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ノーマルCP マリア様がみてる

【マリみてSS(聖×祐麒)】真冬の熱

更新日:

 

~ 真冬の熱 ~

 

 

 時は一月末、真冬の寒さもピークかと思われる頃、大学は後期の試験も終了して長い休みに入ろうかという時期である。
「うう、寒い、寒いっ」
 寒風吹きすさぶところから適度にエアコンの効いた室内へ入り込み、安堵の息を漏らす。寒いのは嫌いではないけれど、得意というわけではない。ダウンジャケットを脱ぎ、まだ完全に温まっていない体を炬燵の中に滑り込ませると、心地よい温かさが下半身から体全体へと伝わっていく。炬燵最高、炬燵こそ人類の友とはよく言ったものである。
「……なんでナチュラルに私の部屋に入ってきて温まるのかしら?」
 そんな温まった体も凍り付いてしまうような、クールな視線とブリザードのような声色が正面からぶつけられる。
「いやぁ、だってここ学校から近いから。寒いと家まで帰るのも面倒になって」
「あんまり入り浸るなら、家賃払ってもらうわよ」
 冷たく言い放つのは加東景。
 正面で器用に肩をすくめ、背を丸めて炬燵でぬくぬくしているのが佐藤聖。
 二人とも、同じリリアン女子大に通う大学一年生である。
 そして景の言う通り、二人が炬燵に入っている部屋は景の部屋であり、聖はしょっちゅうそこに入り浸っているというわけだった。
「炬燵なんてものを手に入れた、カトーさんが悪いんだから。炬燵は人を吸い寄せる魔力を持っているんだよ」
「それでは私が、炬燵から出ていきたくなる魔法でもかけてあげましょうか?」
「それは、御免こうむりたいなぁ」
 緊張感も危機感もまったく感じられない表情と声で言い、炬燵の心地よさにぬくぬくとしている聖。
 しかし、景はまだまだ落ち着き払って聖を見据えている。
「――まあ、別にいいですけど」
 湯呑のお茶を一口すすり、目を細める。
 薄い唇を、ぺろりと舌で一舐め。

「……祐麒くんとどうなったか、進展具合を逐一、余すことなく話してくれたら、今までの家賃も無料にしましょう」
「ぶっ!? な、なにそれっ、関係ないじゃ」
「へえ? 私が関係ないとでも、思っているの」
 にっこりと、艶のある黒髪を僅かに揺らして、景は聖に問いかけた。
 その迫力にたじろぐ聖だが、炬燵という魔窟にとらえられてしまっているため、逃げ出すこともかなわない。
「あ・れ・だ・け、私が、尽力したっていうのに? 関係ないとでも?」
 相変わらず表情は穏やかだが、恐ろしい。蓉子は厳しいところもある反面、それ以上に甘いところもあったけれど、景の場合はひたすらに厳しい。それでも懐いてしまうのは、根本的に面倒見の良いお姉さんタイプが好きなのだ。
「クリスマスから今まで聞かずに黙っていてあげたのよ? そもそもクリスマスの日、服をコーディネートしてあげたのは私なのに、何も報告がないってどういことかしらね。下着だってきちんと勝負パンツを貸してあげたのに」
「へえ、あれってカトーさんの勝負パン……」
「で、どうだったの?」
 凄みが増した。
 こうなると、この炬燵は聖を逃がさないためのトラップだったということに気が付くが、時すでに遅い。今さら寒風吹きすさぶ外に出ていく気力は、現時点では残っていない。お腹もすいているし。
 だが、魔王の圧力に屈するというのもそれはそれで――
「――話しなさい」
「は、はい」
 あっさりと、聖は屈した。
 とはいっても、聖の話した内容はとても景を満足させるようなものではなかった。一応、その後にも会いはしたようだが、結局は告白される前までと同じように遊んで解散、ということしかしておらず、当然ながら祐麒の告白に対する返事もしていない。

「――何それ。ちっとも進展していないじゃない」
「あのね、まだ一か月だよ。何を期待しているのよ」
「そりゃ、佐藤さんが祐麒くんに落とされてだらしないデレっとした顔を見せるところ?」
「…………そうですか」
 そんなことを言われても困る。聖はいまだに戸惑っているのだ。
 祐麒のことは好きだけど、それは人間として、友達として、仲間として。異性として、恋人にしたいような好きなのかどうかと問われると、果たしてどうなんだろうかと首をひねってしまう。何せ生まれてこの方、好きになってきたのはみんな同性の女の子ばかりで、女の子を相手に抱く感情と同じものは、少なくとも今のところ出てきていない。
「こんな、ぐずぐずしている人とは思わなかった」
 呆れたようにため息を吐き出す景。
「人には人のペースってものがあるでしょう」
「ま、そうかもだけど」
 お茶をすする。
 納得してくれたのかどうか分からないが、これ以上追及されても困る。話が途切れたのを良いことに勝手に終わったことにして、聖は炬燵の上に置かれた蜜柑を手に取って食べ始めた。
 炬燵に蜜柑、これこそ正しい日本人の冬の姿。
 その姿を見てか、景も同じように食べ始める。
 もくもくと、二人して蜜柑を食べすすめる」
「――だったら、私が祐麒くん、食べちゃおうかしら」
「っっっ!!? うぁ、目がっ、目がぁぁぁぁっ!!?」
 力を誤って蜜柑を潰してしまい、その飛沫が瞳を直撃した。強烈なダメージを負い、目をおさえて倒れ、のたうち回る聖。
 転がる聖を無視して、景は蜜柑を口に運ぶ。
「祐麒くん可愛いし、真面目だし」
「…………ゆ、祐麒はあたしのことが好きだし、無理じゃないかな~」
 まだダメージの残っている目を閉じたまま、どうにか体を起こす聖。
「でも、体を使って籠絡しちゃえば、祐麒クン真面目だから『責任取ります』、って言ってくれそうだし」
「そ、そんなこと言って、どうせあたしを焚き付けようって魂胆でしょ。その手には乗らないっての」
「あら、そう。それじゃあ心置きなく、私も祐麒クンにアタックできちゃうわ。友人から略奪しちゃうってのも申し訳ないけれど、ぼやぼやしているうちに他の子にとられちゃうのも癪だしね」
 すまし顔で応じる景。
 その日は結局、聖が帰るまでその話が蒸し返されることはなかったけれど、もやもやと胸の中がどこか煮え切らないまま、聖は景の家を出た。
 寒風を頬に受けながら、聖は考える。
 景の発言はブラフだと思えるのだが、景もそれなりに祐麒と仲良く接してきて、恋愛感情かどうかはともかくとして好意を持っているのは確かだ。別に恋人同士になっても構わない、それくらいの気持ちを抱いていたとしても不思議ではない。さすがに、女の武器を使って落とすまでのことはしないと思うが。
 祐麒と景が付き合うことになる。そんな未来を想像すると、やっぱり胸がもやもやとするのは、果たして嫉妬なのだろうか。
「うーむ、分からん」
 寒さに肩をすくませながら、呟く。
 まだまだ人生、分からないことだらけだと、暢気なことを考えながら、聖は帰途についた。

 そんな暢気な気分をぶち壊されたのは翌日のこと。
「あ、私今週末、祐麒クンとデートすることになったから」
 昼休み、サンドウィッチをほおばっている聖に向け、いかにも何気ない日常の出来事のように景が伝えてきたのだ。
「へ……へぇ、え、そうなの?」

「うん。あ、ショック受けた?」
「え、あ、べ、別にぃ~~」
 と、言葉でこそそう言うものの、思いのほか衝撃は大きかった。いや、動揺というよりは怒りに近いかもしれない。自分に対して告白してきたくせに、ほんの一月ほどで他の女とのデートに応じるなんて、祐麒も随分と軽薄ではないかと。
「誰かさんがぐずぐずしているから、先手、先手よ」
 学食のパスタをフォークに巻き取って見せながら、景はにやりと笑って見せた。
「別に、実際にまだ佐藤さんと付き合っているわけでもないんだから、文句ないわよね?」
「そりゃ、もちろん。好きにすればいいじゃん」
「あ、拗ねちゃって。佐藤さんも可愛いところあるじゃない」
「拗ねてないし」
 と言いつつ、頬杖をついて横を向いてしまい、説得力がない。そんな聖を見ても景は特に何も言わず、食事を続ける。
「……後をつけてきたりしないでよ?」
「しないってーの、時間も場所も知らないのに」

 そう言ってみせたものの。

「……何してんだ、あたしは…………さむっ」
 寒さに身を震わせつつ、標的に目を向ける。
 景と祐麒がデートするという当日。待ち合わせ場所も時間も、景にも祐麒にも訊けるはずもない聖だったが、前日から景の家に泊まり込み、一緒に家を出て、途中で別れて一人で帰るふりをして後をつけてきたわけだ。
「くっそ、祐麒のやつ、デレデレしちゃって」
 図々しくも景は祐麒の腕をつかみ、寄り添うようにして歩いている。腕を組まれている祐麒は、頬を赤くして嬉しそうな顔をしているように、聖には見えた。
 景の服装は、今朝、お洒落している姿を嫌というほど見ていたので今さら言うまでもないが、祐麒の方も瀟洒な格好をしているのは、店に入ってコートを脱いだ姿を見たところで分かった。
「何で、カトーさんとデートしてんだか」
 おそらくたいしたことではないのだろうとは思う。聖をその気にさせるため、ちょっと一緒に出掛けて仲の良いところを見せつけようという魂胆に決まっている。わざとらしく、勝負下着を身に付けるところを見せたりなんかしたのも、景の悪戯心だろう。
 そう思っているのに、術中にはまったように追いかけてしまっている自分が情けない。何が悲しくて冬の寒空の下で立ち尽くして見張っていなければならないのか。
 店は狭くて入口も一つしかないので、中に入って見張るわけにもいかないし、店がうまいこと見える位置に丁度良い他の店もなく、外で携帯をいじっているふりをして聖は店内の二人を見る。
 しまいには雪まで降り出してきて、馬鹿らしくなって帰ろうと何度思ったことか。それなのに帰らなかったのは、二人が仲良さそうにしている姿が気になったからというのは否定できない。
 景は思いのほか祐麒にちょっかいを出し、頭を撫でたり、腕をつついたり、顔を近づけたり、スキンシップが多いのではないかと思えてならない。あのクールで人をあまり寄せ付けない雰囲気を持った景が見せる甘い雰囲気に、まさか本気なのかという疑いが聖の中で首をもたげる。
 注意して二人には気が付かれていないはずだし、ならば景の姿は本気なのではないだろうか。
「……いつまでいるんだよ、長いなぁ」
 外は雪が降って寒いせいだろうか、なかなか店から出てこない二人に焦れる。昨日は意外と暖かかったこともあり、マフラーを持ってこなかったのが悔やまれる。
 いい加減、帰ろうかと思いかけたところで、ようやく店内から二人が出てきたので、慌てて後を追いかける。
 特に変わったところに行くわけではなく、二人で適当にぶらぶらしている。目に留まった店があれば立ち止まって物色する、そんな感じで街を歩いている。雑貨屋など小さな店に入ることが多いので、聖としては外で見張っているしかない。せめてショッピングモールかなにかであれば、寒風に貫かれながら待つなんて身から逃れられるのだが。
 やがて日も落ちてきて、二人は食事のために店に入った。見れば店の外に行列ができている人気店のようだが、二人は事前に予約をしていたのか、行列に並ぶこともなく店の中に入っていった。
 さすがに食事となれば一時間やそこらは店にいるだろうと、聖も近くにあるファストフード店に入って休憩を取ることにした。
「はぁ……って」
 店内に入り椅子に腰を下ろすなり、疲労のため息が出てきて思わずはっとする。なんで、ここまでする必要があるのかと何度目か分からない思いを抱きつつも、さっさと食事を終えて少し早めに店を出る。
 二人が店を出てきたのは、聖が再び見張り出してから三十分ほど経ってのことだった。その後二人は駅へと向かい、そこで別れた。
 色っぽい方向に行くこともなく、ホッと胸を撫で下ろす。あんな威勢の良いことを言っていたが、やはりそこまでの実行力はないのだ。
 せっかくの土曜日の一日を無駄にしたような気がするが、それでも最終的には安心して聖は帰途についた。

 そして翌日。
「――風邪を引いて寝込むなんてね」
 前日、雪すら舞うような寒空の下で何時間も外に突っ立っていたのが堪えたのか、聖は熱を出して寝込んでしまっていた。
 特にメールも電話もしていないのだが、なぜか景がやってきて聖を見下ろしている。
「ま、寒い中ずっと外にいたんですもの、無理もないわね」
「――――っ!?」
「ああ、大丈夫、祐麒くんは気づいていないから。多分」
「~~~~っ」
 景に気づかれていたというだけで十分に恥ずかしく、毛布を上げて顔を隠す。
「そんなに気になるなら、意地張らなければいいのに」
「…………」
 言い返したところでロクなことにならないことは分かっているし、そんな元気もないので黙っている。
 親は、景が来たのを良いことに、出かけてしまった。もともと予定があり、聖だって子供ではないのだが、それでも景によろしくと言い置いていき、聖としては子供扱いされているみたいで余計に恥ずかしい。
「ま、何かしてほしいことがあったら言って」
 それだけ告げると、景は文庫本を出して読み始めた。
 静かな室内だが、一人きり残されて熱に浮かされているよりは、こうして誰かがそばにいてくれるというのは心強い。
「……昨日の祐麒くんとのデートのこと、教えてほしい?」
 本から顔をあげることなく、景が口を開いた。
「…………別に」
「心配しなくても、大丈夫よ。私の買い物に付き合ってもらっただけ。今までのお礼も込めて付き合って欲しいってお願いしたの」
「ふぅん」
 本当の事かどうかは分からないが、このようなことで無駄な嘘はつかないだろう。結局、聖の思った通り単なるあてつけであり、聖を焚き付けるためのものだったようだ。
「――食欲はある? 少しは食べられそう?」
 しばらくして、景が尋ねてきた。あまり食欲はなかったが、胃に何もいれずに薬を飲むのも良くないので、景がお粥を作ってくれるとのこと。
「あとそうね、何か果物とかゼリーとか、そういうもの買ってきてあげようか? 近くにスーパーあったわよね」
 好意に甘えることにした。
 景は出かけて行って一人になったが、すぐに戻ってくるのが分かっているので心細くはならない。布団の中、目を閉じて静かにじっとしている。顔が熱くて腫れぼったく、頭が少し痛くて、関節もきしむ。鼻がつまり、喉がイガイガする。風邪とはどうして、こうも不快な症状を重ねてくるのだろうか。起きていても辛いだけだし、昨日の無駄な疲労もあって、いつしかうとうとしてくる。

 どうやら少し寝てしまっていたようだ。熱はあまり変わっていないようだが、汗をかいて気持ち悪く、喉が渇いて苦しかった。
「……佐藤さん、お粥できたわよ」
 景の声が聞こえ、食器か何かがカタカタという音が耳に入る。食欲はいまだに無いが食べた方が良いだろうし、何より着替えたかったので、億劫だったけれどもベッドの上に体を起こす。
「……あ」
「……ん?」
 妙な声を出した景が気になり、そちらに目を向けてみれば。
「――――あ、こ、こんにちは、聖さ…………ん……」
 なぜか、真っ赤になっている祐麒がちょこんと正座していた。
「え……祐麒? なんで、ここに…………」
 熱でぼーっとしているせいか、頭の回転がイマイチ鈍く、そんな反応しかできなかった。
「ちょっと佐藤さん、前、胸」
「へ?」
 こっそりと教えてくれる景の声に、ゆっくりと顔を下に向けてみると、昨夜殆ど考えずに着ていたレースのキャミは左の肩紐がずり落ちていて、それはともかく汗を吸収したキャミは肌を透かしている。何せパッドが入っていないタイプだ。
「うわ……わ、ちょっ」
 慌てて、毛布に再びくるまる。
「真冬なのに、そんな格好で寝ていたの?」
「ううううるさいな、人がどんな格好で寝ようと勝手でしょうがっ……そ、それよりなんで祐麒ここにいんのさ!?」
「佐藤さんのこと伝えたら、お見舞いに来たいっていうから」
 しれっと景は言うが、きっと最初からこのつもりだったに違いない。初めは景だけで訪れて安心させ、外に出かけていったその帰りに祐麒と合流してそのまま家の中に連れてくる。聖の了解はとったとかなんとか言って。
「……てゆうか、祐麒も、じろじろと見ないで悪いと思ったら目を閉じるとか、後ろを向くとか、してよね」
「す、すみませんっ、突然のことでつい……」
 今さらになって背を向ける祐麒。
「まあ、いいわ。おかゆもまだ熱いし、今のうちに着替えちゃいましょう。手伝ってあげるけれど……それとも、祐麒クンに手伝ってもらう?」
 景の戯れ言を一蹴し、とりあえず祐麒を外に出して着替える。汗を拭き、濡れて肌に吸い付くパンツも含めてすべて着替えると少しすっきりする。
「それじゃあ、私は洗濯してくるから、その間、祐麒クンに食べさせてもらっていて」
「え、な、何それ」
「それとも、コレ、祐麒クンに選択してもらっていいの?」
 ひらひらと、脱いだばかりのパンツを揺らして見せる景。それ以上の文句を言う元気もなく、諦める。
「そ、それじゃあ、聖さん。どうぞ……」
 スプーンで掬ったお粥にフーフーと息を吹きかけて冷ました後、聖の口元にスプーンを持ってくる祐麒。無言で、それを口に含む。
「…………ってゆうか、べ、別に祐麒に食べさせてもらう必要、ないじゃん。一人で食べられないほど弱っているわけじゃないしっ」
 食べた後になってようやくそのことに気が付く。そもそも先ほどの景だって、わざわざ脱いだキャミとパンツだけを今洗う必要などないのだ。普段なら簡単に気が付くようなことも、熱で思考が鈍っているためか追いつかない。
「とゆうことで、自分で食べるから、頂戴」
 手を伸ばすと。
「だ、駄目です。なんか聖さん、途中で落っことしそうだし。俺が、食べさせてあげます」
「大丈夫だし。祐麒だって、恥ずかしいでしょ?」
「俺は、恥ずかしくないです」
「む……」
 しばし無言で対峙するが、風邪で体力の落ちている聖の方が先に折れた。これ以上、無駄に体力を使って疲労しても仕方がない。
 黙って口を開けると、祐麒がスプーンを口にゆっくりと入れてくれる。適度にぬるくなったお粥が胃に落ちてゆくと、体が温まってゆく。
 もともと聖は、甘やかされることに弱い。こうして体が弱っているときであれば、世話を焼いてほしいと思ってしまう。そんなところを突かれてしまったのだ。

「はい、聖さん。あーんしてください」
「くそ、調子に乗るなよ……」
 などと悪態をつきながらも、素直に口を開く聖。
「……あらら、素直で可愛いじゃない佐藤さん。邪魔だったかしら?」
「むぐっ!?」
 スプーンをぱくっとしたところで、いつの間に戻ってきたのか部屋の入り口に立って腕を組み、にやにやと聖のことを見つめている景。
「それじゃあ、私は先にお暇します。祐麒クン、後はよろしくね~」
 ひらひらと手を振り、にこやかに去っていく景。
「む、むぅ~~~~っ」
 スプーンを口に咥えたまま唸る聖だが、その声に迫力はなく、むしろ羞恥で耳まで赤くなっていた。
「そ、それじゃあ聖さん、あと少しですから食べちゃいましょうか」
 気を取り直すかのように言い、スプーンを引っ張って口から取り出す祐麒の顔も、赤い。
「も、もうお腹いっぱいだから、いらない」
 まともに顔を見られなくなり、聖はごろんと背を向けてベッドに倒れ込み、毛布を頭までかぶってしまった。
「あ、ちょっと聖さん、まだすりおろし林檎と薬がありますよ」
「後で食べるから、いらない」
「じゃあ、薬、飲みましょう」
「うぅ……そ、それも、後で」
 弱っているところを見られ、おまけに世話されるなんて、恥ずかしすぎる。
「駄目ですよ、良くなりませんよ?」
「薬は嫌いなの。こーゆーのは、自然治癒に任せるのが一番」
「何で拗ねているんですか?」
「拗ねてないし」
 頑なに毛布にくるまって動かない聖。
 とんだ週末になったと思いながら、それでもどこかホッとしている自分自身には、まだ気が付いていなかった。

 

 

おしまい

 

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