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SF ミステリー 書評

【ブックレビュー】電気じかけのクジラは歌う(著:逸木 裕)

更新日:

【作品情報】
 作品名:電気じかけのクジラは歌う
 著者:逸木 裕
 ページ数:402
 ジャンル:SF、ミステリー
 出版社:講談社

 おススメ度 : ★★★★★★★★☆☆
 こんな世界になりそうだなぁと思う度 : ★★★★★★★★★☆
 こういう人におススメ! : 音楽に携わっている人は是非に

 

■作品について

近未来、AIが発達した世の中において、作曲はAIがするものとなっていた。
誰でも、その人が好む曲をAIが作ってくれる世において、作曲家というのは絶滅危惧種になっている。
岡部数人もかつては音楽活動で作曲をしていたが、AIの発達により作曲をやめ、今は逆にAIのために曲を聴く検査員として働いていた。

ある日、かつての音楽仲間であり天才作曲家の名塚楽が自殺した。
名塚の死後、岡部のもとに届けられたのは名塚の指を象ったオブジェと未完の曲。
名塚の真意はどこにあるのか。

AI社会の中の謎に迫るミステリー。

■良かった点

今の時代でも既にAIは徐々に社会に浸透し、仕事をするようになっています。
単純作業はAIに任せ、かつて事務や雑務をしていたような人の仕事が少なくなっていく。
それはおそらく各業界に波及していくのでしょう。
音楽業界も、AIがあらゆる曲を分析し、人が好む曲を生成してくれる。
ボーカロイドが普通となっている今、作曲家の仕事が減っていくというのもなんだか頷けちゃいそうです。

そんな近未来を舞台にして発生した事件。
AIが曲を作っている中、僅かな天才だけが作曲としての仕事を続けられる。
名塚楽はそんな数少ない一人だったが、家族を事故で失ったことを契機に仕事が出来なくなった。
しばらく音楽活動を止めていた彼だが、ある日から音楽活動を再開したと思ったら、自殺をしてこの世を去った。
彼の職場の壁に貼られて残されていた楽曲データ。
そして、かつての音楽仲間のもとに届けられた未完の曲。

謎を追いかける楽しみ、そしてAI社会の中でなおも曲を作り続けようと、あるいはその流れの中でどう生きようとするのか、そういったことも考えさせてくれる作品である。

人工知能が客の好みに合わせて作曲するアプリ「Jing」

実際にそういうアプリが出たらどうなるのでしょうね。
歌も、ボーカロイドが好みの歌い方で歌ってくれる。
そうしたら作曲家、歌手は本当に必要ないのか。
そうではないと思いたいですね。

AI技術を上手く使い、人と共生してよりよい曲を作り出していく、そうなっていくのが良いのかなぁ。
私は音楽に造詣も深くありませんが、音楽に携わっている方は読んだらどう感じるのか聞いてみたい。
悩んで、苦しんで、血反吐を吐く思いをして作り上げた曲を、簡単にAIが上回る。
そんな世界、クリエイターにとっては地獄でしかない。
それでも、「創りたい」という欲求に従って創り続けていくのか。

リアルに感じられるだけに、なんともいえない重さがある。

でも、最後は未来を感じさせてくれる感じになっていて良かったとは思う。

■ここが改善できるともっとよかったかも?

岡部の行動は、多分、多くの普通の人がやっちゃうことなんだろうなぁ。
ああしてほしかった、こう行動してほしかった、そう思ったりするけれど、主人公を平凡な男にしないと苦悩が描けないから、致し方ないのだろう。

 

 

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