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はやて×ブレード

【はやて×ブレードSS(ゆかり×瞑子)】戒めと躾け

更新日:

 

~ 戒めと躾け ~

 

 

 体の動きにキレがないのが自分自身で分かった。
 炎雪の視線が注がれるのも分かっていたが、あえて無視をして戦い続けた。結果、勝利することは出来たが、それは炎雪の手柄であって瞑子の奮戦によるものではない。天の星が勝てば良いのだからそれで問題はないのだが、もやもやは残る。まあ、炎雪はそんなことをいつまでも気にするようなキャラクターではないからどうでも良い。
 戦いを終え、今さら学校に戻る気もなく勝手に寮の部屋に戻ることにした。
 部屋に戻ると、とりあえずシャワーを浴びることにする。戦いで汗ばんだ体をさっぱりさせたいから。
 制服を脱ぎ、やがて下着姿になる。
 均整のとれたその肢体には、当たり前だが下着以外に何もついていない。だが、それこそが不調の原因だと瞑子には分かっていた。
 つい昨日、いや今日の朝までは全身を縄で緊縛されていたのだ。ここのところ、ゆかりと取り決めた約束を守れずに、そのお仕置きという形で連日縛られていた。それはそうだ、縛られた状態では思考も乱れるし、動きだって制限されるから、ミスだって多い。
 しかし、このままではいけないと、昨日は細心の注意を払って一日を過ごし、おかげでミスすることなく乗り切ることが出来た。だから、今日の朝になって無事に戒めを解かれたのだが。
 数日、縛られた格好で過ごしていたせいか、縄がほどけた今日は逆に体がふわふわして思うように動けなかったのだ。落ち着かないというか、身が引き締まらないというか、引き締められていないというか。
 シャワールームでシャワーを浴びる。
 瑞々しい肉体は水滴を綺麗に弾く。
「ふうっ……」
 頭を振る。
 熱いシャワーと冷たいシャワーを交互に浴び、身も心も引き締める。
 汗を洗い流してすっきりしたはずなのに、その日の夜はなかなか寝付けなかった。

 翌日も、身体はふわふわしているようで心もとなかった。
 午前中の授業をこなし、昼食をすませ、午後になっても変わらない。どうにも体がスースーして物足りない気がしてしまう。
 こんな、煮え切らない気持ちのままでいるくらいなら、いっそのこと……
「……っ!?」
 思わずおかしな方向に考えがいきそうになり、慌てて打ち消す。
 なんだ、自分は何を考えようとしていたのか、どうかしている。
 確かに、今は少し変な気がするかもしれないが、本来はこれが当たり前の状態なのだ、今までがおかしかった。そのおかしい状態に少しばかり慣れてしまったため、普通の状態に多少の違和感を覚えただけだ。すぐに、これが当たり前の元の状態に戻る、それまでちょっと耐えれば良いのだと言いきかせる。
 実際、こうして放課後に近くなってくると、違和感も随分と薄まってきている。きっと明日くらいにはほぼ、元の状態に戻っているだろう。
 考えているうちに、美術室の前までやってきていた。ゆかりを捕まえるには教室の方が確実かもしれないが、人が多い。だから教室は避けて、こうして美術室の近くで待ち構えることの方が多い。人が少ないとはいえ、美術部には他の部員もいるわけで、人に見られないような場所で待つことになる。
 しばらくして、ゆかりが姿を見せる。槙と一緒のことも多いが、今日は一人だった。
「あら、氷室先輩。どうしたんですか、こんなところで」
 姿を見せた瞑子に、しらじらしくそんな口をきくゆかり。瞑子も瞑子で、いまだに恥ずかしがる様子を消せないものだから、そのような態度を取られるのだが、こればかりはどうしようもない。
 それでも他の生徒が来ては意味がない、瞑子は素早くゆかりに近づくと、キスをする。
「…………これで、今日も」
 ノルマクリアである。
 あとは部屋に戻りじっとして過ごせば、きっと朝になる頃には前のように戻っている。そう思って踵を返す。
「あ、ちょっと待って」
 だが、離れる前にゆかりに手首を掴まれていた。
「……まだ、何かあるのかしら?」
「いえ、ただ……」
 と、ゆかりが口を開きかけたところで他の美術部員達が歩いてくる姿が目に入った。瞑子はさっさとその場を離れようとしたが、ゆかりが手を離そうとしない。変に勘繰られても困る、強引にでも手を払おうとしたところで、ゆかりが手を離す。ホッとしたのもつかの間、ゆかりが今度はスカートの裾を掴んできた。
「ちょっと、一体何を……っ!?」
 文句を言う前に、ゆかりの手がスカートの中に滑り込んできた。そして瞑子が逃げる前にパンツを掴まれた。
「――ひぅっ!?」
 そして、ゆかりは握ったパンツをグイと上に引っ張り上げた。当然、思い切り食い込んでくる。
「ちょ、やめ……」
 逃げようにも、掴まれてしまっては下手に動けない。そうこうしている間にも美術部員達が近づいてくるのに、ゆかりは容赦なくパンツを引っ張り続ける。踵を浮かせるようにしてみたが、それ以上に引っ張られるので効果は薄い。
 一体、何のつもりで。
 そう思った次の瞬間、不意に引っ張られていた力が緩み、がくんと膝が落ちそうになった。咄嗟にバランスを取る瞑子。
「……さっきのキス、舌技が足りなかったから…………先輩、今日の部活ですけれど」
 小さな声で瞑子にだけの言葉を告げた後、何事もなかったかのように美術部員に向けて手を振り、歩き出すゆかり。
 瞑子は踵を返し、そそくさとその場を離れる。
 いまだに食い込んでいるパンツを早い所直したかったが、廊下にはちらほらと生徒の姿が見えており、そんな中でスカートの中に手を突っ込むわけにもいかない。
(やだ、今の私、お尻丸出しだわ……それに、この食い込みと締め付け感……)
 せっかく忘れかけていたのに、あの縄の締め付けられ心地とでもいうものを、またしても思い出してしまった。
 さっさと寮に戻って直そうと足を速めようとするが、食い込みが刺激してきてあまり速く歩けない。
(はぁ……まったく、なんで私がこんな目に……)
 内心で文句を言う瞑子だったが、途中でトイレに寄って直すという思考は、なぜか生まれないのであった。

 

 ゆかりにとっては計算違いであった。
 瞑子のことを生粋のドM体質と見抜き、ここしばらくは何かと口実をつけてはお仕置きとして緊縛してきた。口では色々と文句は言うものの、相変わらずされるがままに縛られているし、瞑子が解くまでは自力でどうにかしようともしていない。時折漏れる熱く切なげな吐息、不意に見せる表情から、絶対にハマっているとゆかりは思っていた。
 そうして慣れてきた昨日、久しぶりに瞑子の戒めを解いた。瞑子はほっとした表情をするとともに、どこか落ち着きのなさも見せていた。
 ゆかりの目算では、瞑子が意識的にせよ無意識的にせよ、ゆかりとの約束を反故にして再びお仕置きを求めてくると思ったのだが、ゆかりが思っている以上に瞑子のプライド、あるいは抑制力は強かったようだ。
 さすがにこのままでは元通りになってしまいそうなので、とりあえず刺激を与えておいた。あれくらいの中途半端な刺激を与えた方が、瞑子にとっては苦しいと思ったのだ。
「さて、どうなるかしら……?」
 首を傾げるゆかり。
「どうかしたの?」
「あ、いえ、なんでもありません」
 ゆかりとて全てが分かるわけではない。とりあえずは、瞑子の様子を見ながらうまいこと誘導できればよいのだが。
「ああ……でもホント、簡単に堕ちないあの強さがいいのよねぇ……」
「染谷さん、何うっとりしているの?」
 眉をひそめてゆかりのことを見つめている美術部の先輩だが、気にしない。
 ゆかりがSに目覚めたきっかけは、当然、綾那である。ただ、綾那は簡単に堕ちてしまったので、そういう意味での楽しみは無かった。その点、瞑子は堪らない。
 今まででも存分に楽しませてはもらっているが、まだまだこれからも当分の間は楽しめそうだと、一人ほくそ笑む。
 今日はそのまま部活動に励んだ後に帰宅し、変わったことは無かった。

 翌日以降は、引き続き瞑子の様子を見ていく。ゆかりにとって幸いなのは、瞑子は一人で行動するのを好み、周囲に人がいないことが多いことだ。即ち、悪戯しやすいということである。
 もしかしたら炎雪意外に友達がいないのだろうか、だとすると残念である。親しい友人の前で実は悪戯をされていて、それを悟られないように必死に押し隠す、なんてプレイができないではないか。炎雪相手ではそういうのは通用しそうにないし。
 澄ました顔をして鬼畜なことを考えるゆかりは、今日も一人で読書している瞑子を見つけた。眼鏡をかけている瞑子もまた良いものである。
「氷室先輩、何を読んでいるんですか?」
「っ! な、なんでもいいでしょう」
「教えてくれてもいいじゃないですか?」
 にこにこと微笑みかけると、ぷいと横を向いてしまう瞑子。
「へえ、チューホフですか。なんか氷室先輩らしいですね」
「……やめて頂戴。何よ、わざとらしく『先輩』なんてつけて、不気味よ」
 眼鏡を指で押さえつつ、座っていたベンチから立ち上がる瞑子。
「ふーん。じゃあ……」
 近寄り、耳元で囁く。
「瞑子」
 びくり、と震える瞑子。
 あまり警戒ばかりさせても仕方がない。ゆかりは当初の目的を果たすことにした。
「あら、瞑子。スカートが汚れているわよ」
「え? 座る前にベンチは払ったはずだけど」
 訝しげにスカートを見下ろす瞑子だったが、無視してゆかりは瞑子のお尻を叩いた。
「ひっ!?」
 制服越しではあるが、なかなか良い音が響いた。
「ちょ、な、何をす……ひぁっ!?」
「だから汚れているって言ったじゃない、なかなかしぶとい汚れね……えいっ」
「うあっ! ちょ、やめて、痛い……」
 ゆかりから逃れるように、近くの木に手をつく瞑子だったが、ゆかりから見れば木にすがりつきつつお尻をツンと突き出してきている姿は叩いて欲しいというサインにしか見えなかった。
「じっとしてなさい、綺麗に落としてあげるからね」
「ふあっ! あっ、んっ……あふっ!」
 立て続けに何度か、ぱんぱんと叩く。この時、本当に埃を払うように下に向けて叩くのではなく、下から上に向けて叩いてゆく。自然と、パンツが食い込んでいくように。
 そっと触り、制服の上からでもパンツが食い込んだのが分かった。
「……はい、綺麗になったわよ」
「はぁっ……うぁ…………え……?」
 木の幹に腕と額を押し付けるようにしながら、瞑子はほんのりと上気した顔でゆかりの方に視線を向ける。
 制服の上からであるし、叩く強さも中途半端だったから物足りないのだろう。だが、ゆかりはそれ以上は手を出さない。
「ねえ瞑子、喉乾かない? 喫茶店でも行って少しお茶しない?」
「え、わ、私は別に」
「いいから、ご馳走してあげるから」
 気を緩ませる時間を与えない。強引に瞑子を連れ出し、外の喫茶店に行ってケーキセットを注文した。
 ケーキセットは美味しかったし、気丈な顔をしつつも、もじもじとどこか落ち着かない様子の瞑子を見て満足に浸る。
 しかし、これだけでは少し不足しているかもしれない。なんとか上半身の方も攻めたいと、ゆかりは瞑子を堪能しつつも思案に耽る。

 

 自室のベッドに横になりながら、瞑子は本を読んでいた。だが、どうにも内容が頭に入り込んでこない。やはり昼間、ゆかりにお尻を叩かれて、更にパンツが食い込んでしまったことが堪えているのか。
 ごろごろとしていると、やがて炎雪が戻ってきた。特に声をかけるわけでもない、二人の距離感はいつもそんなものだ。
 夕食を終え、軽くトレーニングをした後シャワーで汗を流し、寝るまでの時間は適当にリラックスして過ごす。
 そうやってしばらくすると、やはり外に出ていた炎雪が戻ってきた。無造作に着ていたシャツを脱ぎ捨ててジャージのズボンも脱ぐ。下着姿になった炎雪のボディラインは美しい。特に何を意識しているわけでもないのに、日常的にまるで猫のように動き回っているため無駄な肉はないし、女性らしく曲線的な美を描いている。ファッションや美容に全く興味がないくせに、瞑子としては腹立たしくなる。
 おまけに、ここ一年くらいで急激に胸も大きくなってきている。前までは、瞑子とさして変わらなかったというのに。
『…………キツい』
 何かと思えば、ブラジャーを見下ろして不満げな顔をしていた。野生児がブラジャーとはおかしいが、ブラをしないことには動くのに胸が邪魔になってしまう。だが、そのブラもサイズ的にあわなくなってきたようだ。
 炎雪はブラジャーを脱ぎ捨てると、おもむろにメジャーを取り出し、瞑子に向けて突きつけてきた。
「……はいはい、分かったわよ。まったく、小憎たらしいくらいに成長して……」
 自分の胸は一向に大きくならないのにと、内心で毒づきながら炎雪のバストサイズを測ってやる。ブラを買ってあげる際は、いつもこうして瞑子が測るのだ。
「くっ……いつの間にこんなに……」
 いまいましげに呟いて測り終え、メジャーを炎雪に向けて放る。こんなこと、付き合っている上条槙に頼めばよいのにと愚痴りつつ、ベッドに置いておいた文庫本を手に取ろうとして。
「……何、炎雪?」
 背後に炎雪がやってきていた。炎雪はメジャーを引き延ばして瞑子のことを見つめてきている。
「私はいいわよ、別に。変わっているわけでなし」
『…………』
 無言で見つめてくる炎雪。
「…………ああもう、わかったわよ、測ればいいんでしょう??」
 文庫本を置いて、髪の毛を掻きながら吐き捨てるように言う。こういうときの炎雪はしつこいのだ。自分が測ってもらったら、相手のことも測るものだと思っているのだ。
 シャツを脱ぎ、ブラジャーを外す。炎雪相手では、恥ずかしいという気持ちは湧き上がってこない。
「さっさと済ませなさいよね」
 背中を向けると、炎雪の手が前に回ってきて胸にメジャーがあてられる。
「んっ……」
 ひんやりとしたメジャーの感触が伝わってくる。しかし、どうせ測ったところで変わりようがないのだ。むしろ、サイズが小さくなっていたりしたらショックである。
「炎雪、はやく……んっ」
 トップを測っているのだが、メジャーが敏感な部分を擦ってきて思わず声が漏れてしまう。しかも、それだけではない。
「ちょ、え、炎雪っ、強い、キツいっ……」
 キリキリと力をいれて締め上げてくる炎雪。
 さらに炎雪は何を思ったか、一度背中までまわしたメジャーをさらに体の周りを回して前の方に再び持っていき、今度はアンダーの位置にあたる部分にそってきつく締め上げてくる。
「炎雪っ……や、ちょ、くぁっ……」
 今の瞑子は、胸を挟むような形でメジャーで締めつけられている。抵抗しようにも、力では炎雪に敵うわけもない。
「だ、だめ、やめなさい炎雪っ……!!」
 少し強めに言うと、ようやく炎雪は力を緩めた。逃れるように炎雪から距離を取る。締め付けられた胸の部分は、赤い筋のようなものが浮かび上がっていた。
 炎雪は既に興味をなくしたようで、脱いだついでとばかりシャワー室へと姿を消す。
「まったく、なんなのよ……っ」
 あんなことをされて、また縄で縛られていたあの感触を思い出してしまった。
 瞑子は顔を赤らめながら服を着てベッドに寝転がるのであった。

 

 炎雪の行動はゆかりの指示によるものだった。食べ物と槙の使用済み下着を交換材料とすることで可能となった。あまり複雑なことは頼めないが、単純な内容であれば炎雪も応じてくれるのだ(尚、槙に対しては同じ下着を用意することで無用な騒ぎが起きないようにした)
 翌日はまたも炎雪に依頼して、今度はうっかり瞑子の下着を全て汚して着られなくし、サラシを巻かせるようにした。炎雪にサラシを巻かせるように仕向けることで、かなり強めに締められているはず。
 下半身に対してはゆかりの方で攻撃を地道に続ける。マッサージと称して揉みながらパンツを食い込ませたりして、直接的なお仕置きにならないような行為を続ける。
 そんなこんなで一週間ほどが過ぎた。
 瞑子はゆかりと炎雪から受ける理不尽な攻めによって肉体的、精神的に消耗していた。いずれも単発で見れば大きな事ではないかもしれないが、この一週間の前までゆかりから受けたお仕置きを思い起こさせられるのが堪らない。しかも、中途半端で生殺し状態だ。
 こんな状態が続くくらいならいっそのこと……
 思わずそんなことを考えそうになり、慌てて頭を振って変な考えを追い出そうとする。それではまるで、自分は変態ではないか。自分はそんなんではない、ここを辛抱すれば昔のように何事にも動じないクールで冷徹な自分が戻ってくるはず。
「め~~いこっ」
「そ……染谷さん。何か用かしら」
「ふふ、そんなに用心しないでくださいよ。このところしばらく、とても良い子でいるから、ご褒美にいいところ連れて行ってあげようと思って」
「いいところ? そ、そんなの別に結構よ」
「結構ってことは、OKってことよね。うん、話が早くて助かるわ、それじゃあさっそく行きましょうか」
「え、ちょ、ちょっと!?」
 抗おうとするも、今や瞑子は本気でゆかりに抵抗することなど出来ない。なんだかんだと強引に連れ出される。
 目的地に到着する前に、なぜか途中で変装させられた。茶色い髪のウィッグをつけてツインテールにさせられ、軽く化粧もさせられた。
「な、なんでこんなことするのよっ!?」
「似合っているわよ、可愛いじゃない。それに、もし嫌なら外しちゃってもいいんだけど……本当にいいのかしら?」
「??」
 良く分からないまま、手を引かれて連れて行かれた先は。
「――――メイド喫茶?」
「そうそう。すみません、話していた臨時のバイトの子、連れてきました」
「…………え?」

 

「お……お帰りなさいませ、お嬢様」
 ゆかりの前に、可愛らしいメイド服に身を包んだ瞑子が現れた。
 白と黒のロリータ風衣装で、鎖骨と胸元のあたりが大きめに開いているのが特徴的、瞑子の白くすべすべした肌がよく見える。
 ウィッグでツインテールにしているが、目つきは相変わらずなので、どこかツンデレ風ゴスロリメイドっぽく見える。
「くぅっ……なんで、こんなこと」
「可愛い衣装が着られて、嬉しいでしょう?」
 恥ずかしがっている瞑子を、ニヤニヤと嬉しそうに眺めるゆかり。
「ご、ご注文はいかがいたしますか、お嬢様?」
 ご褒美と言われ無理矢理連れてこられたのに働かされ、それでも頑張って仕事をこなそうとする瞑子。
「そうね……まずは、チューして頂戴」
「――――は?」
「だから、チューよ。分かるでしょう」
「な、なんでこの場所でそんなことをしなければならないのよっ!?」
 立場も忘れて思わず大きな声を出す瞑子だが。
「なんでって……瞑子、ここが何の店か分かっているのでしょう」
「何のって、め、メイド喫茶じゃない」
「違うわよ。ここは、『女主人限定雌奴隷メイド喫茶』よ」 「――――は?」
 きょとん、とする瞑子。
「だから、『女主人限定雌奴隷メイド喫茶』よ。だからメニューもその手のモノが多いのよ。あ、安心しなさい、本番は無しだから。軽いお触りまでよ」
「な……ななっ……」
 ぎょっとして慌てて周囲を見る瞑子。
 すると確かに、メイドの格好をしている従業員が、客である女性に何やらしているのがちらほらと目に入る。
 ソフトなところでは、肩を揉んだり足をマッサージしたりしている。一方で、床に跪いて脛にキスをしたり、客の隣に座って太ももを撫でられたりしているメイドもいる。
「ふふ、地下で窓も無いから、外から見られる心配はないわ」
「だ、だけど……」
 外からは見られないかもしれないが、内装はごく普通の喫茶店で、席がパーティションなどで区切られているわけでもない。即ち、他の客や従業員からは丸見えなのだ。
「だから、変装させてあげたんじゃない」
「あ……」
「ほら、分かったらさっさとなさい。ご主人様をいつまで待たせる気? どうしようもない駄目なメイドね」
「あ、も、申し訳ありませんっ。えと、ちゅ……」
 少し強い口調で叱られると、今までの積み重ねもあってか、さして躊躇いもせずに頬にキスをしてくる瞑子。
 唇を離すと、瞑子が険しい目つきでゆかりのことを睨みつけてきている。
「……どうかしたの?」
「あなたは、こんな店によく来ているの?」
 頬を膨らませている。
「もしかして……やきもち、焼いているの?」
 ゆかりが言うと、さっと顔を赤らめる瞑子。
「そ、そんなわけないでしょう。ただ、いやらしい、不潔だと思っただけよ」
「ふ、安心して、来たのは今日初めてよ。知り合いがいるだけ……それより、ご主人様に対して口のきき方がなっていないわね」
「え、あ、ちょっ……」
 ゆかりは手を伸ばし、スカートの中に滑り込ませた。
「――あら」
「――――っ!!」
 にやりと口の端をあげるゆかり。
「じゃあ次の注文よ。瞑子、今日の下着を私に見せなさい」
「え、そ、それは」
「メニューにあるのよ。逆らえるの?」
 ゆかりはテーブルの上に置かれている、メイドへ可能な注文メニューの一つを指さして見せる。そこには確かに書かれていた。
「だ、だけど……」
「瞑子」
「く…………」
 俯き、唇を噛みしめ、スカートの裾を握る瞑子。
「前だけじゃなく、後ろも全部見えるようにね」
 ぷるぷると小刻みに震え、顔を真っ赤にしながらスカートを持ち上げていくと、そこには。
 女性らしく可愛らしい下着、ではなく――――ふんどし、であった。
 前にブラを使えなくしてサラシを巻かせたことがあったが、今度はパンツを使えないよう炎雪に命じておいたのだ。しかし、だからといってまさかふんどしをしてくるとは想定外だった。もちろん、ふんどしといっても正規のモノではなく、部屋にあったものでありあわせに締め上げたものみたいだが。
 淡いピンク色の布によって大事な部分は隠されているが、お尻はかなりが丸出しになっていて、ぷりんとした張りのある臀部が見えている。
「……え、あれ見て」
「え、ふ、ふんどしっ? うそ、凄い」
「そんなメニュー、あったんだっけ?」
「可愛いお尻ね……私もぺろぺろしてみた~い」
 ざわざわと店の中が騒がしくなる。
 皆、瞑子のふんどしに驚いているのだ。
「まだ手を下げちゃ駄目よ。ほら、メニューでは一分間って書いてあるでしょう」
「く……」
 羞恥に身を焦がしながらも、律儀に守る瞑子。
 やがて一分が過ぎると、力尽きたようにゆかりの隣の席に腰を落とした。
「うぅっ……」
「どうしたの、瞑子?」
「……ゆかりお姉さま以外の人に…………見られるなんて……」
 ぼそりと呟いた言葉にゆかりは感動した。
「大丈夫よ、そのために変装してきたんでしょう?」
 頭を撫でながら優しく言ってやる。
「でも、可愛い所あるじゃない。私にしか見せたくないなんて」
「……っ、ち、ちが、そういうことじゃ」
 そう言われて、ようやく自分の発言にはっとして顔をあげる瞑子。
「いいじゃない、誤魔化さなくたって。それに今ここでの瞑子は、私の忠実な雌奴隷メイドなのよ。そのように考えることは自然なの、いえむしろ誇るべき事よ」
「ほ、誇ること……?」
「そうよ、だって私の雌奴隷メイドだもの……ねぇ」
 頭を抱き寄せ、耳元で囁く。
「本当はここまでのお触りは禁止なんだけど……雌奴隷が合意すれば良いことになっているの」
 太腿に指を這わせると、そのまま布に覆われた大事な部分を軽くつつく。
「いぁっ!? あ、だ、駄目よそんな……」
「えー、駄目なの?」
「だ、だって、こんな場所で……」
 ちらちらと周囲に視線を向ける瞑子。
 さきほどのふんどし効果か、まだ何人かが気になるように瞑子の方に目を向けている。
「ふふ、あそこのロングヘアのお姉さん、凄い目で瞑子のこと見ているわよ。私が帰ったら瞑子のこと指名しようとしているのじゃないかしら?」
 ここは店であり、客はお気に入りの店員がいれば指名することができる。瞑子は一躍、店内の客に目をつけられてしまったようだ。
「い、嫌よそんなの……」
 怯えたように身をすくめる瞑子。
「じゃあ、私にならいいの?」
「だ、だから、それだって……」
「こんな場所が嫌なら、帰って二人きりなら良いのかしら?」
「え……」
「どう?」
 スカートをひらりと持ち上げ、こちらを見ていた客に瞑子のむっちりとしたお尻を見せつける。勿体ないが、こういうことも時には必要だと割り切る。
「や、や、やめて」
「やめて?」
「やめて……ください、お、お願いします」
 衣服や髪型は心にも影響する。今の瞑子はすっかり従順なメイドになりかけている。それはそれで面白いが、やはり本来の瞑子ではない。状況に流されて仕方なく、では意味がないのだ。
 まあいずれ、瞑子の方からこの店と同じようなことを望むようになるように仕向けるだけのこと。今日はある意味、そういったことを瞑子の頭に入れ込むのが目的でもある。
 その後、ゆかりはソフトなメニューで瞑子との戯れを楽しみ、当たり前だが他の客に瞑子を譲ることなく連れ帰った。

「はあ…………まったく、散々な目にあったわ」
 寮に戻るなり愚痴る瞑子。
 メイクを落とし、ウィッグも外していつもの姿に戻ったところで、強気が戻ってくる。やはり瞑子はこうでなくては。
「――さて、これで帰って来たわけですけれど、今日はまだ終わってませんよ?」
「何よ、まだこれ以上、何かする気?」
「ていうか、瞑子、忘れていますよね。今日のノルマ」
「え? あ……だ、だって今日はそうする前に強引に連れて行かれたから」
「言い訳するんですか? いつの間にそんな悪い子に……これはいつもよりキツめのお仕置きをする必要があるかもしれませんね」
「え……い、いつもよりキツめ……!?」
 ごくりと、喉をならして唾を飲みこむ瞑子。
 それは恐れや緊張からくるもののようであり、はたまた期待からくるもののようにも見えたのであった。

 

 

おしまい

 

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