書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(乃梨子×色々)】 雛鳥たちの囀る季節 3.想い、交錯して

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~ 想い、交錯して ~

 

 

 大学から少し歩いた場所にある、静かなコーヒーショップ。駅と反対方向に向かう必要があるため、学生が積極的に使うことはあまりなく、穴場的な店である。例えば講義と講義の間で時間が出来てしまった時など、乃梨子はしばしばその店を一人で訪れて過ごすことがあった。
 予習をすることもあれば、本を読んだり音楽を聞いたり、時には何をするでもなくぼーっと佇んだり。
 値段も高すぎず、落ち着いた雰囲気の店が乃梨子には有難かった。
 今日もまた、時間が出来たので足を運び、コーヒーを注文して本を読んでいた。集中していると、周囲のことは目に入らなくなる。だから、テーブルのすぐ側に誰かが立ってもすぐには気が付かなかった。
「――の~~りこっ」
「…………ん?」
 名前を呼ばれて、ようやく顔をあげると。
「やっ」
 ニヒルな笑みを浮かべて立っている女性。
「え~と、須永希海さん、だっけ」
「そうそう。希海でいいよ。ここ、座っていいよね?」
 一瞬、"誰だコイツ"と思ったが、すぐに思い出した。
 派手な金髪をツンツンに逆立たせ、耳と唇と臍にピアス。一体、いくつつけているんだと思うものの、数えたくもない。
 いわゆるパンクなファッションとでもいうのか、そのくせシャープな眼鏡をかけているものだから、なぜか理知的にも見えるという良く分からないスタイル。それでも、乃梨子とは一生縁がなさそうな格好を晒している希海は、明らかに店内で浮いていた。
「…………どうぞ」
「どーも」
 乃梨子が勧めると、遠慮なく希海は正面の席に座る。
「へーっ、なんかぶらぶらしていたらたまたま見つけて入ったんだけど、なかなかいい店じゃない。乃梨子はよく来るの?」
「まあ、たまに」
 せっかくの静かな時間を邪魔され、少しばかり腹が立っている乃梨子だが、だからといって座るなとかさっさと帰れとまで言うわけにもいかない。
「あたしが来たのを見てさ、"コイツ何場違いな格好で来てんの。てか、その格好なんだよ"みたいなこと思ったでしょ」
「うん。あ、ごめん」
「あははっ、いいって。そりゃ思うよね。人を見た目で判断するなっていうけどさ、どうしたって最初は見た目でしか判断できないもん、当たり前だよ。明らかに訝しげな顔して、人を見た目では判断しません、なんて言う奴よりよほどいいって。あ、あたしも珈琲ね」
 と、希海に対し態度も表情も変えないさすがの店員に注文する。
 そんな希海に、少しばかり目を見張る乃梨子。この手の人は、見た目だけで判断されるのを嫌うかと思っていたのだ。
「何、読んでんの?」
 乃梨子が持っていた文庫本を指差す希海。カバーがついているから、見た目では何か分からないのだ。
「……『折りたく柴の記』」
「へー、白石? 渋いモン読んでるね。あたしは貝原益軒の『養生訓』の方が好きかなー」
「…………」
 これまた驚く。
 間を置かずに著者の新井白石の名を答えただけでなく、貝原益軒の著書を口にするとは。同時期に書かれていることを知っているからこそ、あえて言ったのだろうから。所属している学部、学科は関係ないはずなのに。
「ん? 何?」
 見つめていると、無邪気とも思える笑みを浮かべながらそんなことを口にする。
「別に……なんで、『養生訓』の方が好きなの?」
「あ~、ほらさ、あれって人が楽しく、豊かに、幸せに生きていく方法が書かれているじゃない。そうゆうのって、大切だと思うのよ。ま、現実問題として実践できるかっちゅーとどうかと思うけどね。乃梨子はどう思う?」
「私? 私は……」
 話し出す。
 すると希海も応じる。
 外見だけで考えれば話が合うなんて全く思えなかったのに、話していると段々と楽しくなってくる。別に同じ知識量を持っているわけでもないし、好みだって異なるけれど、乃梨子が好むレベルで話すことができる。
 自分の趣味に関してとなると色々と深く話したくなってくるのが当然のこと。だが、同行の士でもなければ同じようなレベルで話せるわけもない。しかし、目の前にいる希海は対等に語ることができる。
 確かな知識量に裏付けされた自分なりの考えを話してくる。そんな会話が心地よい。学科でトップの成績というのも頷けるような気がした。
「なに? あたしの無駄な知識量に驚いた?」
「え、いやそういうわけじゃ……あるかな、うん」
「あははっ、まーねー、小さいころから本と本を読む時間だけは無駄にあったから。てゆーか、それしかなかったともいうけど」
「え?」
「ん。あ~、なんでもない、こっちのこと」
 ひらひらと手を振ってみせながら、珈琲を口に含む。
「ん、ここの珈琲はいいね、さすが学生で賑わっていないだけのことはある」
「は、何ソレ」
「いやいや、別に」
 つかみどころがないと感じる。乃梨子の最も苦手とするタイプだ。しばらく付き合えば色々と見えてくるだろうが、積極的に友達づきあいしたいとは思えない。
「……あなた達、本当に何か目的でもあって私に接してきてるんじゃないの?」
「えーっ、仲良くなりたいと思うのに他に理由っている? この前のはちょっとしたきっかけだけど、人は何かしらを契機にして知り合うものでしょ。で、知り合って更に仲良くなりたいと思うかそうでもないかは、自分と相手による。それが乃梨子の場合、前者だっただけのことなんだよね」
「はぁ……ぺらぺらとまあ、よく動く口ね」
「はは、ありがと」
 希海を見ていると、別の誰かを思い出してしまう。
 顔立ちなんかは異なるけれど、軽薄でへらへらといつも笑っていて、ナンパなことを口走る、そのくせ志摩子の大事な部分を占めていたあの人を。だから、苛々としてしまうのだろうか。
「私、本を読みたいんだけど」
「本はいつでも読める。でも、あたしと今お話しするのは今しかできないんだからさ」
「その論理なら、今この本を読むのは今しかできないわけで」
 拒絶するように改めて本を出してテーブルの上に立ててみせる。
「あ~、OK、分かった。ま、それでもそこそこ話せて楽しかったし。邪魔して悪かったわね、それじゃ」
 立ち上がり、財布からお札を一枚取り出してテーブルの上に置き、座席から通路へと移動する希海。
「また、ね」
 ウィンクして去ってゆく希海の後ろ姿を見つめて大きく息をつく。不思議と、目を奪われる去り姿だ。
 なぜだろうと考えると、どうやら姿勢が良いからだと気が付いた。
 あんな身なりと軽薄そうな態度なのに、立ち姿、歩き姿はいつも真っ直ぐ姿勢正しく、だからあまりだらしないようには見えない。頭の位置が変わらずにするりと移動する様は美しく、目で追いかけてしまう。
「……って、何を見ているのよ、私ったら」
 頭を振り、希海の姿を追い払おうとする乃梨子だが。
 美しい後ろ姿は、いくら打ち消そうとしても消すことは出来なかった。

 

 

 マンションに帰ると、人の気配を感じた。
「――お帰りなさい、希海」
「おかえり~、希海ちゃん」
 栞とえりなが出迎えてくれるのも珍しくはない。
 栞はリビングのソファに行儀よく腰かけて本を読んでいる。
 えりなはカーペットの上に腹ばいになった格好で、携帯ゲームをしている。
「えりな、お菓子こぼさないでよ」
「はいは~い」
 希海のマンションが溜まり場になって一年、栞とえりなが部屋にいるのもごくごく当たり前の日常になりつつある。
 バッグを放り投げ、ジャケットを脱ぎ捨てる。
「どうかしたの、希海。何かいいことでもあった?」
 本から顔をあげた栞が尋ねてくる。
 栞の隣に腰をおろして希海は口の端を上げる。
「いや、乃梨子、いいね」
「え~っ、何々、もう手つけちゃったの、希海ちゃん? いつのまにそんな急接近?」
「今日はちょっと話しただけだって、でもいいね……アイテテ!」
 喋りながらナチュラルに栞の胸を触ろうとした希海だったが、手の甲をつねられて悲鳴を上げる。
 涼しい顔をして栞は指を離す。涙目で手の甲をさする希海。
「他の娘のことを話しながら、失礼でしょう、希海?」
「あはは……でもホント、乃梨子のこと気になってきたのは事実」
「希海ちゃんだったら簡単にお持ち帰りできるんじゃない? まあ、しおりんの報復が怖くなければ~」
「あら。私、そんなことしないわよ?」
 相変わらず穏やかな笑みを浮かべている栞だが、隣で座っている希海はその様子に苦笑せざるをえない。
「でも、希海が二条さんに惹かれるのも分かる。彼女、とても魅力的ですものね」
 手にしていた本を閉じてテーブルの上に置き、栞はそっと希海の肩に頭をもたれかからせる。
「……気になるなら、もう少しアタックしてみたら」
 そのまま、上目づかいに望みを見つめる。
「そうね、もうちょい、近づいてみようかな……って、いいの? 元々は栞が気になっていたんじゃなかったっけ?」
 栞の華奢な肩を抱きつつ、問いかける希海。
「もちろん、気にはなるけれど。それを気にして動かないような希海じゃないでしょう?」
「そりゃそーだ」
 希海は栞のサラサラロングヘアーを撫でつつ、その柔らかな髪の毛に口元を埋める。
「あいかわらず、栞の髪は良い匂いがする」
「シャンプーでしょ?」
「違うよ。栞の匂い」
「くすぐったいわ」
「あーもー、イチャイチャするならどっかいってよねー」
 マイペースでゲームをしていたえりなが、呆れた顔をして二人のことを見据える。
 希海と栞は互いに見つめ合い、そして同時に笑った。

 

 

「……おはよう、静」
 朝、彼女の姿を見かけた乃梨子は、思い切って名前を呼んでみた。
 声色が変じゃなかっただろうか、震えていなかったか、スピードは、イントネーションは大丈夫だったか。ただ名前を呼ぶだけでこんなにも緊張するなんて、何かおかしい。
「あら。おはよう、乃梨子」
 そんな乃梨子の不安をよそに、静はごく当たり前のように乃梨子の名前を呼び、挨拶を返してきた。そのことに、心からホッとしている自分に気が付く。
「ねえ、今度はいつ歌うの?」
 心に余裕が少しできたからだろうか、ごく普通に話しかけることが出来た。静の横に並んで歩きながら、顔を向ける。
「そうね、気が向いた時、かしら」
「えー、何ソレ。教えてくれないの? また聴きたいのに……いつも、どうゆう歌を歌っているの?」
「ふふ、どんなのだと思う?」
 どこか少し大人っぽい静にかわされるような会話だが、なぜかそれが少し楽しく感じられる。大学生活で今まであまり感じられなかったことだ。
 一限目の教室に入ると、既に来ていた光がいつも座る席から手を振っているのが見えた。乃梨子は「じゃあ、またね」と静に軽く挨拶をして、光のもとへ行く。
「――今の、蟹名さんだよね? 乃梨子、いつの間に仲良くなったの」
「仲良くってほどじゃないけど、最近、ちょっと話をする機会があって」
「ふーん。珍しいね。彼女が誰かと親しげに話しているの、初めて見たかも」
 光の言葉に、顔がにやけそうになるのを堪える。
 他の人には見せない姿を乃梨子には見せてくれているということ、それ即ち乃梨子は静にとって特別なのではないか、そんな風に思えるから。
 同時に、静があんな風に歌っていることを知っているのも自分だけ。自分だけが、皆の知らない静の姿を知っている。
「なんか、やけに機嫌が良いね、乃梨子」
「そう? いつもと変わらないって」
 そう言う乃梨子の表情は確かにいつもと変わらないようだったが、付き合いの長い光は微妙な変化に、感覚的に気付いたのだ。
 そしてその変化は、次第に他の学生たちにも気づかれるようになる。
 乃梨子が静と一緒にいる機会が増える。それまで静は他の学生と一線を引いたような感じだっただけに、目を引く部分があるのかもしれない。また、当たり障りのない学生生活を送っていた乃梨子だったが、合コンなどの付き合いは悪い。その乃梨子が随分と静に絡みだしたのだ。
 乃梨子とさほど近くない学生は気にもしないが、今まで適度に仲の良かった学生たちは乃梨子のちょっとした変化を噂するようになっていた。
「ごめん、今日は用事があって。またね」
 合コンの誘いを断り教室を出て行く乃梨子の姿を見て、誘いをかけた女子達が話し出すのを光は耳にする。
「乃梨子って、合コンとか興味ないよね」
「ってかさー、そもそも男に興味ないんじゃない?」
「ああ、ここんとこずっと……だもんねー」
 にやにやと、好奇心と悪意の入りまじった声。
 光はため息をつく。友人の悪口を聞いて、気分がよくなるわけもない。
 光自身は、乃梨子が誰に興味を持ち、誰を好きになろうとどうでも良かった。光自身の恋愛に絡んでさえこなければ。
 腕時計を見る。
 彼氏とのデートの約束までまだ時間があるが、今日の講義はおしまいだ。乃梨子のことを話していた彼女たちの姿を見ると、大学に残って時間を潰す気もなくなってくる。光は立ち上がり、適当にコーヒーショップでも入って本でも読んでいるかと思うのであった。

 

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