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ギャグ・その他 マリア様がみてる

【マリみてSS(乃梨子)】二条乃梨子の春夏秋冬

更新日:

 

~ 二条乃梨子の春夏秋冬 ~

 

 

 4月下旬、都内某ファーストフードにて。

 

「いや、しっかしまさか二条が受験に失敗するとは思わなかったよなー」
 ショートカットでボーイッシュな少女が、からからと笑いながら正面に座すおかっぱ頭の少女に話しかける。
「春日、お願いだからそれはもう言わないでよ」
「いやー、二条をやりこめられるネタは、なかなかないからな」
「はるちゃん、可愛そうだよ、デリカシーに欠けてるよ」
「ゆんゆんは優しいな。だが、相手の弱点を攻めるのは、常道だぜ」
「攻めてどうするのよー。それから、ゆんゆんはやめてって言ってるでしょー」
 キャラメルブラウンの長い髪の毛を後ろで束ねた少女が、困ったような表情でおっとりとたしなめる。
「いいじゃん、唯だから、"ゆんゆん"。"ゆいゆい"は言いにくいし。可愛いじゃん」
 春日と呼ばれたショートカットの少女は、右手で髪の毛を無造作にかきあげながら、もう片方の手で隣の少女の頭を撫でた。
「んで、噂のリリアンはどんな感じよ、二条、ん?」
「どうってさ、これがもう聞いてよ」
 テーブルに身を乗り出し、目に力を入れて対面の二人を見つめる乃梨子。
「凄いよ。まず制服が今時ローウエストのロングスカート、折り込んで短くしている子なんて皆無だし。私は別に短くしたいわけじゃないけれど」
「おー、それからそれから?」
「毎朝登校したときと、下校のときにマリア像の前でお祈りしてるの。一体みんな、毎日毎日、何を祈っているのか」
「おー、すげーすげー!お嬢様学校ぽい!」
「でも、なんか素敵だよねー」
「いやいや、そんないいもんじゃないよ、唯。混雑時なんか、わざわざ順番待ちとかあるしさ」
「わははは!待ち行列だ!」
 腹を抱えて笑う春日。
「でもさ、それくらいはまだいいのよ。それより凄いのが、色々あるのよ」
 ポテトをかじりながら、乃梨子はため息をつく。
「生徒会役員が三人いるんだけれど、その三人には別の呼称がつくのよ」
「へー、なになにそれそれ?」
「"薔薇様"っていうのよ」
「ばば、薔薇さまっ?!な、何それっ?!」
「しかも、三人それぞれ、紅薔薇さま、白薔薇さま、黄薔薇さまって分かれていて」
「うはー」
「な、な、何ソレ、で何、他の生徒はみんなその人たちのことを『紅薔薇さま』とかって呼ぶの?」
「そうよ。ごく普通に。というか、むしろアイドルみたいな感じよ。きゃあきゃあ言って」
「まるで少女漫画の世界みたい」
「事実は小説より奇なり、よ」
「うは、あ、紅薔薇さま、白薔薇さま……?! すげーすげー!」
 春日はテーブルをどんどん叩いて笑い転げている。
 一方の唯は、どこか遠い目をして薔薇さまたちを想像しているようだった。
「それから、姉妹制度。上級生が下級生を導くとかなんとかで、特定の生徒同士が姉妹の契りをかわすの。ロザリオを渡して」
「わー、なんか、凄いね」
「し、姉妹って、ひょっとして妹になった方はさ」
「うん、相手のことを"お姉さま"って」
「お、お姉さまっ!!マジ、マジ?」
「大マジだって」
「本当にそんな世界って、あるんだねー」
「じゃあなに、二条にも"お姉さま"がいるの?」
「いないって!別に、全員が全員持っているわけじゃないから」
「あ、そうなんだー」
「でも、スキンシップも過剰だし、姉妹の中には姉妹の仲を超えちゃっているんじゃないかって見えるような人たちも、たくさんいるし。てゆうか、私から見たらみんなそう見えるけれど」
「うわ、乃梨ちゃん、それってひょっとして、女子高に多いという」
「レズビアンか」
「手つないだり、腕組んだり、普通だし。いや、抱きついたりとかも」
「そうかー、二条がなー」
「いや、私は違うから」
「でも、そういう環境にいると、馴染んじゃうんじゃない?」
「無理無理、絶対無理だって。入学して一週間、頭痛かったもん。なんじゃ、この学校は?!て感じで。あー、私これから三年間、やっていけるかな」
 頭を抱えるようにして、がっくりと机に突っ伏す乃梨子。
 そんな乃梨子を、友人二人は苦笑しながら見つめていた。

 

 6月下旬、都内某ファミレスにて。

 

「あれ、二条っていつの間にネックレスなんてするようになったの?」
 梅雨の日、雨を避けるようにファミレスでだらだらと話していた中、ふと春日が乃梨子の首元からちらりとのぞいたチェーンを見て、訊ねてきた。
「あ、違う違う。これ、ロザリオ」
 取り出して見せる乃梨子。
「あれ、ロザリオって確か乃梨ちゃん」
「何、例の"姉妹"制度のやつ? 二条、学園生活は勉強に専念するとかいってなかった?」
「いや、まあ、形式的なものだって。貰ったほうが、物事が潤滑に進むなら、それでいいじゃない。別にロザリオもらったからって何が変わるわけでなし」
「ふぅん。でもさでもさ、ということは乃梨ちゃんは、そのロザリオをくれた人のことを、"お姉さま"って呼ぶの?」
 目を輝かせて聞いてくる唯。
「公共の場ではね。他に人がいないときは、普通に呼ぶよ」
「ええと、なんだっけ。志摩子さん、だっけ?」
「うん」
 ドリンクバーから持ってきた、薄まった紅茶を飲みながら頷く乃梨子。
「つまり、二条はその志摩子さんにほだされちゃったわけだよ、ゆんゆん」
「変な想像しないでよ。素敵な先輩、ってのはいるでしょう」
「そりゃまあ、ね」
「でもさ、志摩子さん、って白薔薇さまなんでしょう?ということは、乃梨ちゃんも生徒会役員さんなの?」
「お手伝いという形でね」
「噂の薔薇さま、って人たちはどんなもんなの?」
「うーん、思っていたよりは普通の人たちかな。一人、ゴージャスお嬢様がいるけれど」
「ね、ね、乃梨ちゃん乃梨ちゃん」
「ん?」
「優雅にお茶会するって、本当?」
「お茶会っていうか、まあただお茶するだけだけど、ああでも確かに、生徒会専用の建物があって紅茶とかお茶菓子とか充実しているのには少し驚いたけれど」
「なんていったっけ、そこ」
「薔薇の館」
「まさに少女漫画の世界だねー」
「そこで、お姉さまのためにお茶をいれるわけだ」
「まあ、ね」
「二条、頭痛いとか言ってなかったっけ」
「さすがに、大分慣れたから。やっていかないわけにはいかないしね」
「なんか乃梨ちゃん、丸くなったね」
「ゆんゆん、二条は染まってるんだよ」
「春日ー」
 そんな、梅雨の日の午後だった。

 

 8月下旬、都内某コーヒーショップにて。

 

「夏休みももう終わりかー。あー、つまんねーな」
「いいじゃない、はるちゃんも沢山遊んだじゃない」
「そうだけどさー、また学校かーと思うとさー」
 タンクトップ姿で日に焼けた肌を惜しげもなくさらしながら、春日はのびをした。形の良いおへそがちらりと見える。
 唯は半そでシャツにミニスカート。こちらは肌は焼けていない。
「二条は、夏休みはどっか行った?」
 目の前の、相変わらずおかっぱの乃梨子に聞く春日。
「あ、うん。志摩子さんと一緒に、仏閣と教会巡りに」
「……へえ」
 微妙な間を置いて返事をする春日。
 しかし乃梨子は気にした様子も無く、話を続ける。
「二人でね、夏休み前から計画立てて、どこ行こうかって。一日じゃ勿論見たいところ全部なんて行けないから、スケジュール組んで。山百合会の仕事もあるからなかなか難しいけれど、せっかくの夏休みだし」
「ねえ乃梨ちゃん、それ、楽しいの?」
「もちろん。楽しくなくちゃ行かないよ」
「二条が仏像好きっていう趣味持っているのは知っていたけど、教会は違うだろ?」
「うん、志摩子さんの趣味だけど。でも、志摩子さんと一緒ならそれだけでも楽しいし。志摩子さんの私服、たくさん見ることできたし」
「……ふーん」
 表情の変わる、春日と唯。
「泊りがけで行ったりしたの?」
「残念ながら、泊まりはなかったのよねー。泊まっていたら……」
「泊まっていたら?」
「い、いや、なんでもない」
 なぜか赤面する乃梨子。
「そ、それよりさ、早く学校始まらないかね」
「え、なんで?さすが二条、お勉強大好き?」
「違うよ。学校始まれば、毎日志摩子さんに会えるし」
「…………」
「…………」
「いや、変な風にとらないでよ。尊敬できる素敵な先輩っているじゃない」
「なんか同じような台詞聞いたことあるような……」
「乃梨ちゃん、やっぱり……」
「もう、やだなぁ、二人とも」
 微妙な雰囲気をまとわせた、夏も終わりに近いある日のことだった。

 

 9月、都内某喫茶店にて。

 

 力なくため息をついている乃梨子。
「なんなのよ、二条。見ているこっちが鬱になるようでさ」
「乃梨ちゃん、何かあったの?」
「別にー。ただちょっと」
「ただちょっと?」
「今日から修学旅行でさ」
「誰が?」
「志摩子さんたち」
「……そう」
「……ふぅん」

 

 1月末、都内某お好み焼き屋にて。

 

「いやー、ここは豚玉が絶品だぜ!」
「わたしはシーフードがいいないいな」
「私はトントロで」
「てゆうか、あけましておめでとー」
「おめでとう、久しぶりだよね、こうして集まるのも」
「確かに、いつ以来だっけ」
「夏の終わりくらいじゃね?」
「そうだねー。早いものでもう新年だねー」
「おー、きたきた。とりあえず乾杯しようぜー♪」
「ジュースだけどね」
「いいからいいから。ほれ、かんぱーい!」

 しばし、飲んだり焼いたり食べたり雑談。

「……なんかもう昨年から色々大変で」
「へえ、お嬢様学校のリリアンで」
「な、なんかさなんかさ、本当にドラマみたいだね」
「こっちはさ、それどころじゃないよー」
 困った顔をしながら、ぱくぱく食する乃梨子。
「で、そのトーコって子だっけ。結局、どうなったのさ」
「プライベートな部分もあるから、詳しくは言えないけれど……やっぱほっとけないんだよね。あの子、意地っぱりだから」
「ふんふん」
「でも、私は一体、どうすればいいのか」
「乃梨ちゃん、悩んでるねぇ」
「青春だよ、ゆんゆん」
「私を頼ってくれるのは嬉しいんだよ。あんな瞳子の弱った泣き顔なんか見せられて、抱きつかれてさ、あんなの見せられたら、ぎゅーって抱きしめたい衝動に駆られるじゃない」
「――は?」
 箸でつまみあげたお好み焼きのかけらを取りこぼす春日。
 唯は目を丸くしている。
「ほっとけないからさ、その後保健室に連れて行ったんだけど、その間もずっと私の腕掴んで離さなくて。放課後の人のいない保健室って、なんか雰囲気あって危険だよね」
「えっと……」
「あああ、いや、誤解しないでね! 別に、何も手出したりとかしてないから! 確かに可愛かったけれど、弱っているところにつけこんで、変なことしようとしたりしないから」
「乃梨ちゃん……」
「それに私には志摩子さんがいるし。瞳子はそう、親友だから。そりゃ保健室だからベッドとかあったけど、ふしだらなことはしていないから!」
「はるちゃん、わたし達はなんて答えたらいいのかしら?」
「あたしに聞かないでくれる?」
「どうしたの、二人とも?」

 顔を見合わせ、無言で首を振る春日と唯であった。

 

 2月、都内某メイド喫茶にて。

 

「……はじめてきたけれど、すごいね、これ」
「うん、本当にメイドさんの格好だね」
「そうだね……あ、あの娘可愛い」
「…………」
「…………」
 オーダーしたドリンクを運んできたウェイトレスに笑顔を向ける乃梨子。ウェイトレスはなぜか顔を赤らめて去ってゆく。
「そ、そういえばこの前はバレンタインだったね」
「そんなのもあったなぁ」
「はるちゃんだって、先輩にあげてたじゃん」
「ば、バカ、余計なことゆうなよー」
「へー、春日がねえ」
「うるさいな。そ、そんなことより二条はどうなのさ?」
「私? あげたよ、もちろん」
「え、ホント! 誰に誰に? やっぱり、花寺の生徒会の人?」
「おー、やるじゃん、二条も」
「違う違う。なんで男の人にあげなくちゃいけないの。志摩子さんによ、勿論」
「……へえー」
「じょ、女子高だとさ、やっぱり貰ったりもするの?」
「うん、志摩子さんから貰っちゃった。えへへー、もうアレ、最高」
「……そう」
「でもさ、やっぱり白薔薇のつぼみっていう名前がきくのかなー、他の子からも結構たくさん、もらっちゃって。もちろん、志摩子さんや薔薇さま方には全然及ばないけれど」
「……で?」
「いや、困るじゃない」
「そりゃあねえ」
「その子たちの気持ちは嬉しいけれどさ、応えられるわけでもないし。いや、彼女たちが魅力的じゃないって言っているわけじゃないよ。こういうのはなんだけど、リリアンは可愛い子が多いと思うし。でも、私には志摩子さんがいるし」
「……ふぅん」
「あ、だけど瞳子と可南子さんから貰ったのは嬉しかったな。瞳子はちょっと怒り気味に、可南子さんはわずかに赤くなりながら、二人とも可愛かったー。私からもあげたんだけれど、確かにちょっと照れくさいよね」
「ゆんゆん、どう? 墜ちて行く過程をみてきて」
「なんともいいようがないというか……乃梨ちゃんが幸せそうだからいいんじゃないかしら? ねえ、はるちゃん」
「そうだね。本人が幸せなら全てよし、か……」
 二人がひそひそ話をしているのも知らず、乃梨子はウェイトレスに目を向けて。
「あー、この制服、志摩子さんが着たら似合うだろうなあ……今度泊まりに来たとき、そんなプレイでも頼んでみようかな……やば、鼻血出そう」
 などと言って、手で鼻を抑えている。
「乃梨子、あんた……」
「乃梨ちゃん……」
「ん、なに、どうしたの二人とも、神妙な顔して」
 春日と唯は、声をあわせるようにして。
「乃梨ちゃん、ナイスガッチ!」
「そうそう、ガッチりシマってイけよ!」
 親指を突き立てて、爽やかな笑顔で乃梨子にエールを送る。
「? よくわからないけれど、ありがとう」

 

 二条乃梨子、転げ落ち行く、春夏秋冬。

 

 

おしまい

 

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