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【マリみてSS(桂さん)】たとえ「それ」は見えなくても <エピローグ>

更新日:

~ たとえ「それ」は見えなくても ~
<エピローグ>

 待ちに待ったお昼休み。
 お年頃の乙女達も、このときばかりは色気より食い気とばかりの勢いで食事に向かう。お弁当を持って気の合う仲間と机を寄せて食べるグループ、少し急ぎ足で購買部へ行く子達、中庭や部室に移動して食べたりと、その形態は様々だけど目的は皆同じ。
 桂もまた、いつもの仲間達とお弁当を食べようとしていたところで、後ろから声をかけられた。
「桂さん、ご一緒させてもらってもいいかしら」
 にっこりと微笑んで聞いてきたのは、志摩子さん。手にはかわいらしいお弁当の包みを持っている。
 桂も笑って、手を振る。
「もちろん、大歓迎よ」
 志摩子さんが加わると、他のみんなも嬉しそうに口々に喋りだす。
「わー、志摩子さんと一緒なんて嬉しい」
「ね、志摩子さん、こっち空いているよ」
「志摩子さんていつも、どんなお弁当食べているの」
 綺麗な志摩子さんは、同級生達の人気も密かに高い。
 しかも今日の志摩子さんは非常に気さくな感じで、いつもは二の足を踏んでしまう子もごく自然に話しかけている。志摩子さんも、自然に受け答えをしている。
「さ、いただきまーす!」
 みんなでわいわいとランチの時間。
 その中でも、志摩子さんのお弁当が純和風だということに、みんなは改めて驚いたような納得したような顔をしていた。
 何度か一緒にお弁当を食べたことがあっても、やっぱり志摩子さんについてはフレンチテイストなイメージが強く植えつけられているようだ。そういう勝手な先入観を無くして、距離を近づけていかないといけない。
「・・・・ねえ志摩子さん、その伊達巻すっごい美味しそう!あたしの肉巻きポテトと交換しない?」
 志摩子さんは喜んで、取引に応じてくれた。

 お弁当も八割がた食べ終えた頃、事件はおきた。
「・・・・そういえば桂さん」
 何気なく志摩子さんが桂のことを呼んだ。玉子焼きを口に放り込みながら、志摩子さんを見ると。
「また今度、デートの約束したんですって?」
「はぐぅっ?!」
 玉子焼きを一気に飲み込んでしまい、喉に詰まった。慌ててお茶で流し込んで、志摩子さんを睨みつける。
「なななななな、なんでそのことをっ?! な、内緒だって言ったのに!」
 この前の祐麒さんとのデートの日。
 祐巳さん、志摩子さんとも一緒に食事をした後、祐巳さんの命令で祐麒さんは桂を最寄り駅まで送ってくれた。
 そのとき、また今度会えないかと誘われたのだけど、その場には他に誰もいなかったし、このことは祐巳さんにだって内緒だって約束をしたのに。
 なのになぜ志摩子さんが、と思っていると。
「あら。カマをかけてみたのだけれど、本当だったの」
 と、おとぼけた顔してそんなことをのたまっている。
「し、し、志摩子しゃんっ?!」
 あたふたとしつつ、何か反撃を試みようとしたところで。
「えーっ、桂さんて、彼氏いたの?!」
「嘘っ、全然気づかなかった!」
「ちち、違う違う。まだそんな、彼氏とか呼べる段階じゃないからっ」
「でも、いるのは本当なんだ?」
「じゃあ、まだお付き合いし始めたばかりということ?」
「あわわわ、ち、ちがっ」
「ねえ志摩子さん、相手の方ご存知なの?」
「ええ。それがねえ、なんと驚くことに・・・・」
「ちょ、ちょっと、志摩子さぁん!!」
 立ち上がって、志摩子さんの座っているところまでダッシュして口をふさごうと手を出す。しかし、他の子たちがそんな桂をさらに抑えて、志摩子さんから引き剥がそうとする。
「いいじゃない、桂さん、教えてよ。ねえ志摩子さん、どんな方なの」
「うわあああん、やめてよーっ」
 半泣きの桂。
 さらに、志摩子さんが教室の入り口を見て、顔をほころばせる。
「あ、祐巳さん、丁度よかったわ。このままいけば、将来は祐巳さんが桂さんの・・・・」
「わーん、志摩子さんがいじめるぅ~っ!」
「どうしたの、楽しそうだねぇ」
 何も知らずに、にこにことやってくる祐巳さん。
 泣きべその桂。でも、笑顔が咲き誇る教室。今までには見られなかった、心からの笑顔。

 

 ―――最後に『よかったね』って、笑って泣けるのが、一番いいね―――

 

おしまい

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