「それで実際、何があったの?」
祐麒が帰宅したあと、改めて美月が祭りのことを尋ねてきた。
可南子は長い髪の毛を指で梳きながら答える。
「……その、知らない間に、浴衣の中に入って来ていて」
「あら、まあ、それで?」
美月が身を乗り出してくる。
虫が入ってきたことに驚き、パニックになったことなど恥ずかしいからあまり言いたくないのだが、どうせ美月の事、話すまでは許してくれないだろう。
「な、なんか、中でもぞもぞ動いて」
思い出すだけでなんとも言えない気持ちが蘇ってくる。
「可南子はどうしたの?」
「わ、私は、びっくりして、動けなくて」
醜態を思い出して顔が熱くなる。
「まあ、いきなりじゃあねぇ。で、で?」
興味津々、前のめりの美月。
「とにかく、祐麒に早く出してってお願いして……」
「ほうほう、おねだり?」
「は?」
「でもちょっと待って、出すって、どこに出してってお願いしたの!? まさか中に!?」
「そりゃもちろん、外に決まっているじゃない!」
さっさと浴衣の中から外に放り出してくれないと意味がない。
「でもユウキったら、もたついて、なかなか……」
「ユウキくん、じらしテクか……」
ふむふむ、という感じで頷いている美月。
「それで、ユウキくんはちゃんと出してくれたの?」
「……ん、まあ、一応……」
あの時のことを思い出すと、また羞恥に襲われる。
いくらテンパっていたからとはいえ、浴衣をはだけさせてしまっていたのだから。
「浴衣とか汚れなかった? 付着してない?」
「うん、それは大丈夫だと思う」
「ユウキくんも、その辺はちゃんとしてくれたのか。咄嗟のことなのに、なかなかやるじゃない。いや、でもそこであえて浴衣の表面ではなくて、その下の肌とかにぶちまけてマーキングする的なテクニックまではいかなかったか」
「何を言っているのお母さん?」
可南子は首を傾げる。
こうして時々、よくわからないことを美月は言うのだ。
「ああ、でも若いっていいわよねぇ」
「なんでそうなるの?」
「お祭りの夜に燃え上がってとか、そういうのがよ!」
「勝手に燃え上がらせないでよ」
「でも、そうだったんでしょう? まあ、ちゃんとしてくれれば私も文句言わないから、好きにやりなさい」
「はぁ……?」
「あぁ、でも娘とこういう話が出来るっていいわねぇ」
ほくほく顔の美月に、可南子はやっぱり首を傾げるのであった。