書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

マリア様がみてる 中・長編

【マリみてSS】BATTLE LILIAN ROYALE <12.恋焦>

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 殺した。
 間違いなく、殺した。
 逸絵の死体に背を向けて歩き、完全に見えなくなった所まで歩いてきて、近くの木にもたれかかった。
「うっ……く」
 口元を手で抑える。
 言いようのない不快なものが、背骨を這いあがってくるような感覚。力が入らず、木に体をあずけるようにしないと立っていられなくなる。思い出すのは、つい先ほどの逸絵の亡骸。由乃が自分の手を汚して、物言わぬ躯にした少女。全て、覚悟の上で引き金を引いた。殺すつもりで銃を撃った。言い訳をするつもりも、誤魔化すつもりもないが、それでも人を殺したということは由乃に重くのしかかる。
 胃の中のものが逆流してくる。
 とはいっても、たいしたものは口に入れていないので、胃液くらいしかないと思われる。それでも、喉元までせり上がってきたものを、由乃は必死に堪える。例え少なかろうと、吐き出してしまえばせっかく取り込んだエネルギーが無くなってしまう。それに、吐くという行為そのものが、体力を無駄に消費させる。
 気持ちが悪い、胃液独特の酸っぱくて苦いものが、喉から染みだして口内に達する。目じりに涙が浮かぶ。それでも由乃は、意地で、無理矢理に逆流してきたものを飲み込んだ。
「……くっ、はっ、ああぁっ!!」
 口の中に残った液体を、唾と共に吐き捨て、汚れた口元を手の甲で拭う。
 いやな汗が、額から浮き出ている。
 それでも由乃は、耐えた。
「くっ……そぉ、負ける、もんか」
 ペットボトルの水を口に軽く含み、うがいをして捨てると、大分とすっきりした。
 負けない。負けるもんか。
 もう一度、逸絵が倒れている方に顔を向ける。
 今さら、言うべきことなどない。
 立ち上がり、重い足を動かす。重いのは、肉体的にではない、精神的にきているからだ。だけど、この場所にいつまでもいるわけにはいかない。誰かが銃声を聞きつけてやってくるかもしれない。
 逸絵が現れたのとは異なる方向、由乃が歩いてきた"アドベンチャーフロンティア"へと、またも舞い戻る。身を隠すには丁度よいかもしれないが、足場が悪いから気をつけないと怪我をしやすいし、体力を奪われるのだが致し方ない。しばし、どこかに身を隠して休憩をとろう。
 それだけを考えて足を動かすが、なんだかんだいってダメージはあったのだろう、足がふらついてよろめき、横に立っていた木に倒れかかる。
 その木の幹が、鈍い音をたてて振動して皮をまき散らした。
「――っ?」
 何事か、反応できなかった。
 だけど、次の瞬間。
「きゃっ!?」
 倒れ込んでいる足元の地面に落ちていた小枝や落ち葉が、弾けた。
 銃声も何も耳にはしていない。それでもさすがに、理解した。

 攻撃を受けているのだ。

 咄嗟に銃を構え、とりあえず攻撃が行われたっぽい方角に向けて撃つ。相手の場所さえ分かっていないのだから、単なる威嚇以外の何物でもない。
「くっ……一体、誰っ!?」
 幸いだったのは、物理的に由乃の方が上に位置していたこと。下から上に向けての攻撃の方が難しく、事実、相手の攻撃は由乃に当たらなかった。
 下方で、人影が動くのが見えたが、誰かは判別つかなかった。
 どうする。
 明らかに相手は攻撃意思を持っていたから、話し合いなど無理だろう。だからといって戦うには、今の由乃の調子は万全ではない。
「そういえば……銃声が聞こえなかった」
 自分の手にした銃を見て、気がつく。
 最初はともかく、次に撃った際に銃であるなら銃声に気がつかないわけがない。サイレンサー、なんて言葉が思い浮かぶが、まさかそんなものがあるとも思えない。更に言うならば、一撃目から次の攻撃までも、少し時間が空いていた。ということは、相手の武器は銃器以外の飛び道具で、且つ、連射がきかないものではないか。ならば、銃を相手にしては分が悪いと判断しないだろうか。
 いずれにせよ、由乃は相手の姿をとらえられておらず、且つ自分の場所は特定されてしまっているのだから、牽制はしなければならない。あわよくば逃げてくれと思いつつ、弾倉に残った銃弾も撃ち尽くす。
 相手からの反撃が来ないことを見て、由乃は逃げ出した。体が重いなんて、言っていられない。遮蔽物があるから大丈夫だと信じて、大胆に走る。
 下方向から撃たれたので、必然的に上を目指すことになる。それほどの傾斜ではないが、足場はよくないし、体力はないしで、息が切れる。それでもとにかくあともう少し、稜線のような場所まで登れば、相手から由乃の姿は見えなくなるであろうと考え、必死に足を動かす。
 しかしながら由乃は、起伏に富んだ、"アドベンチャーランド"のことを、まだよく理解できていなかった。所詮、人の作ったアトラクションだという思いもあった。実際、アトラクションの付近であれば、さほど危険なところはない。しかし、アトラクションから少し離れると、無駄に凝った作りになっていた。
「――えっ?」
 走っていた斜面を登り切り、越えたと思った次の瞬間、体が、ガクンと傾く。
 先が、急峻な斜面になっていたのだ。
 登りということもあってさほど勢いがあったわけではないが、思い込みのあった由乃は踏みとどまることが出来なかった。
 なんで、こんな地形になっているんだという抗議をしてやるんだと憤りながら、体は傾いていき。
「うあ、あ、――――――」
 声もなく。
 斜面を転がり落ちていった。

 

 

 静の足に鉄球があたったことは確認出来た。だが、動きは鈍くなっていたかもしれないけれど、その後も静は動き続けていた。やはり自分の武器では致命傷を与える程の威力はないのだと、克美は安堵すると同時に落胆した。
 この武器は、『外れ』ではないけれど、『当たり』でもないのだ。中途半端な立ち位置、まるで自分のようではないかと自嘲気味に思う。勉強しかないはずなのに、それでもトップを取ることもできずに卒業した。大学は一流といわれる所だが、ライバルであったはずの相手は、なぜか美大に入ったから比べようもない。
 世の中、うまくいかないことばかりだ。この戦いだって、全然うまくいかない。これから先、どうすれば良いのか分からない。殺傷できるような武器ではなく、かといって逃げ回っているだけではいずれ手詰まりになるのは目に見えている。もっと良い方策があると思うのだが、勉強では力を発揮できる脳も、このような事態においては有効なアイディアを出してくれそうもない。殺し合いに有効なアイディアなど、普通の女子大生が持っているわけもないのだ。
 静達を見失い、さてどうしようかとしばし、佇んでいた。
 どれくらいじっとしていただろうか。少し離れたところから、足音らしきものが聞こえてきた。相手はあまり周囲に警戒を払っていないようで、地面に落ちた葉っぱや小枝を踏みしめる音がしっかりと耳に入ってきたし、喘ぐような息遣いも聞こえる。耳を澄ませ、ゆっくりと音のする方に首を出して窺って見る。
 目に入ったのは、お下げの髪を揺らし、ゆっくりと歩いている少女。
 知っている。
 島津由乃、黄薔薇の蕾の妹――正確には、現時点では黄薔薇の蕾なのだが、克美の認識ではあくまで蕾の妹としての由乃しか存在していない。
「黄薔薇――」
 頭に浮かぶ、同級生の姿。
 努力しても、足掻いても、敵わず、追いつけなかった相手。
 灰色の感情が、ぬらりと心の中で頭を出す。
 そうだ、このフィールド内には、彼女もいるのだ。今まで、一度たりとて勝つことのできなかった相手、だが、今回はどうだろうか? いや待て、彼女は自分と異なり運動神経もそれなりに良かったはず。天は二物を与えずとか言うけれど、なんでもかんでも持っている人間がいるのはどういうことか。
 スリングショットに鉄球を装着する。
 確かに、球技にせよ陸上競技にせよ、その他諸々のスポーツいずれにおいても、自分は彼女に勝てないだろう。だけど、これはスポーツではないし、ルールすら存在しない。そんな世界の中でなら、彼女を上回ることだって可能なのではないだろうか。
 だが、今のままでは無理だ。
 中途半端な今の状態では、彼女に敵うわけがない。
 由乃を見る。足取りは鈍く、克美のことには気がついている様子もない。腕を向ける。精密な攻撃など無理だろうから、体の中心に狙いを定める。最初、乃梨子達を狙った時は腕が震え、心臓の動きも早くなったが、今はさほどでもない。慣れもあるだろうし、当たっても命を奪うまでに至らない、というのが分かっているためでもあろう。
 狙いを絞る。
 乗り越えなければならない。彼女に届くまでに、越えるべきものがあるはず。
「――――あ」
 指を放そうとしたまさにその瞬間、由乃の体が大きく傾いだ。
 撃つのを止めることも、狙いを修正することもできずに鉄球は放たれ、由乃のすぐ側の木の幹にあたった。
「外した……っ」
 慌て次の鉄球を装填して撃ったが、これもまた外した。克美は意識していなかったが、上方にいる由乃を狙っていたので、難度が大きく上がっていたのだ。スリングショットが強烈とはいえ、距離があれば落ちていくし、上に向けるなら尚更である。
「くっ!」
 更に次を、と思って鉄球を取り出そうとした時、銃声が立て続けに響き渡り、反射的に身をすくめた。
「なっ……銃っ!?」
 見れば、由乃の手には銃らしきものが握られ、克美の方に向けられていた。
「どうするっ……」
 だが、考えるまでもなかった。スリングショットでは素早い連射がきかず、今もまだ次弾を装填できていない。まともに撃ち合えば不利なのは明らかだった。
「…………っ!」
 身を翻し、克美は逃げ出した。
 由乃の足取りは重かったし、追いかけてこないだろう。
 走りながら考える。
 今のままでは駄目だ。非力な自分が勝つためには、もっと強力な武器を手に入れなければならない。
 そのためには、そういった武器を保有している相手から奪わなければならない。

 考えながら移動をして、いつしか園内の中央へと近づいていた。『月の塔』の姿が徐々に大きくなってくる。
 運動などし慣れていないから、息が切れる。あまり周囲に注意も払っていなかったから、そろそろどこかに身を隠した方が良いかもしれない。
 後方を気にしながら、とある建物の角を曲がる。
 前方に、女子生徒の姿があった。
 ほぼ同時に、相手も克美のことを認識した。完全に出会い頭、偶然の遭遇、だがわずかに克美の方が先だった。相手が手にしているのが銃だということに気がついたこともある。とにかく、咄嗟にスリングショットの一撃を放っていた。
「ぎゃあっ!!」
 当たった。
 相手は勢いよく倒れ、その拍子に銃が手を離れて地面を滑る。
「くっ……そっ!」
 倒れた相手だったが、そのまま回転するようにして立ち上がり、睨みつけてきた。克美は知らなかったが、田沼ちさとだった。
 ちさとは落とした銃を探そうとして、でも克美が次の鉄球を装填しようとするのを見て、銃を諦めたのか背を向けて駆け出した。
 慌ててちさとに狙いをつけようとしたが、既にちさとの姿は見えなくなっていた。あれだけ速く走れるということは、鉄球が当たったのはリュックか何かだったのかもしれない。
「あ、それより銃」
 確かに、ちさとは銃を取り落としていた。たまたまではあるが、ラッキーなことである。銃を手に入れられれば、相当楽になる。
 ちさとを諦め、銃が転がった方に目を向ける。
 すると、そこには。

「ラッキー♪」

 彼女が、いた。
 地面に落ちた銃を拾い上げ、眺めている。
「あ、でも替えの弾がないのか」
 残念そうに眉をひそめる。
「ま、とりあえずはいっか」
 納得したように、頷く。克美の方に顔を向ける。
「……克美さん、か」
 江利子が向かってくる。
 スリングショットを江利子に向けたところで、気がついた。
 慌てて次の鉄球を準備しようとして、あたふたしてポケットから取り出したところで。
「さっき撃ってから、次の球を装填していなかったでしょう?」
 顔を上げると、すぐ近くにまで江利子はやって来ていた。
 そして、まさに流れるような動きで、銃を克美に向ける。
「ああ――」
 理解した。
 確かに、江利子には一度たりとて敵わなかった。得意な、小さい頃から克美にはソレしかなかった勉強でも、勝つことが出来なかった。
 悔しかった。
 悔しさをバネにして、死に物狂いで頑張って、それでも涼しい顔をして努力なんて何もしていないように見える江利子には勝てなかった。
 そんな江利子のことを、克美は忌々しいと思っていた。
 江利子のことを見ていると、胸がざわついて落ち着かなかったし、言いようのない気持ちが心の中から湧き上がって来ていても経っても居られなかった。
 だけど、今なら分かる。
 適当なように見えて、江利子が銃を構える様はなんと美しいのだろうか。これでバックに月でも背負っていたならば、完璧だ。沈みきる寸前の夕焼けでもよい。江利子には、昼間の明るい雰囲気よりも、黄昏時以降の方がよく似合う。
 ああ、そうなのだ。
 克美は江利子に勝ちたかったのではない。
 追いつきたかったのだ。
「江利子さん、私はずっと、貴女のことが――」

 "――好きだった"

 声に出して伝えることは、できなかった。
 表情を変えることなく、江利子は指に力を込める。
 弾丸が克美を貫いた。
「かっ……ふ……っ」
 変な息が漏れる。
 痛み、というよりは、衝撃だった。だがすぐに、かつてない痛みが襲ってくる。咳きこむと、口の中に血が溢れるのが分かった。
 地面に倒れ込んだ克美を、江利子が屈みこんで見つめてくる。
 こんな殺し合いの中だというのに、江利子は変わらずに美しかった。
 変わらずに美しいということが、とても恐ろしくて、同時に強烈に惹きつけられて、たまらなく克美は焦がれるのだ。
「…………っ……」
 言いたいことが、口から出てこない。
 カシューッ、カシューッ、と、自分のものとは思えない変な息を吐き出す音しか聞こえない。
「克美さん」
 江利子の顔が無造作に近づいてきて、克美の唇を奪った。
 急速に失われつつある肉体の感覚であるが、押しつけられる江利子の唇の感触は、確かに克美に伝わってきた。
 そうだ、本当はずっと前から、江利子にこうして欲しかった。
 別に唇でなくてもよい。キスでなくてもよい。ただ、江利子に触れて欲しかった。体のどこでもいいから、触れて欲しかった。
 それが今、江利子にキスをされ、胸を撫でられている。現実には、ただ単に江利子が手を置いただけなのだが、克美にはどうでもよかった。
 焦がれていた江利子に触れられ、二度、三度と痙攣する。死を目前にしての痙攣なのか、極限状態の中だからこその絶頂を迎えてなのか、克美にも分からなかったが、冷えていく体とは別に何処かが熱く感じた。
 恋だった。
 そう、自分は江利子に恋焦がれていたのだ。
 最期にそれを理解することが出来て良かったと、思う。
「……さようなら、克美さん」
 呟いた江利子は。
 克美の左胸に押し付けていた銃の引き金を、引いた。
「――――!!」
 体が跳ね。
 克美の体内から、命の火が一気に消滅する。
「…………残りは、あ、ラッキー、六個ある。装弾数、八個だったんだ」
 江利子は手にした銃、ちさとが落としたワルサーPPKの残弾を確認し、更に克美のスリングショットと鉄球を取りあげる。
「う、さすがに重いわね。飛び道具も手に入ったし、棒手裏剣は最小限でいっか」
 リュックから棒手裏剣を取り出し、近くにあった排水溝の中に捨てる。
 立ち上がり、唇についた克美の血をぺろりと舐めとる。同じ血のはずなのに、日出実の流した血とは異なる味がするように思えた。
 克美のリュックから水を取り出して口を濯ぎ、改めて克美を見下ろす。
 いつまでも、こんなところで立ち尽くしているわけにはいかない。誰に見つけられるとも限らないのだ。
 銃をしまい、髪の毛を指で整え、江利子は。
「……ねえ、克美さん」
 死者に向かって、一言だけ呟いた。

 

「――知っていたわ」

 

【残り 22人】

 

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