高校三年生となり祐麒は受験生となった。勝負は夏、なんて言われるが、早いものは当然春から準備を進めているわけで、あまりのんびりとしているわけにはいかない。祐麒も、栄子とのことに現を抜かしているだけでなく、もちろん勉学にも真面目に取り組んでいる。栄子との付き合いのせいで学力が落ちて受験に失敗した、なんてことになったら目も当てられない。
いや、仮に栄子と適切な関係を保っていたとしても、受験に失敗したら栄子は「自分のせいで」とダメージを受けるだろう。だからとにかく、結果を出すしかないのだ。
また、栄子のためにも浪人で余計な時間を消費するわけにはいかない。ストレートである程度良い大学に合格し、良い成績を収めて就職して栄子を安心させられるようにならないといけないのだ。
とはいいつつ、全く栄子に会わないなんてことは考えられない。卒業するまでは清い交際でと言われたが、デートに誘ってはダメだと言われたわけではない。メールだけではやっぱり寂しいし、月に一回くらいはデートしたいと思うのは悪くないだろう。
そして今日は、待ちに待った栄子とのデートの日であった。しかも今回は、なんと初めて栄子の方から誘ってくれたのだ、浮かれない方がおかしいというもの。
浮かれてあまりに早く待ち合わせ場所に到着してしまったが、待っている時間も全く苦にならない。
やがて時間の五分ほど前になって、栄子が歩いてくる姿が目に入った。遠くからでも、栄子一人が他の女性とは違って一際輝いて見えるのは、恋しているからだろう。
栄子に恋して付き合うようになってから、家族にも友人にも話すわけにもいかず、ネットなどで世間の意見などを探してみた。高校生が、三十代の女性と付き合うのはどうなのかと。
すると、三十代なんて十分アリという意見が多かったことに励まされる。特に同世代くらいの男は、意外と年上の女性が好きだ、ストライクゾーンだというのが多いことに気付かされた。
逆に年代が上にいくと若い女の子が良いという意見が増え、この辺はやっぱり無い物ねだりなのかなとも思う。
女性の意見はというと、若い男の子と喋るのは楽しいが、恋愛相手となるとさすがに……というのが多かった気がする。年齢的に結婚を意識せざるをえず、一方で相手は若すぎて経済力もなければ結婚に対する意識も薄い。数年もしたら自分はおばさんになるわけで、そんなに待てないというわけだ。
祐麒だって、自分がまだまだ子供だということは分かっているし、栄子を養うなんてことができないことも分かっている。でも、今のこの気持ちが嘘でないことは分かっている。この先、たとえ栄子が歳を取って四十近くになっても好きでいられると思っている。なぜなら、栄子の外見だけでなく、人そのものを好きになったのだから。
そう思ってはいるが、栄子などからしたらそういう考え自体が青臭く見えるのかもしれない。
「……待たせた?」
「いえ、全然っ」
色々と思うところはあるが、少なくとも今、目の前にいる栄子が祐麒にとってとても魅力的なことに変わりはない。
襟ぐりにリボンっぽくデザインされたツイストのあるブラウスに春ジャケットをあわせ、下はサルエルパンツ。髪の毛は後ろでまとめられていて、今日は珍しく眼鏡をかけている。
「眼鏡、するんですね」
「普段はコンタクトなんだ」
「でも、眼鏡も似合っていて可愛いです、えーこちゃんは」
「ばっ……」
言うと、途端に顔を赤らめる栄子。
初めてキスをした、リリアン女学園でのあの日のことを思い出す。
いくら終業式の日で生徒が少ないとはいえ、約束もなく校舎の中までやってきた祐麒のことを栄子は叱った。だけど、それでも会いたかったのだ。栄子が忙しくてなかなか会えなくて、でもホワイトデーのお返しもしたくて、それで多少無茶とは思ったものの突撃していった。
久しぶりにあえて、ホワイトデーのお返しも渡せて嬉しくて、さらに白衣姿の栄子がとても綺麗だったので、キスしたいと思ってしまった。口に出してお願いした時は、「しまった」と思ったものの、止められなかった。
卒業するまでは清らかに、という栄子との約束もあったから怒られると思った。もしかしたら、約束を破ったからもうお終いだと言われるかもしれないと恐れもした。
だけど、栄子は許してくれた。それどころか、キスを受け入れてくれた。
あの日のキスのことは、今でも思い出すたびに顔がにやけてしまうほどだ。
キスを終え、なんとなく言葉もなく保健室で佇んでいる中、ふと祐麒は思った。
「あの、保科先生」
「ん……な、なんだ」
横を向いている栄子の頬がほんのりと赤らんでいる。おそらく、祐麒の顔だって同じかそれ以上に赤くなっていることだろう。
「お、俺たち、付き合っているわけですよね」
「ま、まあ……一応、そういう立てつけではあるな」
「じゃあ、あの、呼び方変えてもいいですか?」
「…………ん?」
訝しげな顔をして祐麒のことを見る栄子。
「いや、だって、"保科先生"って、堅苦しいじゃないですか。それに、なんだか付き合っている感じが薄い気がして」
「だが、私と君は」
「あ、もちろん、知っている人がいるところでは今まで通り、"保科先生"と呼びます。だから、その、今みたいに二人の時だけでも」
「む……ま、まあ、別にそれくらいは構わないが……なんと呼ぶ気だ?」
その問いに、祐麒は照れながらも、考えていたことを口にした。
「ええと……"えーこちゃん"って、呼びたいなって」
「なっ……!?」
絶句する栄子。
おそらく、"保科さん"か、せいぜい"栄子さん"くらいしか考えていなかったのだろう。
「ばっ、馬鹿か君は!? な、な、なんで私がそんな風に呼ばれなくちゃならないんだ」
「だって、生徒からも呼ばれていたじゃないですか、"栄子ちゃん"って」
「だ、だからといってだな」
「可愛いじゃないですか、"えーこちゃん"って」
それは、"栄子ちゃん"ではない。祐麒だけの"えーこちゃん"だ。
可愛いという気持ちに嘘はないが、こんな風に呼べば栄子がきっと恥ずかしがるだろう、そんな栄子を見たいという悪戯心も少しばかりあった。あと、そんな風に呼ぶことで少しでも年齢差のことを気にしないでいてくれれば、とも思う。
「駄目、ですか?」
「…………う……うむむっ……」
唸っている栄子。
もうひと押しだと思い、必死にお願いする。
「お願いします、あの、絶対に他に誰かがいるとき、あるいは少しでも危険性のあると思った時は言いませんから」
「むぅ……」
「…………」
「……ぜ、絶対に、遵守するか?」
「はいっ」
「な……ならば、わ、分かった」
「本当ですか!? やった、ありがとうございます!」
「こら、馬鹿者、大声を出すな!」
あまりに嬉しかったので、思わず叫んで飛び跳ねてしまい栄子に叱られる。それでも嬉しさは消えない。
「すみません、嬉しくて……あ、そうだ、もう一つついでにお願いが」
「なんだ、この上まだあるのか」
「はい、できれば保科先生……えーこちゃんにも、俺のことは名前で呼んで欲しいと思いまして」
「図々しいな」
「でも、俺だけっていうのもなんですし、そうしてもらえると俺も嬉しいので……」
「…………ぜ、善処はする」
「は、はいっ!」
と、そんなことがあったのだ。
残念ながら栄子からはいまだに名前で呼ばれたことはなかったが、善処すると言ってくれたのだ、いつかは呼んでくれるだろうという期待を持ちながら、栄子とは接している。
「ほ、他に人のいるところでは絶対に言わないとの約束だっただろう!?」
「他に知っている人のいないところ、ですよ」
「誰がいるとも分からないだろうが」
「でも」
「――あのな、いいか。本当に誰がいるかも分からないんだ、例え可能性が低いとしても、誰かに聞かれでもしてみろ、一緒にいるだけでも不自然なのにそんな呼び方をしている、疑われてもおかしくない。そうなったら、もう終わりだぞ、君はそれでいいのか?」
「……よく、ないです」
「そうだろう? 私たちの関係を維持したければ、きちんとしたまえ。本当はこうして休日、一緒にいるだけでも危険なんだぞ、それを頭に叩き込んでだな」
「はい、すみませんでした……でも、ちょっと嬉しいです」
「は? 何が嬉しい?」
「だって、保科先生はそれだけ俺との付き合いを大事に思ってくれているのでしょう? それが分かって、凄い、嬉しくて」
そう言うと、栄子は途端に表情を変えた。
「ば、馬鹿! 私はただ、もしもバレたら私の社会的信用が失墜するから、ただそれを心配しているだけだっ。べ、別に、君との付き合いを大事にしているとか、そういうのではないからなっ」
「は、はあ」
どうやら栄子を怒らせてしまったようで、栄子は顔を真っ赤にして肩をいからせて先にずんずんと歩き出してしまった。
「……そりゃ、そうだよな」
祐麒はただ好きだという気持ちで良いかもしれないが、栄子にとっては危ない橋を渡っているのだ。祐麒の方が好きになり、告白して迫ったのだとしても、世間はそうは見てくれないだろう。
卒業するまではくれぐれも慎重に行動しなければいけない。せっかく、栄子が祐麒の気持ちを真剣に受け止め、卒業までの時間をくれたのだ。軽率な行動で無駄にするわけにはいかない。
「すみません、保科先生。俺が間違ってました」
小走りに駆け寄り、後ろから声をかける。
「……ま、まあ、分かればよい。いいか、誰かに会ったとしても、私たちは偶然会ったというだけなんだからな」
「はい、分かりました」
素直に頷くと、栄子の横に並んで歩く。
「ところで、今日はどこへ行きましょうか? 保科先生から誘ってくれて、俺、凄く嬉しかったんですよ」
「ああ……そ、それなんだが、実は」
「はい」
何やら言いづらそうに俯き、もごもごと口ごもっている栄子。
「……と、とりあえず、ついてきてくれ」
「分かりました。保科先生の行かれるところなら、どこへでも」
この気持ちは本当だ。
だから、喜び勇んで栄子についていった。
到着した先はお洒落な喫茶店だった。祐麒のような高校生が、まず使うことはないだろうというようなお店である。
その店内の奥のボックス席で、祐麒は戸惑っていた。
隣には栄子が、居心地悪そうに座っている。
そして目の前には二人の妙齢の女性が座って祐麒のことを見つめてきている。一人は興味津々といった風を隠そうともせず、目を輝かせて祐麒に目を向けている。もう一人は穏やかな雰囲気を漂わせながらも、やはり祐麒の方に比較的視線を向けてきている。
「初めまして、栄子の友人の細川美月です」
目を輝かせている方の女性が先に口を開いた。肩にかかるくらいのさらりとした黒髪、凛々しさと妖艶さをあわせたような容貌、清潔なブラウスにスキニーパンツをあわせ、出ているところは出て引っ込むべきところは引っ込んでいる、モデルのようなスタイル。全体的に「デキる女」を感じさせる。
「同じく、栄子ちゃんの友人の塔山理砂子です。今日は突然、ごめんなさいね」
穏やかな雰囲気の女性も続けて口を開く。キャラメルブラウンでふわふわとした髪の毛はセミロング、少し垂れ目で泣き黒子が色っぽい。ワンピースの上からカーディガンという格好だが、とにかくその大きな胸に目が吸い寄せられそうになる。
「は……はぁ。えと、福沢祐麒です」
とりあえず、流れで名前を名乗る。
「す、済まない。その、話の通り私の友人なんだが、君の存在を疑っていて、会わせろといって聞かなくて……」
最後の方は小声になって聞き取れなかったが、要は栄子に高校生の恋人なんて信じられないから実物を見せろと迫られたということか。
「うわーっ、本当に高校生なんだ。ねえ福沢君は今、三年生なんだっけ?」
「は、はい、そうです」
「じゃあ、十七歳!? うわ、若い~~っ」
理砂子が目を丸くしている。
「うん、確かに写メとおんなじだね。でも、実物の方がやっぱり可愛いわねぇ」
頬杖をついた美月が微笑んで見つめてきて、思わず祐麒は赤面して俯く。するとその反応を見て、美月と理砂子がまた「うわぁ、可愛い」なんて聞こえるようにはしゃぐものだから、また恥ずかしくなる。
「と、とにかく! これで約束は果たしたろう。も、もう失礼するぞ」
「何言っているのよ栄子、今来たばかりで注文した品もまだ来ていないじゃない」
「そうよぉ、これから沢山、なれ初めとか聞かないといけないのに」
「ちょ、な、何を言っている!? そんなこと話す約束はしていないぞ」
「栄子ちゃんとはね。でも、福沢君に聞いて、福沢君が話してくれるならいいでしょう」
「ていうか、話すまでは帰さないけどね」
「うぐぐ……」
声を詰まらせる栄子。
申し訳ないと思うが、焦って困っている姿が可愛いと思ってしまう。気の置けない友人を前にしているからだろうか、いつもよりも幼い感じに見えるのだ。
「でも、一方的に聞くのじゃ申し訳ないからね。私達、学生時代からの付き合いだから、栄子の学生時代の話も教えてあげるわよ。どう、聞きたくない?」
「そ、そんなの」
「聞きたいです!」
「あ、こ、こらっ」
「はい、決まりね~」
栄子が何かを言う前に、重ねるようにして自分の希望を口にしてしまった。栄子は祐麒のことを睨みつけてくるものの、申し訳ないが美月たちの提案は非常に魅力的だった。
「こら、祐麒、やめろ、聞くんじゃないっ」
「で、でも、えーこちゃんの学生時代とか、凄い興味深くて」
「そんなもの、興味持たなくていいっ」
「だけど……ん?」
ふと視線を感じて前を見てみると、なぜかニヤニヤとしながら祐麒と、そして栄子のことを見つめている美月と理砂子。
「な……んだ、気持ち悪いな」
そんな栄子の言葉も気にせず、美月はほくそ笑みながら栄子に言う。
「へえぇ、いつの間にか、"祐麒"、"えーこちゃん"、なんて呼び合う仲になったんだ?」
「うふふ、可愛い、"えーこちゃん"って呼ばれているのね、栄子ちゃん」
「あ……」
かーっ、と頬を紅潮させる栄子。
「な、な、なんで口にしたんだ!?」
「え、でも、今のは先にえーこちゃんの方が、俺の名前を」
「う、う、う、うるさいっ」
そんな風に二人でやり合っている姿をみても、「仲が良いのねぇ」、「可愛いわねぇ」とニヤニヤが止まらない美月と理砂子。
「ま、いいものを見せてもらったし、初顔合わせということもあるし、今日は抑えめにしておきましょうかね」
「そうねぇ、いきなり栄子ちゃんがフラれでもしたら、可愛そうだものねぇ」
にこにこと穏やかに笑いながらも、不穏なことを口にする理砂子。
そんなにも凄い過去があるのだろうかと横を見れば、栄子は諦めたように項垂れている。
「だ、大丈夫です保科先生。俺、何を聞いても保科先生に対する気持ちは変わりませんから」
安心させるべく、力強く宣言したのだが。
「ば……馬鹿者、そ、そういうことを口にするなっ……」
わたわたとしながら、横を向かれてしまった。
失敗したかと思ったが、美月も理砂子も相変わらず楽しそうに見つめてきている。タイミングよく、注文していた品が運ばれてきたのでそこで一旦ブレイクし、店員が去ったところで美月が手にしたフォークを軽く振りながら、話を再開する。
「じゃ、改めて。えーと、私と栄子が同学年で中学の時クラスメイトになって。リサちゃんは一年先輩で、高校の時に栄子がリサちゃんと同じ部活に入ったの。それがきっかけで、こうして今でも仲良く続いているわけなんだけど」
「へえ、そうだったんですか」
「何の部活だったと思う?」
「え? え~と、そうですね……天文部、とか」
特に意味があったわけではない。ただなんとなく、そういうのが好きそうだなと思ったのだ。前にデートでプラネタリウムに行ったこともあったし。
しかし、祐麒の答えを聞いてケラケラと笑いだす美月。
「天文部? あー、確かに栄子、そういうの好きだけど、実際に好きになったのは二、三年前の話よ?」
「え、そうなんですか?」
「そうそう、当時はそんなの全く興味持ってなかった。入ったのは軽音部よ」
「え!」
それは意外だった。
栄子自身もそうだし、ほんわかとした理砂子も軽音部というイメージからは遠いように見える。
「楽器はなんだったと思う?」
「えーと、ベース?」
「あたり! さすがぁ、自分の彼女のこと、分かってるじゃない」
「い、いえ」
「リサちゃんがキーボードでねぇ、で、なぜか私が助っ人としてボーカルで参加してたりしてね」
「え、ボーカルがいないんですか?」
「あはは、なんか、みんな楽器がやりたい子が集まってね。ギターの子が歌ってはいたんだけど、あんまり上手くなくて」
苦笑する理砂子。
しかし、美月だったらボーカルとして非常に映えるだろうと思い、なんだか納得してしまう。
「で、作詞の半分くらいを栄子がしてたんだけど、それがなかなか、とんがった詞でね」
くっくっく、と忍び笑いを漏らす美月。
「わ、若かりし頃にはありがちだろう」
「私の家に音源や楽曲ノートあるのよ。今度、持ってきましょうか?」
「な、なんでそんなものいまだに持っているんだ理砂子!?」
「え、だって青春の思い出じゃない」
「青春の思い出ねぇ、なんだっけ、"可憐な花は枯れていくからこそ美しい"、"痛みを知る少女は何故、汚されていくのか" とか、いやー、歌っていてよく分かんなかったわー。いや、私もその頃はノッて歌っていたけどね?」
「や、や、やめて……っ」
栄子が顔を真っ赤にしてテーブルに伏していた。
「私はそういうセンスないから、歌詞は書かなかったけれど」
「いや、それが正解でしょ。ノリノリで書いて自分の世界に浸っていた栄子はね……」
「み、美月、私に何か恨みでもあるのか……」
悔しげに睨みつける栄子。本当は大声でも出して暴れたいところなのだろうが、店内なのでそれもできず、我慢するしかない。
「そうそう、それから文化祭のステージでは、栄子ったら」
「あ、ちょ、ちょっと待て。それを言ったら本当に友人の縁を切るぞ!?」
「……てことなので、この話はまた今度に」
「その代り、修学旅行時のエピソードを……」
「もう、勘弁してくれ……」
頭を抱え、力なく項垂れる栄子であった。
「……とまあ、そういうことだったわけ」
美月と理砂子から幾つか栄子のエピソードを聞いている間に、いつしか夕刻になっていた。栄子は途中から諦めたようで、ふてくされたように横を向いてしまっている。
「どうだった? 今の栄子ちゃんからは想像もつかないでしょう」
「幻滅したりしなかった?」
その一言に。
「とんでもない!」
直ちに答えを返す。
「俺の知らない保科先生のことを色々と知ることができて、凄く嬉しかったです。それに、保科先生が凄く素敵な学生生活を送っていたことが、お二人の話からよくわかりました。だから、こんな素敵な女性になったんだなって……幻滅なんてとんでもない、むしろ、もっと」
「うあああっ、こ、こら、もういい、へんなこと言うな!」
祐麒の言葉を聞いていた栄子が、慌てて口を塞いできた。
「あはっ、本当に栄子ちゃんにメロメロなんだねぇ」
「あー、若いっていいねぇ、ってゆーか栄子が羨ましいっ!」
「ああもう、そろそろ解放してくれっ!」
そんな感じで話しを終えて喫茶店を出る。随分と長居をしてしまったが、落ち着いていて人の出入りも激しくない店だったので、店の人に困った顔をされることもなかった(内心はどうか分からないが)
駅前まで一緒に歩き、別れる。久しぶりに三人で会ったということで、これから飲みに行くそうだ。さすがに、そこに入り込む気はない。
「……それじゃあ、また」
「はい、また今度、お誘いしますね」
「あ、ああ」
「それじゃあ、栄子のことはくれぐれも頼んだわよ」
「栄子ちゃんのこと泣かせないでね」
「はい、任せてください」
「あははっ、頼もしいわね。それじゃ」
栄子を真ん中にして立っている三人に頭を下げ、駅の中に入る。
思いがけないデートだったが、思いがけない収穫を得られた。
祐麒はますます燃え上がる思いを胸に、帰宅したのであった。
おしまい