書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(清子×祐麒×アンリ)】夏の本流 <後編>

更新日:

~ 夏の奔流 ~
<後編>

 

「うぅわぁ、映画なんてスゲー久しぶりに観た。映画館なんて、多分小学生のガキの頃以来だぜ」
 シネコンから外に出て、凝り固まった体をほぐすかのように大きく伸びをするアンリ。その弾みで形の良いお臍がちらりと見え、祐麒がちょっとドキッとしていることなどアンリは知る由もない。
「しかし、今の映画ってすげぇんだな、3Dってあんなにはっきり飛び出してくるとは思わなかったぞ」
「アンリさん、ビクッて驚いてましたよね」
「そっ、そんな大げさじゃあない、ちょっとだよ、ちょっと」
「でも、飛び上がったり、声上げたりして……」
「し、してねーよ! 嘘ばっか言うなっての」
「…………」
「……あ、あれだよホラ、音とかも本当に後ろから聞こえてくるようで、すっげえ不気味だったじゃねえか、そういうのと相乗効果で少しだけ、だよ」
 気まずそうに言うアンリ。
「大体だな、なんであんな映画選んだんだよ!?」
「いや、アンリさん3Dの観たことないっていうから、今やっているので最も3Dが楽しめるやつだったんで。それに夏だし季節ものでもあるし……すみません、アンリさんホラー苦手だったんですね」
「べべ、別に怖いとかじゃないし! ただ、3Dで飛び出して来たり、音とかそういうので驚いたってだけだからな!」
「はぁ……じゃあ、また今度行きます? もう一つ実は面白そうなホラーものが」
「なんでまたホラーなんだよ!?」
「大丈夫ですよ、それは3Dじゃないですし、もし恐かったら今日みたいに俺の手握っていてもいいですから」
「だから怖くないって……って、は、なんであたしが祐麒の手なんか握んだよ」
「え、でも今日ずっと握って」
「嘘ばっかつくな、いくらなんでもそんなこと」
「でもほら、ここにくっきり、アンリさんの手の跡が……まあ確かに、手を握られたというより腕を掴まれたってところですけど」
 祐麒の腕を見てみれば、確かにはっきりと赤い手と指の形が浮かび上がっており、相当に強い力で握りしめられていたのが分かる。
 アンリは祐麒の腕を見て、ついで自分の手の平を見て、唇を尖らせて黙り込む。
 髪の毛をがしがしと掻き毟り、バツが悪そうな顔をしながら小さい声で言う。
「し……仕方ないだろ、苦手なモンくらいあるって」
「でも少し意外でした。アンリさん、あんなに強いのに」
「人とか動物とか、正体が分かっていればビビんねえよ。だけどほら、お化けとかって姿も見えないし、拳だって通じないじゃんか」
「アンリさんらしいですね」
「なんだそれ……馬鹿にしてんだろ、どうせ」
「してませんってば。ただ……か、か、可愛いなぁって思って」
「ぶっ!?」
 突然の祐麒の言葉に、飲んでいたコーラを思わず噴き出すアンリ。
 口元を手でごしごしと拭きながら、目を剥いて祐麒を指差す。
「な、何言ってんだ、人をからかうな!」
「かっ、からかっているわけじゃないですよ、ほらあの、ギャップ萌えってやつじゃないですかね、強いアンリさんがお化けを怖いっていうギャップが可愛さを、アデデデ!」
「だーかーらー、それ以上変なことを言うな」
 アンリの手が祐麒の両頬をつまんで左右に引っ張る。
「や、やめ、ひゃめひぇくらひゃい……ひょ、ひょんなことしひゃら、て、手、つないであげまひぇんよっ?」
「ば、ば、馬鹿野郎っ! 手繋いでくんなかったら、もう行かねえぞ!?」
「イデっ!? じゃ……じゃあ、手繋ぎますから、また今度一緒に行ってくださいよ?」
「わ、分かったよ、仕方ねえな…………ん? ちょっと待て、なんでまた今度一緒に行くことになってんだ!?」
「あ、もう約束しましたからね、今さら駄目とか言わないでくださいよ?」
「う~…………あ~~…………わかったよ」
 肩をすくめ、仕方なさそうに言うアンリ。その頬は赤く染まっている。
「つーか、そもそも今日の目的は分かってんだろうな? おまえが奥様と上手くいくようにだな……」
「そ、そうかもしれませんけれど、アンリさんだってせっかくのお休みの日なんですから、ちょっとくらい遊んだっていいじゃないですか」
「まあそりゃ、ちょっとくらいならいいけどよ」
「あと、買い物に付き合ってほしい場所がありまして」
「まあ、それくらいは別にいいけどよ……んで? どこ行くんだよ、あたしに付き合えってことは、何か重い物かかさばる物でも買うのか……って、オイ!?」
 ふと横を見ると、祐麒がふらふらとゲームセンターの方に寄っていくところだった。通り過ぎそうなところ、慌てて引き返して祐麒の背後に立つ。
「お前、買い物はどうしたんだよ」
「別にそんな時間のかかるものでもないですし、まだ少しくらい寄り道したっていいじゃないですか。俺が奢りますからアンリさんもどうです?」
「ばーか、あたしの方が稼いで金持ってんだから、変な気をつかうなっつの。ま、ゲーセンくらいいいけどさ」
 ゲームセンター内に足を踏み入れ、キョロキョロと様々なゲーム筐体を見渡すと、アンリは祐麒を無視してさっさと歩いて行ってしまう。
「え、ちょ、アンリさん」
 アンリは勝手に一つのゲームの前で足を止めると、お金をさっさと投入していく。
「ほら、始まるぞ。さっさと来いよ」
「え。俺も!?」
 急いでアンリの隣に行く。
 アンリが選んだのは、ガンシューティングものだ。ゾンビを撃ちまくるものもあるがそれは避け、ギャングやマフィアのような敵を撃ち倒していくものだ。ガンシューティングを楽しんだ後はレースゲーム、リズムアクションゲーム、といった大型筐体ものばかり。
「――どうだ!」
「うおおお、すげー、アンリさん何者!?」
 驚愕する祐麒を見て、ご満悦そうに指で鼻を擦るアンリ。
 祐麒が驚かされたのは、プレイしたゲーム全て、アンリがべらぼうに上手いということだった。
「ちまちましたのは苦手なんだけどな、こーゆーのは得意なんだよ。まあ、昔取った杵柄ってやつか?」
 言いながら得意そうに手にした銃を構えてみせる。非常にサマになっているのだが、それが昔取った杵柄というならば、果たして過去に何があったのか恐ろしくて聞くことも出来ない。レース物でも確かに上手いのだがそれ以上に運転が荒かったし、レースでもガンシューでも何やらスラングみたいなことを叫んでいたのが怖かった。
「てゆうかアンリさん、ゲーセンとかよく来るんですか?」
「あー、たまにな。買い物とかの帰りに1ゲームくらいとか、それくらいだけど」
「くそっ、これだから天性の人は……」
「あぁ? なんだー? あたしにコテンパンにやられて手も足も出なくて悔しいのか? ふふん、なんなら更にハンディつきでやってやろうか?」
 先ほどまでもハンデを貰いながら相手にならなかったが、それ以上にハンデを付けようと上から目線で告げてくるアンリ。
 それに対抗して祐麒は。
「そ、それなら、アレで対戦しませんか?」
 と、指差す先には。
「は? 何で対戦しようと同じ……っ、ば、馬鹿、あれは駄目だからな!」
「えー、どうしてですか?」
 祐麒が示したのはもちろん、ゾンビがうじゃうじゃ出てくるガンシューティングゲーム、『死線病棟24時』だ。本格ガンシューでありながら、ホラーハウスもびっくりと言われる怖さを持っていると評判のゲームだ。
「どうしても何も、あたしが勝ったんだから、勝ったあたしが次のゲームを決めていいんだよ」
「えー、普通はそういうとき、負けた方に好きなゲームを選ばせてあげるんじゃないですか、余裕のある勝者としては」
 今まで散々にやられていた意趣返しか、祐麒はそんなことを言って引かない。アンリの腕をつかみ、半ば強引にゲームの筐体の前までやってくる。ちょどデモプレイが流れていて、画面に気味の悪いゾンビが出てじりじりと迫り寄ってくる。なかなかリアルでグロイ出来栄えのゾンビだ。
 すると。
「うぅ……」
 怒った表情のアンリだが、わずかに瞳がうるっとする。
 それを見て、祐麒はドキッとさせられる。
「……と思ったけれど、もう時間も結構経ちましたからね、さっさと終わるアレにしましょうか」
「アレ……って、クレーンゲームじゃねーか」
 ゾンビから離れられたとホッと安堵の表情を見せたアンリだったが、祐麒の示すクレーンゲームに首を傾げる。
「これでどうやって勝負すんだよ」
「先に狙った景品を取った方の勝ちってことで」
「うーん、こういうのやったことないんだよなぁ」
「操作も簡単だし、すぐ終わるし、いいじゃないですか」
「まあなぁ……ま、いっか」
 ゾンビと比べれば遥かに良いと踏んだのであろう、あっさりと頷くアンリ。
 ならば、どの筐体にしようかと二人でクレーンゲームのコーナーを見て回る。
「これにしましょう、これ」
「ん~? 別になんでもいいけどよ…………っ!?」
 アンリの言葉と動きが止まる。その瞳は、ケースの中の景品に向けられて動かない。
 それは、二本のバーの上に大きな平べったいはんぺんのようなぬいぐるみが置かれているクレーンゲームだった。
「ま、まあ、あたしは何でもいいけど? 祐麒がそう言うなら、これにするか?」
 言いながらそわそわと落ち着かず、景品にちらちらと視線を向けている。実は先ほどトイレに行ったアンリが戻ってくる際、この景品の前で立ち止まりじっと見つめているところを祐麒は見ていたのだ。
「よっし、じゃあ、あたしからやるからな!」
 と、勇んでお金を投入するアンリだったが。
「…………だあああぁぁっ!! こんなん、ホントに落とせるのか!?」
「あ、アンリさん、叩いちゃ駄目ですよ!?」
 腕を振り上げているアンリを危うく止める祐麒。
「だってよ、こんなの無理だろ絶対!?」
「やり方があるんですよ、俺がやります」
 場所を代わり、お金を投入する。
「このタイプはですね、逆転の発想で……」
 ボタンを押してアームを動かし、狙っていた場所で止める。
 先ほどのアンリは、ぬいぐるみをアームにひっかけて持ち上げてずらし、落とそうとしていた。だが、見ていてそれでは難しいと思った。
「ん? そんな場所じゃあ、引っ掛かんねえぞ?」
 後ろから腕を組んでみているアンリが言うが。
「お……おお? お、お、おおおっ!?」
 下降してきたアームがぬいぐるみにあたり、それでも下に降り続けてぬいぐるみの片側をバーから外れさせる。アームは何も引っ掻けることは無かったが、ぬいぐるみはあっさりとバーから落ちた。
「お、おおお……」
 目を見張っているアンリ。
 祐麒は取り出し口からぬいぐるみを取り出すと、ふかふかとやたら手触りの良いソイツをアンリに向かって差し出した。
「どうぞ、アンリさん」
「え? で、でも、これ」
 欲しそうな顔をして、手を出しそうになっては引っ込めるアンリ。
「勝負は俺の勝ちですよね。でもこれ、かさばるし家に持って帰っても置く場所ないんで、アンリさんが持って帰ってください。これは、このゲームに勝った俺からの指令です」
 と、アンリの胸に半ば押し付ける形でぬいぐるみを引き渡す。
 するとアンリは。
「ま……そ、そうゆうことなら仕方ねえか、あ、あたしも邪魔だけど、貰ってやるよ」
 全く邪魔とは見えないよう嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめながら、アンリは言う。もふもふとした肌触りが心地よいのか、頬ずりなんかもしている。殺伐とした少女時代を過ごした反動か、アンリが意外と可愛い物好きだということを祐麒は知っていたのだ。
 ゲットしたぬいぐるみを、店からもらった袋に入れてようやく買い物に向かった。先に言った通りさほど時間がかからずに予定のものを購入し、二人はなんとなくブラブラと店を眺めながら歩いていた。
「なんだよ、それだけしか買わないのかよ、せっかく付き合ってきてやったのによ」
「あはは、欲しいものが売り切れちゃってて、すみません」
「まあ仕方ないけどな。あ、そうだ、ついでに奥様へのプレゼントでも買えよな」
「え? いや、今日はそういうのは……」
「なんだよ、あ、金が足りないなら、あたしが貸してやるぞ?」
「いえ、今日は本当に」
「なんだよ、まあ無理にとは言わないけどよ。と、それよりそろそろ本題に入ろうぜ。どっかその辺の店にでも入るか」
 ずんずんと威勢よくアンリが入って行ったのは、最近になって外国から日本に出店してきたファストフードだ。
 ポテトとチキンとシェイクをトレイにのせてテーブル席で向かい合う。
「たくよー、肝心の話をするまでにどんだけ時間かかってるんだっつの」
「まあ、いいじゃないですか。それで、肝心の話っていうのは?」
「そうそう、それだけどよ。お盆の時、泊まりで遊びに来ないか?」
「えっ? あ、あの、それ……本気で言ってます?」
「当たり前だろ、冗談言ってどうすんだよ」
「そ、それはその、そんなこと言っていただけると嬉しいですけど、いや、本当にいいんですか……?」
「なんでそんなに焦ってんだ?」
「だって、いや、いきなりアンリさんのとこに泊まりで遊びにとか」
「ぶっ!!」
 飲んでいたシェイクでむせるアンリ。
「あ、あ、あほかお前っ!? な、なんであたしんとこに泊まるんだよ? 小笠原家にだよ、お盆の時期はまた旦那様が出かけて、使用人にもお盆休みが出て、祥子お嬢様も今年はご学友と遊びに行かれるとかで、奥様が一人になるんだよ。だから、その時がチャンスだから来いっつってんだよ!」
 顔を真っ赤にしてまくしたてるアンリ。祐麒も、自分の勘違いだと知って赤面しながら頭を下げる。
「そ、そういうことだったんですか。で、でも、そんなところにいきなり俺が行くなんて変じゃないですか、招かれているわけでもないのに」
「む。それは、そうか……」
 腕を組み、ストローを口に咥えて考え込むアンリ。
「じゃあ、やっぱりあたしに会いに遊びに来たって口実が、一番良いのか……」
「そっ……そうです、かね……」
「…………っ、ば、馬鹿、あくまで口実ってだけだっつの! 何、照れてんだよ」
「て、照れてませんよ。それを言うならアンリさんだって顔、赤いですよ」
「赤くねーし!」
「明らかに赤いですから」
「うるせえっ、とにかく、お盆の時がチャンスなんだから、そこで一気に決めるんだからな、いいな!」
 と言いきって会話を断ち、ガツガツとポテトを貪り食うアンリ。指に付いた油をぺろりと舐めとる様がワイルドで格好よく見えるから不思議だ。
「よし、出るか」
「え、もうですか?」
「思ったより時間くっちまったしな、そろそろ帰って仕事しないとなんだか落ち着かねえ」
 立ち上がりトレイを持ち上げるので、祐麒も慌てて飲みかけのシェイクを飲み干す。
「しかしこのシェイク、肺活量がいりますね」
「ははっ、たまにはいいだろ?」
 ズビズビと残りを啜り、店を出る前にごみ箱に捨てる。
 話しながら駅に向かい、改札を通ったところで立ち止まる。乗る電車の方向が異なるので、ここで別れることになるからだ。
「んじゃーな、お盆のことはまたメールするから、忘れんなよ」
「あ、ちょっと待ってください、アンリさん、えーと、これを」
「は? なんだ?」
 差し出された祐麒の手を、ぽかんと見つめるアンリ。
「えーと、プレゼントです。アンリさんに」
「はぁ、プレゼント、あたしに…………はぁぁぁぁぁっ!? なんであたしなんだよ、奥様じゃねえのかよっ!?」
「きょ、今日はっ! いつも色々と俺のためにしてくれているアンリさんにお礼をしたくて、それで、アンリさんへって思いまして」
「え、え? あ、あたしに? え、あ、あう、あう」
 混乱してあたふたとしているアンリ。その手に、祐麒はプレゼントを握らせる。
 おずおずと手の平を開くアンリ、載せられているのはシルバーアクセサリー。
「………………これ、なんだ?」
「えーと、プレシオサウルスです」
「プっ…………な、なんでプレシオサウルス」
「前にアンリさんの部屋で、恐竜図鑑とか恐竜関係の本が何冊もあったんで、好きなのかと思いまして……か、勘違いだったらすみません!」
 祐麒もまた、落ち着かない様子でわたわたとしている。
(や……やべえ…………ぬいぐるみとか、アクセとか、超嬉しいかも…………っ)
 体が、顔が熱くなっていくのを感じるアンリ。
「気に入っていただけると、嬉しいですけれど……」
 恥ずかしそうに頬をかく祐麒を見てアンリは。
「あ……あっ、もうこんな時間!? やべ、電車来ちまうから、あたしは帰る。じゃあな祐麒!」
 手をズバッとあげると、背を向けて走り出す。
「え、ええっ!? ちょ、アンリさん……って、速っ……」
 凄まじいスピードで駆け出し、あっという間に見えなくなるアンリを目で追い、祐麒は大きく息を吐き出した。

 帰宅したアンリを待ち受けていたのは、興味津々といった顔をした亜科と亜芙羅で、仕事をしようとするアンリを押さえつけるようにしてアンリの部屋へと乗り込んできた。ちょうど二人の夕食の時間ということで、それを利用してアンリから話を聞こうというのだ。
「さーて、祐麒さまとの今日のデートはどんな感じだったのか、聞かせてもらいましょうか?」
「は? 何言ってんすか、デートなんかじゃないっすよ」
「まあまあ、照れなくてもいいじゃない。とにかく話しなさい」
「は、はぁ……でも、そんなんじゃないですからね?」
 こうなると亜科はしつこいので、仕方なく話すことにしたアンリ。
 その結果。
「……どう思う、亜芙羅ちゃん?」
「惚気ですね」
「お惚気よねー」
「なっ、ちょ、どこが!?」
 いきりたつアンリに対し、亜科は冷静に詰め寄り。
「あのね、滅多にとらない有給を取得して、一緒に映画観て、ゲームセンターで遊んで、ショッピングして、食事してって、完全にデートじゃない、で・え・と!」
「でっ……でえと!?」
「しかも、ぬいぐるみにアクセサリーとプレゼントを貰って、そんなに嬉しそうに喜んでいるアンリは初めて見ました」
「さらにさらに、お盆で人のいないときに泊まりで遊びに来るよう誘って、そこで決めるなんて言って、完全にやる気満々じゃないのアンリったら」
 基本的に根が素直なアンリは、つい言わなくても良い先のことまで話してしまったのだ。しかも、反論しようにも清子のことを口に出せるわけもなく、結局は何も言い返すことが出来ずに黙ってしまう。
「ううぅ、これでアンリのヴァージンは祐麒さまに奪われてしまうのですね、口惜しい」
「とりあえず、ゴムはつけなさいよ、祐麒さまはまだ学生なんだから」
「なななっ、何、言ってんだっ!? だから、違うって」
「あ~、いいなぁ。私も彼氏が欲しい~っ」
「だ、だから、祐麒は彼氏なんかじゃないって!」
「じゃあ恋人?」
「だ、だ、だからっ!!」
 必死に反論するアンリだったが、この手の話で亜科や亜芙羅にかなうわけもない。よく分からないうちに言いくるめられた挙句、初めての時の注意事項だとか、男が悦ぶテクニックだとか、余計なことを教え込まれてしまった。
「――っといけない、もうこんな時間。そろそろ戻らなくちゃ」
 いつの間にかいい時間になっており、そこでようやく二人は腰を上げた。初心なアンリは刺激的な情報を注入され、オーバーヒート寸前だった。
「それじゃ、頑張ってねアンリ。応援しているから」
「フラれたら、私が誠心誠意、慰めさせていただきますから安心してください」
「不吉なこと言わないの亜芙羅ちゃんったら。まあ、見た限り祐麒さまはアンリにべた惚れだから、そんなことないでしょうけど」
 去り際の二人の台詞も耳に入らない様子のアンリ。二人が部屋を出てしばらくすると、支えを失ったように、ぐにゃりと床に倒れ込んだ。
「……え、嘘だろ、祐麒がなんであたしと……あたしは…………」
 顔が熱くなる。
 なぜか胸がバクバクと激しく動いて、息苦しくなる。
 生まれて初めて味わう苦しさに、アンリはそのまま目を閉じると、ゆっくりと意識を闇に落としてゆく。
「奥様…………」
 最後に呟いた一言は。
 アンリ自身の胸を鋭く貫いていた。

 

おしまい

 

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