【マリみてSS(由乃、祐麒他)】ぱられる! 10<由乃・蔦子-2>

 

 不意に、背中に押し付けられてきた柔らかな感触に驚く。由乃の姿は見えるから、抱きついてきたのは蔦子だろう。その、柔らかさとボリュームからも由乃でないことは明らかであった。波にあおられてバランスでも崩したのだろうか、祐麒の脇の下あたりから胸の方に腕をまわすかっこうで、抱きついてきている。
「ちょっと、蔦子?」
「だだ、ダメ、動かないで祐麒くん」
 振り返ろうとすると、蔦子が焦ったように首を振る。
「蔦子、な、何しているのっ……て、あ」
 目をむきかけた由乃だが、視線が右の方にそれて口が開く。つられるようにして見てみると、黄色っぽい布切れが波に揺れているのが目に入った。
 数秒後、理解した瞬間に、一気に体の感覚が変転する。神経が背中に集中する。確かに、落ち着いて感じてみれば、背中にあたるのは直の肌だというのがわかる。蔦子の、ボリュームのある胸が直接に押し付けられているのだ。
「よ、由乃、お願い」
「う、うん。ちょっと待ってて」
 事態を悟った由乃が、波に揺れる蔦子の水着に向かってゆく。
 一方、祐麒はといえば。
「う、動かないで、祐麒くんっ」
「そ、そんなこといっても……うわっ」
 波が発生するのだから、じっとしているのは不可能である。さらに波が押し寄せてきて、二人の体を揺らす。
「きゃあっ」
 顔に水をかぶって、思わず手を離してしまう蔦子。このままでは、他人にあられもない姿をさらしてしまうと、祐麒は咄嗟に手をのばして蔦子の腕を掴んで引き寄せる。
「あ……」
「うわ……ご、ごめん」
「う、ううん」
 すると、何と今度は正面から抱きあう格好になってしまった。
「み、見ないで」
「わかってる」
 目をあさっての方向に向けるも、一瞬で目に入った蔦子の胸の膨らみと谷間は、しばらくは脳裏に焼きついて消えそうもない。
 視覚はどうにかしたものの、触覚まではどうにもできない。胸に感じる蔦子の熱さと弾力、鎖骨に噴きかかる吐息、お互いの心臓の音が聞こえているようにも思える。そして一番まずいのは、祐麒の下半身。この状態で、何も感じない男がいるわけがない。だけど、どうしようもない。密着状態で、蔦子もおそらく祐麒の状況を把握しているだろうが、何を口にできるはずもなく、ただ無言で、背中を抱きしめる腕に力をこめる。
 果たして、どれだけこの状態でいなければならないのかと思っていると。
「――お、おまたせ蔦子。ほら、こっちで、ああっ、祐麒何やってるのよ! アンタは壁になって、ほら」
 蔦子の水着をつかまえた由乃が戻ってきて、ようやく水着を身につける。
「ご、ごめんね祐麒くん」
「謝る必要ないわよ。どーせ、ラッキーとか思っていたのよ、エッチだから」
「馬鹿、お、俺はそんなこと」
 続きを口にしようとして、蔦子の顔が目に入る。眼鏡を外した蔦子の瞳が祐麒の方を向く。目が悪い蔦子だから、近い距離でもはっきりとは表情なんかを見分けることはできないはずだが、祐麒のことを認めて明らかに顔を赤くする。もちろん、祐麒だって赤くなっていることだろう。
 プールの水は冷たかったが、とてもじゃないけれど体の熱は下がりそうにないのであった。

 騒がしくも楽しかったプールから帰宅し、だるくなった体をベッドに横たえる。運動はあまり得意ではないから、当然、体力もそんなにあるわけではない。写真撮影をするときは頑張れるし、体力も持続するのだけれど。
 自室の天井を見上げながら、蔦子はプールでのアクシデントを思い出して、顔が熱くなるのを感じた。
 せめてもの救いは、プールだから眼鏡をかけていなかったこと。あれで、祐麒の顔をまともに見られていたら、自分がどんな顔をしたものかわかったものではない。
「う~~~っ」
 恥ずかしい。
 あんな風に抱きついてしまった。ひょっとしたら、見られてしまったかもしれない。しかも今回は、この前の学校のときとは違って、素肌同士が触れ合って。思っていたより広かった背中、意外に逞しい胸、そして下腹部に押し付けられてきた硬くて熱い感触は、やはり……。
 自分の体で、祐麒が感じたのか。
 余計なことを考えそうになり、慌てて頭を振る。脳裏に浮かぶのは、親友である由乃の顔。間違いなく、あの二人はお似合いだ。由乃は祐麒のことが好きだし、祐麒だって由乃のことが好きだ。今まで、当り前のように思っていたし、特別な感情なんて持っていなかったのに、こんなちょっとしたアクシデントで接近しただけで、心が揺れ動くなんて。
 きっと、一時の感情の揺れに違いない。あんなことがあっては、年頃の乙女としては意識しない方がおかしいのだから。
 夏休みでよかった、と思う。
 これで、毎日学校で顔をあわせるなんて状態だったら、果たしていつも通りに接することができたか、あやしいものである。
「ああもう、私の馬鹿」
 起き上がり、拳で軽く頭を叩く。
 机の上に目を向ける。
 普段は自分の写真は撮らない。あまり好きではないから。
 置かれたフォトフレームの中には、それでも記念に撮った写真がおさめられている。自分、由乃、祐麒、小林の四人が笑っている。指をのばし、祐麒の顔を人差し指の腹で隠す。
「……本当、由乃の言うとおり、エッチなんだから」
 呟く声は、どこか熱っぽかった。

 

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