【作品情報】
作品名:ベーシックインカム
著者:井上 真偽
ページ数:236
ジャンル:SF、ミステリー
出版社:集英社
おススメ度 : ★★★★★★★☆☆☆
こういう未来がありそう度 : ★★★★★★★★☆☆
こういう人におススメ! : 近未来SF+ミステリに興味を惹かれる
様々な未来の技術。
人生を豊かにする、人々を幸せにするための技術が実現した時、それらた人々にもたらすものは希望なのか、それとも。
SF+ミステリの融合した短編集。
収録されている短編は全部で5編。
それらが題材としているものは、
- 遺伝子操作
- AI
- 人間強化
- VR
- ベーシックインカム
といった、様々な技術であったり制度であったりする。
現代社会ではまだ実現可能とまでは至っていないレベルの技術が実際に確立され、人々にもたらされたとき。
本来、人間の生活を楽にしたり、豊かにしたり、幸せにしたりするはずのものが実際に与える影響というものを、ちょっとした謎と共に提供していく。
単に未来を見せるというものではなく、それらが持つ可能性といったものを提示しているとでもいおうか。
読めば、確かにそういう未来もあるのかもしれないと思わされる。
即ち、果てしなく遠い未来や想像することも出来ないような技術ではなく、現在でも実際にある程度は実現されているものがより発展した姿を描いているということ。
だから読んでいて想像もしやすい。
ミステリ作家としてデビューした作者であるから謎、ミステリもうまいこと取り込んでいるが、それはアクセントというか、SF的世界をより効果的に見せるための味付けのように感じた。
本作の妙はあくまでもSF、近未来の世界を興味深く描いたことだろう。
とはいっても小難しいことはなく、文章は読みやすく、短編で一つ一つが適度な長さですらすらと読める。
SFやミステリ、あるいは読書に慣れていなくても、ある意味身近なテーマでもあるのでおすすめできるかも。
どの短編もSFではあるが人を、人と人の関係というか情を描いているのもまた特徴的。
技術がいくら進んでも、やはり人と人の関係というか、繋がりというかの重要性は変わることはないと言っているようにも見える。
その中では、父と娘のことを描いた「目に見えない愛情」が、ラストのどんでん返し的な部分も含めて良かったかな。
タイトル的に、経済の本かと勘違いしやすいですね。
表紙デザインもそれを意識しているのか、あえて小説に見えないデザインにしているのかもしれません。