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はやて×ブレード

【はやて×ブレードSS(ゆかり×瞑子)】一つの約束

更新日:

 

~ 一つの約束 ~

 

『瞑子』と『ゆかりお姉さま』という関係が密かに始まった。
 初めのころは瞑子も嫌がっていたものの、しつこく、強引に押していると、やがてゆかりが言わなくても二人きりの時は『ゆかりお姉さま』と言ってくれるようになった。どもりながら、恥ずかしそうに言うところが、立場に慣れることない瞑子のプライドを感じさせて最高である。
 さて、そんな瞑子に対し、ゆかりは一つの約束をさせた。
 それは。

 一日に一回、どんな形でもいいから瞑子の方からキスをすること。なお、10秒以上唇を重ねない限り、キスとは認めない。

 というもの。
「な、な、なんで私がそんなことをっ」
 顔を赤くしながら反論する瞑子。
「何を言っているんですか、瞑子が私にキスをする口実を作ってあげているんですよ。むしろ、嬉しいんじゃないですか?」
「そ、そんなわけ、ないでしょうっ」
 ぷいと、横を向く瞑子。
 付き合うほどに、瞑子のこの初心な反応が可愛くてたまらない。もちろん、ゆかりはそんなことを億尾にも表情に出さず、ため息などついてみせる。
「全く、素直じゃないんだから」
 言いながら、ゆっくりと瞑子に顔を近づけていく。
 瞑子は驚いたように目を見開いているが、逃げる様子を見せない。いや、逃げられないのだ。ゆかりにこうやって正面から見つめられ、接近されると、まるで体を動かせなくなるのだ。
 頬を上気させ、僅かに瞳を潤ませながら、それでも強気の視線でゆかりを見つめ返してくる、そんなところもゆかりは大好きだ。
 手をあげ、指でそっと瞑子の頬から首筋欠けて撫でていくと、瞑子の身体が僅かに震える。もう片方の手を腰に回し、こちらは脇の方にあげていく。
「…………っ」
 何かに耐えるように、きゅっと目をつむる瞑子。
 そこに、吐息を吹きかける。
 ゆかりと瞑子の唇の間は、もう1センチもあるかどうかだ。瞑子も、すぐそこにゆかりの唇が来ていることに気が付いているだろうが、そこでゆかりは止まる。
 果たして今日は、どれくらいもつだろうか。
 10秒、20秒、そして30秒に達する頃。
 ゆっくりと瞑子の唇がすぼまるような形になり、顔を前に出し、ゆかりの唇に触れていった。
「ん……はっ……」
 一度動き出すと、後は比較的早い。
 おそるおそる吸い始める瞑子。
 ゆかりは内心で歓喜に震えつつ、舌を出して瞑子の唇の隙間に押し入れるようにしてあげる。
 ゆかりの方から求めてきたとそれで思い込むのか、そこからは一気に堕ちる。自分からは羞恥とプライドが邪魔をするのであろうが、ゆかりに強引に求められたから仕方ないという免罪符を自分の中で作ってしまうと、あとは瞑子も夢中になる。
 これは自分が好んでいるわけではない、ゆかりが強引に舌を中に入れて蹂躙してくるから仕方ないのだと、そう自分に言い訳をしながら自分で求めている。
 最初に舌を差し入れたきり、ゆかりは積極的に動かしていない。瞑子の方がゆかりの舌を吸い、舌をからませ、求めてきているのだ。
 やがて、ゆっくりと唇を離す。
 軽く唾液が糸を引く。
「……こ、これで……10秒以上は、したでしょう?」
 指で唇を拭きながら、睨みつけてくる瞑子。
 10秒も何も、ゆうに1分以上はキスしていたことに気が付いていないのだろうか。それも、ゆかりが舌を引き抜かなければ、もっと長くしていたであろうことにも。
 それにもかかわらず、無理やりされたかのような振る舞いをしている瞑子が、縛ってしまいたいほどに愛おしい。
「ふふっ、いい子ね、瞑子は」
 頭を撫で、いきなり唇を重なる。
 今度は、先ほどのように瞑子に任せたままではない。舌で瞑子の口内を蹂躙し、嬲り、吸い上げる。
「ひっ……あぁ……っ」
 ほんの10秒ほどのキスだったが、その間に瞑子の足から力が抜け、唇を離した瞬間には床に尻餅をついていた。
「それじゃあこれから毎日のおつとめ、よろしくね」
 崩れ落ちている瞑子を上から見下ろし、微笑みを投げかけてゆかりはその場を後にした。

 

 それ以来、瞑子の苦戦の日々が続いている。
 瞑子は健気にも、きちんと毎日ゆかりにキスをしに来るようになった。
 ある日は鐘の音の鳴った立ち合いの日に、早めに相手を倒した後にゆかりのもとにやってきて唇を重ねた。授業中だったので周囲に生徒の数も少ないから、やりやすかったのであろう。戦ってわずかに汗ばんだ瞑子の表情は、色っぽかった。
 またある日は放課後、美術部の活動が終わったところを待ち伏せていた。他の部員とも一緒だったから気が付かない振りをしてしまえば瞑子もきっと追ってこられなかっただろうが、可愛そうなので他の部員を先に返して一人残り、キスをさせてあげた。
 さらにある日は、寮の部屋にやってきて、たまたま槙がお風呂に行っていていなかったので、部屋の中でキスをした。瞑子には、槙はトイレに行っているだけだと言っておいたので、いつ戻ってくるか分からずに焦っている瞑子が可愛かった。
 そんな感じで日々、どのようにして瞑子がキスをしてくるだろうかというのを楽しく考えながら、ゆかりは過ごしていた。
 しかし、とうとう昨日、瞑子からキスされない日が発生した。
 今、目の前には瞑子がいる。ゆかりは腕を組み、瞑子を見据える。
「瞑子、昨日は私にキスしなかったですよね」
「だ、だって仕方ないじゃない、そんな時間も隙もなかったし」
「でも、約束を破ったのは確かでしょう」
「くっ……」
 反抗的な目つき。
 ゆかりは容赦しない。
「約束を破るような子には、お仕置きが必要ですよね?」
 人差し指を立てて口元にもってきて、考える仕草を見せる。
 瞑子は拳を握り締め、わずかに体を震わせ、ゆかりを睨みつけながら口を開く。
「……な、何をすれば、いいの……?」
 瞑子の発した内容に、ゆかりは内心で歓喜する。
 そもそも一日一回のキスの約束だって半ば無理やり、強引に押し付けたようなものであり、瞑子は跳ねのければよかった。そして、お仕置きなどは元々するなど一言も言っていない。にもかかわらず、瞑子はキスしなかったことに対するお仕置きを受けることに疑問を抱いていない。いや、抱いているのかもしれないが、それを口にしない。お仕置きを受ける気でいる、きっと心の奥底では受けたいと思っている。
「何をすればいいの、ですって? お仕置きを受ける身なのに、随分と偉そうですね」
「う……な、何をすればよいのでしょうか、ゆ、ゆ、ゆかりお姉さま……」
 羞恥と悔しさに顔を赤くしながら、振り絞るようにして言う瞑子。
「そうね、いいことを思いつきました」
 にぱっ、とゆかりは笑ってみせる。
「今度のデート、瞑子の方がエスコートしてくれますか?」
「えっ……?」
「だって、いつも私の方から誘って、私がデートコースを決めているじゃないですか。たまには、瞑子の方にリードしてもらいたいなぁ」
 ゆかりの口から発せられたお仕置きの内容に、最初はきょとんとしていた瞑子であったが、やがて表情に安堵感が広がっていく。
 どんなお仕置きをされるのか、きっと内心でびくびくしていたに違いない。それが、思ったよりも軽い内容なので安心しているのであろう。
 だが、ゆかりはそれだけでは済まさない。
「もちろん、私を楽しませて満足させてくれるようなデートコースじゃないと、駄目ですよ? もしも私を満足させられないようなデートだった場合は……ふふふ、どんなお仕置きをしようかしらね?」
「…………っ!!」
 瞑子の顔が引きつる。
「それじゃ、楽しみにしているわ。あ、もちろん、直接誘ってね。メールとか手紙なんかじゃなくて、瞑子の口から直接、お誘いの言葉が欲しいから」
 ゆかりは笑顔で手を振り、瞑子に背を向けて去っていく。
 もう、楽しくて仕方なかった。

 

 瞑子から誘いが来たのは、三日後だった。
 初めはメールで、どうしてくれようかと思ったのだが、メールの中を見てみたら単に呼び出しメールだったので、どこかに呼び出してデートの誘いをするのであろうと見当をつける。
 呼び出されたのは夜遅くなってから、寮の裏庭というとんでもない場所。確かに人は来ないかもしれないが、誘う場所としてはどうなのかと思ったが。
「あ、あ、ああの、今週の土曜日、わわ私とデートしてくれませんか、ゆゆ、ゆかりお姉さま……っ」
 おそらく用意してきた台詞であろうに、噛み噛みで暗闇でも真っ赤になっていると分かる瞑子を見て、これなら許すと思ったゆかりも相当にキている。
 そんな風にして誘われたデートの当日。
 瞑子はボーダーのプルオーバーにジャケット、シフォングレーのフレアスカートという格好で駅前で待っていた。ゆかりのリクエストである、スカートをきちんと選んできてくれたことに、満足げに頷く。
 さて、どのようなエスコートをしてくれるのだろうかと思っていたが、瞑子はデートが始まってからというもの、カチンコチンだった。おそらく、デートでリードするということ自体が初めてなのだろうし、加えてゆかりの気に入らなければ更なるお仕置きが待っているというプレッシャーもあるのだろう。
 そのような瞑子の姿を見られるのもなかなか珍しいので、とりあえずゆかりは特にフォローもせずに任せておく。
 瞑子が足を運んだのは、美術展であった。
 まあ、ゆかりが美術部ということもあり、無難な選択である。既に訪れたことがある美術展だったら、どのようなことを言ってやろうかと考えもしたが、連れてこられたのはゆかりとは畑違いの『浮世絵美術展』だったので、ちょっと意表をつかれた。
 色々と面白く、楽しむことが出来たのでここは及第点。
 美術展を出たら、ランチ。
 瞑子が選んだのは、おしゃれなイタリアンやフレンチなどでなく、炭火焼のお店で、これまた意表をつかれた。おすすめは魚ということで、新鮮なメロカマを注文。白いご飯との相性はもちろん抜群で、付け合せの漬物もとても美味しくて、大満足のランチ。
 食べ終えてお茶をしながら、瞑子にどのようにこの店を選んだのか尋ねてみる。初め、瞑子はなかなか口を割ろうとはしなかったが、強引に迫ることでようやく教えてくれた。別になんてことはない、ネットで調べたとのこと。だけど、瞑子がどのような顔をしてデートのランチの店を探していたのかと考えると、それだけでお腹いっぱいになる。
 店を出て、次に向かったのは有名なショッピングモール。ここは何の変哲もないところだが、デートコースとしては定番だし、何でもかんでも意外性を求めればよいというものでもないし、OKだろう。
 実際、年頃の女の子としては、洋服だとか小物だとか、買わなくても見るだけで楽しいのだ。
 ここまでのデートに合格を出す意味でも、ゆかりは瞑子と腕を組んであげることにして、サービスで胸も肘に押し付けてやった。瞑子はそのことに気付くと、途端にぎくしゃくとした歩き方になり、顔を赤くさせた。それでいて、表情は平静さを保とうとしているのだから、やっぱり可愛らしい。
 ショッピングモールでは、瞑子にわざとらしくポーチを欲しがってみせた。何度か口にしたところでようやく気が付いたのか、瞑子がプレゼントしてくれた。一回で気付けなかったのはマイナスだが、瞑子なら上出来の方であろう。そこでゆかりは、お返しにとっても可愛らしいミニスカートとオーバーニーソを買ってプレゼントした。瞑子はいらないと言ったが、買うのはゆかりなのだし、プレゼントだから受け取らせる。絶対領域の絶対比率を考えてのコーディネート、次回のデートでは是非、身に着けてもらおう。
 適度に時間が過ぎたら、ショッピングモール内のフードコートで休憩。学生だし、気張った喫茶店に入る必要もないし、これはこれで問題ない。
 こうしてみると、瞑子も普通にデートプランを作れるではないかと思う。まあ、これも色々とネットで調べたのかもしれないが。
 ショッピングモールを出て、さて次はというところで、ちょっとゆかりは意地悪をしてみた。
「私、海に行きたいな」
 瞑子のプランとは異なったようで、ちょっと驚いていたが、ここは海に近いのだ。海辺を散歩しない手はない。
 渋る瞑子を半ば強引に引っ張る。もちろんその際、腕に抱き着いて胸を押し付けることを忘れない。たまにはこういうサービスも必要だろう。
 そうして、海の近くへとやってきた。
「うわ、綺麗」
 デートコースとはいえ、季節外れの海辺に人の姿は少なかった。静かな海は夕陽によって染め上げられていて、漂ってくる潮の匂いが心地よい。
「降りてみる?」
「この靴じゃあ」
 砂浜を歩くには厳しい靴だったので、仕方なく砂浜に降りることなく歩いていく。
「気持ちいいわね」
 夏になったら、瞑子と一緒に泳ぎに来よう。その際はもちろん、瞑子が恥ずかしがるような可愛い水着をセレクトしてあげるのだ。今から考えるだけで楽しくなってくる。
「……何、笑っているのよ」
「いいじゃない、別に」
「ちょっと、引っ張らないでよ」
 楽しげに歩いていくゆかりに文句を言いながらも、組まれた腕をほどこうともせずに瞑子も歩く。背が高いので、ゆかりが腕を組んで歩くにはちょうど良かった。
 海風が、二人を包み込む。
「ほら、気持ちいいでしょう?」
「そうかしら?」
 空いている方の手で、海風になびく髪の毛をおさえる瞑子。
 しばらく二人は、無言でゆっくりと歩いていく。
 波のうち寄せる静かな音、瞑子の吐く息、風のざわめき。世界には二人しかいないように思えてしまう。
「……そろそろ、戻らない?」
 不意に、瞑子が言ってきた。
「え、もう? まだ来て十分もいないじゃない。もう少しいましょうよ」
 この美しいシーンを、もう少し目に焼き付けていたい。更に言うならば、瞑子と一緒に見ていたい。
 ゆかりとて、普通に女の子らしい気持ちを持ち合わせているのだ。
 色々と苛めているが、瞑子のことが好きなのだ。今更ながらにゆかりはそのことを自覚した。
 こうして黙って立っていると、瞑子は非常に凛々しい。下級生に人気があるというのも、頷ける。そう思うと、途端に胸がカッとなる。嫉妬か。
 瞑子を、他の子になど渡したくない。自分だけのものにしたい。自分だけを見ていてほしい。狂おしい程の想いがこみあげてくる。
「……あの、染谷さ」
「瞑子?」
「ゆ、ゆかりお姉さま」
「ふふ、なぁに?」
「そろそろ時間も遅いわ」
「あ、待って」
 ゆかりは立ち止まると、その場にしゃがみこんで地面に手を伸ばす。
 瞑子は、何事かと首を傾げている。
「ふふ、いいもの拾っちゃった。見たい?」
 立ち上がったゆかりは、両手で大事に何かを包み込むようにして、瞑子に問いかける。
「えと、別に……」
「見たい?」
「……見たい」
「そんなに見たい?」
「ええと、ものすごく、見たい」
「そこまで言うなら、見せてあげるわね」
 言いながらゆかりは、ゆっくりと左手にかぶせた右手を開いていく。
「……何もないようだけれど」
「凄く小さいから、もっと近づいて見てみて」
 言われるまま、ゆかりの手に顔を寄せる瞑子。
 すると、不意にゆかりは近づいてきた瞑子の顔を両手で包むようにして、軽く引き寄せると唇を重ねた。
「んっ……」
「っ……!」
 今までにしてきたような、荒く暴力的なキスではない。瞑子が服従してくるようなキスでもない。
 恋人としての、キス。
 驚き、暴れ出しそうになる瞑子を、舌で大人しくさせる。歯茎をなぞると、瞑子の身体がぴくりと震えたまま、静かになる。
「んふ……」
 一度、僅かに離して息継ぎをして。
 口内に溜まった大量の唾液を、瞑子の口に注ぎ込む。
「んっ!? ふ……んくっ」
 飲み込んでいく瞑子。
 一気に流し込むのではなく、時間をかけてゆっくりと、絶え間なく注いでいく。口を塞がれている瞑子は、飲むしかない。
「んふぅ……んっ、んくっ……」
 喉が鳴る。
 びっくりしていた瞑子の目は、次第にとろんとしてくる。
 すべてを注ぎ込んだ後も、それでも絞り出すようにして唾を作り出し、瞑子の口に入れてあげると、瞑子は何の抵抗もなく、むしろ進んで啜るようにして飲んだ。
 口を離す。
 唾液に濡れた瞑子の口の周りを、拭ってやる。
「今のキスは、今日のデートに対するご褒美。とっても、楽しかったから。こんなんじゃあ、お仕置きにならなかったわね?」
 なんだかゆかりもちょっと照れくさくて、心もち頬を熱くしながら笑ってみせる。
 目の前の瞑子は、キスの余韻が覚めないのかまだ呆けたような表情であったが。
「あ……」
 我に返ったかのように、目の焦点が合う。
 そして、厳しい表情になる。まるで、ゆかりを睨みつけるように。
「ちょ、ちょっと何よ、そんな怖い顔しないでよ」
「いや、違っ」
「もう、それじゃあ、おまけにもう一回」
 瞑子に顔を近づける。
「ちょ、駄目、今そんなことされたらっ……!」
 何かを言おうとする瞑子の口を塞ぐ。
 更に、胸を掴んで揉む。
「やっ……駄目っ!!」
 強く、瞑子に突き放されて思わずよろける。そこまで激しく拒絶されると思わなかったので、少し文句を言ってやろうかと思ったのだが、瞑子を見て戸惑う。
 歯を食いしばり、泣きそうな顔をしているのだ。
「ちょっと、瞑子どうしたの、大丈夫っ!?」
 手を伸ばすゆかりから逃げようとする瞑子だったが、苦しそうに上半身を倒し、震える。
 お腹でも痛いのかと思ったが。
「……っ、ダメっ、くっ、うあぁっ……!」
「えっ?」
 目の前で、信じられないことが起きた。
 体を震わせ、内股になってスカートの裾を抑える瞑子。
「ひうっ……うぁっ……」
 ライトグレーのスカート生地に、黒い染みが広がった。
 同時に、スカートの下から伸びた太ももを液体が伝って流れ落ちる。
「も……もう、駄目っ……」
 初めは抑えめだった水量も、瞑子のその声とともに一気に増す。
「やっ……止まらな……っ」
 瞑子は必死に止めようとしているようだが、一度決壊してしまえば、堰き止めることなど不可能なのはゆかりにもわかる。瞑子の薄いショーツの生地は既に吸水する機能としては何の役も経たず、ショーツの股間から噴出した小水がじょぼじょぼと勢いよく滝を作り出して、地面に水たまりを広げている。
 もちろんそれだけでなく、太ももを伝いながらソックスを汚し、靴の中に流れ込んでいく支流もある。
 余程我慢をしていたのか、いまだに勢いの衰えるところを知らず、漏れ出た小水は、ぱしゃぱしゃと音を立てて地面を跳ねる。
「は……あっ……」
 頬を真っ赤にし、涙目になり、羞恥に打ち震えている瞑子だが、それでもゆかりは異なる瞑子の気持ちを感じ取った。それは、限界まで溜めこんだものを放出する解放感と恍惚感、震えるほどの快感。
 ゆかりも限界まで我慢してから用を足したことがあるから、分かる。あの瞬間の快感は、ある意味性的な絶頂にも負けない。ましてや瞑子は、漏らしてしまうほどまでに耐えていたのだ、今の気持ちは果たしていかほどのものか。
 燃えるような沈む太陽の光に染まった海をバックに、身体を震わせて痴態をさらす瞑子の姿を見て、ゆかりは下腹部が疼くのを感じた。そして、いつからだったか、おそらく瞑子の堰が崩壊する直前から、デジタルカメラを取り出しムービー機能で瞑子の姿を様々なアングルから余すことなくとらえていた。
「……お、お漏らし瞑タン、萌えぇぇぇーーーっ!」
「や、いやっ、見ないで、撮らないでよっ!!」
 鼻血を垂らすゆかりと、小水を漏らす瞑子。
 不幸中の幸いは、奇跡的にも周囲に人がいないことであった……

 

 無言で、瞑子が立ち尽くしている。 「どうして、こんな短いの……」
 瞑子は落ち着きなく、スカートの裾を手で抑えている。
 汚してしまったスカートとショーツと靴下を脱ぎ、ゆかりがプレゼントしたミニスカートとニーハイソックスに穿き替えたのだ。靴だけはどうしようもなく、汚れて濡れている靴にそのまま足を通している。
 購入していたのは、黒のレースのミニスカート。黒ならば、瞑子も妥協するのではないかとの考えからだが、こんなことならパステル系の可愛らしいのでも良かったかなと、思ってしまう。
「別にいいのよ、穿きたくなければ」
「そんなことは、言っていないでしょう」
 そわそわしているのは、スカートが短いから、というだけではないだろう。さすがにショーツまでは用意していなかったので、瞑子はノーパンなのだ。海からの風でスカートの裾が揺らめくたび、慌てて手で抑える。
 内股になっているのも、脚をもぞもぞと動かすのも、ニーハイソックスとスカートの裾との間の絶対領域も、何もかもが瞑子を可愛らしく見せていて、ゆかりは頭に血が上るのを抑えられない。
「大丈夫? 歩けるかしら」
 恥しさでしゃがみこんで動かなかった瞑子を立たせ、近くの物陰までどうにか連れて行って半ば無理やりに着替えさせた。着替えの際、片づけるフリをして、瞑子のショーツを自分のバッグにしまったのは、内緒である。
 ゆっくりとしか歩けない瞑子に歩調をあわせ、バス通り沿いへと出る。瞑子の今の状態で歩いて帰るのは大変なので、バスを使うことにしたのだ。海からの風のため、スカートをおさえながら歩く瞑子の姿が、なんともゆかりの心を騒がせる。
 時間をかけてバス停に辿り着いて時刻表を確認すると、次のバスまで十五分ほどある。小腹が空いてきたこともあり、ゆかりは近くの店からクレープを購入して食べることにした。もちろん、瞑子の分も購入してある。
「こんな場所でクレープが食べられるなんてね。結構、美味しいし」
 隣では、無言で口をつけている瞑子。
 なんだかんだ文句を言いたそうにしながらも、ちゃんと小さな口で食べる姿は愛らしくもある。
 と、そこでゆかりは妙案を思いついた。
「ごめん、氷室さん。ちょっと私、トイレ行ってくるから、持っててくれる?」
「え、あ、ちょっと」
 有無を言わさず食べかけのクレープを渡し、トイレに向かって小走りで駆けていく。トイレの陰に入ったところで、そっと顔だけ出して様子を見てみる。トイレと言ったのは嘘で、こうして隠れて瞑子の様子を覗き見ることが目的だった。
 瞑子は両手にクレープを持って、所在無げに立っている。
 と、海風がミニスカートの裾を揺らす。
 慌てる瞑子だったが、両手にクレープを持っているので、手を使えない。クレープなので、地面に置くこともできず、バス停にはベンチもないので座ることもできず、一人でオロオロとしている。その様相を、ゆかりはこっそりとデジカメで撮影する。
「や、やだ、ちょっとっ」
 クレープを持ったままスカートを抑えようとするが、斜めにするとアイスやクリームがこぼれそうになって、うまくいかない。太ももで布を挟もうと、脚を動かすが、ひらひら動く裾をとらえられない。
 夕方になり、薄暗くなってきたとはいえまだ陽は完全には落ちていない。バス通り沿いということで車は通っているし、人の姿も皆無というわけではない。周囲を気にしないわけにはいかない。
 自分の分のクレープだけでも食べてしまえば片手があくし、最悪、捨ててしまえばとも思うのだが、追い込まれている瞑子には、その考えも思いついていないのかもしれない。強めの風が吹いたときなどは、ついにはスカートが上がって、つるりとしたお尻が見えてしまった。ゆかりは、鼻血が出ないようにこらえるのに必死だった。
 そろそろ出ていかないと、時間かかりすぎかもと、そっとトイレから体を出そうとした時、風に乗って瞑子の小さな声が聞こえてきた。
「もう……早く戻ってきてよ……」
 聞いたこともないような、小さく、弱い声。泣いているのでは、とさえ思えてしまうような瞑子の声。
 そんな瞑子の声を耳にして。
 たまらないほどの愛おしさを、瞑子の後ろ姿に感じるゆかりなのであった。

 

 天地学園の寮に戻って来た時には、すっかり周囲は暗くなっていた。部屋まで送って行こうかと申し出たが、瞑子には丁重に断られた。
 寮内に入ってしまえば、風が吹くこともないし、そもそも二人で一緒にいるところを他の誰かに見られたくもないから。
 そそくさと、寮内に入っていこうとする瞑子の腕を、咄嗟にゆかりは掴んでいた。
「な……なに? まだ、何かあるの」
 暴れることのできない瞑子は、困惑した表情でゆかりを見る。
「寮の中に入っても、完全に安心とは言えないでしょう?」
「そんなことは」
「ほら、だって順みたいなのだって、いるわけですし」
「ぐっ……」
 友人を引き合いに出すが、これはれっきとした事実であり、天地でも有名なので瞑子も反論できないでいた。例え順に嗅ぎつかれなかったとしても、寮には階段だってあるわけで、ガードできる人間が必要であろう。ゆかりだって、他の人間に瞑子の痴態を見せるつもりなどない。
 結局二人で並んで寮内に戻る。幸い、特にこれといったこともなく、瞑子の部屋まで辿り着く。
 室内には、炎雪の姿もなかった。もしかしたら今頃、槙と仲良くしているのかもしれない。
「そ、それじゃあ、ここまででいいから」
 扉を閉めようとする瞑子の腕を掴んで止める。
「な、何よ。まだ何か?」
「デートは充分に楽しかったし合格点だけど、でも外出先で、お漏らししちゃうような瞑子には、やっぱりもうちょっと厳しいお仕置きが必要かしら、と思って」
「え……な、ちょ、ちょっと」
 びくびくとする瞑子。
 海辺での一件以来、めっきり弱気になっているのは、やはり下着のせいか。
 ゆかりは瞑子の肩をつかみ、もう片方の手をお尻にまわす。ミニスカートの中に滑り込ませ、ショーツを穿いていないお尻を直接に撫でる。
「ひあっ!?」
「……そうね、また今度までに、お仕置きの内容は考えておきますね?」
 耳元で囁くように言うと、するりと身を離す。
 へなへなと、頽れる瞑子。
「あ、瞑子。そんな風に座り込むと、大事なところが見えちゃいますよ?」
「え…………っ!?」
 真っ赤になって、慌てて足を閉じてスカートを抑え込む瞑子。
 そんな姿を見て微笑みながら、部屋を出るゆかり。
 澄ました顔で寮内の廊下を歩き、自分の部屋に戻る。槙も、炎雪もいなかったが、今やどうでもいい。
 部屋のドアを閉め、ベッドに飛び込んで枕を抱きしめると。
「…………っ、め、瞑たん萌えーーーーーーっ!!」
 枕に顔をうずめて叫び、ごろんごろんと転がる。
 しかし、なんという逸材。
 お漏らしなんて、まだ5ステップくらい先のことだと思っていたのに、まさか自ら実践してしまうなんて思いもしなかった。まさに天性のMとしての才能か。
 何事も、始めの一歩が難しいが、そこを乗り越えてさえしまえば意外と後はやりやすいもの。
「あ、ああっ、もうしばらくは、おかずに困ることはないわっ!!」
 興奮して奇声をあげるゆかりをもはや止めることは出来なかった。

 

おしまい

 

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