【作品情報】
作品名:ひとつむぎの手
著者:知念 実希人
ページ数:298
ジャンル:ミステリー、エンタメ
出版社:新潮社
おススメ度 : ★★★★★★★★★☆
感動する度 : ★★★★★★★★☆☆
こういう人におススメ! : 真っ直ぐに頑張っている人が報われるのが好きな人
大学病院の心臓外科で日々、厳しい勤務に耐えている平良。
それもこれも、心臓外科医として多くの人を助けたいと思うからこそ。
そんな平良に、三人の研修医の指導をするよう指示が下る。彼らを心臓外科に入局させれば、心臓外科としての未来が開ける。
平良は三人の研修医を引き受けるが、時を同じくして医局の最高権力者であり平良が師事する赤石教授の論文データ捏造を告発する怪文書が出回る。
研修医の指導、怪文書の犯人捜しをすることになった平良が直面する、医療の道とは。
医療ミステリーとはなっているものの、ミステリーはそこまで主ではないかなかぁという感じがした。
あくまで、医療に関わる人間を描いた方が主と思える。
主人公の平良は心臓外科医を目指す若手医師(とはいっても三十代か)
心臓外科になる道は厳しく(手術が少なく、出来る人間は限られ、技術を高める手術も取り合い)、それでいて勤務は激務。
心臓外科に入局した者も激務で辞めることが多く、残った人間にしわ寄せがいってさらに厳しくなる。
他の会社でもありそうな話ですが、医療の世界ならさらにという感じは受ける。
そんな中でも、歯を食いしばり、技術を高め、ずっと続けてきた平良。
その平良に一つのチャンスがやってくる。
研修医を指導して入局させたら、心臓外科への道が大きく開けるような取引を上司に持ちかけられる。
ただし、失敗したらその道はほぼ閉ざされてしまう。
それでも賭けるしかない平良の前に現れた三人の研修医。
彼らを指導し、どう心臓外科の魅力を伝えていくか。
ところが大事な最初の指導の方向性で大きな失敗をしてしまい、研修医からは舐められるようになってしまう。
そこからいかに挽回するか。
入局させようと、無理に普段はしないようなことをして失敗。
だけどその後、平良としては特別変わったことをしていない、彼にとっては当たり前の行動で研修医たちが感銘を受けていく。
平良が積み上げてきたもの、培ってきたものが血肉となって結果に現れ、若い人に伝わって変えていく。
流れとしては特別変わったことのないオーソドックスなものだが、それ故に読みやすく、平良の良さが若い子達に伝わって良かったと読んでいて思えてくる。
真面目で苦労した人間が報われるのは嬉しいものだということ。
- 医療現場の厳しさ
- 病院内での権力争い
- 患者に対してあるいは医療内容に医師としてどう立ち向かうか
そういったことが分かりやすく描かれている。
告発文書の意図とその犯人。
研修医たちとの関係と、医療現場に対する思い。
医師として、どう生きていくのか。
ラストの収斂に向けては、分かっていても、うるっときてしまう。
平良のこの先の医師としての人生は、きっと良いものになるだろう。
そう思わせてくれた。
研修医たちの態度の豹変が早すぎない?
手の平くるっくるですが、まあ、それはそれということで。