【作品情報】
作品名:ハイ・ライズ
著者:J・G・バラード
ページ数:275
ジャンル:SF
出版社:東京創元社
おススメ度 : ★★★★★★★★☆☆
犬がかわいそう度 : ★★★★★★★★☆☆
こういう人におススメ! : 狂気な世界に魅力を感じる
ロンドンにある、40階建ての高層マンション。
1000戸2000人を擁しマーケット,プール,体育施設から銀行,小学校まで備えたこのマンションには知的専門職の人達が集っている。
全室入居済みとなったある夜に起きた停電を機に、マンションを不穏な空気が包む。
徐々に歯車が狂っていく閉ざされた空間。
バラードらしい狂気の滲み出る一作。
このマンションは世界の縮図にもなっている。
10階までの下層部,35階までの中層部,そして最上流とされる40階と、住む場所でランクが定まっている。
まあ高層マンションなんていうのはそういうものかもしれないが、まるでヒエラルキーモデルのような住人達は読んでいる方も分かりやすい。
自分達と同等レベルの住人達と派閥を作り、下は見下し、上は妬みあるいは対等になろうとする。
それだけならば普通のマンション内の対立構造で終わる所だが、バラードだからそうはいかない。
少しずつモラルの崩壊していく閉ざされた世界。
掃除をしなくなり、ゴミは捨てっぱなし、そこらじゅうで排泄をして、悪化の一途をたどっていく。
住人達の対立も深くなっていくのに、なぜか不思議な秩序は残されている。
住人達は狂っているようでいて、実は心の内にはまともなものも残している。だけど、なぜかマンションからは逃れられない。
むしろ、外の世界の方こそが異常で、マンションの中にこそ落ち着きを感じるようになっていく。
田舎の小さな村では、独特の空気とルールがあり、馴染めない人間は迫害される。そんな村社会を思わせる世界だ。
段階を追って住人達が狂気に染まっていく様は、恐ろしいホラー要素をふんだんに盛り込んでいるのだが、なぜかユーモラスさも内包している。
原始化して人間性が失われていくのに、なぜか生命力を放っていく住人達。
「あとになって、バルコニーに座って犬を食いながら、ドクター・ラングは過去三ヶ月間にこの巨大なマンションのなかで起こった異常な事件のかずかずを思い返してみた。」
ちなみに、コレが物語の冒頭の一文。
これだけで、いかにこの物語が狂っているかが分かるというモノ。
狂気の世界を描いていくバラード、退廃的な中にもなぜか美しさをすら感じさせるのは凄まじい。
SFというかサスペンス&ホラーの要素が強いかも。
こういう作品を書いてしまうのが、バラードの凄さか。
犬好きの人は読まない方がよいかもしれない。
価格:968円 |