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ノーマルCP マリア様がみてる 真美

【マリみてSS(真美×祐麒)】鈴の音の

更新日:

~ 鈴の音の ~

 

 春が来た。
 三月に入り、まだまだ寒い日があるといいながらも、随分と暖かい日が増えてきたのも確かなことで、日中にはコートがいらなくなるくらいだったりもする。
 長いようで、それでも今となればあっという間に過ぎ去ったリリアンでの生活。特に、高校三年間は中身の濃い、色々な物がぎっしりと詰まった時間だった。
 姉妹制度で姉となった築山三奈子、後に妹となった高知日出美との、気苦労が耐えないけれどそれでも楽しかった新聞部の部活動。
 薔薇さまと呼ばれる生徒会の友達との学園生活。
 そんな、幼稚舎から続いたリリアンでの学生生活も、とうとう終わりになるのだ。

 ――浪人生になるということで。

 真美は思い出す。
 浪人すると決まったことを知らせたときの、日出美の様子。どんな風にして姉に接してよいのかわからずに、あまり感情を表に出さない日出美が珍しく戸惑っていて、見ていて笑いそうになってしまい、日出美に怒られてしまった。
 まあ確かに、真美だって仮に三奈子が受験に失敗したら、どのように言葉をかけてよいか分からずに困っただろうけれども。
 春らしく晴れ渡った空を見上げ、真美は軽く息を吐いた。

 結局、予想通りに受験は失敗した。

 あまり期待もせずに、それでももしかしたらという淡い期待も持ちながら行った合格発表の掲示の中に、真美の受験番号は書かれていなかった。
 予想されていたとはいえ、それでもやっぱり少なからず落ち込んだ。
 何せ、祐巳さん、由乃さん、志摩子さん、蔦子さんと、仲の良い友達はみんな志望の大学に合格しているのだ。ちなみに、蔦子さん以外はみんなリリアンの女子大で、落ちた真美としたら肩身が狭いというか、恥しいというかで、どうしようもない。
 皆の前では気にしていないと、明るく笑って見せていたけれど、実のところは落ち込んでいた真美を立ち直らせたのは、なんだかんだいって姉の三奈子だった。
 三奈子は、試験日に真美を襲った出来事を聞いて、こともあろうか大笑いしたのだ。
 落ち込んでいる妹を素直に優しく励ましてくれるような姉ではないと分かってはいたが、あまりにデリカシーに欠けると頭にきて、久しぶりに会ったというのに大喧嘩をしてしまった。
 しかも、はじめは受験のことを口にしていたはずが、いつの間にかお互いの性格とか考え方とか、部活動のときの方針とか、どんどんと話はずれていった。
 気がつくと二人とも息を切らせている有様だったけれど、不思議と気分はすっきりしていた。
 受験勉強、受験の失敗で色々と内にたまっていたものや、三奈子の在学時代から三奈子に対して思っていたことなど、思い切りはきだしたからだろうか。そしてそんな真美を見て、三奈子もまた喧嘩した直後とは思えないくらい明るい笑顔を見せていた。
 狙ってやったのか、偶然だったのかは分からないが、いずれにせよ真美は精神的に復活して、一年後を見据えて行動を開始したのだ。

「――来年はリリアンを受けないのですか?」
 目をわずかに大きくして、日出美は尋ねてきた。
 真美は軽く笑い、言い返した。
「日出美と同級生になるっていうのもね」
 と。

 まあ、なったらなったで楽しそうではあるが、リリアンの女子大となるとどうしても高等部から上がってくる子が多いから、日出美以外の下級生とも同じ学年になる。それはさすがに、気分的に微妙だった。
 また、単にそれだけでなく、考え方が変わったというのもある。
 外部の大学に進んだ三奈子の話を聞いて、自分のやりたいことや、将来のことを今までよりも少しまじめに考えて、外の大学に目がいったからである。
 一度、外に顔が向くと、その選択肢のなんと広がることであろう。別に、リリアンが嫌だとか、レベルが低いとかそういうわけではない。むしろ、他の大学と比べてもレベルが高い方だと思われる。
 だけど、大学のレベルが全てではない。その大学に行って何を成すかが重要なのだ。当たり前で分かっていると思っていたけれど、意外に難しいこと。リリアンに落ちたことによって、真美は改めて自分自身の進路、やりたいこと、そういったことを一層真剣に考えるようになった。
 やっぱり、将来は文章に関わる仕事につきたいか。それも、自らが書き手となる職業の方が好ましい。
 それ以外となると、あまり思い浮かばない。おそらく、普通に会社に入ってOLとして働いていくのだろうか。
 あるいは、結婚して家庭に入ったりして。
 それとも、二人でお店でも持って、夫婦で店を切り盛りしていくとか。
 具体的な想像が頭の中に広がってきて、一人で未来図を思い浮かべる。真美の隣に立って、優しい微笑を向けてくれているのは……

「お待たせ、真美さん」
「うわぁっ!?」
 声をかけられて、激しく反応してしまった。
 なぜなら、真美の過剰反応をみて驚いたような顔をして立っていたのは。
「ゆ、祐麒さん」
 間違いなく、その人で。
「ごめん、驚かせちゃった?」
「い、いえ。私がぼーっとしていただけだから」
 まだ激しく波打っている心臓を落ち着かせようとしながらも、顔が赤くなっているのは抑えようも隠しようもない。
 そんな真美を見て、祐麒さんは笑いながら向かいの席に腰を下ろした。

 ここは、オープンカフェの一席。
 真美は祐麒さんと待ち合わせをしていたのだ。

「いい天気だね」
「本当ですね」
 風が吹くとまだほんのりと肌寒いけれども、それでも我慢できないことはない。祐麒さんはコーヒーを注文し、真美は紅茶のおかわりを頼んで、改めて向かい合う。
「卒業、おめでとう」
「ありがとうございます。祐麒さんも、卒業おめでとうございます」
「うん。まあ、入学は出来なかったけれど」
「それをいうなら、私もです」
 言って、二人で笑う。
 大学に落ちたことも、笑い話にできるようになっていた。実際、浪人したからといって命を取られるわけではないのだ。
 もっとも、お嬢様学校で、それなりにレベルの高いリリアンだと浪人する子はあんまりいなくて、それだけがちょっと肩身が狭い。真美が、というよりは両親に申し訳ないような気がして。
「さて、それじゃあ早速だけれど」
 言いながら、祐麒さんが鞄の中から取り出したものは、各予備校のパンフレット。大手の有名どころから、聞いたことのないようなところまで、何校もの資料がそこにはあった。予備校というと、テレビコマーシャルでもやっているような有名なところしか知らない真美は、こんなにも沢山あるのかとちょっと驚いた。
 正直、今まで予備校というものに興味を持ったことがなかったので、何処が良いのか、あるいは何を基準に判断したらよいのかさっぱり分からなかった。
「大手はやっぱり設備が整っているよね。自習室とか、資料とか。あと生徒も沢山集まるから、色々と交流もあるし、有名な講師とかも多い。ただ、自由度も結構高めだからちゃんと勉強する意志を持っていないと。個人経営のところは、生徒が少ないから先生の目が行き届くから、細かく見てもらえる。中にはかなり厳しいところもあるみたいだけれど、自由度が高いと遊んじゃうかも、とかいう人はそういうところのほうがいいかもね」
 コーヒーを口にし、パンフレットを色々と指差しながら、祐麒さんは説明してくれた。一口に予備校といっても、それぞれで特色があるのだなあと、ふんふんと頷きながら聞いていたけれど。
 何の前準備も調査もせずにやってきた自分が、急に恥しくなってきた。
「ご、ごめんなさい。私ったら、自分のことなのに何にも調べてこなくて」
 俯いて謝ると。
「そんなこと気にしなくていいのに。俺だって本当は、一昨日に急いで集めただけなんだから」
 それでも、何もしなかった真美と比べれば雲泥の差である。
「いいからさ、それより真美さんはどこか気になるところとか、あった?」
「え、そ、そうですね……」
 耳にかかる髪の毛をおさえながら、テーブルの上に広げられたパンフレットに目を向けたところ。
 不意に吹いてきた春風に、パンフレットが飛ばされそうになる。
 あわてて抑えようと、手を伸ばす。
「あっ」
 同じように手を伸ばしてきた祐麒さんの手が、真美の手に重ねられる。ほんのりと、温かな体温が、手の甲から伝わってくる。
 やっぱり男の人だから、思っていたよりも大きくて、そしてちょっとだけ硬いように感じられた。
「あ、ご、ごめんっ」
「い、いえ」
 顔は俯いたまま目だけ上げてみると、頬をわずかに赤くした祐麒さんが見つめていた。恥しくて目をあわせられずにまた下に目を向けると、予備校のパンフレットに載っている写真の女の子と目が合った。
「あ、あの」
 何を言ったらいいのか分からず、とりあえずそれだけ言うと祐麒さんは。
「あっ」
 それまでずっと真美の手を握っていたことに気がついて、謝りながら手を離した。
 すっ、と離れてゆく温もりを寂しく思う。
「私は別に、そのままでも……」
「えっ?」
「はいっ? あ、わ、私、なな、なんでも、ないですっ」
 無意識のうちに、随分と大胆なことを口にしてしまい、一気に顔に熱が上がってくる。
 どうしてこう、祐麒さんの前だと失態ばかり見せてしまうのだろうか。真美はいたたまれなくなって、身を縮めるしかない。
「えーと、そ、そろそろ出ようか」
 まだ、入ってから大して時間も経っていないのに、そんなことを言う祐麒さん。きっと気まずくなったのだろう、真美は自分の情けなさが不甲斐なくうなだれそうになった。
 だけれども、祐麒さんは。
「せっかくいい天気だから、散歩がてらに実際に予備校、見に行ってみようか」
 と、カップの残りのコーヒーを飲み干して、真美に笑いかけてくれた。
 勿論、真美に異存があるわけもなかった。

 

 とりあえず二人とも聞いたことがある大手の予備校を二つほど、見てきた。どちらも結構大きな建物で、綺麗で、立派だった。リリアンの校舎や教室よりも新しくて、設備も充実しているのではないだろうか。
 実際に自分の目で見ると、具体的な予備校生活が想像できるような気がした。
 リリアンとは違う、それでも同じ年齢くらいの生徒達が沢山いる中で勉強をする。頭の良さそうな人、なんのために予備校に通っているのか遊んでばかりいるような人、ちょっと悲壮感が漂っている人、さまざまだ。
 そうした人たちの中に、真美と祐麒さんもいる。
 勉強は決して好きというわけではないから、当たり前だけれど辛いとき、重圧を感じるとき、成績が上がらないときなど、色々とあるだろう。それでも、嫌なことばかりではないだろう。きっと、楽しいと思うときだってあるだろう。普通の大学生活では経験できないこともあるだろう。
「……たとえ苦しくても、二人一緒ならきっと頑張れますよねっ」
 拳を握り、振り返ってみると。
 虚をつかれたような表情で、真美のことを見ている。
 そこでまた、自分の発言がなかなかに大胆だということに気がついた。完全に、二人で一緒に通って、一緒に勉強して行くと決め付けているような台詞だった。
「ごめんなさい、べ、別に一緒のとこ通うと決まったわけでもないですよねっ」
 沢山の予備校があるのだ。
 真美の選択、祐麒さんの選択が同じになるとは限らない。
「い、いや。俺は出来れば、真美さんと一緒のとこにしようかなって……」
「えっ!」
「やっぱり、浪人生活ってプレッシャーもあるだろうし、辛いこともあるだろうし。でも、真美さんも言っていたけれど、真美さんと一緒だったら頑張れそうな気がするから。ほら、情けない姿見せると、格好悪いじゃない」
 最後は照れを隠すかのように、ちょっとふざけた感じで言ったけれど、祐麒さんも真美と同じところに行きたいと間違いなく口にした。
 嬉しいけれど、どこか信じられない気がした。
「えーっと、駄目かな?」
「そんな、駄目だなんてっ」
「そ、そう? あ、ありがとう」
「いえ、こ、こちらこそ」
「…………」
「…………」
 二人とも、口をつぐんでしまった。
 真美も正直、恥しくてどうしたらよいか分からない。
「えーっと、行こうか」
「は、はい」
 だから、そう頷くしかなかった。

 

 街を歩く。
 この先の予備校での生活のこと。今までの学生生活のこと。どういった大学に行きたいか、どういった勉強をしたいのか。
 ちょっとした話、何気ない会話が、楽しい。
 足を進めていると、横から賑やかな音楽。思わず、顔を向ける。
「ん、何かやっていく?」
「いえ、そんなつもりでは」
 そこは、ゲームセンター。
 明るくて開放的で、女の子や子供もよく入っている。店頭には音楽系のゲーム、クレーンゲームが置かれている。
 真美は首を振るが、祐麒さんは真美を引っ張るようにしてゲームセンターの方に歩いてゆき、幾つかのクレーンゲームを品定めする。
「どれか取って欲しいもの、ある?」
「え? えと」
 ここでこれ以上断るのも逆に悪いと思い、首をめぐらし、一つの台を指差した。
「じゃあ、あの変なクマのぬいぐるみとか」
「OK、任せて」
 と、言いながらお財布を取り出した祐麒さんだったけれど。

「あー、くそーっ」
 何度目かの挑戦も失敗に終わった。
 真美は口を出そうかとも思ったけれど、下手なことを言うのは逆にあまりよくないかと、後ろで応援の声をかけるにとどめていた。
「ごめん、いつもはこれくらいやれば絶対に取れるんだけど」
「いえ、そんな」
「あーっ、なんで今日に限って。格好悪いなー」
 五百円でできる、最後の一回にトライする。
 クレーンのアームが動く。
 よく見極めて止めて、降りてきたアームがぬいぐるみを掴んで持ち上げようとする。何回も失敗している中で位置も変わってきているから、ある程度取りやすい場所にある。アームはうまいこと、ぬいぐるみを掴んだ。
「わ、わ、やった!」
「そのまま、こいっ」
 掴み方が不十分だったのか、持ち上げはしたものの不安定に揺れているぬいぐるみ。息を潜めて、揺られるぬいぐるみの姿を見つめる。
 やがて。
「よっしゃ!」
「やった、すごい!」
 ぬいぐるみは見事、取り出し口に吸い込まれるように落ちた。
「わー、すごーい」
 真美は手をあわせ、ぬいぐるみを取り出す祐麒さんを見ていた。
 祐麒さんはむしろ恥しそうに、ぬいぐるみを手にしていた。
「いや、本当は一回か二回でスパッと取る予定だったんだけど。情けないなぁ」
「そんなことないですよ。私だったら、きっと何回やっても取れないですから」
 実際、今までに何回か挑戦したことはあったけれど、取れたためしはなかった。そういえば、三奈子がこの手のゲームが得意だったなと思い出す。
 と、そんな昔のことを思い出していると、目の前にいきなり、瞳の大きなクマがのそりと姿を見せた。
「はい」
「あ……ありがとうございます」
 クレーンゲームのぬいぐるみを男の人に取って貰ってプレゼントされるなんて、なんだか嬉しいやら恥しいやらであるけれども、素直に受け取る。
 すると、ぬいぐるみのふわふわした感触以外に、何か硬いものが指に触れた。ぬいぐるみと一緒に何かがセットにでもなっていたのだろうか、と思って手に取ってみると、可愛らしい包装とリボンのされた箱。真美も知っている、有名な焼き菓子のお店のもの。
 これは、明らかに。
「えーと、ホワイトデーだから」
 どこか照れくさそうにしながらも、しっかりと真美のことを見据えている。
「あ、ありがとうございます」
 十四日だから、祐麒さんの方から今日の誘いがあったときに、ひょっとしたら貰えるかなという期待は抱いていた。
 でも、こうして実際に渡してもらえると、心の奥からじわじわと嬉しさがあふれ出してくる。
「気に入ってもらえると、いいけれど」
 ちょっとだけ不安そうに言う祐麒さんに対し。
「大丈夫ですよ。気に入らないわけ、ないです」
 クマのぬいぐるみを抱きしめ、満面の笑みを見せる真美なのであった。

 

 帰り道、真美は手にしたぬいぐるみを抱き、何度も思い出し笑いをしそうになった。受験に失敗し、これから予備校生活で大変なこともきっと沢山あるだろうから、これくらいのささやかな幸せを素直に喜ぶことくらいは良いだろう。
 クマの首にはリボンが巻かれ、小さな鈴がついていて、揺れると可愛らしい小さな音が鳴る。暖かな音色が春を感じさせるのは、真美の気持ちに因るのだろうか。
 駅のバス停でバスを待つ間、更に手帳を取り出す。
 間に挟んであるのは、やっぱりゲームセンターで二人一緒に撮ったプリクラ。祐麒さんは恥しがっていたし、真美も内心は恥しかったけれど、思い切って半ば強引に引っ張りこんで写した。
「えへへ」
「やけに嬉しそうね、真美さん」
「ひゃわあぁっ!?」
 一人でにやにやしているところにいきなり声をかけられて、奇声をあげてしまった。
「そ、そんなにビックリした?」
 横を見れば、真美の声に逆に驚いたような顔をした蔦子さん。
 慌てて、手にしたプリクラを胸元に押し付けるようにして隠す。
「何、プリクラ?」
「う、うん。さっき友達と一緒に」
 取り繕うように口にしたけれど。
「ふぅん、友達、ねえ」
 眼鏡の奥から、何か物問いたげな蔦子さんの瞳。
「な、何か?」
「真美さんの手にしたぬいぐるみとそちらの包みは、明らかにホワイトデーのお返しにいただいたものよね」
「はっ」
 指摘されて隠そうとしたものの、隠しようもない。
「それからそのプリクラも、男の人が一緒に写っていたようだけれど?」
「み、見たの!?」
「ちらっとね。残念ながら顔まではよくわからなかったけれど」
「そ、そう」
 胸の鼓動が速くなる。
 まさか知り合いに見られるとは、迂闊すぎた。
「真美さんも隅におけないわね。いつの間に彼氏なんか作っていたのかしら? 今度、紹介してちょうだいよ」
「かかかか、彼氏だなんて、まだ、そんなっ」
「またそんなこと言って。ね、皆には内緒にしておくから、プリクラ見せてよ」
「だ、だ、ダメダメっ」
「その慌てよう、さては私の知っている人でしょう?」
「な、なっ」
「あれ、ひょっとして図星? 真美さん、顔すごい真っ赤」
 不意をつかれたせいだろうか、態勢を立て直す間も、心に落ち着きを取り戻す時間もなく、醜態をさらすばかり。
 一方、隣の蔦子さんは楽しげな様子。
「本当に、違うんだからね」
「はいはい、わかりましたー」
「もう、蔦子さんったらー」
 そうこうしているうちに、バスがやってきた。
 バスに乗り込んでからも、蔦子さんから色々と質問攻めにあった。新聞の取材で色々と質問することはあったけれど、自分が質問される立場になるなんて殆ど初めてで、しかも内容が内容だけに、真美はしどろもどろにしか答えられなかった。勿論、祐麒さんの名前は出さなかったけれど。
「……そうかー、でも真美さんがね。意外といえば意外だけれど」
 バスが赤信号で止まったとき、隣に座った蔦子さんが今までのふざけた口調をやめて、ふと優しい顔をしてみせた。
 夕陽を浴びた蔦子さんの表情は、同性だけれども思わずドキッとしてしまうくらいに綺麗で、そして大人びていた。
 そして。
「良かったね、真美さん」
 出されたその言葉には大きな優しさがあり、向けられる笑顔は本当に嬉しそうで。
「――――うん」
 だからつい、真美も素直にそう頷いてしまった。

 信号が青に変わり、バスが動き出す。

「――ふふふ、ついに認めたわね真美さん。もうここまできたら名前、教えてくれてもいいでしょう?」
「だ、だから、それはまだ言えないんだってばー!」

 ガタガタと揺れるバスの中。

 どこか楽しげな女子高校生――――いや、女子高校生でも、女子大生でもない女の子二人の声が、鈴の音のように響いていた。

 

おしまい

 

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