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ノーマルCP マリア様がみてる 江利子

【マリみてSS(江利子×祐麒)】メルティング・テンプテーション <その3>

更新日:

~ メルティング・テンプテーション ~
<その3>

 

 

 なんとなく、予想はできていた。
 女の格好をして来てしまい、江利子の表情を見て、遅刻したから何でも付き合うと約束してしまって。
 しかしまあ、ここまで予想通りというのは笑えるというか、笑ってでもいないと泣いてしまいそうというか。
 祐麒は江利子にひきつられ、洋服をみにきていた。もちろん、女性物である。そして、祐麒が着るための服を物色している。これではまるで、昨日の麻友と全く同じである。
 江利子は嬉々として、祐麒に似合う服を探している。選んでくる服が麻友と異なるところが、なんとなく面白かった。可愛い系統のものを選ぶのは同じだが、麻友はカジュアルなものが多く、江利子は清楚なものや、フェミニンなものが多かった。
「あ、これも可愛い、似合うんじゃないかしら」
 もっとも、着せ替え人形はごめんこうむりたい祐麒としては、迷惑以外の何物でもないのだが、昨日の麻友と違い江利子には引け目があるので断りきれず、何着も試着をさせられている。
 今、江利子が手にして持ってきたのは、裾切り替えのワンピース。鮮やかなブルーがメインで、下がホワイト、ブラックの配色使い。確かにワンピースの方が、腰が締め付けられることなく素直に着られることが多いが、恥しいことに変わりない。
 ちなみにそんなことを考えている現在も、繊細なレース使いのトレーナーに白いひらひらのティアードスカートという、なんとも上品な感じのコーディネートをされている。
 そんな祐麒を前にして、江利子は考えている。
「うーん、何か物足りないのよね……」
「物足りないも何も、男なんで……」
 もちろん、祐麒の言葉など簡単に黙殺される。
「……あ、そうか!」
 しばらく黙考した末に、江利子は一つの回答を導き出したようだった。祐麒にとっては、嫌な予感しかしなかったが、その予想はすぐに事実に変わる。

 

「――わあ、やっぱり素敵!」
 祐麒の姿を見て、江利子は声をあげた。
 服装自体は、先ほどのトレーナーにホワイトのティアードスカートと変わっていない。では何が変わったかといえば。
「い、違和感が」
「そんなことない、可愛いって」
 胸にほんのりではあるが、隆起が出来ていた。
 激しく拒否った祐麒であったが、江利子を止めることはできなかった。祐麒一人でうまく装着できるわけもなく、江利子に半ば強引にヌーブラを装着させられている時間の情けなさといったら、言葉で表しようがない。
 そうして、改めて服を身につけてみてみると、きちんと胸の膨らんだ女の子ができあがっていた。
 おまけにその後、化粧品売り場に行って、お試しコーナーで軽くメイクなんかされてしまって。
「やだ、可愛い! もー、絶対に女の子にしか見えないっ!」
 と、江利子は大はしゃぎ。
 祐麒だって、鏡に自分の姿を写してみて、ちょっと気持ち悪いと思ったものの、しばらく見ていると、本当に可愛いのではないだろうかと思えてきた自分自身に嫌悪を覚えたくらいだ。
 着替えさせて欲しいという祐麒の嘆願など華麗にスルーし、江利子は上機嫌で祐麒を引っ張っていく。
 ショッピングセンターを出て街を歩き始めると、周囲の視線が先ほど以上に気になりだした。女装をしていること自体は変わりないが、下着まで身につけて自分の意識が変わる。誰も彼もが、祐麒のことを変態だとみなしているのではないかと勘繰ってしまうのだ。
「ねえ、本当にショーツは穿かなくてよかったの?」
「よかったです! てかなんでそんな真剣な顔して聞いてくるんです!」
 憂えるように祐麒のことを見つめてくる江利子に、泣きそうな顔でつっかかる。先ほどの下着売り場では、江利子は本気で上下セットを選ぼうとしていたのだ。上だけでも屈辱というか、なんとも着心地が不可解だというのに、下まで身につけたらどうなってしまうか考えられなかった。
 なんでそんなことを想像せねばならないのかと、落ち込みたくなる。
「そんな下向いて歩かない。せっかくだから、楽しそうにいきましょうよ」
 楽しいのは江利子だけだろうと思いつつも、引き攣った笑いを浮かべて顔を上げると。
 ちょうど、前から歩いてきた二人組みの男と擦れ違ったのだが、背中からその二人が話す声が聞こえてきた。
「うお、今の二人組、チョー可愛くね?」
「ヘアバンドの方の子凄い好み」
「俺、白いスカートの子の方がいいな」
 そんな台詞が耳に入り、寒気がはしり抜けた。しかも、今の二人組みは花寺の制服らしきものを着用していた気がする。
 おぞましさと、ひょっとしたら自分のことを知っているかもしれない人間に姿を見られて、羞恥心が一気に広がってゆく。
「え、江利子さん、街中歩くのはちょっともう。ど、どこか行こうよ」
 江利子の服の袖を掴み、嘆願する。ひょっとしたら、今までだって誰か知っている人間に見られた可能性だってあるのだ。考え出すと、どんどんと悲観的な方向にいってしまう。
「うーん、そうねえ、じゃあ」
 そういって次に連れて行かれたのは、ゲームセンター。といってもビデオゲームが立ち並んでいるところではなく、1フロアの半分くらい、様々なプリクラ機械が置かれている場所。
 いつも、女子高校生やなんかが集まっていて、色々と写真を撮っているのを横目で見たりはしていたが、まさか自分が入ることになるとは思ってもいなかった。しかも、女の子の格好をしてである。
「あのー、江利子さん?」
 及び腰になりながらも、後をついていく。
 周囲にはギャル系の女の子もいれば、普通っぽい女の子、女子大生くらいの人もいてと、本当に様々である。
 そんな中、祐麒と江利子は一つの機械の中に入り込んだ。
「記念に、撮りましょ♪」
「うう、やっぱりそうですよね」
 プリクラコーナーが見えた時点で嫌な予感はしていたが、本当に入ってしまうとは。正直なところ、今の自分の姿を写真などに残したくなかったが、ここまで来て江利子が引き下がるとは思えない。素直にさっさと写真を撮って、忘れてしまおう。
「どんなポーズでいく? 清楚なお嬢様系? それともギャル系?」
 楽しそうに立ち姿を考えている江利子。その無邪気な様子を横から見ているだけなら微笑ましいが、自分が巻き込まれているとなると、単純には笑えない。
 江利子に言われるまま、スカートの前で両手を組んで澄ましたポーズで、二人で左右対称になるように撮る。
 続いて今度は、ちょっと前屈みになる格好で顔の横でピースサイン。さらに二人背中合わせでキメてみせたりもして。
 背景やフレームを選んで、様々なスタンプでデコレーションして、マーカーで落書きをする。
 殆どは江利子がやったけれど、促されて急かされて、祐麒も適当に加工を加えた。
 これでようやく終わったと思ったのも束の間、なんと江利子は別の機種に向かって歩き出したのだ。
「あは、プリクラって初めてやったけれど、面白いのね。今度はコレ、やってみましょう」
 目を輝かせている。
 反論したかったが、他の女の子の客の目が気になり、隠れるように撮影スペースの中に入ってしまった。
「じゃあ、次は違うポーズで撮りましょう」
 こうして、まるではしごするかのように様々なプリクラをまわっていくことになった。初めのうちは普通のポーズだったのだが、段々と江利子も調子に乗ってきて、色々なポーズを要求してきた。
 胸の前で指でハートを作ったり、お互いの手を使ってのハートを作ったり、アイドルみたいなポーズをとらされたり、ネコみたいになってみたりと、滅茶苦茶に恥しいが、まだそれだけでも終わらなかった。
「今度はちょっとセクシー系でいってみる?」
 と言い出した江利子は、いきなり祐麒のスカートの裾をつまんで持ち上げた。
「ひゃあっ!?」
 慌ててスカートをおさえる。
「な、な、な、何するんですかっ!」
「だから、セクシー系で。見せるわけじゃないから」
「で、で、でもそんな」
「あ、ほら撮影されるから早く早く」
「え、あ、わ、ええっ?」
 急かされて、思わず画面に対し斜めの体勢でスカートの裾をちょんと軽く持ち上げるポーズをとってしまった。
「あははっ、恥らっている感じが可愛いーっ!」
「わー、い、今の取り消してくださいっ」
「ダメダメ、ほら可愛い」
 江利子は喜色満面で写真を手に眺めている。今まで撮影したもの以上に、これは決して誰にも見せられないと思った。
「はい、次はもっと大胆に」
 背後に回りこんだ江利子が、後ろから手をまわしてきてスカートを掴んであげようとする。先ほど以上に太腿が見えて、祐麒は抗おうとするが。
「もう、観念しなさいよ」
 祐麒に抱きついてきている格好となり、背中に江利子の柔らかくて大きな胸が押し付けられていた。
 一気に、血が昇る。
 その瞬間、初めて、スカートでよかったと思った。
 しかし、落ち着いてはいられない。江利子は諦めずにスカートを捲ろうとしてきて、それは即ち、更に背中に凄く気持ちいい感触が伝わってくるということでもあり。
「わ、わ、やややヤバイから、これ以上上げたら、本当にやばいからっ」
 前屈みになり、必至で前をおさえる。スカートをおさえるというよりは、股間をおさえる格好である。
「ほら、見えそうで見えないのが色っぽい。あとやっぱり、恥しそうなのがポイントよね」
 画像の写された画面を見て、満足そうに頷いている江利子。その祐麒の表情に、二重の意味での恥しさがあることには気がついていないようだった。
「ず、ずるいですよ、俺ばっかりこんな恥しい格好させられて……」
 ぶつぶつと、文句を言うと。
「じゃあ、今度は二人でやりましょう」
「え、いや俺はもう」
「だーめ、ほら」
 江利子は自分のチュニックのフリルの裾をつまみながら、もう片方の手で祐麒のスカートを大胆に捲り上げようとする。はっきりいって、これまでのプリクラでの行動を見てみると、単なる恥女のようである。リリアン育ちのお嬢様とも思えない行動である。
 祐麒は抵抗してスカートをおさえ、江利子は面白そうに上げようとする。
 そんな状態のまま、いつのまにか撮影されてしまった。
「――あ」
「え?」
 画面を見てみると。
 祐麒のスカートを捲ることに夢中になっていたのか、江利子は自分の格好に意識が向いていなかったようで、つまみあげたフリルの裾の下のショーツとお尻がちらりと見えて写っていた。
「きゃっ、やだ、これ消去!」
 気がつき、慌てて消そうとする江利子。
「ずるいですよ、自分だけっ」
「何よ、えっち!」
「自分でやったんでしょうがっ」
 二人で騒ぎながら結局のところ消されてしまい、ほっとしたように江利子は一息をついたが、祐麒は携帯電話を手に、内心では不敵に微笑む。今は赤外線の時代、画像はしっかりと携帯電話内のメモリに取り込んでいた。
「何? 電話?」
「ああいえ、なんでもないですっ」
 携帯電話を閉じ、スカートのポケットの中に戻す。
 なんだかんだいいつつ、祐麒もやはり男なのであった。

 

 そんな風にゲームセンターで遊んでいるうちに、あっという間に時間は流れていた。店を出るとあたりは既に暗く、夕食は家で食べることになっているからと、江利子は祐麒に手を振りながら駅の構内に消えていった。
 そしていざ一人になったところで、祐麒は重大なことに気がついた。祐麒自身は一体、どうやって自宅に帰ればよいのだろうかと。
 何せ今は女の子の格好をして、おまけに軽くメイクまでしている。このまま家に帰ったら、両親に何と思われるか分かったものではない。
 どうしようかと困惑しかけたところで、そういえば元もとの服は麻友の部屋に置きっぱなしであることを思い出した。
 麻友の部屋に向かおうかと思ったが、確か今日、シフトで店に入っているはずなので、とりあえず祐麒はバイト先に向かうことにした。
 暗くなったとはいえ、街の明かりはまだ消えていない。下を向くようにして、なるべく顔を見られないようにして早足で歩いて、店の看板が目に入ったところでようやく一息ついた。
 少なくとも、店の中なら隠れていられる。
「あの、すみません」
「へ、は、はいっ?」
 そんな、気が抜けたところで不意に横から声をかけられた。間抜けな声を発しながら横を向いてみると、同い年くらいの女の子が立っていた。
「あの、失礼ですが『サティー』のユキちゃんですよね?」
『サティー』とは、祐麒がバイトしている店の名前である。
 思わず祐麒は頷いてしまった。直後に、否定すればよかったと思ったものの、目の前の少女を見ると、よく店で見かける顔だったので、無意識的に嘘がつけなかったのかもしれない。
 祐麒が頷くのを見て、女の子は手を叩いて喜んだ。
「うわ、感激、私服姿のユキちゃんに会えるなんて。もー、私服姿も凄い可愛い! あたし、ユキちゃんのファンなんです」
「あ、ありがとう」
 少女の勢いに押されてしまう。
「あ、自己紹介が遅れました。あたし、太仲女子の田中寧々っていいます」
「ど、どうも」
 さっさとその場を離れようとしたが、寧々は祐麒の行く先を塞ぐように立っている。
 そして。
「あ、あのっ。こんなチャンスもうないかもしれないので、思い切って言っちゃいます」
「な、なんでしょう」
 思いつめたような寧々の表情。
 なぜか、あまり良い予感はしない。
 一度うつむき、自分に気合を入れるようにしてから寧々は顔をあげ、口を開いた。
「あたし、そのっ、ユキちゃんのことが好きなんです! その、ファンとかそれ以上に。だ、だから、あ、あたしとお付き合いしてくださいっ!!」
 上気した頬で、真剣な瞳で言い放ってから、勢いよく頭を下げる寧々。
 一方の祐麒は、呆然としていた。
 それもそうだ、生まれて初めての女の子からの告白だったのだが、その告白は『祐麒』に対してではなく『ユキ』に対してのものだったのだから。
「ええと……寧々ちゃん、あの、でも私達、お互いのこともよく知らないし、いきなり付き合うとか言われても」
 お陰で、そんなことを口走ってしまった。
 それを聞いて寧々は顔を上げたが、表情は輝いていた。
「じゃ、じゃあ、これからあたしのこと、よく知ってください! うわ、嬉しい……」
 わずかに涙ぐんだ瞳を、指で拭う寧々。
「ど、どうしたの、寧々ちゃん?」
「だって、気持ち悪いとか、変態とか言われるかもって覚悟もしていたから……ユキちゃんも、あたしと同じなんですね」
「えええっ!?」
 泣きながら喜んでいる寧々。
 混乱する祐麒。
 とりあえず泣いている寧々をそのままにしておくわけにもいかず、ハンカチでも取り出そうとしたのだが、狼狽していたのか先ほど撮ったプリクラ写真をばらばらと落としてしまった。
 慌ててしゃがみ込み、落とした写真を拾い集める祐麒だったが。
「こ……このヒトは」
 いつの間にかプリクラを拾い上げていた寧々が、震える手で写真を見ていた。祐麒と江利子が、仲睦まじく写っている写真を。
「あ、あの交際宣言は、冗談じゃなかったんですか!?」
 驚きの表情で、詰め寄ってくる。
 寧々が言っているのは、しばらく前、人気投票結果で猫メイド姿になったとき、江利子が祐麒に対してキス(真似)と恋人宣言をしたときのことであろう。
 一応あの後、あくまであれはサービスであり冗談であると説明をしてある。
「いや、あの、これは」
「こ、こんな密着して……って、ぶはっ!」
 いきなり鼻血を噴出した。どうやら、スカートちらりの写真を見たようだった。
「あの、大丈夫?」
「ま、ま、負けませんからねーっ!」
 寧々は、鼻をおさえ、プリクラ写真を大事そうに抱えながら、夜の街に消えていった。
「な、なんだったんだ……」
 呆然として見送っていると。
「あらー、女の子泣かせねえ、ユキちゃん」
 いつの間にか、恭子が後ろに立って祐麒のことを見つめていた。
 恭子は同じ店に勤めているウェイトレスで、OL経験をしてから入社したという経緯を持っており、店のウェイトレスでは一番、年上であり、実際にお姉さま系で売っている。
 既に仕事を終えたのか、カジュアルな私服姿である。
「それにしても随分と可愛い格好ねえ。とうとう、普段から女の子の格好するようになったの?」
「あわわ、こ、これは」
「まあ可愛いし、いいんじゃない? で、今日はどうしたの」
「あ、ええと、麻友さんいます?」
「麻友ちゃん? 今日はもう上がっちゃったと思うけど」
「そ、そうですか」
 がっくりと、肩を落とす。
 となると、これから麻友の家まで行かなければならないのかと考えたが、そういえば店のロッカーに予備の着替えを置いていたような気がした。それさえあれば、麻友の家まで行かずにすむ。
「恭子さん、まだお店の中、入れますかね? ちょっと忘れ物が」
「ああ、理於奈ちゃんがまだいると思うから、大丈夫じゃない」
「ありがとうございます」
 恭子に頭を下げ、店に向かう。
 そこでどうにか着替えを見つけ、理於奈に手伝ってもらってメイクを落とし、ようやく祐麒は昨日から続いてきた長い二日間を終えたのであった。

 

 麻友と江利子と過ごした慌ただしい二日間から数日後、祐麒は渋々ながらも言われたとおりに店に向かう途中で着替え、女の子っぽい格好をして店に入った。さすがにミニスカートに生脚なんて真似はできないので、ファッション誌を読んで研究し、パンツの上からチュニックを着たりするファッションを知り、どうにか折り合いをつけたのだ。
 そして仕事をして、その休憩時間、更衣室で麻友につかまった。更衣室内に他に誰もいないことを確認した後、麻友は真剣な表情で祐麒に顔を寄せてきた。仕事中は眼鏡娘になる麻友の、眼鏡の下の瞳が光を放っている。
「ど、どうしたんですか、麻友さん?」
「ねえユキちゃん。正直に答えて欲しいんだけれど」
「は、はい?」
 麻友の迫力に、思わず身を退きそうになるが、すぐ後ろがロッカーなので離れることもできない。
「この前、あたしン家に泊まったときさ、あたしとユキちゃんさ、寝た?」
「え」
「ぶっちゃけていえば、エッチしちゃった? 正直覚えていないんだけど、なんか気持ちよかったような気がするし、起きたら裸だったし……ねえ?」
 ねえ、と聞かれたところで、何と答えたらよいものか困ってしまう。さすがに初めての経験だから、もしも麻友を抱いていたら幾らなんでも全く記憶にないとは思えないのだが、祐麒だって、はっきりとは覚えていないのだから。ただ、麻友の身体が柔らかくて暖かくて、とても気持ちよかったことだけは夢うつつの中でも何となく覚えていた。
 次の日の江利子とのデートでどたばたしたこともあり、忘れかけていたのだが、こうして麻友を目の前にしていると、思い出してきて熱くなってくる。
 そんな祐麒の変化を見て、麻友もまた顔を赤くし出す。
「えと、あ、やっぱり、しちゃったのか……なぁ?」
「いや、それは」
「ああ大丈夫、もしそうだったとしても別に責任とれとか言わないし、江利ちゃんにも言わないから。って、言えないけれど」
「だから、したと決まったわけでは」
「あ、いつまでも休憩していたらダメよね。さ、フロアに戻りましょう」
 逃げるようにして更衣室を出て行く麻友の背中を、慌てて祐麒も追いかけてフロアへと戻っていった。
 そんな二人の姿を、また別の影が見つめていた。
「……うわぁ、聞いちゃった。マジ? 麻友さんとユキちゃんが……?」
 お嬢様キャラで売っている理於奈は、柱の影で口元をおさえて二人の後ろ姿に視線を送るのであった。

 

 

その4に続く

 

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