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【マリみてSS(色々)】パラレル オルタネイティヴ 12.紅い影

更新日:

 

~ パラレル オルタネイティヴ ~

 

12.紅い影

 

 

11月13日

 

「福沢ぁ、今日こそあんたをぶちのめーす!」
 全く年頃の女子らしくない台詞を吐き捨て、勢いよくシミュレータに入っていく水月。新潟から戻ってきて一日は休息にあてたが、すぐにまた訓練に没入してゆく。新潟での戦いでは新OSを採用しておらず、新OSに慣れてきた水月たちにとってもストレスになっていたようで、こうしてシミュレータで動かして苛立ちを発散してもいるようだった。そのストレス発散の相手にされるのは祐麒なのだが、皆が強くなるのならば異論はない。
 勿論、だからといって祐麒だって負けるつもりは無いし、実際にまだまだ水月達にとっては大きな壁である。

「あぁもうっ、悔しいっ!!」
 シミュレータを降りてきた水月が、ポニーテールを振り乱しながら地団太を踏む。ここまで感情を露わにして突っかかって来られることに困惑するが、祐麒に対するライバル心というか、単なる負けず嫌いなところは、水月の能力を向上させる大きな力となっているのは間違いない。
「そんなに悔しいですか?」
「あったりまえでしょう! 見てなさい、近いうちに絶対に勝ってみせるから」
「速瀬中尉。強くなろうとする向上心は大事ですけれど、もっと大事なことを忘れないでくださいね」
「な……何よ、急に」
 いつもと異なる祐麒の様子に、少しだけ怯んだように口ごもる水月だったが、祐麒としては言っておかねばならないことがある。
「確かに、個人として技量を上げることは大切です。でも、一人の勇者がいたところでBETAには勝てません。俺たちは……人類は、部隊として、全体として強くならなければ意味がないんです」
 個人的な技量がずば抜けた衛士ならば沢山いる、いや、いた。狙撃能力が群を抜いている者、近接戦闘に比類ない強さを発揮するもの、オールラウンドに何でも出来るスーパー衛士だって。だけど、どんなに能力の優れた衛士であってもただの人間であることに変わりはない。長時間戦えば疲労するし隙だって出来る。例え疲労しておらず、隙を見せることがなかったとしても、BETAの物量の前に押しつぶされた歴戦の衛士は数限りない。
 BETAとの戦いは結局のところそういうことなのだ。
「分かってるわよそれくらい。でも、まず自分が強くならなくちゃ、どうにもならないでしょう?」
「まあ、それはそうなんですけど」
 あくまで揺るぎのない水月が、ある意味眩しく思える。
「本当に分かっているのか、速瀬?」
「な、なんですか大尉まで」
 すると、シミュレータでの訓練の様子を外で見ていたみちるが歩み寄って声をかけてきた。
「新潟での戦い、福沢がいなかったら我が隊からも犠牲者が出ていた可能性は高い。その点は、私に責任があるのだが……速瀬はどう思った?」
「そ、それは」
 ぐ、と言葉に詰まる水月。
「今のシミュレータでの訓練でもそうだ。福沢と一対一の戦いだけならば良いが、部隊同士の戦いだぞ。結果はどうだ?」
 先ほどまで実施していたのは、祐麒と水月、二つの部隊に分かれての模擬戦であった。対BETAとのことを考えれば、戦術機の部隊同士が相打つなどあってはならないことではあるが、人類も一枚岩ではないし、あらゆる状況に応じた指揮、行動を取るための訓練と言うことで実施される。
「それはっ」
 結果は、祐麒の率いた部隊の勝利だが、戦えばどちらかが必ず負けるわけだからみちるが言っているのは単なる勝敗の事ではない。戦いにおいて、祐麒はあくまで作戦指揮と援護に徹し、味方の力を引き出し、味方の能力をあげさせるような戦いをした。
 水月は、もちろん部隊長として指揮を執っていたが、途中で囮になった祐麒にどうしても気を取られ、我慢できなくなって自ら仕掛けに来て、祐麒が水月を引き付けて時間を取っている間に、味方達は祐麒部隊の罠にかかって破れていた。
「例え速瀬があそこで福沢に勝ったとして、意義があったか? 速瀬一人が生き残ったとして、人類にとっては大きな損失となった」
「そ、それは…………」
「それは、私達が弱かったからです! 私達が速瀬中尉の意を受けてきちんと戦うことが出来ていれば、負けていませんでした!」
 尊敬する水月がやり込められて我慢できなくなったのか、上司の会話に茜が割り込む。
「茜、あんたは黙ってなさい!」
 だが、それを最も許さないのは水月だった。部下に庇われるのも情けないし、それ以上に祐麒やみちるの言葉は真実に他ならないことを、水月自身がよく理解していたから。
「そういうことだ。戦場において功を逸ったり、功を競ったり、自己の欲だけにとらわれて大局を見失うな。もちろん、誰かに負けまいとする気持ち、功を上げようという気持ち自体が悪いというわけではない。それが強さを発揮することもまた、間違いではないのだからな」
「――はい」
 唇を噛みしめるようにして返事をする水月だったが、祐麒を睨みつける目は獲物を狩ろうかとする獣そのもので、なんでそうなるのか分からず内心ではビビりまくっている。
「この借りは、今日の夜に返すからね! 待ってなさいよ!」
「お手柔らかにお願いします」
「何言っているのよ、あたしの方が上なんだからねっ」
「なるほど、ベッドでは速瀬中尉の方が上に乗って主導権を握るわけですね。さぞや激しい動きなのでしょうね、速瀬中尉となると」
「なっ……ちょ、な、何言っているのよ宗像!」
 いつも通りの美冴の軽口に、いつものように赤面して反応してしまう水月。この辺は純情で可愛らしいと思えるのだが。
「――と、麻倉が」
「速瀬中尉、本当なんですかそれ!?」
 お約束を美冴が全てを言い切る前に、なぜか当の麻倉が噛みついてきた。
「へ? ど、どうしたのよ、麻倉」
「どうしたもこうしたも、本当なんですか? その、夜にベッドでって……」
「ほっ、本当なわけないでしょう!? なんであたしが、福沢なんかとっ」
 事実ではあるが、そこまで大きな声で激しく否定されると、分かってはいるけれどちょっとばかりへこみそうになる祐麒だったが。
「そうですか……良かった」
 ほっ、と息を吐き出した麻倉が、安堵したような笑みを浮かべたのを見て、祐麒ではなくヴァルキリーズの面々が目を丸くする。麻倉は普段おとなしく、高原の後ろについて歩くようなイメージが強くて、自信のなさそうなおどおどした表情をしていることが多いのだが、その麻倉が滅多に見せること無い笑顔を見せたからだ。付き合いが浅くそのことを知らない祐麒は、単純に笑顔を受けて笑い返す。麻倉はすぐに表情を戻したが、ほんのりと頬が赤くなっている。
「えーと……」
 どこか困惑した様子の水月。
「祐麒くんっ、この前約束していた1on1の勝負、覚えているよね? 今夜あたり、どうかなぁ」
「え、いきなりどうしたの柏木さん」
「やだなぁ。あたしのことはハルーって呼んでって言ったのに」
 晴子が長身を寄せながら言ってくる。
「美冴さん、放っといていいんですか?」
「なんで私が……それより乃梨子が獲物を殺すような目で福沢のことを睨みつけているのが気になるのだが」
 途端に騒がしくなる戦乙女の面々、我関せずという態度を見せているのは祥子のみと、この辺の女性らしい賑やかさ、華やかさにはいつものことながら圧倒される。そして、こういう場を締めるのもいつも通りにみちるの役目となる。
「いい加減にしないかお前たち、いつからここは小学校になったんだ。浮かれている場合ではないぞ、今頃A207B分隊は総合戦技演習真っ只中、うかうかしていたらお前たちなど簡単に追い抜かれてしまうかもしれないぞ」
 その言葉に反応するのは、A分隊に所属していた面々。
「そんなことっ。あたし達はこんなに」
「自惚れるなよ涼宮。まだまだひよっこなことに変わりはないんだ、その程度の先行など、一度戦場に立ったらすぐに追い抜かれるレベルだぞ。実際、先ほどのシミュレーションの結果はどうだったんだ? 麻倉、柏木、男を追いかけている場合か?」
「…………っ」
「よーっし、休憩はもう終わり! いくわよ皆!」
 新たに気を引き締め直した水月の号令のもと、戦乙女の面々は再びシミュレータへと足を運ぶ。

「――ありがとうございます、伊隅大尉。助かりました」
「困るな、あれくらいあしらってもらわないと」
「いや、女性はどう対して良いのかわからなくて」
「そうか……まあ、とにかく同じ部隊の中、恋愛ごとで無用な諍いや対立を起こすようなことだけは注意してくれ」
「それは大丈夫でしょう、俺なんてからかわれているだけですから」
「………………福沢、お前な」
 盛大なため息を吐きだし、大げさに頭をかいてみせるみちるに、祐麒は訳も分からず首を傾げる。
「はぁ……まあ、いい。確かに、福沢がその調子なら、逆に大丈夫かもな」
「何がです?」
「気にするな。さて訓練だが……福沢はどうする?」
「あ、俺ちょっと機体を見に格納庫に行きたいんで、お願いしていいですか」
「構わん。私も気になるからな、後で教えてくれ」
「了解しました」
 敬礼をしてその場を去る。
 先日の新潟の戦闘では、新OSを搭載していなかったとはいえ、他の衛士ではあまりやらないような機動をしていたのは事実、それによって機体の損耗がどの程度なのかを知っておきたかったのだ。

 いざ格納庫に到着し、顔なじみになっていた中年の整備員に話を聞いてみたところ、やはりみちるや水月の操縦した機体と比べてみると、劣化度合いが大きいことが分かった。しかし、茜や他の新任少尉と比べるとさほど違いはない。これは新任達の技量がまだ未熟であり、無駄な動きや負荷のかかる動きをしてしまっているせいだろうが、思ったほど劣化が激しくなくてとりあえず胸を撫で下ろす。
 戦術機は何度でも無限に出撃できるものではない。戦えば、いや動くだけで各部は損耗するし劣化してゆく。整備は怠らず、必要な部品を交換し、激しい動きや戦いに耐えられるよう日々のメンテナンスが重要になる。更に言えば、パーツとて無限にあるわけではない。原材料、加工するための道具に製造技術と技術者、整備兵、衛士よりも多くの人が必要になる。部品が足らず動くことのできない戦術機など、巨大な鉄クズでしかないのだから、その重要性は言わずもがなであろう。
「いつもありがとうございます。堀部さん達のおかげで、俺たちは安心して戦場で戦えています」
 改めて礼を言うと、喜ばれるどころかうさん臭そうな目つきで見られた。
「感謝されるようなことじゃねえ、俺達は当たり前の仕事をしているだけだ。俺達の手落ちでお前さん達がおっ死んだ、なんて言われたらたまんないからな」
 憎まれ口を叩く整備兵の堀部だが、その言葉の中には己の仕事に対するプライドが強く感じられる。そう、彼らにとっては褒められるようなことでも、称賛されるようなことでもない、そして堀部の言う通りに僅かなミスでも大きな失点になる。ある意味、衛士よりも厳しい世界なのかもしれない。
「だから、お前さん達もやるべきことをきっちりやってくれたら、それでいいんだよ」
「はい、分かりました」
「はっ! 何が分かったんだか……あんた、この前来た大尉さんだよな」
 ジロリとねめつけられ、無言で頷く。
「そうか……あんたともう一人、同じ時期に来た兄ちゃん。あんた達が来てから、この基地の雰囲気がなんとなく変わった気がするよ」
 来たばかりで昔の雰囲気を知らない祐麒には分からなかったが、そういったものだろうか。軽く首をひねる祐麒。
「――基地の雰囲気じゃない、もっと別のことを変えてみせますよ」
「そうかい。期待して待ってるよ」
 軽く手を振って、堀部はぶらぶらと去っていく。その背中を見つめながら、自分たちは数多くの知らない人たちの支えの元で戦うことが出来ているのだと、改めて理解する祐麒だった。

 

 堀部と別れた後、一人で格納庫内を歩いてみて回る。なんだかんだいってロボット物は好きだし、そんな状況でないと分かっていてもワクワクするのは止められない。厳しい時だからこそ、ささやかな楽しみを持っても良いだろうと自らに言い聞かせる。
 そうして歩いているうちに、見慣れぬ機体が搬入されているのを目の当たりにして立ちすくむ。前にいた世界でも見たことがない、真紅の機体。
「なんだこれ……こんな戦術機、見たこと無いぞ?」
 不思議に思いつつも吸い寄せられるように近づいていく。真新しい機体、赤といっても目に眩しい明るい赤ではなく、やや重みを感じさせるというか、影を感じさせるような『紅』というのが正しいと思える輝き。
 自然と手を伸ばし、機体に触れようとする祐麒。
「――待て、勝手に触るな」
「っ!?」
 直前で手を止め、声のした方に顔を向ける。気を抜いていたとはいえ、気配を全く感じさせずに接近をしていた相手に対し警戒する。
 通路の奥の影となった部分からゆっくりと姿を現す、機体と同じように真紅の装束を身に纏っている女性。
 何度も驚いているけれど、それでも慣れることなどない。
「よっ……蓉子先生!?」
「…………私は貴方に教鞭をふるった記憶はないが」
 その顔、その声、間違いなく水野蓉子のものであった。異なるのは、しっかりしていながらどこか天然の入った雰囲気が感じられないこと。常に祐麒に対して向けられていた、優しく姉として包み込むような視線などなく、厳しい表情と鋭い目つきで祐麒のことを見つめている。
「いや……それは失礼。俺の記憶違いで」
「そもそも、私と貴方は初めて顔を合わせる筈だが?」
 これも、何度繰り返しても慣れることはない。親しかった相手から、他人として振る舞われるたびに味わう、胸の痛み。
「そう、ですね。噂で、聞いたことがあっただけでした。帝国斯衛軍の水野蓉子さん」
 本当は知らなかったが、とりあえず特徴的な軍服で斯衛軍ということだけは分かったのでそう言っておく。前の世界でも、長く戦っていく中で斯衛の知り合いも出来たのだ。
「そう……どのような噂かは、聞かないでおこう。どうせ、良い噂ではないのだろう?」
 無言で応じる。勿論、噂があることすら知らないからだが。
 何も返事をしないことをどう受け取ったかは分からないが、それ以上のことを蓉子は言及してこなかった。
「危なかったな。勝手に触れていたら、貴方の五本の指は十本になっていたところだ」
「うわ、怖っ……って、この機体はなんなんですか?」
「教える義理はないのだが、どうせ近いうちに知れるのだ、答えてやろう。この機体は『櫛名田』、祥子様のために存在する、専用の機体」
「祥子さん……の? なんで、そんな」
 蓉子は『祥子様』と言った。ということは、蓉子にとって祥子は上司、いや主君に近い存在となるのかもしれない。しかし、部隊における祥子に対し、他のメンバーはごく普通に接している。身分を隠しているのか、それとも単に祥子と蓉子の個人的な関係なのか、だが斯衛の蓉子が『様』を付けるくらいなのだ、それなりの家系に属していておかしくない。元の世界でも小笠原家は有名だったし、ならばこの世界でもそれなりの地位を築いていてもおかしくはないということか。
「まさか、知らないとでもいうわけではあるまい」
 いや、知らないんですとも言えず、黙っている祐麒。
「先ほどから質問ばかりだが、むしろ私の方から聞きたいことがある」
 殺気ともいえるオーラを放ち、蓉子は相対してくる。
「――福沢祐麒、貴方は何者だ?」
「何者って……今は一応、大尉ということで」
「そういうことではない、とぼけようという気か」
「いや、本当に何のことだか」
「貴方は死人……いや、そもそもこの世界に存在しない、死人ですらない。どこから紛れ込んできたのか、どのような情報操作をしたかは知らないが、存在しない人間が何故、此処にいる? 目的があって祥子様に近づいたのか?」
 淡々とした言葉、決して激した様子を見せてもいないのに、この場から逃げることを許さない圧力を放ってきている。
 蓉子の言う通り、祐麒は元々この世界に存在していないのだから、祐麒個人の情報が無いのは不思議でないのだが、それを言うわけにもいかないし言ったところで信じてもくれないだろう。
 しかし、祐麒が『存在しない存在』であるならば、蓉子はどうなのだ。祥子は、江利子は、乃梨子は、なぜ存在しているのか。
「……答える気はないか。まあいい、いずれ全ては白日の下にさらされるだろうから」
「蓉子せん……蓉子さん、何をどう思ってくれてもいいですけれど、これだけは信じてください。俺は祥子さんをどうこうするつもりはありません。むしろ、何があっても必ず祥子さんを、いや俺の仲間は死なせない。この言葉に嘘はありません」
「…………」
 しばしの間、目をそらさずに蓉子の視線を受け止める。見たことのない蓉子の表情、目つきをまともに受けるのはきつかったが、そらすわけにはいかない。
 そして、やがて。
 何も言わずに蓉子は踵を返してその場を去って行こうとする。だが、祐麒に背を向けようとした刹那、その横顔の口元に僅かだが笑みのような形を見たような気がした。それは、前の世界で目にしていた蓉子の笑みに近いように、ただの気のせいかもしれないけれども思えたのだ。
 しかし。
「蓉子先生、めっちゃ怖いじゃん!!」
 今まで出会ってきた中で一番のギャップに、実は内心涙目の祐麒だったのであった。

 

 その日の夜、夕呼の執務室にて。
「この世界に福沢が存在しない? そこにいるじゃない」
「そういうことではなく」
「分かってるわよ、確かに福沢のことはどこにも情報がなかった」
 祐麒からの問いかけに対し、ごく当たり前のように答える夕呼に祐麒は若干驚きはしたが、よく考えれば夕呼が今まで何も調べずにいたはずがないのだ。
「同姓同名の人物も存在しない。少なくとも正式なデータ上は」
「非公式には存在すると?」
「非公式なデータなんかわかるわけないでしょ。それこそ私生児、密入国者、可能性ならなんでもある。だけどまあ、帝国の衛士に身元不詳の人間ってのは少し不自然だけどね」
「俺という人間が存在するデータがないのは、やはり異なる世界から来たせいですかね。だとすると、どうして他の人と異なるのでしょうか」
「仮説なら幾つか考えられるけれど、今それを話したところで意味もないわね。他にやることは幾らでもあるし、まずはやるべきことをやりなさい。ま、福沢のデータはこっちで作って入れ込んでおいてあるからその点は心配しないで。福沢が来てから真っ先に対応したわけじゃないから斯衛に気が付かれたのかもしれないけれど、出生を隠したかった事情を作ればそれも問題ないでしょう」
「…………なんか、さらりと凄いことを言われた気がするんですが」
 それまでディスプレイに向かって祐麒に背を向けていた夕呼が、椅子をくるりと回転させてこちらを見て口角を上げる。
「聞きたい?」
「いや……まあ、聞きたいです」
 ここで「聞きたくない」と答えたら逆に面倒なことになりそうだったし、実際に興味もあったので素直に返事をする。
「あんたの母親は九条家……五摂家の一つね、そこの落とし種で、一般人の父親との間に生まれたのがあんたってことにしといたから」
「いやいや、滅茶苦茶じゃないですか。てゆうか、あんま大事なポジションじゃないですよね、それ」
 祐麒自身が本家の誰かの落とし子というならともかく、落とし子の落とし子では、特にこれといった権利や地位もないはず。そもそも、九条家の落とし種なんて勝手に設定を作って怒られないのだろうか。
「ふふん、そりゃ本人たちは否定はするだろうけれど、実際に落とし種の話はあるわけよ。ま、この手の話には事欠かないわよね~。しかも一時期、その落とし種の子こそが正式な後継者だ、なんてお家騒動が内々にあったりもしたりして。世間には明かせないけど」
「か、勘弁してくださいよ」
 思わず頭を抱えたくなる。どこかの安いドラマではないのだから。
「それくらいでうだうだ言わないの。むしろ、ある程度怪しい裏があった方が、見ている方は食いつきがいいものよ」
「食いつきってなんですか。何かやるつもりなんですか?」
「当たり前でしょう、何もやらないで事態が良くなることなんてないんだから」
 不穏なことを口にする夕呼だったが、それ以上は忙しさを理由に聞き出すことが出来ずに部屋を追い出されてしまった。

 考えたところで分かるわけもないので、気分を切り替えて向かった先には。
「――祐麒さん。こんばんは」
「こんばんは、霞ちゃん」
 うさ耳をぴょこぴょこさせている霞の姿。別に霞のもとに足しげく通っているロリコンというわけではない。
 目を向けた先には、巨大なシリンダー容器とその中に浸かっている脳と脊髄が二つ。不気味なはずなのに、なぜか訓練の合間をみつけて何度も来てしまう。
「なんなんだろうな、これは……」
 近づき、そっと冷たい容器に手を触れて撫でる。
「…………もっと、遊びに来てください」
「ん? そうだなー、俺も霞ちゃんと遊びたいけれど、仕事もあってさ」
「そうじゃありません。私のためじゃなくて……」
 ちらと、シリンダーに目を向ける霞。
「ん…………?」
 並んで見つめるも、当たり前だが何も反応はない。
「……よし、霞ちゃん、遊ぼうぜ。何して遊びたい?」
 気を取り直し、改めて霞に向き直る。霞と遊ぶのは気分転換なのだ、難しいことは忘れて楽しみたい。
 すると、霞はちょこんと首を傾げ、うさ耳を揺らし。
「……お医者さんごっこ?」
「ちょっ、誰にそんなこと教わったの霞ちゃん!」
「江利子さん……です。そういえば、祐麒さんが喜ぶからって」
「えっ、江利子先生ーーーー!?」
 叫ぶ祐麒ではあったが、確かに男心はくすぐられていた。

 

次に続く

 

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