書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(山村先生×祐麒)】武士道トゥエンティーX (1)

更新日:

~ 武士道トゥエンティーX (1)~

 

 

 誰かが呼んでいるような気がしたが、その声もぼやけて聞こえてきていて良くわからなかったし、それ以上に面倒くさくてだるくて応じる気が起こらなかった。少し静かにしていてもらえないだろうか、人がせっかく疲れを癒してゆったりとしているという時に、何の用事、権利があって邪魔をしようというのか。どうせ、たいした用事でもないに決まっている。
「…………おいユキチ、まずいって、起きろ」
 わき腹を何やら細く鋭いもの、おそらくシャーペンの先あたりで突かれて、祐麒はようやく薄目を開けた。
「……なんだよ、少し静かに」
 と、そこまで口にしたところで妙な圧迫感を覚えた。
 おそるおそる顔を上げてみると。
「――ふふ、私の授業はたいしたことじゃないみたいね、福沢くんにとっては」
 笑みを浮かべて見下ろしてきているのは山村冴香で、祐麒のクラスの担任であり同時に数学を担当している教師である。
「それじゃあ、八十二頁の問四なんて当然、簡単に分かるわよね?」
 にっこりとしたその表情が逆に恐ろしい。
「え、ああはい、八十二頁……あ、これ現国の教科書だ」
 そもそも、テキスト自体が前の授業のままだった。
 直後。
「――あガっ!?」
 脳天を叩き割られるような衝撃。
 冴香が教科書の背で頭を叩いてきたのだ。剣道部で鍛えられた冴香の教科書による面は強烈で、鈍い音が教室内にも響いて他の生徒の方が痛そうに顔を顰める。
「いっ……たぁぁぁぁっ」
 頭を抱えて机に突っ伏す。
「居眠りに加えて、授業の準備すらしていないなんて、どういうことかしら。罰として週明けまでにこの章末の課題を全て解いておくこと。誰かに写させてもらおうととか考えないこと、答えだけでなく、そこに至った道筋まで説明してもらいますからね」
「うげぇ……ま、マジっすか」
「口答えしないの、返事は」
「はい、わかりました」
 しゅんとして項垂れる祐麒に、同情ともなんともいえない視線が集まる。元はと言えば授業中に転寝をしていた祐麒が悪いのだから。

 悪いことは連鎖するのだろうか、次の授業でも祐麒はやらかしてしまった。
「――福沢くん、あたしの授業はそんなにつまらないですか?」
 いつの間にやら祐麒の席の目の前までやってきていた先生を、起きたばかりの寝ぼけ眼で見上げる。
「やっぱり、教育実習生の授業では身が入らないですか」
 悲し気に瞳を閉じて小さくため息を吐き出すのは、自ら口にした通り教育実習としてやってきている山村理玖。
 艶のある長いストレートの黒髪を後ろで束ねシニヨンにし、スクエアフレームの眼鏡をかけた女子大生。おっとりとした感じと雰囲気から男子生徒のウケがいいのはもちろん、女子生徒からも人気がある。
 そのせいか、周囲の視線が痛い。
「い、いえ、そんなことないですっ」
「そう。それじゃあ、単に居眠りしていただけということですね」
 にっこりと優し気な笑みを浮かべる理玖だったが、むしろその方が恐ろしさを感じる。
「それでは居眠りをしていた罰に、明日までに英訳の課題を出しますね」
「ええっ!?」
「何か文句、ありますか?」
「…………いえ……」
「聞き分けが良い生徒はよいですね」
 やわらかな微笑みを浮かべるが、容赦はない。英訳の課題と簡単に言うが、何ページもあるうえに、明日までときているのだから。
 しかし、いずれにしても授業中居眠りをしていた祐麒に非があることに変わりはなく、どうしようもないことであった。

 

「あー、くそ、ついてないな」
 昼休みになってもまだズキズキと痛む頭頂部を手でなでながら、祐麒は口を尖らせながら言う。
「冴ちゃんの授業で寝るなんて、怖いもの知らずの自業自得だろ」
「そうかもしれないけれどさ」
「まあでも、ほんわかしてみえるけれど、理玖ちゃんも容赦ないよな」
「気持ちよさそうに寝ていたもんね。どうしたのユキチ、昨日遅くまで起きていたの?」
 友人の小林、アリスは格好のネタとばかりに楽しそうにからんでくる。いや、アリスはさすがに少しばかり心配をしてくれているようだったが。
「どうせ夜遅くまでゲームでもしていたんだろ」
「あそこまで熟睡しちゃうのも珍しいよね」
「本を読み始めたら、途中で止められなくなっちゃってさ」
「あ、分かる分かるその気持ち。何の本を読んでいたの?」
 取り留めもない話をしながらだらだらと昼食を終え、眠気がさらに増す午後の授業をどうにか耐え、そうしてやってきた放課後。

 竹刀がぶつかりあう乾いた音の響き渡る、熱気のこもった道場内。
「――そこ、型が崩れているわよ!」
「はいっ!」
 指摘されて慌てて自分の姿勢を改める。
 再びもくもくと竹刀を振って練習を続けていると、少しずつだれてくる部分がある。特に今日は残暑が厳しい。
「……しかし、剣道部ってキツイよな~、夏は暑いし、冬は寒い」
「本当ですよね、汗臭くなるのも当然ですよね、これは」
「まあそう言うなよ。体力がついて鍛えられて良いと思えよ」
「そうだけどさ……あ、でも汗を流す女子はちょっといいよな。特に……理玖ちゃん」
 と、既に男子の間では『ちゃん』呼ばわりの理玖にちらりと目を向ける野郎ども。
「確かに、あの汗の流れる肌の色香がたまらないですよね」
「そうそう、理玖先生、大人しそうだからこそ、そうやってちらりと見える部分がやたら色っぽいんですよね」
「ユキチだって、そう思うだろ」
「お、俺は別にっ」
「あ、おい」
「練習中にそんな目で見ていないし、そりゃ確かに道着の時の胸元はちょっと反則的なところはあるかもだけど」
「……何が反則的?」
「だから、理玖先生の汗ばんだ胸元……」
 そこでようやく気が付いて口を閉じたが、時既に遅く、鋭い視線が向けられていた。
「福沢くん、何をお喋りしているのかしら」
「あ、いえ、ええと……」
 冷やかとも、怒りに燃えているともとらえられる目つきで祐麒を見据えてきている冴香に、体が硬直する。
 小林たちの話にいつも乗らないでいるのも不自然かと思ってのことだが、よりによってそれを冴香に聞かれてしまうとは最悪だった。
「い、いえ」
「どうやら、授業中にたっぷり休憩を取って体力がありあまっているようね。全体練習後、跳躍素振り200本ね」
「ええっ、マジですかっ」
「あら、足りないのかしら。それなら、さらに200本追加で、それから」
「は、はいっ、申し訳ありませんでした!」
 完全に体育会系、口答えなど間違ってもしてはいけないのだ。
 結局、一人で余計な量の練習をこなすことになる。
「――――うああっ、よーやく終わったぁ、死ぬっ!」
 そうして全体練習後、冴香の宣言通り追加での跳躍素振りを400回、しかも姿勢が乱れたり、振りが甘かったりするとカウントしてくれないので、実際には400回以上である。すべての練習終了後であり、高校から剣道を始めた身にとっては実際にかなりきつかった。
 ふらふらの体を引きずるようにして道場を後にする。
 本当ならシャワーでも浴びて帰りたいところだが、残念ながらまだ男子用のシャワー設備は整えられていないので、汗を拭いて帰るしかない。
「ああくそっ、でも理玖ちゃんの指導も実は滅茶苦茶ハードだよな。姉妹そろってドSだよなぁ、アレ」
 帰り道、小林はそんなことを口にする。
「それに比べて、支倉先輩は優しいからいいよなー」
「でも支倉先輩、生徒会も忙しいみたいだからな」
「あとは、やっぱ理玖ちゃんだよなー、あぁ、手とり足とり教わりたいぜ」
「変態かよ、小林……」
「なんだよ、もう女子も周囲にいないしいいだろっ、と。しかし腹減ったな、どこか寄っていくか、ユキチ?」
「ん、ああ……ってしまった、課題を置いてきちゃった。ちょっと取りに戻るから、先に帰っていてくれ」
「待ってるか?」
「いや、悪いからいいよ」
 軽く手を上げ、再び学園の方に取って返す祐麒。
 校舎に入り教室に戻るが、見つからない。どうしたのだろうかと首を傾げたところで、道場の方に置いてきてしまったのだろうと歩き出す。
 既に祐麒達の居残り練習も終わって時間も経った今、誰か道場にいるとは思わなかった。
「――――ふっ!」
 一人、誰もいない道場の中で竹刀を振っているのは、冴香だった。
 Tシャツにジャージ姿で、一振り一振り、丁寧に。
 ピンと伸ばされた背筋で姿勢は美しく、足さばきは無造作に見えて実は無駄なく優雅で、何より竹刀の描く剣筋が綺麗だった。力任せに振るのではない、出だしはゆっくりと、だけど速度を増して切れ味鋭く振り下ろされる軌跡に思わず見入ってしまう。
 どれくらい見ていただろうか、やがて素振りをやめて剣を持った手を下ろし、大きく息を吐き出す冴香。
 部員達を指導している間は自分の稽古が出来ないから、こうして部活終了後にわざわざ練習をしているのだろうか。そういえば、今でも剣道の大会に出場しているとかいう話を聞いた記憶もあるし、指導を受けている時や、手合わせのときでも相当の強さを持っているというのは肌で感じていたが。
「ふぅ……あっつ」
 髪の毛から汗が滴っている。
 右腕をあげてシャツの袖で目に落ちてきそうな汗を拭う。
 そして。
「……ん」
 シャツの裾をつかむと、無造作にぐいと持ちあげて額を、そして頬から顎にかけての部分をごしっと拭く。
 その弾みで、冴香のお臍と腰のくびれが無造作に祐麒の視界に飛び込んできた。
「――――っ!?」
 思わず声を出しそうになったのを堪える。
 特別な思いを抱いていない女子であろうとも、胸元やら太ももやらお臍やらが思いがけずにチラ見えしたら、健全な男子であればどうしたって目がいってしまうし、ドキッとしてしまう。
「……誰かいるの?」
 道場の中から冴香の声が向けられる。
 慌てつつも音を立てないように移動して身を隠すと、直後に冴香の顔が窓から見えた。軽く外に目を向けた後、首を二、三回横に動かして肩をすくめる。どうやら気のせいだと思ってくれたようで、そのまま道場の中へと戻ってゆく。
 目にしたのはただの偶然であり悪いことはしていないはずなのだが、どうにも自分が覗きをしていたように思えて罪悪感が生まれてくる。
 軽く頭を叩きつつ、そそくさと学校を後にした。

「――まさか授業だけでなく課題まですっぽかされるとは、そんなにあたしのこと嫌いなのかしら、福沢くんは」
「い、いえ、そういうわけではっ」
 冴香が残っていた道場から帰宅したときには、課題のことなどすっかり頭の中から消え去ってしまっていた。理玖から告げられた英訳課題の原文は学校に置いたまま、授業は一時間目でとてもではないが朝に来てから着手して終わらせられる量ではなかった。
 そういうわけで課題をなげうった形となり、こうして準備室に呼び出されてサシで指導を受けている状況にあった。
 目の前に立つ祐麒を、スクエアフレームの眼鏡越しに見上げてくる理玖の表情は、怒っているというよりも困っているように見えた。
 まだ大学生である教育実習生を困らせて泣かせてしまったか、などと内心でビクビクしつつあった祐麒だが、理玖のその後の反応は全く予想と異なるものだった。
「――それじゃあ、あたしだけじゃなく姉さんの課題も平等にやらないでくれる?」
「え…………え?」
 きょとん、としていると。
「だって、あたしの出した課題はやらないのに、姉さんから出した課題はちゃんとやるって、おかしいじゃない」
「え、いえ、でも……あの?」
 ここで理玖の言う『姉さん』というのは冴香のことで間違いないだろう。確かに、冴香からも授業中に寝ていたことで課題を出され、週明けに提出することになっているが、なぜそちらに話がいくのであろうか。
「それとも、昨日の覗きのことバラされたい?」
「なっ……!?」
 言いながら差し出してきた理玖のスマホ画面には、道場の中を覗き見ている(ように見える)祐麒の姿が写っていた。
 夕方となって周囲は薄暗くなっていた筈だが、ちょうど点灯されたライトによってか祐麒だということが明確に分かる画像となっている。
 いつの間に撮られたのか、理玖がその場の近くにいたことなど全く気が付かなかった。
「ちょっ……せ、先生が生徒を脅すんですかっ!?」
「人聞きが悪いわね、取引よ」
 悪びれる様子もなく言い放つ理玖。
 素直で可愛い女子大生なんてことを周囲の男子は口にしているが、実はとんでもない勘違いなのではないかと思い始める。
「まあ、わざと課題を忘れるなんてのは冗談だけど」
「そ、そうですよね」
 ホッと胸を撫で下ろすところだったが。
「せっかくの取引だもの、そんなことに使ったらつまらないものね」
「…………」
 まったく安心できない発言をする理玖。
「まあいいわ、とりあえず連絡先教えてくれるかしら?」
「な、なんでですか」
「お願いすることが出来たら連絡するからよ」
 何を当然のことを訊いてくるのか、とでも言いたげな目を向けてくる理玖。どうにか抵抗しようとしたが、覗き現場の画像を再度突き付けられて諦めた。
「大丈夫、無茶なことをお願いするつもりは無いから。ほんのちょっと、困った時に頼りたいだけなの」
 可愛らしく上目遣いで見つめられると祐麒も弱い。
「……って、頼りたいっていうか、ほぼ強制じゃないですかこれ」
「そんなことないわよ。後ろめたいことがないなら断れるじゃない。コレだけじゃあ、何も証明できないし」
 確かに理玖の言う通り、画像では祐麒が道場の中を見ているだけで、中に誰がいるか、までは分からない。更衣室でもなく着替えを覗いているわけでもない、単に練習しているところを見ているだけと普通に考えればとらえられるところなのだが、そんなの理玖が説明する一言で全て吹っ飛んでしまうだろう。
 おっとりした優しい教育実習の女子大生というイメージは消え去り、既に祐麒にとって理玖は、何を考えているか分からない相手になっていた。
「福沢くんにとっても悪いようにはしないから、ね」
 人差し指を立てて微笑む理玖に。
 祐麒はいつしか連絡先を教えてしまっていた。

 

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