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ノーマルCP マリア様がみてる 栄子

【マリみてSS(栄子×祐麒)】悩み相談

更新日:

~ 悩み相談 ~

 

 学園祭を近くに控えて生徒たちも準備に余念がない。盛り上がりは徐々に高まっていき、雰囲気も変わってくる。そんな、祭り前の独特の空気が栄子は嫌いではなかった。自分も同じ年くらいのときは、やはり随分と盛り上がったものである。
 仕事は忙しくなるが、いきいきとしている生徒を身近に感じられるのは楽しい。応援だってしたくなるというものだ。
 そんな仕事の合間に、一人の生徒が保健室を訪れてきた。
「福沢くん」
 椅子を回転させて出迎えるのは、花寺学院から学園祭の助っ人としてやってきている祐麒であった。
「まさか一人でここまで?」
「いえ、保健室の前までは姉についてきてもらっています。リリアンの中を一人では歩けませんからね」
「それで? 今日はまたどこか具合が悪いの?」
 学園祭の準備でリリアンを訪れるたびに祐麒は怪我をしたり、具合を悪くしたりして、保健室にやってきている。今日もまた何かあったのだろうと立ち上がり、医薬品などを置いてある棚へと向かう。大抵、力仕事などをしているときに傷を負うことが多いからだ。
「あ、いえ、今日は特にどこか怪我したとかじゃないんです」
「となると、どうしてわざわざこんなところに?」
「えーと、あの、保科先生は忘れてしまいましたかね」
 ちらりと様子を窺うような視線に、栄子は少し考える。
「――もしかして、前に言っていた悩み、というやつかしら?」
「そう、それです」
 確かに前回、何か悩みがあれば相談に乗ると言ったが、実のところ本当にくるとは思っていなかった。何せ学校が異なる上にリリアンは女子高、祐麒が訪れてくるにはハードルが高い。
 だが、それでもあえて相談にくるということは、それだけ真剣でもあるということか。
「わかった、ちょっと待って。幸い今は他の生徒も来ていないし、プライベートな悩み相談なら、誰にも聞かれない方が良いでしょう」
 栄子は白衣を翻して保健室の外に出ると、扉にカードをぶら下げた。急用のときだけノックして呼ぶように、というようなことが書かれているものだ。カウンセリングなどを行う時は、このカードを出しておく。
 保健室内に戻り扉を閉め、鍵をかける。相談中に誰か入ってくる、あるいは来るかもしれないと思われると、生徒もなかなか話しづらいものがあるのだ。
 栄子は元の位置に戻って座ると、祐麒にも対面の椅子に座るようすすめる。
「はい、失礼します」
 やや緊張した様子で腰をおろす祐麒。
「ここで話すことは絶対に誰にも話すことはない。遠慮せずに話していいわ」
「は、はい……」
 頷きはしたものの、すぐに話しだす気配はない。
 緊張しているようで様子が落ち着かないし、目をあわせようともしてこない。
 だが、こういった反応は決して珍しいことではないので、栄子としては何も言わずにただ待つだけだ。
 悩んで相談しに来たからといって、実際に自分の悩みを簡単に口にできないのは当然のことだ。だから悩みなのだ。
 表情、態度を見れば、本気で相談にきているということは、なんとなく経験上から察せられる。無理強いしても意味はない。仮に今日、悩みを口に出来なくても仕方ないと栄子は思う。ただ、相談しようと思って来ただけでも本人的には進歩のはずだから。
 栄子は一度立ち上がり、ポットから急須にお湯を注いでお茶を淹れた。湯呑に淹れて、持ってくると、祐麒にも渡す。
「ほうじ茶よ。飲むと温まるわ」
「あ、ありがとうございます」
 湯呑で手をあたためるようにしたあと、口をつける祐麒。栄子も口に含む。
「えーと、すみません、なんかもったいぶるような様子を見せてしまいましたけれど、相談というのは……その、今、気になる人がいまして」
「気になる人、というと」
「その、女性なんですけど」
「恋の悩みというやつかしら?」
 リリアンの生徒でも、やはり恋の悩みというものは存在するが、それを栄子のもとに持ってくるというのは意外と少ない。
 どちらかといえば、同級生として、あるいは先輩後輩としての人間関係的な悩みの方が多い。
「相手の人は、リリアンにいるんですけれど」
 まあそうだろうと思う。わざわざ栄子に相談にくるくらいなのだから、やはりリリアンの生徒なのだろう。だが、その恋愛相談として栄子が果たして適切なものだろうか。口には出さないが、そうも思ってしまう。
「年上……なんですが、その人」
 祐麒は高校二年生、となると相手は三年生か。
「年上だからって気にすることはないでしょう。人を好きになるのには関係ないし。素直に思いを告げてみたら? 福沢くんはうちの学園でも人気があるみたいだし、女子高だからうまくいく可能性も高いと思うけれど」
「それが、ちょっと特殊な事情もありまして、そう簡単にはいかないところでして」
「ふむ」
 少し考える。
 祐麒の容姿は決して悪くはない。物凄い美男子というわけではないが、整っているし男の子にしては可愛らしい顔立ちをしているから、女子から人気があってもおかしくない。リリアンの女子は男子に慣れていない子も多いし、花寺学院の生徒会長というステータスも安心で、リリアンの女子生徒相手なら栄子の考える通り悪くないと思う。
 本人がそうとらえるかどうかは別の話で、単に後押しが欲しい、きっかけが欲しいことなのかとも思ったが、様子を見るにそれも異なる模様。
 となると、祐麒が口にした『特殊な事情』とやらが悩みの本質か。
 リリアンの三年生で『特殊な事情』となると、栄子がまず思い浮かべるのは小笠原祥子。小笠原家の一人娘で、本当かどうかは分からないが幼いころより定められた許嫁がいるとか。また、それでいて大の男嫌いとも聞く。祥子が相手ならば躊躇してしまうのも分かる。
 他に考えられるのは、特定個人で実際にいるかは分からないが、やはり家庭環境に何か事情を抱えた者、あるいは個人的な問題を抱えている者、そういったところか。栄子もカウンセリングを行ってきているので、精神的な問題を持っている生徒を何人も見てきた。確かに、そういった生徒に接するのは非常に難しい。
「その事情というのは、私には話せないのか?」
「え!? そ、それは……い、今はちょっと」
「そう……」
「すみません、こちらから相談を持ちかけておいて、なんかこんな中途半端で」
「そうゆうことは気にしなくていいの」
 思いを口にするだけでも随分と気持ちは異なるし、自ら口に出して話すことで気持ちを改めてまとめることも出来る。カウンセリングといっても栄子が行うのは親身になって話を聞いてあげることがメインだ。
「君の気持ちを、まずはまとめた方がいいかもしれないわね」
「俺の気持ち、ですか」
「その人のことをどう思っているのか。好きなのか嫌いなのか。友達として好きなのか、異性として好きなのか、どうして好きなのか、何が好きなのか、なんでもいいの。自分の気持ちだってもちろん簡単に分かるものではないけれど、意識して考えることで、改めて気が付くこともあるはず」
「なるほど……」
 答えは自分で見つけ出さなければ意味がない。栄子に出来るのは、答えに辿り着くまでの道筋に関してヒントを与えることくらい。
 思案する祐麒を見つめ、お茶を飲む。
 机に湯呑を置いたところで、保健室の扉が控え目にノックされた。
「――すみません、栄子先生いらっしゃいますか? ちょっとよろしいでしょうか」
「申し訳ないが、今日はこの辺までね」
 立ち上がり、扉に向かう。
「どうしたの、ちょっと待ってて」
 扉の向こうにいる誰かに声をかけてから、祐麒に振り返る。
「また何かあったら、来なさい」
「あ、あの、そのことなんですが」
「ん?」
「その、こちらに相談に伺うのはなかなか難しいので……その、非常に図々しいお願いだとは思うんですけれど、メールか何か連絡することはできませんか」
 少し慌てたように早口で言う祐麒を見つめる。
 どうやら、嘘や冗談ではない様子。
 とはいえ花寺学院の生徒で、本来であれば栄子がそこまでしてあげる責任はない。
「そうね……」
 だからといって、途中まで聞いたものを放っておけるわけもない。途中でカウンセリングを打ち切ることで、見捨てられたと思い症状を悪化させることもあるのだ。今はたまたま祐麒がリリアンに来ていて保健室に足を運んでいるが、これからもそういくわけでもなし。となると、確かにメールのやりとりくらい出来るようにしておいた方がよいかもしれない。
「分かった、ちょっと待って」
 デスクに戻り、メモ帳にさらさらと書きつける。
「……これ、私の仕事用のメールアドレス。相談事があったら、ここに連絡してきなさい」
「あ……ありがとうございますっ」
 嬉しそうにメモを受け取り、大事そうにポケットにしまい込む祐麒。
「それでは、今日はありがとうございました」
「ああ……っと、一人で校内は歩けないだろう。誰か迎えが来るまで、ベッドで休んでいなさい」
「あ、と、そうでした。すみません」
 ベッドに行く祐麒を見届けて、扉の鍵を開ける。
「すみません、栄子先生。ちょっと……」
「待たせて申し訳なかったわね。さ、どうぞ」
 すぐに頭を切り替える。
 栄子を待っている仕事は、いくらでもある。

 

 マンションの部屋に帰り、ジャケットを脱ぎ、後ろでまとめていた髪をほどく。食事は既に外で摂ってきたので、冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルタブを開けながらパソコンを起動する。
「ふうっ……」
 ビールを流し込むと、独特の苦みが喉を通り越してゆくのが心地よい。
 30代独身女の一人暮らし、帰ったら誰もいない部屋で一人ビールを飲む。言葉だけ聞けばなんと寂しいと思うかもしれないが、仕事が充実していれば問題はない。
「そうよ……別に、焦ってなんかいないから」
 自分に言い聞かせるように口に出し、またもビールを呷る。
 パソコンが起動すると、まずはメールチェック。色々と不要なメールが沢山あるが、中には仕事関係のものもある。自宅のパソコンでも仕事用のメールが見られるようにしているのは、相談事などはいつ送られてくるか分からないから。それを読むのが遅れて対処を謝るなんてことがないようにする必要がある。
 そんなメール群の中に、見慣れないアドレスからのメールが一通。開いてみるとそれは、昼間相談を受けた祐麒からのものだった。
「本当に真剣なのね」
 頬杖をつきながらメールの内容を読む。長い文章ではないが、真面目な思いの込められた文面に思える。
 女子校に通っていながら、まさか男の子から相談を受けるとは思わなかったが、不快ではない。祐麒には申し訳ないが、むしろ新鮮な気持ちでもある。今の立場ではなかなか得られない経験でもあるし、栄子にとってもプラスになるだろうから。もちろん、祐麒の相談にだって真剣に応じ、解決してあげたいと思っている。
「次にうちの学校にくるのは……まあ、前もって日にちがわかっていれば、仕事の都合はなんとかつけられるか」
 学園祭が終われば、祐麒がリリアンを訪れる機会はほぼなくなる。さすがに、相談事をするためだけにリリアンを訪れるというわけにもいかないだろう。
 それなら、少し早めに仕事を切り上げて、夕方にでも話を聞く時間を確保してあげるのが最善か。
「生徒のため、と」
 例えリリアンの生徒ではないとしても、関係ない。
 栄子は特に深く考えることもなく、祐麒と次の約束を交わした。

 

 学園のあちこちでは、学園祭に向けての準備作業が追い込みに入っている。そういう空気を肌で感じながら、栄子は淡々と日常の業務をこなす。今日は花寺学院の生徒会メンバーがやってくる日。即ち、祐麒が保健室に来て相談をする予定の日である。
 しかし、毎回のように保健室に来るのもさすがに無理があるのではなかろうか、そんなことを考えながら仕事をしているうちに約束の時間が近づいていた。
「さて……と」
 キリの良いところで仕事を中断し、ポットにお湯を用意する。
 どのお茶を淹れようか考えていると、ノックの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼します……」
「はい…………って、福沢くん?」
「は、はい、そうです」
 入ってきた祐麒を見て、栄子は目を丸くした。
 驚いたのも無理はない。一瞬、福沢祐巳かと見間違えたからだ。
「それは……学園祭の劇の衣装かしら」
「あはは、はい、そうなんですよ」
 苦笑する祐麒。
 話しに聞いたところによると、山百合会の劇は『とりかえばや』の物語。即ちそこで女装するということなのだろう。
「しかし、大胆なことをするわね。いくら女装しているからといって、一人できたの?」
「ちょっとトイレに行って、保科先生にお礼を告げてくると言ってはあります。まあ、信頼してくれているのかと」
「だとしても……まあ、今さらどうこう言っても仕方ないわね。座りなさい」
「失礼します」
 腰を下ろす祐麒に、お茶を淹れて出す。今回は緑茶。
 とりあえずお茶を口にしながら、他愛もない挨拶のような会話を交わす。
 やがて適当なところで、栄子は喋るのをやめて祐麒を見つめる。
「…………っ」
 祐麒の体が少し硬くなるのが分かる。
「君の好きなタイミングで、好きなように話せばいいの。別に、世間話でも構わないわよ」
 翠茶を口に運び、言う。
 元々の予定があったため、今日も外にはカードを提げて他の生徒が入ってこないようにしている。保健室内に他の人はおらず、話したところ聞かれる心配はない。
 あとは、相談者次第だ。
「……俺、この前保科先生に言われて、考えたんです。その、その人の事をどう思っているのかを」
 話し出した祐麒。栄子は何も言わず、ただ頷いて先を促す。
「正直、一緒の学校でもないし、その人のことを詳しく知っているわけでもないんです。言うなれば、根拠のない一目ぼれのようなものかもしれません。でも、その、そういうのっていうのも大事な気がするんです」
「そうね。私は否定するつもりはないわよ。きっかけなんて、色々あるから」
「それでも、少しずつその人と接する機会がもてて、少し話したりして少しでも知ることができて、やっぱり魅力的だと思ったんです。口に出すと何の変哲もないんですが、優しくて、穏やかで、でもきっと厳しいところもあって、俺にとっては魅力的な人だって」
 聞いていて恥ずかしくなるような思いの独白。それでも、祐麒の真剣な気持ちが伝わってくる。もちろん、茶化すようなことなどしない。
「だから、言葉にするのは難しいんですけど、やっぱりその人の事は……なんだなって、改めて思いました」
「いいと思うわよ。そもそも恋愛感情を理論的にまとめられる人なんて、どれだけいるか分からないしね。福沢くんが納得できるのなら、それでいいの」
「はい、ありがとうございます。ただ、それですぐに想いを伝えられるかというと、そういうわけにもいかず……」
「前に言っていた、『特殊な事情』というやつ?」
「それもありますし、あと、俺自身も女性の気持ちとか、考えとか、そういうのが良く分からなくて」
「ふむ?」
「それで、あの、良かったら、女の人がどういったものを好むのとか、そういったものを教えていただけたらと……」
「ふむ…………って、私が?」
「は、はい」
「しかし、私のを聞いたところで」
「もちろん、一般論としてとかで構いませんので、出来れば、是非」
「そういうことであれば、お姉さんに聞いてもよいのではないか。むしろ、その方が年も近いだろうし。私に、今の若い女の子達の気持ちは難しいな」
 祐麒の姉である祐巳ならば今時の女子高校生であり、リリアンの女子高校生である。栄子などよりもよほど、現実に沿った答えを返してくれるだろう。
「そっ、そんなこと聞けないですよ! ほ、他の人も同じです」
「まあ、気持ちは分からないでもないけど……」
 異性の身内に話すというだけでも恥ずかしいだろう。それは身内に限らず、例えばリリアンの山百合会の他のメンバーにも同じことが言えるのだろう。自分の好きな異性がリリアンにいると公言するようなものだし、それにもしも相談された方が祐麒に好意を抱いていたりすればまたややこしいことになる。そしてその可能性は十分にある。
「と、とりあえず。デート、に限らず、どういった場所に遊びに行くのが好きなのでしょうか」
「君もなかなか強引ね……そうねぇ……」
 乗りかかった船だと、仕方なくつらつらと答える。適当に答えるわけではない。今の女子高校生だとどうか、普段の生活や会話を見てきて、また栄子が受けてきた相談やその中の会話から導き出されるもの。あるいは栄子が女子高校生時代の気持ちだったらどうか、考えながら祐麒の質問に答える。
 話が脱線することもあったが、厳格に悩み相談に戻す必要もない。幾つかの質問に応じ、栄子なりの意見や考えを伝え、祐麒の話を聞いてあげる。
「それじゃあ、もうこんな時間だし、今日はこの辺までね」
「あ……はい」
 まだ物足りないのか、少し残念そうな祐麒。しかし、栄子とて仕事があるのだ。祐麒だけに構っているわけにもいかない。
 祐麒は礼を言い、保健室を去って行った。

 その後も祐麒からメールは届き、必要に応じて回答する。知りたいようなことならメール回答でも済んだし、わざわざ会ってまで回答する必要のないものだ。
 祐麒の相談は恋愛相談でしかなく、思いつめていて精神的にまずいとかいう類のものでもない。単に自分の気持ちをまとめ、話を聞いてもらいたいというものだ。メールでもきちんと相手をして、必要に応じて軽く背中を押してやればよい。
 そうこうしているうちに、学園祭も間近に迫ったある日のこと。
「保科先生っ」
「福沢くん、か」
「はい、その、どうしても学園祭前にお話ししたくて。お忙しいのにすみません」
「私のことは別に良いけれど」
 学園祭直前、最後の詰めというところでわざわざ来る必要があるのだろうか。そう思いはしたものの、口に出すことはない。
「今日は学園祭前の追い込みでしょう。大丈夫なの?」
「それはまあ、なんとか」
「……気持ちの方は、どうかしら?」
「はい……お蔭様で、自分の気持ちがやっぱり嘘じゃないって分かりました」
「そう。それなら良かった」
 恥ずかしそうにはしているが、表情はさっぱりしている。自分の中で何かしら結論付けたのだろう。
「そ、それでですね……あの、保科先生にこれを」
 と、祐麒が何かを手渡してきた。
「これは……ダフラティンのセカンドフラッシュじゃない」
「はい、保科先生、お好きだと聞いたので」
「確かにそうだけど、理由もなく貰うわけにはいかないわ。どうして急に」
 栄子の好きなアッサムティーである。
「えと……俺の、気持ちです」
 相談に乗ったことに対するお礼、感謝の気持ちということだろう。こういうことをしていると、やはり相談を終えた後に感謝をこめて何かしらの品物を贈ってくれる人は確かにいる。
「うーん…………分かったわ、とりあえず預かっておきます」
 そう言うと、あからさまにホッとして嬉しそうな顔をする。大したことをしたわけではないのだが、頑なに受け取らないというのも相手が気を落とす原因になる。
「あの、学園祭の日は、保科先生はやっぱりここにいらっしゃるんですか? それとも見物に回られたりします?」
「そうね、やはりここにいることが多いでしょう。どうしてもけが人や気分が悪くなる人が出るものだから」
「そうですか……ところで最後に一つ、聞いてもいいですか」
「今更ね、なんでも聞きなさい」
「女性はやはり、ムードのある告白の方が嬉しいものですか?」
 その言葉を聞いて、とうとう決心したのかと栄子は思った。
 ということは、学園祭の日か。イベントというのはカップルができやすいものだ。リリアンの学園祭なら、後夜祭のフォークダンスの時が良いだろう。もっとも、花寺学院生徒会とはいえ男子である限り、フォークダンスに参加することは出来ないが。
「そうねえ……心がこもっていれば気にすることはないと思うけれど、それでもムードのある告白を考えて実行してくれた方が、やはり嬉しいと思うわ」
「そうですか……ありがとうございます」
「しっかり頑張って。きちんと自分の気持ちと向き合い、相手に伝えること。これが大切なことだと、私は思っている」
「はい。色々とありがとうございました」
「私は何もしていないわよ」
 軽く笑い、祐麒が深々とお辞儀をして出て行くのを見届ける。
「さて……と。どうなることかしら」
 結局、相手が具体的には誰か分からなかったが、上手くいくとよいと思う。
 学園祭を目前に控えて。
 栄子は深い意味もなく、そんな風に考えていた。

 

おしまい

 

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