三つ子というのはそれほど多くはないだろうし珍しいものだろう。事実、私たちも幼いころからよく人にじろじろと見られたり、珍しがられて色々と噂をされたり、興味本位で話しかけられたりもした。
だけど今はそんなことも皆無になった。
「音葉(おとは)、まだ帰らないの?」
「今日は日直だから、日誌書かないと。今日一日のことを書くわけでしょ、そうすると一時間くらいかかるじゃない」
「いやだからそんなかからないって。あたしなんか10分くらいでパパッと書いちゃうけれど」
「10分! 凄いね、けーちゃんは。私には無理だわ」
「音葉が真面目すぎるんだよー、あたしはほら、テキトーだから」
マジメっ子、それは私がもっと小さいころから言われていることである。自分的には真面目というよりも几帳面な性格なだけだと思っているのだが、周囲からすると同じことのようである。
「遅くなるから、私のこと待っていなくていいよ」
「一人で帰ってもつまんないし、待つよー」
「退屈でしょ」
「全然。音葉を見ていると飽きないし」
「私のどこか面白いのかしら……」
呟きつつ学級日誌に向かってペンをとる。
クラスの皆は面倒くさいという学級日誌だけど、私は一日の出来事をまとめていくこの作業が嫌いではない。そうすることで、色々とあったことを思い出していくし、整理できるし、クラスメイトの思わぬ一面を発見してしまうこともある。
「ねえねえ音葉って、いつもどんなこと書いているのー?」
と、日誌を書くことに集中して気付かなかったが、いつの間にかけーちゃんが後ろに回り込んできていて、私の肩越しに日誌を覗き込んできた。
「ちょ、ちょっとけーちゃん……」
「うわっ、あいかわらず綺麗な字! 音葉の字、読みやすくて好きだなー。どれどれ、って、本当に細かいな!」
更に身を乗り出してくるけーちゃん。
それは良いのだけれど、肩に押し付けられてくるのはけーちゃんの胸の膨らみ、中学の時よりもボリュームアップして、柔らかくて、あたたかい。
「ふむふむ」
一人頷くけーちゃんの頬が私の頬をかすめる。
中学の時からの親友であるけーちゃんは、明るくて賑やかで健康的、ショートカットの良く似合う女の子。
「あー、音葉の髪の毛って、あいかわらずサラッサラで気持ちいいよねー」
日誌を読んでいた筈なのに、いきなり話が飛ぶのもけーちゃんらしいけれど、不意打ちを食らった私としてはたまったものではない。母親譲りのやや色素の薄い髪の毛は、確かに母親譲りで良い髪質らしいのだけれど。
「香りも良いしー、羨ましいなー」
すんすんと匂いをかがれ、ちょっと待ってと心の中で思う。
「――おーい音葉いる?」
そんな時に教室に入って来た一人の女生徒。
「ってなんだ、けーちゃんも一緒にいたんだ」
見た目、明らかにギャル。
小麦色の肌、派手に染めた茶髪はゆるふわで可愛い系、メイクも濃すぎず薄すぎずに決まっている。シャツのボタンを外して胸元緩め、スカートの裾は当然短い。
「お、香音(かのん)じゃない、久しぶり」
「どうかしたの香音、何か用事?」
「いや、別に。なんか暇だったから、カラオケでも行かないかと思って。ユカもアヤノもバイトでさー」
「そんで音葉を誘いに来たんだ……ってか、ホントにあんた達って三つ子なの? 全く似てないよね」
年齢が一桁くらいまでの間は、私たち姉妹は本当にそっくりで、周りの人たちが見分けられないくらいだった。ただ性格は全く違っていたので、話すとすぐに誰が誰だかは分かったらしい。
それが見た目も変わり出したのは小学生の中学年くらいからのこと。それまで同じだった髪型、服装がてんでばらばらになっていったのだ。顔の造作が変わるわけではないので、同じ格好をしたらおそらく今でもそっくりなはずだけれど。
「学校帰りにカラオケなんて」
「いいよ、別に。それならけーちゃんと一緒に行くから」
「あたし? うんいいよー、カラオケも久しく行ってないし」
「ま、待って、私も行くわ」
「あれー、学校帰りにカラオケなんて、とか言っていたくせに」
「たまには息抜きも必要よ。それに、香音がお店に迷惑をかけないよう、私が見張っていないと」
「素直に行きたいって言えばいいのに。まいっか、それじゃ先に言ってよう、けーちゃん」
「うええっ、ちょ、ちょっと待って!」
慌てて日誌の残りの部分を埋めようとするが、だからといって手抜きもできない。ようやく書き終えた頃には香音たちが教室を出てから二十分も過ぎてしまっていた。
学級日誌を職員室に提出しに行き、それから追いかけてカラオケボックスに駆け込む。
「おー、やっときた音葉」
「先に始めているよ」
ぜーはーと荒い呼吸を落ち着けようとしている私が見たのは、部屋の中にいる三人の姿。けーちゃんと香音に加えて、葉香(はのか)までがいた。
「い、いつの間に……」
「あ、あたしが誘ったの。どうせだったら久しぶりに三人集合! ってね」
「…………」
葉香は無言でオレンジジュースをストローで啜っている。
髪の毛を左右で結わいたツーテールだけど、ツンデレでもなんでもない。いつもぼーっとしているけれど、興味を持ったことには食いついて離れない、そんなところは母親から一番強く受け継いでいるのかもしれない。
「いやー、こうして三人一緒に見ても、やっぱてんで違うよね」
性格も見た目も全く違う三つ子。
これはハッキリ言って、親に問題がある。
なぜって。
『えー、三つ子だからって三人ともおんなじじゃあつまんないじゃない』
などと平気で言う、あの母だ。
三人の性格が違うことは分かっていたから、三人にあわせてそれぞれ別の育て方をして、買い物などもわざわざ一人ずつ別に出かけたりしてと、色々とあって見事にバラバラな三人に育ったわけである。
「あー、楽しかった! 久しぶりに歌うとチョー気持ちいいねぇ。そんじゃ、また明日ねーっ!」
手を振り、元気よく駆け去ってゆくけーちゃんに三人それぞれで手を振り、けーちゃんの姿が見えなくなったところで。
「……ちょっと音葉、あーしが教室に入る前、あんたけーちゃんとハグしてたでしょ?」
「む……それは聞き捨てならない」
「ハグって……あ、あれは、けーちゃんの方からっ」
「ふん、真面目っこぶりっこのむっつりめ」
「許すまじ、音葉……」
確かにわたしたち姉妹、性格も外見もバラバラだけれど、根本的なところは似ているというか、こんなところ似なくても良いのにと思う所が似ている。
"好きな女の子のタイプ"が。
……ええそうです、この真面目っ子のわたし音葉も、ギャルな香音も、不思議ちゃん系の葉香もみんな百合っ娘で、今はけーちゃんが大好きなのです。
けーちゃんだけじゃない、初恋だった幼稚園のアイナ先生も、小学生の時のミチルちゃんも、塾で知り合ったカヅキちゃんも、中学の時のツクヨ先輩も、みんな被っているのだ。
そんな私たちが進学したのは当然リリアン……ではないけれど、それなりに有名な女子高である。
「……抜け駆け禁止」
「し、しないよっ! だいたい、けーちゃんがノーマルなの分かってるでしょーが」
隠そうとしても悲しいかなそこは三つ子、しかも今までの経験からして、自分が好きになった子は他の姉妹も好きになる確率100パーセントなのだからもう諦めている。
「…………はぁ」
「帰ろっか」
二人の妹も肩を落とす。
今まで、わたしたち姉妹の恋が実を結んだことはない。
「あー、けーちゃんとイチャイチャしたいー」
「あなた、ギャルのくせに女の子が好きってどうなの」
「なんだよそれ、ギャル差別? そういう音葉こそ、真面目っ子なんだから、『普通に』彼氏を作ればいいのに」
「ぐっ……」
「見苦しい姉妹喧嘩……」
と、花の女子高校生だけれども、いまだ花開かない三人で家に帰ると。
「――お帰りなさい、珍しいわね三人一緒に帰ってくるなんて」
既にアラフォーだというのに全くそんな様子の見えない母親が出迎える。さらさらの髪の毛はミディアム、形の良い額をバランスよく出し、目元と口元からは滲み出る様な色気を娘だというのに感じてしまう。
「たまたま、けーちゃんと一緒に皆でカラオケに行っていて」
「あら、そうだったの。それで、誰かけーちゃんとうまくいきそうなの?」
にこやかに尋ねてくる母親に、わたしたちはみな凍り付いたように動きが止まる。
母は、わたしたちが女の子好きだということも、そして今はけーちゃんが好きだということも知っている。知ったうえで、それを否定することもなくむしろ応援してくれている。
「いいじゃない、誰が相手でも好きな人がいるのは幸せなことよ。それに、三人の娘がそろって女の子好きで、しかも一人の女の子を取り合うなんて、なんておもしろ……んんっ」
最後はわざとらしく咳払いをして誤魔化したが、何を言いたいかは分かっている。母の最大の基準は、『面白いか面白くないか』なのだから。
「それに、女の子同士だったら、避妊を気にしなくても良いじゃない」
にこやかに、明るく口にする。
母は、わたしたちが年を取って大きくなるごとに同じ女として色々なことを教えてくれ、その中にはもちろん性的なことも含まれていた。
「――まあ、何せ私自身が大学生で出来ちゃった婚だからね。あ、でも別に出来てなくても、絶対にパパとは結婚していたわよ? それくらいラブラブだったんだから」
と、実の娘達に対しても臆面もなく話してくる。
「私もあの時はさすがに精神的に色々あって、何しろ就職の内定を貰った後に分かって、でもパパとの間に出来た子だから絶対に産みたくて、実家の父ともそりゃもう大喧嘩したものよ」
「えー、あのお祖父ちゃんが? めちゃくちゃ甘々なのに」
「あなたたちが生まれた途端、手の平を返したようにね。やっぱり孫は可愛くて仕方ないのよ。まあとにかくそんなわけだから、後悔しないように頑張りなさい……あ、パパ帰って来たみたい」
ソファから立ち上がり、玄関へと向かう母。
「……つーか、ママのあの『パパアンテナ』はすごいね、いつも」
「ママ、見た目は派手だし、外では年下のパパを尻に敷いているように思われているようだけど、凄い"尽くす系"だよね」
朝はパパより早く起きて支度して、帰ってくるときには必ず玄関でお出迎え、鞄を受け取って部屋まで行ったら着替えを手伝う。料理の研究も怠らず、新しいレシピ、おかずのバリエーションを増やし、掃除洗濯だってもちろん欠かさない。そんな風に主婦をこなしながら、イラストレーターとして本の挿絵なんかを書いたりもしている。
「外弁慶、なのね」
今もまた、パパの後ろについて鞄を持って歩くママの姿を見て、葉香がぼそりと呟いたのであった。
「今日もお疲れさまでした、パパ」
夕食を終えリビングでパパがくつろいでいるとママがワインを持ってやってくる。時にこうしてワインをたしなむのは、学生時代から続けてきているそうだ。特に、ワインが好きなママの好みだそうだけど。
「音葉も飲む?」
通りかかったわたしに声をかけてくるのはママ。
「わたし、未成年なんだけ……」
「あー、飲む飲む、あーし、飲むし」
「ワイン、興味ある……」
「こら二人とも、ダメだって」
生真面目なわたしは二人の首根っこを掴んで、引っ張っていく。美味しそうにワインを飲んでいるパパとママを見ていると、自分も飲みたいなと思ったりはするものの、だからといって本当に口を付けるわけにはいかない。それに、この時間はパパとママの大切な時間なのだから邪魔しないようにしないと。もちろん、パパとママが私たちを邪魔になんて思わないのは分かっているけれど、それでもなんとなく遠慮してしまうのだ。
(……てゆうか、一緒にいると段々と恥ずかしくなってくるんだよね……ママの色気が凄くなってくるっていうか……)
頬を赤くしながら、私は自分の部屋へと戻る。
★
娘たちが出て行くのを見届けて、なんとなく二人で顔を見合わせて笑う。
「音葉ったら、気を利かせてくれたのかしら」
「そうなのかな。音葉は真面目だから、言っていた通りじゃない?」
相変わらず鈍感な夫に、私内心で苦笑する。
でも、そんなところも好きになってしまったのだから仕方ない、私はワインを喉に流し込み、ほうと息を一つ吐き出す。
そんな私を見る祐麒くんの顔が、ほんのりと赤みを帯びる。
「もう、酔っちゃった?」
「そうじゃなくて、ママの飲み方があまりに色っぽいから」
「あら、そう?」
なんて答えるけれど、そんなことは当然、分かっていてやっている。祐麒くんが私のどんな仕種、表情、声色によってどう思うか、全て把握しているのだから。もちろん、いきなり全開でやったりはしない、こういうのは順番であったり間であったり、そういったものも重要だから。
それに今はまだお互い、『パパ』と『ママ』モードだから、あんまり色気を出し過ぎるのはよくない。
「しかし、音葉たちももう高校生、早いよね」
「そうね、音葉たちがお腹にいるって分かった時はどうしようって思ったけれど、思い出すとあっという間ね」
妊娠が分かったのは私がまだ大学四年生の時、生理がこないと心配になってお医者さんに行って明らかになったのが、就職活動で内定をもらった後くらいのこと。
あれからしばらくは精神的に非常にきつかった。
そんな時を支えてくれたのは祐麒くんではなく、親友である蓉子であり聖だった。別に祐麒くんが頼りにならなかったとかそういうわけではなく、とても言うことができず最初に頼ったのが蓉子達だったのだ。
「あの時は……蓉子さんと聖さんに滅茶苦茶怒られたなぁ」
「お父さんや兄貴達にも、酷い言われようだったわよね」
江利子のことをこれでもかというくらい可愛がっていた父と兄貴達、私たちが交際する際にも大揉めしたのだ、それが『できちゃった』なんて報告してそれで結婚したいなんて言い出したら、どれだけ怒るか予想はつくものである。
「――でも、祐麒くんは何を言われても、どれだけ厳しい言葉を叩きつけられても、逃げなかった。私の手を掴んで離さないでいてくれた。嬉しかった」
「そりゃ、江利ちゃんのことが、好きだったから」
私の呼び方が変わったことに気付き、祐麒くんも『パパ』モードから変わる。
「……ホントに? 単に責任感だけとかじゃなくて?」
ちょっとからかうように言ってみると。
「そんなわけないだろ、いや勿論、責任は感じていたけれど、それ以上にこれで江利ちゃんを失うわけにはいかなかったし、認めてもらうまでは何でもするつもりだったよ」
「うん、わかっている。私もね、子供を産むということは不安だったけれど、祐麒くんとの未来についてはそこまで心配していなかった。だって、私の選んだ相手だし。それに考えてみれば、出来ちゃった婚で旦那さんはまだ学生なんて、それはそれでなかなか経験できないことかもって前向きに思って」
「江利ちゃんは、なんでも楽しむからね」
うーん、実はそれは嘘。
本当は物凄く不安で仕方なかった。一番の不安は、父や兄貴達が認めてくれず、祐麒くんが負けてしまったらどうしようということ。私は堕胎する気なんてなかったし、でも学生の身である祐麒くんなら嫌がることは十分に考えられるわけで。
そんな風に思っていたことは言わないけれど、本気で私がお気楽気分でいたなんて思われていたらと思うと、ちょっと頭にくる。
「……でも、あんな風にやせ我慢していないで、俺には不安とか怖い気持ちとか、もっとぶつけてくれて良かったのに、ってのは俺の勝手な言い分かな」
「――――気付いていた、の?」
「そりゃまあ、江利ちゃんのことだし。ただ、俺が必死に何か言うほど、逆に説得力がなくなって不安にさせちゃうかなって思って。でも今考えると、それでも俺が必死になるべきだったんだよね。だって江利ちゃんは不安で怖いから言えなかったのに。そんな江利ちゃんに言ってくれなんて、俺って凄く自分勝手だったよなぁって」
ずるい、今になってそんなことを言うなんて。その通りだ、必死に色々と言って欲しかった。いや、ずっとそばにいてくれていたのは分かっているけれど。でもあの頃は二人とも学生で若くて不器用で、そんな上手く立ち振る舞うことなんてできなかった。
そう考えると、妊娠を機に関係が壊れてしまっても不思議ではなかった。それが壊れないでいるのは、やっぱり周囲の力があったからなのだろう。
「……本当、鈍感で、私の考えていることとか分からないのよね、祐麒くんは」
ツン、と口を尖らせてしまう。
もういい歳になったけれど、祐麒くんと二人気になると時々、そうなってしまう。
「わ、分かるよ、江利ちゃんのことだもん」
「じゃあ今は、何を考えているでしょう?」
体を寄せ、ちょっと色気をアップ。
上目づかいに祐麒くんを見つめる。
「……ワインのおかわりがほしい!」
「もー、なんでそうなるのよっ! ここは、こうでしょ……」
本当に雰囲気の読めない夫に、私は仕方なく自ら口づけをしてあげる。
「……え、江利ちゃん」
「え、と……お部屋、行こっか?」
口を離すと、そう言って寝室に足を向ける。夫婦の寝室はきっちり防音になっているけれど、それでも慎重にはなる。
「それじゃあ、気持ち良くしてあげるね?」
常に夫を立てる、夜の営みにおける私のスタンスは昔から変わっていない。祐麒くんが望むことを、望むままにしてあげたい。
「――ねえ、江利ちゃん」
口での奉仕を終え、正面から抱かれて見つめ合う中、祐麒くんが言った。
「俺……さ、やっぱり男の子も欲しいと思って」
娘が三人、男の子が欲しいというのは私も思っていた。だけど三人を育てるというのはやはり家計にも響くし、四人目を作ることは我慢してきた。
「俺も給料が少し増えたし、江利ちゃんの仕事もあるし、いけるかなって……どう、かな」
いざとなれば私の実家がいくらでも支援してくれるだろうが、それは私も祐麒くんも出来るならば避けたかった。
「うん……いいよ。私の収入もこの数年で増えてきたし」
「うん、それじゃあ計算して……」
「計算なんて、いる?」
「え?」
「だって、前みたいに毎日すれば、いいでしょう?」
私も祐麒くんもまだ三十代、それに私はご奉仕することが大好き、祐麒くんはエッチなことが大好き、子供も大きくなってこの頃は遠慮している部分もあったけれど、私たち夫婦はエッチが大好きなのだから。
「…………ね、旦那様?」
私達は唇を重ね、身体を重ね合う。
そうして。
「うわっ、可愛いっ、男の子だ! ちんこついてる!」
「ちょ、香音、大きな声でなんてことを!」
「それにしても、さすがパパとママ、まさか……」
きゃーきゃーと騒ぐ娘たちを苦笑して見て、さらに愛する夫と生まれた子供に目を向ける。母子ともに健康、それは非常に良かったけれど。
「あはは、祐麒くん、凄いね」
「あ、うん、お疲れさま、江利ちゃん」
三十代後半での出産だけれど問題なし、私は役目を果たし、少しげっそりしているけれど満足そうに微笑む。出産の際には祐麒くんも仕事を休んで立ち会ってくれた。
そうして生まれた新たな生命。私の腕に抱かれている赤ん坊は……二人。
なんとまあ、今回は双子だったのだ。
それも、二卵性の男女の双子だ。
待望の男子が生まれたのは嬉しいけれど、二人というのは想定外だった。これで、子育て出費の計画がまた全てやり直しになる。
「ねえねえ、お兄ちゃんになるの、それともお姉ちゃん?」
「先に生まれたのは女の子だから、お姉ちゃんね」
私はなんとなく未来を思い描く。
三姉妹と、そして双子の姉によっていじられまくる末の男の子の姿を。
うん、楽しそうだ。
「でもさー、この子達が10歳になるころ、あーしらって27ってこと? うぎゃー、信じらんない、妹と弟におばさん扱いされちゃうじゃん!」
「に、にじゅうしちなら、まだお姉さんで大丈夫だよ」
「ギャルの劣化は早いから気を付けないとね、香音」
「なにそれ、あーしは劣化しないし、てゆーかアンタらも同じだし!」
まあ、何はともあれ。
今よりもさらに賑やかで楽しい家になることは間違いなさそうで。
ベッドに寝ている私を見ている祐麒くんと目を合わせ、自然と笑ってしまうのであった。
おしまい