八月に入ったところで祐麒は学園の寮へと戻って来たが、いまだ肉体は江利子のままであった。まさかこんなにも長い間ずっと江利子の体でいることになるとは思ってもおらず、かなりぐったりしていた。いや、疲労していたのは江利子の体のせいというよりも、江利子になっていることによって鳥居家の男性陣と付き合わなければいけないことによるものであった。
鳥居家の三兄弟、彼らにとっても楽しみであった夏休み、といっても既に社会人となっている三人は長期休みをとれるわけではなく、それを楽しみにしていたのではない。では何をと問えば、迷いなく答える。
「――妹と過ごせる時間」
と。
男三人という中で、少し歳が離れて生まれた江利子は彼ら三人にとってはそれこそ"お姫様"に他ならなかった。
彼らは江利子のことを心の底から愛で、守り、可愛がってきた。江利子は美しく育ち、社会に出て多忙になった彼らにとっては心のオアシスにもなっていた。
そんな江利子が学園の寮に入るなんて言い出したのは高校にあがる前のことだった。当然のように三人は反対したが、江利子の決意は固くて覆すことは出来なかった。そうして江利子が寮に入って以来、彼らにとっては学生の長期休暇期間に愛する妹が帰省するときこそが楽しみになっていたのだ。
江利子が家に帰ると彼らはこぞってデートに誘い、妹を誰が一番楽しませることが出来るかを競ったり、彼ら自身が心の底から楽しんだり、稼いだお金を惜しげもなく注ぎ込んで妹との時間を過ごすのだ。
そんな彼らだから、いい年をして、それぞれ社会的ステータスもそれなりに持っており、ルックスだって悪くもないのにいまだ実家を離れることなく、結婚をすることもなく、今に至るのだ。
待ちに待った夏休みがやってきて、帰省した江利子と各自がデートを行い始めた。デートをする予定は事前に調整済みであり、三人はそれぞれ江利子と楽しむためのプランを考えてデートへと臨んでくる。
そんなわけで祐麒は連日、彼らとのデートに追われる生活をしていた。彼らが用意してくれた洋服を着て、彼らが決めた場所へと遊びに行く。実の妹だから変なことをしてくるなんてことはなかったけれど、江利子らしくないと思われるのではないかと冷や冷やしたし、落ち着くはずもない。
幸いだったのは、彼ら兄弟は盲目的に江利子のことを愛しており、また寮で生活していて普段は離れているから、多少変だと思っても脳内で勝手に都合よい解釈に変換して受け入れてくれるということだった。
「……でも、慣れるわけもないからね……」
ため息を吐き出しつつ、寮の中に足を踏み入れる。
本来なら夏休みだしもっと実家にいるはずなのだが、なんだかんだと理由をつけて戻って来た。
「なんか、そんなに日にちが経っているわけでもないのに、凄く久しぶりって感じだな」
それだけ、寮に愛着を持ってきたということだろう。
殆どの生徒が帰省しているようで、人気のない廊下を一人静かに歩く。
期間にして四か月弱を過ごした場所に過ぎないけれど、既にかなりの愛着を抱いていることになんとなく気が付く。
そうして、見慣れた自分の部屋の前に立つ。
(……あ、今は江利子さまの部屋に行かないといけないんだっけ)
と、思ったものの、どうせ誰もいないだろうし構わないだろうと、扉に手をかけたところ。
『…………ぅ……はぁっ、はぁっ……』
室内から苦しげなうめき声のようなものが聞こえてきた。
(えっ……誰かいる…………?)
おもわず手の動きを止める。
慎重に、薄く開いた扉の隙間の向こうの気配を探る。
『ぁっ、…………く……』
明らかに呼吸が乱れ、苦しみにあえいでいる。
三奈子と静は帰省して夏休みの後半に戻ってくると言っていた。となると可能性があるのは桂となる。桂も家に帰ると言ってはいたが、寮に戻る時期は早いかもと言っていた。もしかして、桂が一人、病気か何かで苦しんでいたのだとしたら。
「――――か、桂ちゃんっ!?」
慌てて祐麒は扉を開けて室内に入っていた。
そこで見たのは。
「…………ぁ」
「――――え?」
祐麒自身の姿であった。即ち、祐麒の体に入った江利子であろう。
そして室内にはもう一人、アンリの姿があった。
それだけならおかしくないのだが、問題は江利子がスカートの裾を自ら持ちあげて立っていて、その丸出しになった下半身の前にしゃがみ込んだアンリが股間に手を伸ばしていたことだ。
「ちょっ…………な、なっ!?」
「え!? あ、待て祐紀、こ、これは違うんだ!」
「ななな何してんですかっ!?」
祐麒の知らない間に二人はそんな関係になってしまったのだろうか。
持っていたバッグを床に取り落し、呆然と立ち尽くして見つめる。
「……ち、違うのよ、これは。あ、あのっ」
自分の顔をした人が恥ずかしそうに顔を赤らめ、女性みたいなしぐさをするのを見るのはどうしても慣れない。
それでもどうにか、狼狽する江利子とアンリの話を聞いた。
どういうことかといえば、股間がもっこりと大きくなってしまう男性的な生理現象が起きてしまい、どうすれば良いのか困った江利子がアンリに相談し、一度出してしまえば落ち着くはずだというアンリの提案があったものの具体的に行動に移すのは躊躇われ、アンリに手伝ってもらおうとしていたところだという。
即ち、アンリによる手淫が行われようとしていたものの、アンリもそのような経験は無くてなかなか実践できなかったらしく、そこに祐麒が入って来たということ。
「これまではこんなことなかったというか、あったけれど少ししたら落ち着いたのに……」
恥じらいの表情で言う江利子だが、スカートで隠されていても股間はもっこりと盛り上がっているのが良くわかる。
おそらくずっと溜まっていて戻らなくなってしまったのか。まあ、このまま放置しておけばいずれは収まるとは思うが。
「……ねえ、祐紀ちゃん、どうにかしてくれる…………?」
「…………はっ?」
何を言っているんだこの人は。
どうにかしくれって、それって即ちナニがナニをしろということなのか。
「そ、そんなこと出来ませんって!」
「どうして、ずっとこのままでいろっていうの?」
「しばらくすれば直りますって」
「そう思っていたけれど、もうずっとこうなのよっ」
「そ、そうだぞ、どうにかしろよ祐紀、自分の体だろ」
「そんなこと言われましてもっ」
アンリに背中を押されて江利子の前に立つ。上目づかいで懇願するように見つめてくる、自分の顔をした江利子。
「ほら、早くしろよ」
「お、押さないでくださいよアンリさんっ」
「いいからさっさと済ませろっての。そ、そうじゃないと、あ、あ、あたしが……」
赤面しつつごにょごにょと言うアンリ。
祐麒は踏ん張って必死に抵抗する。いや、江利子の手でしてもらえると考えると凄いことだが、現実的にその江利子とは自分に他ならないのだ。わけがわからなくなってくるが、正しい事とは思えないし、なんだか江利子に申し訳ない気もするし、とにかく二人を落ち着かせようと思うが。
「――――たっだいまーーーっ!!」
その時、勢いよく扉を開き元気な声で姿を見せたのは桂だった。
「うわぁっ!?」
「きゃあっ!?」
突然の大きな声にびっくりした祐麒は、背中を押してきたアンリと共にもつれるようにして江利子の方へと倒れ込んだ。
そのまま江利子を押し倒し、慌てて体を支えようとした手が掴んだモノは。
やたらと硬くて熱いモノで。
「……っ、あ、あああああっ!?」
その直後、江利子は激しく体を震わせながら悲鳴をあげた。
ビクビクと脈動する祐麒の手に握られたモノ。
「あ…………」
事態を悟り、唖然とする祐麒。
その下、ベッドの上であおむけに倒れ、紅潮した横顔でぐったりとしている江利子。うわ、マジか、と祐麒が思った次の瞬間。
「…………はぁっ、あ……」
急に体が気怠くなった。
呼吸が苦しい。
いや、これは。
「えぇ…………マジで……」
小さく呟きつつ目を開けると、見下ろしてきているのは紛れもなく江利子だった。こちらも茫然としたような表情をしている。
「え、あ、何? もしかしてあたし、お邪魔虫でしたっ!?」
部屋の入口でわたわたしている桂。
「あら桂ちゃん、違うのよ。祐紀ちゃんが具合が悪そうだったから診に来ていたのよ」
「ええっ、本当ですかっ!? 祐紀ちゃん……あ、本当だ、汗かいて顔も赤くて呼吸も乱れて……だ、大丈夫祐紀ちゃん!?」
「だ、だ、大丈夫だからっ!」
心配げな表情をして近寄ってくる桂に、慌てて股間をおさえて隠す。いや、今は落ち着いているのだが、スカートの方に恥ずかしい染みができているのだ。
「そお? でも汗かいているし、あたしが拭いてあげるからほら、脱いで」
「うわわわっ、だだだ大丈夫だからーーーっ」
泣きたくなる祐麒であった。
「…………男の子のって、凄いのね……」
ぼうっとした表情で呟くように言う江利子。
「そ、そんなに……?」
ごくりと唾をのみこみ、赤い顔をしながら尋ねるアンリ。
「ええ、言葉では言い表せないような……」
「も、もうやめてくださいっ!」
必死に止める祐麒。
恥ずかしくてたまらない。
「ふふ、いいじゃない。そのかわり、祐紀ちゃんも私の体の時、胸くらいなら触ってもいいわよ?」
「ううう……」
いや、着替えやら風呂やらで既に何度も触ってはいるのだが、そう言う意味ではないだろう。
しかし、そう言われたからといってホイホイとそんなこと出来ないし。
「なんのお話しですかー?」
汗をかいたからと、シャワーを浴びにいっていた桂がやってきた。
夏らしくノースリーブのシャツにショートパンツ、健康的な二の腕と太腿がシャワー上がりで桜色となって目にも眩しく感じる。ショートカットはまだ水分を含んでいるのか、少しキラキラと輝いて見える。
(うううう、久しぶりに見る桂ちゃんだけど、やっぱり可愛い可愛い可愛いようっ!!)
10日ぶりほどだけれども、桂の可愛さに変わりはないというか、むしろ日にちを置いたせいか更なるパワーアップした可愛さに見える。
ちなみに祐麒も着替えこそしたものの、残念ながらシャワーを浴びるに至っていないため嫌な感じである。
「それにしても、桂ちゃんも随分と早く寮に戻って来たのね。帰省していたのでしょう」
「あ、はい、そうなんですけれど、夏休み中も部活動ありますし、家から通うのはやっぱり遠くて不便なんで」
「ふーん、なるほどね」
寮の中は確かに生徒の数は少なくなったが、誰もいないわけではなく、桂のように部活動を優先して帰省はお盆だけ、なんて子もいる。
「でもそーゆー江利子さまも祐紀ちゃんも、随分と早いじゃないですか」
「あはは、ま、まあね……」
祐麒はともかく、江利子はもっと楽しんでくると思ったのだが、桂の言う通り随分と早く寮に戻って来たものである。後に聞いたところ、最初こそ面白かったものの次第に祥子の構いっぷりが面倒くさくなってきてしまったらしい。
「でもこれで一か月間、祐紀ちゃんとたくさん遊べるね!」
「うん、そうだね」
「あら桂ちゃん、夏休みの宿題は大丈夫なのかしら?」
「はううっ、それは言わないでくださいよう江利子さまぁ」
途端にしゅんとなる桂を見て笑う。
「ううーっ、でも、女子高生なんだよ、遊ばないと損だから、遊ぶのっ。宿題は、うん、頑張ります」
「大丈夫だよ桂ちゃん、宿題、私もまだだから一緒に頑張ろう」
「うんっ!」
リリアンは宿題の寮も中身もなかなか大変そうであるが、それでも桂と一緒ならば楽しくこなしていけそうだった。
そんなこんなで寮に戻っての一日目を終えてから数日後。
早速、桂に誘われて遊びに行くことになった。
「うわーいっ、いい天気だねーっ!」
「いい天気っていうか、暑すぎると思うけれど……」
「でも、夏らしいわ」
元気に両手を突き上げて喜んでいるのは桂、テニス部で鍛えられているせいか、カンカン照りの灼熱の太陽に負けることなくはしゃいでいる。
一方で隣に立っている蔦子は既にグロッキー気味、額から頬にかけて汗が流れ落ちるのをハンカチで拭っている。太陽光線を受けて光っている眼鏡も、どこか力が無いように見えてしまう。
麦わら帽子にワンピースという夏らしいいで立ちをした志摩子は、うっすらと汗を浮かべながらも涼し気な表情をしている。我慢強いのかそれとも本当に大丈夫なのかは分からないけれど、たいしたものだとは思う。
「ちっ、なんであたしまでついてこなきゃならないんだよ……」
タンクトップにショートパンツという露出の高い格好だが、色気よりも強そうだという印象を抱かせるアンリは腕を組んで呟くように言う。
「す、すみません、でもアンリさんがいないと心細くて……」
シャツの裾をちょんとつまみ、申し訳なく思いつつアンリを見つめる。
「…………ま、まあ、あたしは祐紀のお付きでもあるし、お嬢様に頼まれてもいるからな、文句は言わねえよ」
暑さには強そうだが、さすがのアンリも頬が赤くなっている。手の平でぱたぱたと扇いで風を送り、少しでも涼を取ろうとしているのがなんだか可愛らしい。
行動派の桂は蔦子と志摩子にも連絡を入れて快諾を受け、こうして五人で遊びに出かけてきたというわけである。出向いた先は、都内にある有名で大きな遊園地である。中にはたくさんのアトラクションはもちろん、大きなプールもある。
「夏はやっぱりプールでしょう! さあ突撃レッツゴー祐紀ちゃんっ!」
「わ、桂ちゃん、走らなくても大丈夫だよっ」
桂に手を引かれてプールへと足を向ける。
「か、桂ちゃん、いきなりプールだと疲れちゃわない? あとでアトラクションも楽しむんだよね」
「だーいじょうぶだって、それにプールの方が早く終わっちゃうんだし」
と、やはり桂の押しには勝つことが出来ずプールへと向かう。
学園の体育の授業のプールでも大変だったのだ、一般のプールで遊ぶなんてと思うものの桂のおねだりには敵わないし、学園とは異なるプライベートな水着姿を見てみたいという素直な欲求もあって、こうして今、プールサイドに立っているわけである。
更衣室での着替えは毎度大変なことだが、それも慣れてきた。悲しいことに。
「うわーっ、祐紀ちゃん可愛いっ! 水着、凄く似合っている!」
「桂ちゃんも凄く可愛いよっ、もう、最高っ!」
トップスはギンガム柄ネイビーのオフショルダー風フリルのビキニで、ふんわりたっぷりのフリルが胸をうまいこと隠してくれる。ボトムスはネイビーボーダーのショートパンツで、女の子の水着でありつつもうまいこと大事な部分を隠すことが出来る。
桂の水着は花柄のフリルショルダーブラに、同じ柄のパンツをあわせており、色鮮やかな花の柄は元気で明るい桂とよく似合っていた。
二人で一緒に水着を買いに行ってどんな水着か分かっていたけれど、いざこうして本人が着ているのを見るとまた全然違うということがわかる。
二人で手をつないできゃあきゃあとはしゃいでいると。
「……そうしているとお前、本当に女子高校生みたいだな」
ぼそりと、アンリに呟かれて動きが止まる。
「えーっ、だって女子高校生だもん、ねー祐紀ちゃん?」
「え、あ、うん、そ、そうだね……」
桂とは完全に友達として仲良くなり、桂の性格もあってとけこんでしまっている自分に気が付かされる。
「でも、うわぁ、アンリさん素敵……っ」
感嘆の声をあげる桂。
エスニック柄のバンドゥビキニ、ショーツは両サイドにリボンがあり且つリボンの先のアクセは2種のチャームとさりげなくお洒落。ローライズのビキニだが、背が高くて細くて腕も脚も長いアンリだと本当に抜群に目立つスタイルで外人モデルのようである。
「本当だ、アンリさん格好いい……」
思わず祐麒も見惚れてしまう。腕も脚もしなやなかな筋肉で引き締まり、無駄な肉というモノが全く見られない。
「な、なんだよ、そんなじろじろ見るなよ」
「い、いいじゃないですか、凄い、格好いいですから」
「そ、そういう祐紀も、なんだ、その……水着似合って……か、可愛いぞ……」
僅かに頬を赤くし、照れてぶっきらぼうな口調ながらもアンリにそんなことを言われ、祐麒の方も照れてしまう。
(――――って、普通は台詞、逆だよね!?)
女のアンリが格好良くて、男のはずの祐麒が可愛いと言われるなんて、しかもそれを少し嬉しいと思ってしまうなんて変だろうと自分自身の言動に頭を抱えてしゃがみ込む。
「――どうしたんですか、祐紀さん?」
「何、もしかしてもう暑さにやられちゃった?」
と、声がして顔をあげてみると。
(…………っ、おっ、おっぱい×4!!)
目の前に迫ってくる4つの塊、いや柔らかそうな膨らみというか。
桂とはまた異なったフラワープリントのブラに同柄のフレアスカートをあわせている志摩子。長いふわふわの髪の毛は後ろで束ねている。
そしてオーラス、蔦子はブルー×ホワイトを基調とした幾何学模様のチューブトップのビキニなのだが、溢れんばかりの胸の膨らみと谷間が圧倒的であった。志摩子の胸が大きいのは分かっていたが、蔦子の胸がここまで大きいとは知らなかった。しかも、なぜだが物凄く近距離に迫ってきている。
「……あ、あの、蔦子さん?」
「え? ああ、ごめんなさい。眼鏡がないからうんと近づかないと分からなくて」
言われてみれば蔦子は眼鏡を外しており、そのせいかやや目つきが鋭くなっている。
「うわぁ……蔦子さんって、えろえろぼでぃだねぇ」
「って!?」
内心で思っていたことをあっさりと桂に口に出され、ずっこける。
「え……えろえろって」
言われた蔦子の方はびっくりして、そして赤面して腕で身体を隠そうとするが、その仕草からして、なんか、エロい。単純に胸の大きさなら志摩子の方が大きいと思うが、腰つきや太ももなど、全体から醸し出すセクシーさは蔦子の方が圧倒的に上だった。
「ゆ……祐紀さんも、そんなじろじろ見ないでよ」
「あわわ、ご、ごめんっ」
恥ずかしそうな表情、しかも眼鏡をしていない蔦子、それ自体がレアであり、恥じらう姿とあわさると破壊力は強烈で、ショートパンツで良かったと心から思う。
「…………って、イタタタタっ!? な、何するんですかアンリさんっ」
「え? ああ悪い悪い、足踏んでたか」
「いや、グリグリやってきていたじゃないですかっ」
足の甲を踏まれて涙目になりつつ抗議するも、なぜかアンリ方は逆に不機嫌そうな様子である。
首を傾げていると。
「――ねえねえ君達可愛いね。良かったら俺達と一緒に遊ばない?」
大学生らしき男たちにいきなりナンパされた。
まあ、桂や志摩子など、これだけ可愛い女の子達が揃っていたら無理もないことかもしれないが。ここは一つ、自分が防波堤にならなければと思い、皆の間に入ろうと思ったのだが。
「どうかな、俺と一緒に」
「あ、おい、何勝手にいってんだよ」
「抜け駆けすんじゃねーよ」
「えっ、あわっ、え、ほえぇっ」
男連中は祐麒を取り囲むようにして迫ってきていた。想定外のことに狼狽し、どうしたらよいか分からなくなってしまう祐麒。
「――おい、おめえら、祐紀に声かけるたあいい度胸しているじゃねえか」
「あ? なんだよいったい…………って……」
アンリが勇ましく祐麒と男たちの間に割って入り、腕を組んで睨みつける。アンリの放つ圧倒的なオーラに怯んだ男たちは、ぶつぶつと文句を言いながらも素直にその場から逃げ去っていった。
「――おい、大丈夫か?」
アンリに声をかけられ。
「……ああ、びっくりしたぁ」
ようやく安堵して息を吐き出す。まさか、自分がナンパされるとは思っていなかったのだ。
「やっぱり祐紀ちゃん可愛いから、ナンパさん達も狙うよね。大丈夫祐紀ちゃん、怖かったよね、声も出せなかったみたいだし」
ひしと、桂が手をつないでくる。
「こりゃ、祐紀さんを一人にしちゃ駄目ね、狼の群れに羊を放り込むようなものだわ」
「大丈夫よ祐紀さん、これからは私達が祐紀さんを守りますからね」
蔦子と志摩子も祐麒の傍にやってきて励ましてくれる。
「……良かったじゃねえか祐紀、皆がナンパから守ってくれるって」
「あ、ははっ、そうだね、うん……」
あれえ、立場が逆のはずなのに。
そう思う祐麒だったが、目の前で起こった現実に反論することが出来なかったのであった。
第五話 ②につづく