【作品情報】
作品名:欺す衆生
著者:月村 了衛
ページ数:512
ジャンル:エンタメ
出版社:新潮社
おススメ度 : ★★★★★★★★☆☆
人間の業の深さを感じる度 : ★★★★★★★★☆☆
こういう人におススメ! : 詐欺事件に詳しくなりたい
戦後最大かつ現代の詐欺のルーツとされる横田商事事件。
横田商事末端の営業マンだった隠岐は、横田商事を抜けて新たな会社で仕事を行っていた。
そんなある日、かつての同僚である因幡と再会し、因幡に導かれ新たな<ビジネス>を開始する。
原野商法、和牛商法、その他さまざまな詐欺商法を繰り返す。
いつか詐欺から足を洗い、まっとうなサラリーマンに戻りたいと思いつつ、どんどん深みにはまっていく隠岐。
欺す者と欺される者。
謀略の果てに行くつく先は。
さすが月村さん、読ませてくれる。
500頁を超えるも、それを感じさせない勢いで読むことが出来る。
主人公の隠岐は、戦後最大ともいわれる組織的詐欺、横田商事事件の渦中にあって、その末端の営業サラリーマンとして所属していた。
その横田商事の会長が殺害され、隠岐は破産した横田商事から逃げ出して新たな職に就くも、小さな会社のうだつの上がらない営業社員として奔走する毎日。
そんな営業活動の最中、かつての横田商事の同僚、因幡と遭遇。
因幡は隠岐のことを見初めて、再び<ビジネス>の世界で戦うためのパートナーになるべく誘ってきます。。
自分の過去のことを知っている因幡から逃げることは出来ず、隠岐は詐欺商法によるビジネスの世界に足を踏み出していきます。
価値の無い土地を、実際にはない開発計画がさも実現するかのように伝えて売りつけて儲ける、いわゆる原野商法。
同じ牛を複数の客に売りつけ、出資金を配当に回す自転車操業を繰り返す和牛商法。
作り出したビジネススキームと手八丁口八丁で顧客を丸め込み、金を設けていく因幡と隠岐。
まっとうに生きていこうとしていた隠岐が、詐欺の道に落ちて苦しんでいく姿は、読んでいるとなかなか辛くなる部分がある。
会社が儲かり出すと、その金の匂いを嗅ぎつけるものはどこにでもいます。
詐欺をやるには同じ穴の狢が必要で、元・横田商事の社員たちが次々と集まってきては、悪どいことを企んでくる。
同じ会社に所属していても、自分が副社長としていても、決して安心などしていられない。
いつ、足を引っ張られて引きずり降ろされるか分からないし、それ以外でも詐欺ビジネスには最新の注意が必要となる。
当然のように絡んでくるヤクザ。
その辺の中盤までは、隠岐に感情移入しているほどに苦しくなる。
しかし、ある一点を過ぎると、隠岐が変わる。
腹が坐ったというか、ある一線を越えたというか。
老人や社会的弱者を詐欺の対象とはしない、というポリシーは変えずに、どんどんと大胆になっていく。
こうなってくると、隠岐の先が心配になるというよりも、むしろ
「いいぞ、もっとやれ」
と、どこまでいけるかを見たくなってくる。
家族のためにと思って働いてきたけれど、働くほどに家族からは疎まれ孤立していく。
それでも家族こそが寄る辺であり、まだしもまともな思考を持ち続けるための最後の欠片なだけにすがらずにはいられない。
苦しくはなるが、それでも隠岐には頑張ってほしいとなぜか思ってしまったり。
やっていることは詐欺なんだけど。
現実の豊田商事事件を元にして、実際に行われていた詐欺を取り扱って一人の男の人生を描いた作品。
原野商法だけでなく、ライブドアの事件などのところまで描かれている。
これを読めば、そういった日本の今までの大きな詐欺事件のあらましについて学ぶことが出来る。
しかし、隠岐はどんどんと凄いことになっていく。
客を騙し、世間を騙し、でも一番だましていたのは自分自身だったのかもしれない。
そして騙し続けた結果、それが真実になってしまったのか。
隠岐は幸せだったのか、そうでないのか。
隠岐の行きつく先まで読んでみたいと思わされた。
本当、隠岐が変わっていく後半からは一気でした。
面白かったなー。
あとはやはり隠岐が最終的にどういう風に人生を終えるかが、知りたいような知りたくないような。