書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

中・長編

【マリみてSS】BATTLE LILIAN ROYALE <06.妖女>

更新日:

 

 テーマパークのほぼ中央に位置するエリア、マジックサークル。『月の塔』を中心に、『夢幻城』、『魔法庭園』などが広がる、テーマパークを象徴するような場所である。その中の一つに、『隠れ魔女の雑貨店』なるものがある。中は名前が示すとおり、様々な雑貨屋、魔女が使うと思しき薬や書物、怪しげな物体で溢れかえっている。そして店の奥には、広大な地下迷宮に通じる隠し扉があり、魔女に実験体としてとらわれた姫が、その迷宮から脱出を図るというアトラクションが用意されていた。
 もちろん今は、そのアトラクションに通じる扉は閉ざされている。迷路に逃げ込んで、そのまま他の生徒達の目をくらまされては困るからだ。
 雑貨店内で、高知日出実はため息をついていた。数えるのも馬鹿らしくなるくらい、これまでにため息を吐き続けていた。
 この非人道的な"プログラム"について、いつかジャーナリストとして記事にしてみたいと思ったことはあるが、まさか自分が参加することになるとは。おそらく、この地にいる誰もが思っていることではあろうが。
 とりあえず日出実としては、当分の間はこの中に隠れていようと考えている。これだけ建物が多いのだ、中に隠れていればそうは見つからないのではないか。もちろん、この雑貨店のように、逃げ手に有利になるような場所は封鎖されているかもしれない。
 姉である真美に会いたいと思った。
 日出実は天の邪鬼だから、普段は表だって真美に甘えるようなことはしないが、それでも慕っていることに間違いはない。姉を持つつもりはあまりなかった日出実だったが、そんな日出実が姉にと選んだのだ、想いは強い。
 だが、迷いもある。真美には、さらに真美の姉である築山三奈子がいる。今回のルールでは2人が勝者ということだが、そうなると、誰かとペアを組むことになるのがノーマルと考える。
 複数の姉妹が参加しているところでは、どちらを選択するかで迷うだろう。どちらがより大切か、なんて簡単に決められるものではない。まして、それだけでなく友人もいるのだ。一人だったら、自分のことだけを考えれば……

 そこまで考えて、慌てて頭を振る。自分はなんと恐ろしいことを考えていたのか。殺し合うことを考えていたのか。真美が、三奈子ではなく自分を選んでくれることを望んでいたのか。
 確かに日出実は、三奈子に嫉妬することも多かった。真美と三奈子の関係は、日出実と真美との関係よりもフレンドリーで、距離も近い。お互いに思うことを言い合い、姉相手でも容赦しない真美に、妹に甘える三奈子。関係を築いてきた時間の問題かもしれないが、日出実にはないものだから。
 だけど、新聞部の先輩としては、素直に三奈子を尊敬もしている。過去の『りりあんかわら版』も見たけれど、三奈子の記事は他から飛びぬけていた。まとまりという点では、真美も負けないと思うが、その構成、着眼点、記事の読ませ方、さらに面白さ、あらゆる点が秀でているのだ。
「ああ、色々と書きたいものが、まだまだあるのに……」
 膝を抱えるようにして、座り込んだままに呟く。
 と、その時、ゆっくりとだが入口の扉が開き始めた。緊張に身を固めながら、物陰に身をひそめる日出実。
 室内に隠れるということは、逃げ場も失うというリスクを背負っている。テーマパークのアトラクションとなると、入口から入り、アトラクションを終えなければ出口に辿りつけない形になっている。途中で非常口などはあるが、そもそもアトラクションの入口が塞がれているのだ、逃げ場は少ない。
 リスクを踏まえても、隠れている方が良いと判断をしたわけだが、果たしてそれが逆に働いたか。
 日出実に支給された武器は鉄扇だった。相手が銃器や飛び道具となると、戦いになったときに不利は否めないが、それでも室内の方がまだマシだと考えた経緯もある。広い場所で銃を相手に鉄扇では、それこそ勝負にならない。
 入ってきた人が誰だかは分からないが、どうやら室内を物色しているようだ。相手が知り合いならよいし、そうでなくても戦意がない人であることを祈る。とりあえず日出実は、唯一の身を守る道具である鉄扇を取り出す。
 しかし、緊張していたせいか、握りそこない、取り落としてしまった。慌てて拾い上げるが、鉄が床に落ちる音はいやおうもなく響いてしまった。

「誰か、いるの?」
 声が聞こえた。
 日出実には聞き覚えのない声だった。
 雑貨店内は、アトラクションに備えるためのスペースだけあって、結構な広さを持っている。隠れ場所も適度にあるが、いつまでも隠し通せるわけではない。日出実はそっと、相手を盗み見る。
 美しい女性だった。大きな瞳に白皙の頬、さらさらという音が聞こえてきそうな肩にかかる髪の毛。これだけ美しければ有名だろうが、日出実は見たことがない。特徴的には、ヘアバンドをして綺麗な額を出していることか。日出実はそうした情報を総合し、前黄薔薇である鳥居江利子だと想定した。
 江利子は慎重に、周囲の様子をうかがっている。手には何も持っておらず、表情は不安と戸惑いが混ざっているようだ。
「私、武器なら持っていないわ。貴女も……戦う気がないなら、教えて頂戴」
 震える声には怯えがある。
 日出実は江利子のことはよく知らないが、このまま隠れていても良いことはないと判断し、姿を見せることにした。
「鳥居江利子さま……ですか?」
「だ、誰っ?」
「私は一年の高知日出実です。失礼ですが、本当に武器はお持ちでない?」
「ほ、本当よ、ほら」
 無手であることを示すように両手を広げ、さらにリュックも床に下ろす。それでも日出実は慎重に、江利子との間に障害物を挟む格好でゆっくりと立ち上がった。日出実も両手を広げ、何も持っていないことを示す。鉄扇は、スカートのポケットに折りたたんでしまってある。
 ゆっくりと距離を詰め、お互いが手に届くところまで来たところで。

「……ああ、良かった!」
「きゃあっ!?」
 いきなり、江利子が抱きついてきた。何かの攻撃かとも思ったが、江利子は単純にしがみついてくるだけ。その身体が、小刻みに震えている。
「怖かった……誰かいるって分かった時、そのまま攻撃されるんじゃないかって、不安で不安で。日出実ちゃん、ね。あなたみたいに落ち着いた子で良かった……!」
 呆然としていた日出実だったが、やがて、ふっと力を抜く。先輩であろうと後輩であろうと、この状況では怖いのは同じだ。失礼かとも思ったが、そろそろと手を江利子の頭に置いて、落ち着かせるように撫でる。江利子は嫌がるそぶりも見せず、されるがままだ。
 なんか可愛いなと、そんなこと考えている場合ではないと分かっているのに、思ってしまう。
「あの……そろそろ、落ち着かれました?」
「あ、うん、ご、ごめんなさいね、みっともないところ見せちゃって」
 言いながら、江利子はしがみついて離れようとしない。今さらながら気がつくが、ふくよかな胸が押し付けられ、柔らかな体に包まれ、ちょっと赤面する。この手のスキンシップとは縁遠い生活を送ってきたのだ。
「あの、そろそろ離れて」
「あら、日出実ちゃん、いい匂いがするわ。髪の毛かしら」
「ああ、実はですね、この先にスタッフ用のスペースみたいなものを見つけまして、そこにシャワーがあったんですよ。で、まさかと思ったんですけれどお湯が出て、昨夜、シャワー浴びたんです。汗で気持ち悪かったんで……今考えると、我ながら凄い度胸ですよね」
「まあ、羨ましい」
「よかったら、江利子さまも使います? 私、その間見張っていますよ」
「そう……でも、私」
 そこで江利子は恥ずかしそうに俯き。
「怖いから、入るなら日出実ちゃんと一緒がいいわ」
 と言った。

 一瞬の空白の間の後。

「え、え、ええっ? あああの、一緒って、そんな」
 後ろに下がろうとするが、相変わらず江利子は日出実に抱きついている状態で、すぐ目の前に顔がある。逃げられるような体勢ではない。江利子の瞳は潤み、頬はほんのりと赤くなっていて、とても色っぽい。
「どうしよう、こんな状況に置かれているからかしら……私、日出実ちゃんのこと……」
「え、な、んっ――!?」
 唇を、塞がれた。
 情熱的な、キス。日出実にとっては、生まれて初めてのキス。
「ん、はっ……んんっ」
 一度、口を離すが、両手で頭を抑えられ、またすぐに唇を重ねられる。甘くて柔らかくて、ほんのりと酸っぱい。
 二度目のキスは、長く、より熱く、途中で舌まで割って入ってきた。江利子の舌で口の中を蹂躙され、力が入らなくなっていく。
「はあっ……日出実、ちゃん」
 とろりと、離れた口から唾液が垂れる。
「こんなプログラムだから、きっと私、生きて帰れない。だからお願い、死ぬ前に、その、想い出が欲しいな……」
「そ、そんな、冷静になってください江利子さま、そんな初めて会った私なんかと」
「初めてだからこそ……こんな状況で会った日出実ちゃんだからこそ、そんな運命を感じるのよ」
 頬に口づけながら、スカートの中に手を差し入れて太腿を撫でてくる。見知らぬ快感に、体が震える。
「で、でも、駄目です……そ、そんなことしている間に、誰かが入ってきたら……」
 どうにか抵抗するが、もはやそれは言い訳にすらなっていなかった。
「大丈夫、それなら……」

 

 店の入り口の鍵はなかったので、店内にあるもので簡単な閂のようなものをセットし、さらにスタッフルームの入口にも同様のセット。さらに、誰かが入ってきたら音が鳴るような仕組みまで仕掛けた。
 そうしてスタッフルームの中で、いつの間にか日出実は制服を脱がされ、下着姿になっていた。目の前には同様に、下着姿の江利子がいて、互いに体を抱きしめあっている。
 どうしてこんなことになったのか、こんなことをしている場合じゃないと思うのだが、何かを考えようとすると江利子の唇が、指が、日出実の思考能力を奪うのだ。
「ん……う、ん」
 キス。
 このキスが、麻薬だった。キスされて、舌を入れられ、唾を流し込まれると、何も考えられなくなる。いつしか自らも江利子の唇を求め、舌を差し入れるようになる。
 柔らかく温かい肌が直接に触れあうと、とても落ち着いて安心する。不安を忘れることができる。人肌は、安堵感を与えてくれるのだ。 「日出実ちゃん……下着、脱がしてくれる……?」
「は、はい」
 手を伸ばし、江利子のブラジャーのホックを外し、さらにショーツに指をかけて下におろしてゆく。淡い毛と、大事な個所が見えて、日出実の方が赤面する。
 見れば江利子の方も真っ赤で、とても可愛い。
 江利子の手が、日出実の体をまさぐる。乳房を揉み、ショーツの中にもう片方の手をすべり込ませて指で刺激を与えてくる。
 自分でするときとは比べ物にならないくらいの快感がはしり、声をあげそうになる。江利子の舌が這い、指は音楽を奏でるかのように動く。
「あ、あっ、ダメ、うああぁっ」
 声を抑えきれない。
 このまま、果ててしまう。頭が空っぽになる。自分の指よりもずっと激しく、敏感な場所を攻め立てる。
 唇を塞がれる。日出実もまた吸いたてる。

 ぞぶり、という鈍い音がどこかでする。
 日出実の体が痙攣し、目を見開く。相変わらず、江利子にキスをされたまま、目の前には美しい江利子の顔。閉じられた瞳。ゆっくりと、その目が開く。輝く瞳に映る日出実自身。唇が離れる。ごふっ、と、口から生温かい液体が溢れ出る。
 これが、絶頂に達した時の感覚なのか。戸惑う日出実は理解できていない。理解できる思考も急速に失われていく。
 江利子が、日出実の首に刺さった棒状のものを抜くと、そこから一気に血が噴き出し、みるみるうちに体を、床を赤黒い液体が濡らしていく。江利子は棒を握りなおし、もう一度、日出実の喉に突き刺した。日出実は二、三回、身体を痙攣させ、さらに口から血を吐きだす。

 江利子が手にしていたのは、棒手裏剣であった。スカートのポケットに隠し入れており、日出実と体を重ねながら、傍らに脱いで置いてあった制服から抜き取って刺したのだ。
 一応、投げる練習もしたが、いきなり投げて簡単に当てられるとも思えず、こうして直接に突き刺すことにしたのだ。
 目から光の失われた日出実から棒手裏剣を抜き、立ち上がる。
 相手がいきなり攻撃してくるような者でなくて助かったが、慎重に行動しなければならない。建物に入った時、誰かいるとは思わなかったのだ。
 裸になったのは、返り血を制服に浴びないため。シャワーがあると聞いて、脱ぐことに決めた。血にまみれた制服を着ていたら、どうしたって相手の注意と警戒を呼んでしまうから、そうならないにこしたことはない。実際、今の江利子は頬から首、そして胸元にかけて日出実の血を受けている。
 だが、見事な裸体に返り血を流して立つ江利子の姿は、凄絶な美しさを誇っていた。
 江利子は日出実の死体を見下ろす。初見の相手でどうなるかと思ったが、どうやら色仕掛けにしたのは正解だったようだと安堵する。強情で意地っ張りだけど、どこかそういうことに憧れていて、押されると抗えずに流される。そんな性格だと感じとり、実際、抱きついた時から手ごたえがあった。違っていれば、他の作戦にするつもりだった。
 躊躇いがなかったとはいわないが、思ったほどの感慨はない。初めて人を殺したという実感も、どこか薄い。

 こんな自分は、どこか壊れているのだろうかと思う。だけど、決めたのだ。この"プログラム"で全力を尽くし、『彼女たち』と戦うと。今まで、何をやっても先が見えて本気になれなかったけれど、これだけは違う。戦闘の、人殺しの才能なんて、どこまで先があるのか見えない。これなら、今まで感じられなかった充足を得られるかもしれないのだ。
 日出実はたまたま、そんな江利子の前に立ってしまっただけのこと。
「ごめんなさいね、日出実ちゃん。本当はちゃんと最後までいかせてあげたかったんだけれど……だけど、本当に可愛くて、素敵だったわよ。貴女のキスも、その身体も」
 物言わなくなった日出実に、流し目を向ける。そして、日出実の制服を手に取ると、そっと日出実の亡骸の上にかける。
「女の子だものね、そのままの格好じゃ、可哀相だもの」
 そう、言葉を残し、江利子は裸のままシャワールームに向かう。
 その歩いているさなか、胸についた日出実の血を指で掬い取ると、そっと舐めてみる。
 舌に広がる、苦い、鉄錆の味。

 これが、人殺しの味。

 殺し合いをしている中とは思えないほど優雅な足取りで、恐ろしくも美しい肢体を揺らしながら、江利子の姿はシャワールームへと消えていった。

 

【残り 25人】

 

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