい目線だけが残ったのであった。

「おはようございまーす」
 プールで遊んだ翌日、元気よくアルバイト先の喫茶店に顔を出す。昨日は休みであったけれど、今日は朝から晩まで店に入ることになっている。マスターに挨拶して、店のエプロンをつけてさっそくお店に出る。気合をいれて入ったものの、さすがに朝いちばんということで、まだお客さんは一人だけしか入っていない。
 仕方なく、気合を入れて掃除をすることにした。
「三奈子ちゃん、よく日焼けしたねえ」
「昨日、いい天気でしたからねえ」
 一日プールで遊んだら、綺麗に日焼けしてしまった。肌に良くないと分かっているものの、せっかくだからと焼いてしまったのだ。お風呂に入る時はしみて泣きそうになったけれど、まあこれも良い思い出ということで。
「おはようございまーす、すみません、遅れましたっ」
 扉が開き、挨拶の声が店内に響く。
 祐麒が駆け足で中に入ってくる。
「あれっ、祐麒くん、今日はお休みじゃないの?」
 驚いて、聞いてみる。
 もともと、祐麒は夏休みのバイトとしては、そんなに多くシフトに入ることにはなっていない。というのも、三奈子がたくさん入ることになっているし、物凄い混雑するような店でもないから、店長だけでも意外と回すことはできるのだ。
「ああ、私が呼んだんだよ。急きょ、店に入ってくれるよう。実は今日このあと、出かけなくてはならなくなってね」
 振り向けば、マスターがのんびりした歩調でやってくる。
「そうなんです、今日の朝に電話がきて……あ、三奈子さん、昨日はジュースご馳走になって、ありがとうございました」
「そんな、ジュースくらいでいいって」
 プールでお昼御飯の時、上級生ぶってジュース代を出したことのお礼だろう。昨日時点でもお礼をされたというのに。
 三奈子と祐麒のやり取りを聞いて、店長の頬が緩む。
「なんだ、三奈子ちゃんが昨日プールに行くって言っていたのは、祐麒くんとデートだったのかい」
「え、そういうわけじゃないですよ」
 三奈子が返事をするより早く、祐麒の方が答える。しかし、否定で即答されるというのは、少しばかり面白くない。
「何よ祐麒くん、冷たいなぁ。一緒に遊んだのに」
「で、でも、そんなデートとかいうわけじゃ」
 わずかに頬を赤くして照れて、そして少し焦っている様子が、可愛らしい。
「まあ、私としては二人が仲良くしてくれるに、こしたことはないよ」
 店長が意味ありげな表情を見せて、口の端を上げる。
 なんのことかと首を傾げると。
「私はね、将来的に君ら二人にこの店を譲ってもいいと思っているんだよ」
「え?」
 三奈子と祐麒、同時にきょとんとする。
「もちろん、君たち二人にその気があればの話だけどね。まあ、私は君たちが好きだから、ぜひともそうなってくれればよいと思っているわけだ」
 店長の言っている内容を理解して、祐麒の方を見てみると、祐麒も意図を悟ったのか顔を赤くして三奈子のことを見ていた。三奈子の方も、なんだか体が熱くなってきたような気がする。
「じゃあ、二人で仲良く店番、よろしく」
 にやり、と片目を瞑り、店長は逃げるように店を出て行った。
 残される二人。
「えーと、お、俺、準備しますね」
「あ、うん」
 そそくさと、顔をあわせていられなくて背を向ける。
 三奈子は、自分の心に戸惑っていた。今まで、単に可愛い後輩としてしか思っていなかったはずなのに、いきなりその立ち位置が変わったように感じられて。
 店内の空調は適度だというのに、熱くなる頬はおさえることができなかった。

 

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