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マリア様がみてる 百合CP

【マリみてSS(由乃×志摩子)】宿敵

更新日:

 

~ 宿敵 ~

 

 

「志摩子さん、あなたを私の宿敵と書いてライバルとするわ!」
 突然、目の前に座っていた由乃さんが立ち上がり人差し指をビシッと突きつけてきた。きょろきょろと周囲を見回してみても、今薔薇の館の二階には由乃さんと私、藤堂志摩子の二人しかいなかった。
「あのね、周りを見たって誰もいないし、この指は明らかにあなたを指しているし、何より"志摩子さん"って名前呼んだでしょう?」
 少し呆れたような顔をして、目の前の由乃さんがため息をついた。
 しかしそう言われても、いきなり訳の分からないことを告げられた身としては、ひょっとして他の誰かに向かって言ったのではないか、と思ってしまったわけで。
「とにかく、私は間違いなくあなた、藤堂志摩子さんに対して言ったのよ」
「言った、って、その、ライバル……とか?」
「そうよ、ちゃんと聞こえているじゃない」
 腕を組みながら、由乃さんは一人頷いている。
 しかし私には当然のことながら意味が分からず、ただ首を傾げる。とりあえず、素直に質問してみる。
「えっと……ライバルって、何の?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました」
 なぜか、不敵に微笑んでいる。
 そして、十分に間をとった後に高らかに宣言した。
「祐巳さんの一番の親友の座をかけてのライバルよ!!」
 それを聞いた瞬間、私は自分でも驚くくらい動揺した。それでも、表情には出なかったと思う。感情がすぐに表に出ない、出すことが出来ないのは昔から変わらない。そのかわり、胸の鼓動は少し早くなっていた。
 祐巳さんは、私にとって初めて出来た親しい友達。そして、それはきっと由乃さんにとっても同じことのはず。私と由乃さんは、性格は全然違うけれど、たった一つだけものすごく似ているところがあった。

 

 友達がいない。

 

 私は性格のせい、そして由乃さんはきっと身体のせい。クラスメイトから一定の距離を保ち、クラスの中にいながらいつも一人。そんな自分の性格を、身体を疎ましいと思い、そんな嫌なところが似ているからこそ、私と由乃さんは最初、あまり仲が良くなかった。
 いや、決して悪いというわけではなかったが、薔薇の館という同じ場所で一緒に仕事をしてきながら、どちらからともなく何となくお互いに避けていた。
 そんな私達が仲良くなれたのは、言うまでも無く祐巳さん、彼女のおかげ。祐巳さんという人が友達になってくれたからこそ、今の私も、由乃さんもいる、と思っている。祐巳さんは私に、私達にとってかけがえのない友人だ。それは間違いない。そんな祐巳さんの一番の……
「……でも、祐巳さんは由乃さんや私にそんな順位をつけたりしないと思うわ」
 そう、思っていることを思っているまま口にすると由乃さんは。
「そんなの、分かっているわよ。だから、私と志摩子さんでお互いにどれだけ祐巳さんと親友度が高いか主張しあうのよ。それで、相手を納得させられたほうの勝ち」
「ちょ、ちょっと由乃さん。言っていることが滅茶苦茶よ」
 思わず私も立ち上がってしまっていた。
 そんな勝負、つくはずもない。なぜなら、私も由乃さんも祐巳さんをとっても大切な友人だと思っているから。
「だってしようがないじゃない。それ以外で私に志摩子さんと張り合えることなんてないんだから」
「え?」
 由乃さんは、ちょっとふくれたような、拗ねたような顔をして横を向いた。そういう時の由乃さんは、大変に可愛らしい。
「成績は志摩子さん学年でもトップクラスでしょ、容姿だって超絶美少女、唯一運動だけは志摩子さんも苦手そうだけど、それこそ私が敵う分野じゃないしね」
「でも、由乃さんは今、剣道部に入っているし」
「甘いわね。何せ十六年間、授業の体育すらまともに受けたことの無いこの私がよ、ちょっと部活やっただけでどうにかなると思う? 人並みの体力つけるのが直近の目標なくらいなんだから」
 息を吐き出しながら両手を広げ、やれやれ、とでもいった感じの由乃さん。私は何と言っていいのやらわからず、とりあえず次の言葉を待つ。
「山百合会幹部としての生徒達からの人気、ってのも考えたけど、そんな今しか意味無いようなものじゃしょうがないし」
「えっ?」
 意味がないとはどういうことだろう、と考えようとする前に由乃さんは口を開く。
「スタイルはそれこそ貧相な体の私、祐巳さんにだって勝てる自信ないし……ってそういえば志摩子さん、何気にあなたスタイルいいわよね」
「え……?」
 なんか、嫌な予感がした。
 由乃さんの目がキラリと光ったような気がしたのだ。
「志摩子さん、胸、大きいわよね。どれくらいあるの?」
「え……ええっ?!」
「何よ、そんなに驚かなくてもいいじゃない。女の子同士、教えてくれたって」
 妖しく手をわきわきと蠢かせ、不敵な表情でじりじりとにじり寄ってくる由乃さん。私は自然と、逃げるように一歩後退する。
 さらに身の危険を感じ、逃げ出そうかとしたが一瞬遅かった。由乃さんは、剣道部の練習の成果を生かしてか(?)、鋭い踏み込みのごとくとびかかってきた。後ろを向いた私の脇の下から手を回して抱きついてきた。
「きゃあっ?!」
 その瞬間―

 志摩子さんのその悲鳴を聞いた瞬間、乃梨子は我慢できずに扉を開け中に飛び込んだ。
「由乃さまっ、なんて羨まし……じゃなくて、私でさえまだ触ったことな……でもなく、何をなさっているんですか!」
 危うく変なことを口にしそうになるのを、かろうじてとどめた。志摩子さんには、まだ私のそんな、ちょっとだけ変わっているかもしれない一面を見せたくない。まあ、いずれはすべてをさらけ出して、志摩子さんにもさらけ出してもらって、ぐふふふ。ふぅ、しかしこの春まで共学の学校でごく普通の嗜好だったのに、今やすっかりリリアンに馴染み、素敵なお姉さまと一生寄り添って生きたいと考えているこの私。マリア様ごめんなさい、入学当初は、『うわっ、この人達、気持ち悪っ! みんながみんなレズビアン学園!?』とか思っていたのは謝ります。志摩子さんと一緒にいられるなら私、人の道を外しても構いません……って、そんなのは今は置いといて。
「あら、乃梨子」
 志摩子さんが困惑した表情で見つめてくる。ああ、そんな表情もまた可愛らしい!
 そして一方、由乃さまはといえば、変な格好のまま固まっていた。
「あれ、由乃さま、どうしたんですか?」
「さあ、それが分からないの。いきなりああなってしまって……」
 まだ危険はあるかもしれないので、志摩子さんを背後にかばうようにして私は固まっている由乃さまに近づいていった。すると、何やら小声でぶつぶつ言っている。口元に耳を近づけてみた。
「……嘘よ、一体いくつあるってのよ……柔らかいというか重いというか……」
 どうやら、想像以上の志摩子さんのボリュームに茫然自失となっているようだった。うう、由乃さまがこんなにショックを受けるくらいって、一体どんなだったのだろう。正直ちょっと、いやかなり由乃さまが羨ましかった。しかし表情には一切そんなこと出さない。
 結局、とりあえずその場はそれで収まったのだが、その後私がお茶の準備をしている間も由乃さまと志摩子さんの間で何やら色々話していた。志摩子さんは時折困惑したような表情をしていて、非常に気になったがさすがにこの場で盗み聞きするわけにもいかない。由乃さまも、心持ち声を潜めていたので何を喋っていたのかはわからなかった。でもきっと、ロクなことではないのだ。
 何せ、志摩子さんを困らせているのだから。

「全く由乃さまは、本当にいつも無茶苦茶なこと言うんですから」
 薔薇の館を出て帰宅の途中、乃梨子はまだ少し怒っているような口調だった。今日は結局、祥子様と祐巳さんは欠席だったので、早めのお開きとなった。紅薔薇の二人がいないので、バスで帰るのは私と乃梨子だけになる。黄薔薇姉妹の二人とは、校門のところで別れている。
 そのバス停での、乃梨子の言葉だった。
「志摩子さんだって困ったでしょう? いきなり、ライバルだなんて言われて」
「そうね、ちょっとは、ね」
 そう、答えたものの、乃梨子は不思議そうな顔をして私の顔を覗き込んできた。
「どうかしたの?」
「え、ううん。いや、なんか志摩子さん、嬉しそうな顔をしていたから……」
「そう?」
 バスが来たので、とりあえずそこで話を切ってバスに乗り込む。ちょうど下校時刻から外れているせいか、バスは空いている。乃梨子と並んで、後ろのほうの席に座る。
「そうね。私はね、嬉しかったのよ、乃梨子」
「えっ?! なんでー?」
 乃梨子は目を丸くしている。
 信じられないのかもしれないが、それは事実なのだ。私は、物凄く嬉しかったのだ。
「私はね、こういう性格でしょう? 家のこともあったけれど、あまり親しい友達もいなかったし、別に仲間はずれにされているわけではないけれど、皆とは違うなってずっと思っていたの。自分の本心を晒してお話しするような友達はいなかった」
「う、うん」
「だからね、凄く嬉しかったの。私、ライバルだなんて言われたの初めてよ」
「そりゃ、普通の人はそんなこと言わないし。何か部活とかやっているならまだしも」
「そうね」
 私はそこで、くすくすと笑い出した。自分でも不思議なほど自然に。
「それにね、嬉しかったのはそう言われたからだけではないの」
 先ほどの由乃さんとの会話を思い出す。

「……とにかく、さっきの話は分かってくれたかしら?」
 由乃さん、少し私に身を近づけてきて、声を潜めて言ってくる。多分、乃梨子のことを気にしているのだろう。
「どちらが祐巳さんにより親しい友達になれるか、ってこと?」
「そうよ。これならこの先高校卒業してもずっと、競っていられるじゃない」
 おそらく何気なく言った由乃さんのその言葉が、しばらくしてから私の胸にぐっと響いてきた。胸が苦しくなるような、熱くなるような気持ちが心の奥底から湧き上がってくる。由乃さんは "高校卒業してもずっと"、と言ってくれた。それは、祐巳さんや私と卒業した後も、"ずっと友達でいる" ということを言ってくれているのだ。それも、それを特別なことだというわけではなく、ごく自然に。
 私はとても嬉しかった。
「負けないからね、志摩子さん」
 目の前で、由乃さんがグッ、と拳を握る。
 すると自然に、私もそのポーズを真似して口にしていた。
「私だって、負けないから」
 それを聞いて、少し驚いたような顔をした由乃さんだけれど、すぐに笑みを浮かべた。
「ふふ、それでこそ藤堂志摩子、ね」
「ええ、だって『宿敵』と書いて『ライバル』なのでしょう?」
 そう言うと、由乃さん、人差し指を立てて目の前でチッチッチと振ってみせる。そして片目をつむって悪戯っぽく笑ってみせる。
「それもそうだけど、もう一つあるのよ」
「もう一つ?」
「『親友』と書いて『ライバル』と呼ぶのよ」
 満面の笑みを浮かべる由乃さん。そして、差し出される右手。私も笑顔で、その手を握る。
 リリアンに入って、今まで手に入ることのなかったものが得られた。それも、二つも同時に。
 『ライバル』の由乃さんの手は華奢だけど力強く。そして。
 『親友』の由乃さんの手は、包み込むように暖かかった。

 

 

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