書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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ノーマルCP マリア様がみてる 可南子

【マリみてSS(可南子×祐麒)】練習? <可南子ルート>

更新日:

~ 練習? ~
<可南子ルート>

 

 夏休みも既に後半に突入している。
 今年の夏休みは例年になく充実していると感じている。その大きな要因はといえば考える間でもなく、可南子の存在だ。
 毎日のようにバスケの練習に付き合って、アイスを一緒に食べに行って、遊園地のプールに行って、夏祭りに行って花火を見て。夏といえば、と問われて出てくるイベントを次々とこなしていて、後は海水浴だろうか。まあ、プールに行って水着姿は見ることが出来ているし、海月も出始めるころかもしれないので海は諦めよう。
 これ以上を望むのはさすがに贅沢かと思っていたその矢先、声をかけてきたのは可南子の母、美月であった。
 午前中にバスケの練習をした後、そのまま別れることもあるが、午後も一緒に行動する時もある。街に買い物に出かけたり、図書館に夏休みの宿題をしに行ったり、可南子の家でまったりとしたり。
 基本的に可南子の機嫌が良いときに、一緒にいることができる。さすがに毎日のように一緒について回ったら、鬱陶しがられるだろうから、その辺はうまいことバランスをとらなければならない。
 その日は、帰りがけにDVDを借りてきて、可南子の家で二人で映画鑑賞をしていた。二人で観ればレンタル料金も半額で済むからである。
 シリーズもので、のめり込んで止め時を失い、気が付けば夕方になっていた。
「あ、もうこんな時間か。そろそろ帰らないと」
 一区切りがついたところで時計を見て、呟く。
「そう。じゃあ、続きはまた今度ね」
 DVDをプレイヤーから取り出してケースにしまい、テーブルの上に置いてあった麦茶の入っていたコップを持って、可南子はキッチンへと姿を消す。そのタイミングでちょうど、玄関の扉が開いた。
「ただいまー、あーもう、今日もあっついわー」
 だるそうな表情と声で入ってくる美月は、暑さに耐えかねるかのように右手で顔を扇ぎながら、左手でブラウスのボタンを外して胸元を大きく開いた。
 目に飛び込んでくる、淡い水色のブラと胸の膨らみ。
 突然のことに目を逸らすことも、瞑ることもできず、固まったまま見入ってしまう。
「えっ? あ、やだ」
 祐麒に気が付いた美月が、慌ててブラウスの前を手で抑えて胸元を隠す。頬の周辺がさっと朱を帯びる。
 もちろん、祐麒も赤面しつつ急いで顔を横に向ける。
「あ、き、来ていたんだユウキくん、いらっしゃい。ごめんなさい、見苦しいところ見せちゃって。つい、いつもの癖で」
「いえ、そんな見苦しいなんてとんでもない、むしろ綺麗でした!」
 僅かの間のことであったが、綺麗な肌にうっすらと玉の汗が浮かび、胸は大きすぎず小さすぎず良い形を保ち、少し乱れた髪の毛は首筋に張り付き、えもいわれぬ上品な色気を祐麒に感じさせた。
 とまあ、格好いいことを言うようであるが、要は思いがけない幸運にドギマギしていただけである。おかげでとんでもないことを口走ってしまったが、タイミングよく可南子が現れる。
「お帰りなさい、お母さん。外、よほど暑いのね、汗凄いし、顔赤いよ」
 キッチンから戻ってきた可南子が、美月を見てそう指摘をすると、美月はそそくさと隣の部屋へと足を運ぶ。
「あはは、うん、そうね暑くてもう」
 胸元を抑えつつ、消える。
「何か変なの……って、ユウキも顔赤いけれど、暑い……に決まっているか、エアコンなしで扇風機だけじゃあ」
「いや、大丈夫、うん、落ち着いた」
「――――?」
 首を傾げる可南子を、とりあえず無視する。
 やがて、Tシャツにクロップドパンツというカジュアルな格好に着替えた美月が部屋から出てきたところで、挨拶をして帰宅しようとしたのだが引き止められ、質問された。
「あー、ユウキくん、ちょっと待って。ねえ、一つ質問なんだけど、ユウキくんはキャンプでテントの設営とかって、できる?」
 と。

 

「急なお願いでごめんね、ユウキくん」
「いえ、俺も暇だったし、ありがたいです」
 運転席から話しかけてくる美月に、笑って返答する。
 ちらりとバックミラーを見てみれば、可南子と、そしてもう一人、小学校高学年くらいの子供が後部座席に座っていてお喋りをしている。
 その子は塔山暁、美月たちの親戚にあたる子とのこと。本来、この夏休みに暁とその両親でキャンプに出かける予定が、急な用事によって都合が悪くなったところで美月に相談が来た。暁はキャンプを楽しみにしており、美月たちに連れて行ってもらえないかということだ。
 美月も可南子も、暁とは昔から知り合いで仲も良いので、予定さえあえば問題ないのだが、キャンプとなると二人とも経験がなくて二の足を踏んでいた。出来れば経験のある男手が欲しいところだが、そうそう候補者はいない。そもそも、男嫌いの可南子が許可するような相手となると更に難しい。
 そこで、若くはあるが祐麒に声がかかったというわけだ。幸い、祐麒は家族で何度かキャンプの経験があったし、学校のイベントや、野球部の仲間と行ったこともあった。
 初対面の子供と一緒、というのが少し不安ではあったが、可南子と一泊のキャンプの魅力の方が遥かに大きく、こうして要請に快く応えたというわけだ。
 美月の運転で数時間、何事もなく無事にキャンプ場に到着する。車を降りると、まず何より濃密な草や木々の匂いが出迎えてくれた。明らかに、都会と比べて空気が綺麗で、暑くはあるけれどどこか心地よい。
 隣では、暁も気持ちよさそうに伸びをしている。
 相当に夏は外で遊んだのか、肌はこんがりと小麦色に焼けている。最近では室内で遊ぶ方が多いが、暁は元気のよいアウトドア派のようだ。プロ野球球団のキャップの庇の下には、やや吊り目がちながらも大きな目に、強気を思わせる口元。ボーダーのタンクトップシャツの上から半袖パーカ、半ズボンにスニーカーという活発な格好。
「よう。えーっと、暁、でいいんだよな?」
「……そうだけど」
「今日と明日、よろしくな」
 親しげに話しかけたつもりだったが、暁は軽く顎を引いただけで特に返事をしない。
「ユウキくん、テント設営お願いできる?」
「了解です。うっし、それじゃ気張ってテント作るか。暁も手伝ってくれよ?」
 美月の声に、車の方に体を向ける。
 暁は、ちらちらと祐麒や車の方に視線を向けている。
 男の子なら、テントの設営とか楽しみにしているに決まっている。祐麒は内心で微笑みながら、暁に声をかける。
「テント作らないと何も始まらないからな、さっさか作るぞ。俺のテントテクニック、見せてやるからな。テント作ったら、遊ぼうな。ハイキングでも、虫とりでも、釣りでも、なんでもいけるぞ」
 本来なら、両親と一緒の楽しいキャンプのはずだったのだ、その心をくみ取ってやらねばなるまい。いくら付き合いがあるとはいえ、親戚相手では気も遣うであろう。だから祐麒は、逆に気を遣わずに接していいぞと、態度で示して見せる。
「テントを作るのは楽しいぞー」
「…………ん」
 そう簡単に気を許すことは出来ないのか、気難しい顔をして見せているが、興味を示しているのが明らかに分かる。
「よし、行くぜ」
 歩き出すと、少し遅れて暁もついてきた。
 汗をダラダラ流しながら車から荷物を運び出し、なかなか賑わっているキャンプ場でテントの設営場所を決める。
 いざ、テントを作り始めようとすると、先ほどの難しそうな顔はどこへやら、すぐ楽しげにテントを作ろうとする暁。可南子と美月にも手伝ってもらうが、三人とも未経験者なので祐麒が指示出しするしかない。しかし、暁は子供特有の我が儘というか、やりたがりというかで、自分で勝手にやろうとするので注意が必要だった。
「あ、ちょっと待て暁、入り口はそっちじゃない、反対側」
「なんで?」
「こっちが風下だからだよ。入口が風上を向いていると、雨や風が強いと中に入るたびに雨や埃、あと煙なんかが中に入ってきちゃうからな。そんなの嫌だろ?」
「ふーん」
「ユウキくん、頼りになるわね。声かけて正解だったわー」
「ねぇユウキ、これどうやって結ぶの?」
 さほど難しいテントではないが、祐麒も久しぶりだし、慣れない者が多いのでそれなりに時間がかかってしまった。テント設営が無事に終わり、荷物を整理したら昼食の準備にとりかかる。
 昼食は定番のカレーだ。料理になれば、今度は美月が指示を出して子供たちが作る。自分で作ることも、キャンプの楽しみだ。
「うわ、ユウキ、下手くそー」
「うるせっ、お前だってたいして変わんないじゃないか」
「へへーん、オレの方が綺麗に剥けてるもんね、ねえ、可南ちゃん?」
「そうねー、明らかにユウキの方が不細工で、小さくなってるわね」
 その頃には、暁も祐麒のことを名前で呼び捨てるようになっていた。まあ、子供なんてそんなもんだと思えば、腹も立たない。
「ほらほらー、カレーの具がなくなっちゃうよそんなんじゃー」
 と、なんだかんだと騒ぎながらもカレーが出来上がる。
 飯盒で炊いた白米とカレー、具材もルーも特別なものは何もないのに、こういう場所で自分たちで作ると、なぜか無性に美味に感じられるのは今も昔も変わらないようだ。
 昼食を終え、やや食いすぎ気味だったのでベンチでぐったりしている。カレーもご飯も少し量が多く、かなりの量を祐麒が食べたせいだ。  昼寝でもするかと思っていると、祐麒を覆い尽くす影が目の前に立ちふさがった。
「ちょっと、何いきなりだらけてんのよ、おっさんくさい」
 可南子が腰に手を当て、見下ろして来ていた。
 料理の時、アップにしてまとめていた長い髪の毛を、今は両サイドで縛ったツインテールにしている。長身でクールな黒髪美少女のツインテール、それだけでご飯何杯でもいけそうであった。
 可南子の隣には、唇を尖らせている暁。
「……テント作ったら、なんでも遊ぶって言っていたくせに」
「ぐっ」
「あー、いやねー、嘘つきって」
「嘘なんて言ってないって、よーし、今から遊び倒そうじゃないか、何すっか」
 言いながらちらと可南子、そして美月のことをちらりと見る。
「あー、あたしは休んでいるから、若い子達だけで遊んできていいよ」
 美月が、ひらひらと手を振る。
 気を遣っているのか、それとも本心なのか分からないが、美月を一人残して遊びに行くというのはどうなのだろうか。
 祐麒はちょっと思案し、決断した。

 

a.美月も誘った方が、むしろ三人で行くより可南子と仲良くできるのでは?

 

 美月は運転で疲れもしたし、読書でもしながら休んでいるから若い子達で遊んできなさい、なんて言ってきたけれど、それでも一緒に行かないかと誘った。
 一人だけ残していくというのは気分的に良くないし、それに何より打算的ではあるが、美月が一緒ならある程度暁のことを任せ、可南子と接する機会を増やせるのではないか、なんていう下心も少しばかりあった。
 ということで、無事に美月も誘って四人で遊ぶこととなった。
 一行がまず訪れたのは、川での釣りである。完全なる自然環境での釣りではなく、川をせき止めた中に放流されたニジマスを釣るというもので、初心者でも自然の釣り気分を味わいながら楽しむことができるものである。
 可南子と暁は初めてということで、教えながら実施することになるが、意外なことに美月は経験があるということで、暁についてもらうことにした。
「それじゃ可南子ちゃん、餌をつけて」
「ちょ、ちょっとやだ、これ、気持ち悪い」
 生餌を目にして、可南子が怯む。
 虫が苦手な子にとっては嫌かもしれないが、こればかりは仕方がない。目を転じれば、暁は特に嫌がる素振りも見せずに餌を針につけている。
「ほら、暁もできているし」
「ううぅ…………や、やっぱり無理! ユウキ、お願いだからつけて」
「まあ、仕方ないなぁ」
 可南子に代わって生餌をつけてやる。
「それじゃあ、やってみようか」
「どうすればいいの?」
「ニジマスが餌に食いついたら浮きが沈むから、そうしたら竿を引けば釣れるから」
 たいして難しいことはない、子供でも出来るもので、ちょっとやればすぐにコツをつかむことができるはず。
「そんな簡単に言われても……」
 それでも、初心者の可南子は戸惑っていた。
 仕方なく祐麒は可南子の背後から腕を伸ばし、文字通りに手取り教える。
「ほら、この辺に垂らして」
「ちょっと、くっつかないでよ、いやらしい」
「こうしないと、教えられないじゃん」
 嘘である。
 ただ、可南子と触れられる名目を手に入れられたので、やっている。身をぴったりと寄せると、髪の毛と、ほんのり汗の匂いがする。
「――え、あ、なんか、かかった?」
 しばらくすると、浮きが引っ張られて沈んだのが見えた。
「ほら、引き上げて」
「え、えいっ!」
 掛け声とともに、竿を引っ張る可南子。すると、水面から一匹のニジマスが姿を見せ、そのまま釣り糸に引っ張られて宙に舞う。少し強すぎはしたが、釣れないよりはマシであろう。
「わ、わ、釣れたっ? うわっ」
 空中で踊るように身を捩らすニジマスが落ちてくると、可南子はそれを手でつかみ損ねてしまい、ニジマスが見事に胸元から服の中にするっと入ってしまった。
「ひあっ!? や、ちょっと、やだっ」
 暴れるニジマスをどうにか抑え、服から取り出してバケツに放り込んで一息つく。可南子は顔をしかめ、指で服をつまんでちらと中を覗いてみる。
「もう~、なんか、ぬるぬるのべたべたになっちゃったじゃない。ユウキの馬鹿」
「え、どこが、どうなったって?」
「だからぁ、胸とかお腹に、ぬるぬる、べとべとのがついちゃったから」
「そ、そうですか、どうもありがとう……」
 相変わらず、可南子は無意識なくせに天然でエロい。汗と川の水によって肌がてらてらと濡れて光っていて、祐麒は座っていて良かったと思った。
 その後、ニジマスを何匹か釣り上げてホクホク顔で戻り、続いて森の中の探索へと出かけることにした。
 虫を獲り、木に登り、自然の中での遊びを満喫する。
 思惑通り、暁のことは美月が見てくれているので、四人で行動しているとはいっても可南子の近くにいることが多くなる。
「しかし、暁は元気だよなぁ」
 森の中を苦も無く跳ねまわる暁を見て、苦笑する。
「なによ、疲れたの? だらしないわね」
 祐麒も体力にはそれなりに自信があるが、子供の元気さはまた別物という気がした。
「でも、今日は本当にありがとう。アキちゃんも楽しんでくれているし。私とお母さんだけじゃ、ここまでワイルドには遊べなかっただろうし」
「いやいや、可南子ちゃんや美月さんのお願いなら、これくらい幾らでも」
「……何それ。私じゃなくて、お母さんでも?」
 不機嫌そうになる可南子。
「いや、そりゃあさ……って、あ」
「何よ、どうしたの」
「あー、可南子ちゃん動かないで。凄いよ、ほら」
「え?」
 祐麒が可南子の胸元を指し示し、可南子は目でその指先を追って視線を下ろす。
「――――ひっ!?」
 可南子のシャツの胸の下あたりに昆虫が、おそらくミヤマカミキリがくっついていた。さすが大自然、結構な大きさである。
「や、やだっ、怖い怖い怖い駄目っ、とってとって早くとって!」
「あ、暴れないで可南子ちゃん。噛まれると痛いから、じっとしていて」
 泣き叫びかけた可南子の動きが、ぴたりと止まる。
「ははははは早くとってとってとってとって」
「えーっと、触っちゃうかもしれないけれど、いい?」
「いいから早くーーーー!」
 目をぎゅっと瞑り、軽く胸を突き出してくる可南子。なんか、夏祭りの時も同じような状況になったと思い出しながら、指をのばす。と、祐麒の動きを察知したのか、ミヤマカミキリは移動し、祐麒の指は空振りして可南子の胸に触れる。
「ふぁっ……んっ」
 悩ましい声が漏れる。
「と、とれた?」
「ごめん、まだ」
「早くして、お願い!」
 懇願する可南子に応じて、再度挑戦する。今度は無事に捕まえることができた。
「OK、捕まえることができたよ、可南子ちゃん」
「あ、ありがと……あぁ、怖かった……」
 可南子と目が合う。
 虫を捕まえようとするとき、捕まえようとする手だけではなく、必然的にもう片方の手もバランスをとるように前に伸びる。右手には捕まえたミヤマカミキリが、そして左手には可南子の胸が収まっていた。
「……あ」
 といいつつ、軽く指に力を入れて揉んでみたり。無意識といいつつ、実は半分くらいはどさくさに紛れて触ってしまおうかなー、なんて思いもあった。
「――――!!!」
「これは、わざとじゃないからな? 虫を獲るためには仕方ないことで」
「それで、虫はいまどこに?」
 わなわなと震えている可南子。気のせいか、漆黒の長い髪の毛までが意思を持ったかのように蠢いて見える。さながら、深い森の奥に潜んでいたメデューサのごとく。
 この後に訪れることを予測して、とりあえず祐麒は今の感触を最大限に楽しむことにした。左手に意識を集中させる。傍目には細くてすらりとしているから、あまり胸があるようには見えず、実際に比較的小ぶりではあるが、それでも十分に柔らかい。
「い、つ、ま、で、触ってんのよーーーーーーーーっ!!!!!」
 可南子の拳がめりこみ、祐麒の叫びがのどかなキャンプ場の森に木霊した。

 

 夜ご飯はもちろん、バーベキュー。単に焼くだけだというのに、やたらと美味い。もちろん、昼間に釣ったニジマスも塩焼きで美味しくいただいた。美月はビールを美味しそうに飲み、祐麒に晩酌をすすめ、可南子に怒られながらも特別だからと一本だけ飲み干した。
 食事の後は花火。あまり派手な花火をするわけにはいかないが、四人でささやかに楽しんだ。
 花火を終えれば、基本的に今日の予定は終了。あとは星空でも眺めながら話をするくらいしかないが、朝が早く、日中も遊び回っていたせいか暁は既に目がとろんとして眠そうだった。
「それじゃあ、俺と可南子ちゃんで片づけやっときますんで、美月さんは暁の方お願いできますか?」
 まあ、これが無難な選択であろう、若い二人で体力仕事を請け負うのが。
「了解。アキちゃん寝かしつけたら、私も手伝うから。ほらアキちゃん、シャワーは朝でもいいけれど、寝る前に歯磨きはするのよ」
 歩いていく二人を見送り、可南子と二人で片づけを始める。コンロなどは明日でも構わないが、飲食物についてはきちんと片づけをしておかないと、夜のうちに動物たちに荒らされてしまう可能性がある。
 ゴミ袋に詰め、車のトランクにしまうために駐車場へと向かう。ゴミは持ち帰る、キャンプの基本、これ大切。
 ゴミを無事にしまい、テントに戻ろうと踵を返す可南子に声をかける。
「待った、可南子ちゃん。少しさ、星でも見ていかない?」
 振り返る可南子、闇に溶けるような黒髪だけど、星明りの下でまるで生きているかのように揺らめき、輝いて見える。都会とは違う、自然の中の真の宵闇、昼間の可南子も良いが、こうした夜の可南子も神秘的で美しい。
「はぁ? 何、顔に似合わないこと言っているの?」
 口から放たれる言葉は辛辣で、容赦ないものではあるが。
 憎まれ口を叩きつつも、可南子は足を止めて駐車場の周囲に設置されている柵に手をついて、夜空に顔を向ける。
「でも確かに、綺麗よね」
 都会で見ることのできない星空に、魅入られる。星とはこんなにも沢山、空に見ることができるのかと、驚きもする。
「いやいや、可南子ちゃんの方が」
「それってギャグ? マジでそんなこと言われたら、軽く引くけど」
「はっはっは……」
 笑って誤魔化す。
「でも正直なところ、今日はありがとう。アキちゃんが楽しんでくれているのも、ユウキのお蔭。それにしても、すぐ仲良しになったわねー」
「そりゃもう、俺の溢れる人徳というやつで」
「きっと、精神年齢が同じくらいなんでしょうね」
「さいですか……」
「ふふっ」
 がっくりと凹んでみせると、可南子が可笑しそうに笑った。こんな綺麗な夜空の下で、可南子の今の笑顔を見られただけでも良いか、と思えてしまう。
「可南子ちゃん、ちょっと散歩してみない?」
「えー? まあ、別にいいけれど」
 まだ戻りたくなくて誘ってみると、意外とあっさり承諾してくれた。
「えーっと、それじゃあ」
「ん、何よ、この手は」
「夜だし、暗いし、足場も悪いから」
「なっ…………」
 祐麒の意図を察して、絶句する可南子。
 強引に行っても良かったのだが、それよりかは可南子の意思に任せたかった。別に断られても、二人で並んで歩いて散歩できるだけでも良い。
 しばし、可南子が逡巡する様子を見て諦めかけたが、やがておずおずと可南子の手が伸びてきた。
「……ま、今日付き合ってくれたお礼ということで」
 拗ねたように横を向きながら、手を繋いでくれた。
「OK、じゃあ行こう」
 可南子の気が変わるのが怖くて、少し強めに手を握って歩き出す。文句も言わずに可南子はついてくる。
 散歩といっても、暗いからあまり遠くまで行くわけではない。懐中電灯も持っているが、だからといって森の中まで入れるわけもなく、ただブラブラと歩く。
「ユウキは、どれがどんな星座でとか、分かんないの?」
「え? あー、その辺はちょっと専門外で」
「はい、減点。こういう時はにわかでも知識を仕入れてきなさいよ」
「そんなこと言っても、そんな時間もなかったって。ちなみに今の減点で、俺何点くらいになったの?」
「八十点くらい?」
「え、何ソレ、減点して八十点って、もしかして俺って凄い高得点だったの?」
「五百点満点だけど」
「低っ! てか千点満点とかではないんだ」
 下らない話をしながら歩いているだけで、楽しくなってくる。
「いやー、しかし今年の夏は可南子ちゃんと色んなところ遊びに行って、こうして泊まりでキャンプまで出来て、楽しいよ」
「そりゃ良かったわね」
「これで、この夏であと足りないのは一つかな」
「足りないの、って?」
 可南子に問いかけられて、立ち止まる。必然的に、手を繋いでいる可南子も止まらざるをえない。
 ちょうど、軽く段差になっているところを降りていたところで、可南子と目の位置が丁度良い高さで合う。
 手を繋いでいない方の手を伸ばし、可南子の細い肩を掴む。
「そりゃ、もちろん」
「え……え、えっ? ちょ、ちょっとユウキ」
 暗さにも目が慣れたし、晴れた夜空の下では都会の塗りつぶされたような闇もなく、可南子の顔も見て取れる。慌てた表情、ほんのりと赤くなっている頬、肩に置いた手をさらに背中に回し、体を寄せる。
「ちょ、ちょっ、ちょっと、だ、駄目だってば、今はまだ……」
 顔を俯け、祐麒の肩に額を押し付けてくる可南子。
「今じゃなかったら、明日ならいいとか?」
「だから、そ、そういうことじゃなくて」
 いつものような力強さのない可南子。
 戸惑ってはいるが、完全に拒否はしていない感じを受ける。本気で嫌なら、今頃ビンタを喰らっているか膝蹴りを金的に受けているか、どちらかであろう。
 おそるおそる、上を向く可南子。
 普段は見下ろす格好となっている祐麒から、今は立ち位置の関係上で見下ろされるようになっている。その位置関係も影響をしているのかもしれない。
 ムードも、シチュエーションも、問題ない。むしろ、一番良いかもしれない。今を逃すことなど出来ないと、顔を近づける。可南子は身を硬く、逃げることも出来ずにいたが。
「――――あ」
 可南子の声と同時に、背後に気配を感じた。
 振り返ってみると、女子大生くらいに見える三人の女性が、気まずそうに祐麒達の方を見ていた。
「……あ~、すいません、あの、私たちのことは気にしないでどうぞ、続きを」
「馬鹿、ああもう、ホントごめんなさい、お邪魔しちゃって」
 こういう場合、どう反応したら良いのか分からず困る。
 一方の可南子は。
「ち、ち、違いますから、こいつとはそんなんじゃありませんからっ!」
 とムキになって否定しつつ、近づいてきていた祐麒の顔を両手で掴むと、思いっきり、勢いよく横に向かせた。
「あがーーーーーーーーーーーっ!!!!?」
 夜のキャンプ場に、祐麒の悲鳴が轟いた。

 

 首を抑えながらテントに戻ると、美月と暁は既に健やかな寝息を立てて眠っていた。可南子が汗をかいて気持ち悪いのでシャワーを浴びてくると言うので、キャンプ場設置のシャワー室で汗を流しに行って、再びテントに戻ってくる。
「えーっと、それじゃあ、俺たちも寝る?」
「う、うん」
 二人きりで寝るわけではないが、同じテントの中で寝るということで、なんとなく互いに気恥ずかしい。そこそこ広いテントとはいえ、四人で寝るには場所だって限られる。ましてや、既に美月と暁は並んで寝ているわけで、必然的に祐麒と可南子が隣同士で寝ることになるのだから。
 夏場でさほど標高が高い場所でないこともあり、寝るのは封筒型のシュラフを広げて敷布団にして、上からタオルケットを掛けて寝る。
「それじゃあ、お休み」
「おやすみなさい」
 二人、背を向けるようにして横になる。
 すぐ後ろに可南子の気配を感じ、非常に落ち着かない。昼間の疲れが明らかに体にあるのに、なかなか眠りにつくことが出来ない。
 どれくらい時間が過ぎただろうか。一時間か、あるいは十分か、時間の感覚も良く分からない。聞こえてくるのは、ほのかな虫の鳴き声くらい。他の人達も既に寝ているのか、騒ぐような声も、足音も、耳には届かない。
 ぶるっ、と体が震える。
 思いのほか、気温が低いのかもしれない。
「……寒いの?」
 小さな声が頭の後ろから聞こえてきた。
「ん~、まあちょっと。でも大丈夫」
「私も、少し寒いかも」
「まあ、こういう場所は夏でも朝晩は冷えるって聞くしね」
 とはいいつつ、どうしようもない。我慢できないほどではないし、朝まで寝てしまうしかない、と思っていたら。
「……そっち、寄ってもいい?」
 などと、可南子が信じられないことを言ってきた。
「え、あ、うえっ?」
「だって、お母さんとアキちゃん、暖かそうなんだもの……」
「お、お、俺はそりゃ、いいけれど……可南子ちゃんは、大丈夫なの? そんなことして」
「言っておくけれど、変なことしたら殺すから」
「……分かりました」
 それでも、可南子と寝られるなど、考えもしなかっただけに望外の喜びである。
「さあ、いつでもどうぞ」
「……なんで体をこちらに向けるのよ」
「いや、やはり正面から受け止めようかと」
「いいから、普通に寝ていなさい」
「はい」
 素直に仰向けになって目を閉じる。
 まあ、寄るといっても腕に寄り添うくらいであろう。それくらいだって十分なわけだし、贅沢は言うまい。
 そう思っていると、不意に体にのしかかってくる重みと、温もり。
 え、まさか、と思って目を開けて首を軽く起こしてみると、薄闇の中ですぐ下に可南子の顔がある。
 驚きのあまり、パクパクと口を動かすのみで言葉が出ない。呼吸すらもうまくできず、苦しくなる。
 可南子はほぼ完全に体重を預けてきており、シャツ一枚を通して胸がぎゅっと押し付けられているのが分かる。
「か、可南子ちゃ……」
「ユウキは動いちゃダメ」
 上げかけた手の動きを制するように、可南子が言う。
「動いていいのは、私だけ」
 体勢を直すためか、もぞもぞと祐麒の上で動く可南子。
「っ……か、可南子ちゃん、や、うぁ」
「ちょっと、へ、変な声出さないでよ」
「そ、そう言われても」
 祐麒の胸の上に置かれた可南子の指が、見事にピンポイントに二つの突起に触れ、撫でまわしてくるので、くすぐったさと気持ちよさでどうしても声が漏れてしまう。
「静かに寝なさい。別に、へ、変な意味はないんだから」
 これで平静に寝られたらたいしたものだ。実際、可南子の方だって顔を真っ赤にして、落ち着きなく動いている。その動きが、祐麒にたまらない刺激を送ってくるのだが。
「……これは、今日のユウキへのただのご褒美なんだから」
 小さな声。
 すぐ隣では美月たちが寝ている。もし、今の姿を見られたら何て言われるだろうか。
「それに……これなら暖かいでしょう?」
 その問いかけには、無条件で頷けた。

 

 暖かいというのは偉大で、あれほど緊張していたにも関わらず祐麒は眠りに落ちることが出来ていた。
 夢かうつつか、意識がぼんやりし始めたのは、ひんやりと体が冷えはじめたのを無意識に感じたから。夜が暖かかっただけに、気温の差に敏感になっているのか。知らずの内に、昨夜得ていた温もりを求めて手が動く。
「くすっ……ばーか」
 これは、可南子の声か。
 いや、そうだとしたら夢に違いない。なぜなら、可南子はこんな優しく、可愛らしい声で「ばか」なんて言わないから。
 夢ならば、まだもう少し寝ていてもいいだろう。何せ可南子の可愛らしい声など、そうそう耳にすることが出来ないのだから。うん、体も疲れているし、もう少し……
 ふわりと、唇に、柔らかくて、滑らかで、ちょっとひんやりとしたものが押し付けられた、ような気がした。それは、ほんの一秒くらいのことで、感触的には冷めた肉まんのような感じか。
 まあ、夢なんて良く分からないことばかりだ。しかし、リアルに近い感触を持った夢というのも珍しい、とゆうか初めてである。これは、起きたら誰かに話さねばなるまい。
 などと考えているうちに、意識は再び途絶え、気が付いた時にはテント内には誰もいなかった。時間的には早朝といえるような時間だが、キャンプの朝は早い。祐麒は欠伸を噛み殺しながらテントの外に出た。
 すると外では、なぜかキャンプ場のテーブルに突っ伏して頭を抱えている可南子の姿があったのであった。

 

 後片付けをして自分たちが使った場所を綺麗にして、キャンプ場を後にする。帰りに車内、後部座席の可南子と暁が早々に寝入ってしまうのを横目に、美月と適度に会話をしながら帰宅。
 翌日は、疲れているということもあってバスケの朝練は無しということになったが、祐麒は細川家へと向かっていた。
 請われてキャンプに同行したとはいえ、ほぼ無料で一緒に遊んで楽しんだのは事実であり、きちんとお礼をして来いと両親から手土産を持たされてやってきたのである。もちろん、事前に可南子にはメールで了解をとってある。
「ほいほい、いらっしゃいユウキくん」
 訪れると、明るく美月が出迎えてくれる。
「そんなに気を遣わなくてもいいのにね」
 手土産を渡すと、笑いながら美月。
 室内に上げてもらうと、可南子の姿はそこにはなかった。
「可南子、ほら、ユウキくん来たよ」
「――わ、分かっているわよ」
 返事がしてから更にしばらく時間を置いて、隣の部屋から可南子が姿を見せた。ノースリーブのチュニックにデニムのショートパンツ、長い髪の毛はお団子にしてある。そして可南子は、出てきて祐麒の姿を見るなり、顔を逸らした。
 どうも、昨日キャンプの朝から可南子の様子が変な気がしているのだが、やはりキャンプの夜のことが原因だろうか。可南子の体の感触は祐麒とて忘れようもないし、思い出せば今でも顔が熱くなり、且つにやけてしまうのだが。
 旅行先の自然の中、可南子も開放的な気分で大胆になったが、正気に戻って恥ずかしくなっているというところか。寄り添って寝た以上のことはないはずだが、それだけでも十分に恥ずかしいことに違いはない。
「まったく、何か昨日から変なのよ、この子」
 首をひねりながら、美月が麦茶とお茶請けの煎餅を出してきてくれた。残暑は相変わらず厳しく、冷たい麦茶は非常に助かる。可南子も、むすっとしつつ麦茶に手を伸ばす。
「そうそう、キャンプといえばさあ」
 明るい声で、美月が祐麒と可南子、二人に目線を送りながら言う。
「夜、一緒の布団で抱き合って寝ていたけれど、まあ随分と大胆ね二人とも」
「っ!!?」
「ぶふっ!!」
「隣であたしとアキちゃんが寝ているのにもかかわらずねぇ。まあ確かに、外じゃあ蚊とかいるし、他のお客さんに見られるかもしれないけれど。あ、それとももしかして、私たちに気付かれるかもしれないというスリルが、より二人を盛り上げたりして?」
 咽た麦茶を拭きながら、慌てて美月に弁解する。
「別に、いかがわしいことはしていませんから!」
「お、お母さんっ、い、いつの間に見ていたの!?」
「いやー、夜中に目が覚めたらさ、可南子がぎゅーっと抱き着いていて」
「ややややややめてっ、ちょ、や」
 ぐっすりと寝ていたし、まさか見られていたなんて思っていなかった。いや、言われてみればいつ起きてもおかしくないわけで、むしろ気づかれたのは必然か。二人、赤面しつつ言い繕っているところで、玄関からチャイムの音がして美月が笑いながら立ち上がる。
「あら、リサちゃんにアキちゃん。え、キャンプのお礼? もー、改まっていいのに、そんな、まあとりあえず上がって頂戴」
 どうやら祐麒と同じように、暁とその親御さんがキャンプのお礼にやってきたようだ。とりあえず、慌てて立ち上がる。
「そうそう、こちらがキャンプに一緒に行ってくれたユウキくん。テント作ったり、力仕事してくれたり、外で一緒に遊んでくれたり、ユウキくんがいたからキャンプも凄く楽しく過ごせたのよ」
「まあ」
「いや、そんな言いすぎですって」
 褒められすぎで、思わず照れながら暁とその母親らしし女性に目を向ける。
 おそらく美月と同年代くらいであろうか、セミロングの髪の毛をバレッタでまとめた、落ち着いた印象のする女性である。刺繍のあしらわれたワンピースの上に透けニットのカーディガンを着て、なんとなく可愛らしい。
「……ちょっと、リサコさんが綺麗だからって、何鼻の下のばして見惚れてんのよ」
「痛い痛い、べ、別にそういうわけじゃ」
 可南子が隣から、冷たい視線で脇腹をつねってくる。
 そんな二人の様子を見てか、リサコがくすくすと笑う。
「ふふ、可南子ちゃんにもとうとう、彼氏さんができたのね」
「えっ!? ちち、違いますよ、私とユウキはそんなんじゃありませんっ!」
「あら、そうなの?」
 小首を可愛らしく傾げながら、リサコはちらと隣の暁に目を向け、改めて可南子を見る。
「だって、暁が言っていたのよ。朝方、テントの中で可南子ちゃんがユウキくんにキス」
「うああああああああああっ!!!!!! ちょちょちょちょっとリサコさんってかアキちゃあああああんん!?」
 リサコの言葉の途中でいきなり可南子が大声を出して暴れはじめた。
「え、何々、今面白いことを耳にした気がするんだけど、これはちょっと詳しいことを聞かないといけないようね」
 しかしリサコが言いかけたことをしっかりと拾い上げたようで、美月が食いついてくる。
「お、お母さん、ちょっと」
「言っておくけれど、別に今止めても、電話とかでいつでも聞けるんだからね」
「ぐっ……」
 にやにやと、勝ち誇った顔をしている美月。
 一方の可南子は、進退窮まった様相を呈している。
 祐麒は、何がどうなっているのか良く分からず、とりあえず様子を見ているしかない。
「――――っ、ゆ、ユウキ、練習に行くわよっ!」
 突然、可南子がそう叫んだ。
「え?」
 訊き返す間もなく、可南子は長い脚で大股に玄関に向かって行く。靴を履き、玄関のノブに手をかけたところで振り向き、キッと祐麒を睨みつける。
「何してるのよ、さっさと来なさいよ!」
「ひぃっ!? わ、分かったよ、す、すみません、美月さん」
「あぁ、いいわよ、行ってらっしゃい。可南子とデートでもしてきなさい」
 腕を組んで、楽しそうに可南子のことを見ている美月。
 リサコと暁にも一礼して、玄関へと向かう背中に大人の女性二人の会話が聞こえてくる。
「可南子ちゃん、照れているの? 可愛い~~」
「あの子も誰に似たのか頑固で往生際が悪くてね、まったく」
「でも、そんな可南子ちゃんをユウキくんが優しく受け止めてくれるんでしょう? ふふ、お似合いじゃないかしら~~」
「そうね、むしろ尻に敷かれているようだけど……昼も、夜も」
「あら、もうやだ~美月ちゃん、暁もいるのに、も~~」
 可南子は両肩をぷるぷると震わせている。
「えーっと、可南子ちゃん?」
「行くわよっ!」
 ぐいと、手首を掴まれて引っ張られて飛び出すようにして表へと足を踏み出す。途端に、まだまだ勢い衰えない太陽が出迎えてくれる。
「ちょ、ちょっと、可南子ちゃん、本気で練習に行くの?」
「当たり前でしょ!?」
 少し歩いたところで、前を行く可南子に声をかけると、怒ったように言い返される。
「えーっとさ、でも、その可愛い格好で?」
 デニムのショートパンツはいいとして、チュニックは綺麗で可愛らしくて、汚して良いような服には見えない。
「あと、その靴で?」
 可南子の足もとに目を向ければ、穿いているのはミュール。どう考えても激しい運動には向いていない。
「それに、ボールは?」
 手ぶらである。
「ううううるさいわね、細かいことにぐちぐちと」
「細かいことかなぁ? だってバスケの練習には」
「だ、誰もバスケの練習だなんて言ってないでしょうっ」
 お団子頭にしているので、うなじや首筋が綺麗に見えるのだが、そのへんがうっすらと色濃くなっているように見える。
「じゃあ、なんの練習さ」
「え、と……そ、それは、だから」
 おそらく何も考えていなかったのであろう、立ち止まってしどろもどろになる可南子。そんな可南子が可愛くて、つい笑いそうになってしまうのをなんとか堪え、祐麒は口を開いた。
「それじゃあさ、デートの練習っていうのはどう?」
「は、はぁ? なんで私が、ユウキとデートしなくちゃいけないのよっ」
「デートじゃないよ、デートの練習だって。ほら、将来に向けてさ」
 背の高い可南子を見つめ上げながら、宥めるように言う。
 祐麒のことを見下ろしながら、可南子の唇が震える。
「……っ、し、仕方ないわね、確かにユウキじゃ女の子にモテそうもないし、デートで恥かく可能性が高いでしょうし、そこまで言うなら練習相手になってあげてもいいけど」
「え、そっちかよ!? あ、まあいいや、それで、うん。それじゃあ、練習相手になってくれるんだったら、俺の要望きいてよね」
「なんでよ」
「だって、俺の練習なんだから、可南子ちゃんがそれっぽく振る舞ってくれないと練習にならないじゃん」
「……え、えっちなことは駄目よ」
「とりあえず、デートでこの手の掴み方はないんじゃないかな」
 可南子の手は、家を出たときからずっと祐麒の手首を固く握りしめている。言われてようやく気が付いたのか、指を離した可南子だったが、その手を祐麒は素早くつかんで指を絡ませる。
「ちょ、ちょっ、ちょっと」
「あー、この恋人つなぎってやってみたかったんだよなー、可南子ちゃんが練習相手になってくれて嬉しいな」
「くっ……」
 一旦、指をほどこうとしかけた可南子だったが、祐麒の言葉に動きを止め、渋々といった様子で戻す。
「し、仕方ないわね……それで、じゃあ今日はどこにエスコートしてくれるの?」
「そうだな、映画観にいって、買い物に行って、食事」
「何ソレ、面白味も何もないデートコースじゃない」
「だからいいんだって。で、食事のあとは散歩して」
「で?」
「海の見えるホテルで一夜をともに」
「ふむふむ……って、ちょ、いきなり馬鹿じゃないの」
「いやー、でも恋人ができたらいずれそういう日もくるだろうし、練習して」
「さ、サイテー! だ、大体そういうは、練習じゃなくてちゃんと本気じゃないと私だってイヤ……」
「え?」
「って、なんでもないっ! もーホント、ユウキ最低! いっぺん地獄に落ちなさい!」
「なんだよ、俺のせいか? え、俺のせいなのか!?」
「当たり前でしょ!」
 眉を吊り上げて怒りの形相を見せる可南子であったが、
 握り合った手、絡め合った指がほどかれることはなかったのであった。

 

おしまい

 

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