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【マリみてSS(加東景)】加東景の日常

更新日:

 

~ 加東景の日常 ~

 

 

 加東景の目覚めは、いつも正確だ。真面目で几帳面な性格が物語っているのだろう、寝坊をするということは、あまりない。大学だって、授業に遅刻をするとか、サボってしまうとか、そういうことはしない。
 目を覚ました景は、枕元に置いてあった眼鏡を手にとってかけ、時間を確かめる。いつも通り、目ざましが鳴り始める五分前、目覚ましのスイッチを押して止める。
 続いて右隣に目を向ける。
 裸の美少女が眠っていた。
「志摩子ちゃん、風邪、ひくわよ」
 毛布を引き上げて、志摩子の白く滑らかな肌にかける。
 昨夜、泊まりに来た志摩子。誤解のないようにいっておくが、景は志摩子に手を出したりしていない。純粋(?)だけに強い想いを持つ志摩子だが、「志摩子ちゃんのことが大事だから、貴女が成人するまでは、私は何もするつもりはないの」と告げることで、どうにか志摩子を納得させているのだ。志摩子が成人する数年後をどうするかは、考えるだけで恐ろしいので考えないようにしている。
 しかし、だからといって何もしない志摩子ではない。ならば、せめて景の傍にいたい、景の役に立ちたいと言って申し出てきたのが、『ギガンティア抱き枕』である。
 景は断ったのだが、一度お試しにと、強引に志摩子に布団の中に潜り込んでこられ、そのあまりの気持ちよさにノックアウトされたのだ。何しろ、ぬくぬくと暖かくて、ぷにょぷにょと柔らかくて、抱きついているだけで幸せな気分になれるのだ。加えて、大ボリュームの胸と、張りのあるお尻の弾力が、景をとらえて離さない。
 そんなわけで、つい、甘やかしてしまうのだ。
 欠点は、夜中に何度か、ビクビクと体が痙攣することであった。
 続いて、左隣を見る。
 布団にぐるぐると巻かれるようにくるまれ、その上からさらにロープで縛られ、猿轡をかまされた蓉子がいた。
 昨夜、寝ようと思って布団をめくったら、いつの間にかその中にいた。すけすけのネグリジェを纏い、潤んだ瞳で見上げてくる蓉子を見て、景は瞬間的に危険を察知して簀巻きにしたのだ。
 目の周囲や頬に涙の跡が見えるが、今はどうやら疲れて眠ってしまっているらしく、静かだった。
 景は髪の毛を手で梳きながら、立ちあがる。
「おはようございます、お姉さま、ホットミルクです」
「ん、ありがと……」
 カップを受け取り、口につける。
 熱すぎない、適度な温度のミルクが口の中に心地よく広がる。
「朝ごはんはトーストになさいます? それともロールパンがよろしいですか。卵は目玉焼きとスクランブルドエッグ、どちらがよろしいでしょうか?」
「そうねぇ、今日はトーストとスクランブルで……」
「かしこまりました、ちょっとお待ちくださいねっ」
 元気よく返事する声の方に、景はちらりと目を向ける。
「ぶーーーーーっ!!?」
 そして盛大にミルクを吹きだした。
「あわわっ、だ、大丈夫ですかっ、お姉さまっ!?」
「あ、アルバイトちゃん、あなた、なんて格好を!?」
 キッチンでかいがいしく動いているのは、いまだ名も知らぬアルバイト少女。しかしその格好は、露出の高いバニースタイルの上にエプロンという、とてもマニアックなバニーエプロン姿だったのだ。
「えへへ、お姉さまに喜んでもらおうと思って。私、お姉さまの趣味は完全に把握していますから!」
 えっへん、とでも言いそうな感じで、少女は耳をぴこぴこ動かし、尻尾をぴくぴくと振る。不覚にも、確かに可愛いと思ってしまう景。
「さあ、席に着いてください、私が食べさせてあげますね。口うつし、で、きゃっ」
「あ、ずるいです。私が景さまに食べさせてあげたいです」
 いつの間にか起きた志摩子がやってきて、拗ねる。
「あーもう、ご飯くらい自分で食べられるから。二人とも、ちゃんと自分の分を食べなさい」
「「はーい」」
 景の言うことに、素直に頷く二人。
 寝間着姿の景、バニーエプロンのアルバイト少女、そしてさすがに裸のままというわけにはいかず、置いてあったチアリーダーのコスを身につけた志摩子。ちなみに裸の上に直でコス。
 そして傍らでは、布団に簀巻きのままの蓉子。
 傍目にはカオスな状態の中で、景の朝食は淡々と進むのであった。

 

 朝食を終えると、景は大学へと登校する。もちろん、志摩子とアルバイト少女も通っている高校へ通学する。
 蓉子は、まあ、いつも自力でどうにかしているので、放置してある。
 大学では、真面目に授業を受ける。安くはないお金を出して通っているのだから、当然のことである。遊ぶことも大切かもしれないが、その前にまず、勉学があってしかりだと景は考えている。
 午前中の講義を滞りなく終えて、昼食へ。
 聖と食事をすることが多いが、今日は、聖が他の女の子を引き連れて食べに行ってしまったので、一人で食べることにする。
 購買でサンドウィッチとドリンクを購入し、中庭へと移動する。たまには一人静かに、本でも読みながら昼食というのも良いものである。
 が、すぐ隣のベンチにいる集団の話声がうるさかった。
「――そんな感じで、タカくんったら超優しくて、惚れ直しちゃったって感じで」
「何ユカリ、その惚気、勘弁してよ」
「いいじゃん、あたし達ラブラブだし、幸せを皆にも分けてあげるっていうか」
「うわっ、何、その勝ち組的な台詞」
「Hの相性も抜群だし、抱かれていて女の幸せを感じるっていうのね、あれは」
「やだーっ!」
 と、きゃあきゃあと大きな声で騒いでいる。
 昼休みだし、仕方ないとは思いつつも、どうしても気になってしまい目を向けると、たまたま一人と目が合ってしまった。
「ちょっと貴女、何か、言いたいことでもあるの?」
 立ちあがり、景のすぐ前に立つ。
 景はどうも目つきがあまり良くないらしく、時折、このように目が合うと相手に不快感を与えることがあった。
「別に、何もないわよ」
 素っ気なく言ったが、それが余計に相手の神経に触ったようだった。相手の表情が、さらに変わる。
「ちょっとユカリ、やめなよー」
「そうだよ、もう」
 友人たちが、後ろから心配そうに声をかけている。
 ユカリは、目の大きな、いかにも男好きしそうな美人だった。体のラインを強調するような服装は、自分のスタイルに自信がある証拠でもあろう。立ち姿も自信に満ちていて、男にちやほやされてきたんだろうな、というのがなんとなくわかる。
 どうやり過ごそうか考えていると、ユカリの肩口に蜂が飛んでいるのが目に入った。
「ちょっと、ねえ……」
 言いかけたユカリを無視して、景は立ち上がりざまにユカリの腕を掴んで引き寄せた。
「えっ!? ちょっ、いきなり何っ」
 蜂はまだ、ユカリめがけて飛んでくる。
 左手でユカリの頭を抱き寄せ、右手で手刀を放つ。指先に手ごたえがあり、蜂が地面に落下していくのが分かる。
 同時に、ハイヒールのユカリがバランスを崩し、背中から倒れかけるのを、腰を落として支える。
「え、あ、あの、いきなり、何を……」
 ユカリの頬が紅潮している。
「ごめんね、大丈夫だった?」
 落ち着かせるように微笑みかけると、ますますユカリの顔は赤くなった。
「はは、はい、でもなんだろ、む、胸が苦し……」
 喘ぐように、ユカリは胸を抑える。
「胸が? どの辺、大丈夫?」
「ふあぁっ、んあっ」
 景の手が、ユカリの胸に触れると、ユカリは体を震わした。
「苦しいの?」
「あの、はい、もっとさすってください……そうすると、楽になって」
 言われて、景はユカリの胸をそっとさする。だが、楽になるどころか、ユカリの呼吸はさらに荒くなるようだった。
 景はさらにごく自然と、ブラウスのボタンを外して内側に手を差し入れる。ブラジャーに触れて、ふと違和感を覚え、ブラの内側に指を入れる。手に触れたのは、パッドの感触だった。
「ああ、貴女、随分と水増しを」
 かなりパッドが重ねられており、ボリュームを増やして見せていたようだ。
「ご、ごめんなさい、私……」
 泣きそうになるユカリ。
「いいのよ、大きく見せたがるのは仕方ないことだし。大丈夫、お友達には内緒にしておいてあげるから。それに」
 ユカリの耳元で小さな声で囁きながら。
 景は、手の平をさらに奥に侵入させ、肌とパッドの間に滑り込ませる。直に胸に触れ、その膨らみを包むようにしてマッサージする。
「これくらいのサイズの方が、丁度良くて私は好きよ?」
「ああっ、嬉しいですっ……はぁっ、もっと、お願い」
「大丈夫? 苦しそうだけど」
「いえ、凄く、気持ち、良いです。だから、もっと……」
 懇願してくるユカリの瞳は潤み、景の顔を映しこんでいる。
「どこか刺されたわけじゃないわよね? どうしたのかしら」
「あぁ……お姉さまになら、私、刺し貫かれたいですぅ」
 胸をさすり続けていると、携帯電話の着信音が響いた。
「あなたの電話じゃない?」
「え……何よ、もうこんな時に」
 景が体を離すと、ユカリは渋るようにポケットから携帯電話を取り出して、耳に当てる。
「――もしもし? あー、タカくん、何? え、今日、無理。っていうか、タカくんとがもう無理、別れてくれない? なんでって? それは、お姉さまに出会ってしまったから」
 ぽっ、と頬を染めて恥じらいながら、景を見上げてくるユカリ。
「いや、私、あなたと同学年だし」
「そ、そんなことどうでもいいから、続きを」
「ちょっとユカリ、どうしたのよっ?」
「え、なに、なんでタカくんといきなり別れたのっ!?」
「うるさいっ、そんなこといいから、ああっ、お姉さまぁんっ!」
 切ない悲鳴をあげるユカリを置いて、景は午後の授業に向けて校舎内へと歩いていく。
 こうしてまた、景は一人の罪のないノーマルな女性を虜にして、ガチの世界へと誘うのであった。

 

 午後の講義を終え、バイトに向かう。今、景が働いているアルバイト先は、洋食店だった。そこで、ウェイトレスをしている。
「いらっしゃいませー」
 ウェイトレスの制服は清楚な感じで、景もそれなりに気に入っている。仕事の方も、働き始めて数か月ということで、すっかり慣れた。
「こんばんはー、食べにきたよ」
「どうも、景さん」
「景さまっ、今日も素敵ですっ」
 働いていると、いつの間にか常連になった知り合い達がやってくる。入って来たのは、聖、江利子、蔦子だった。
 ちなみに他にも、常連の客が何人も店内にいる。いつもシフトに入るたびに思うのだが、本当に毎回毎回、決まったように同じ顔ぶれが店に訪れる。しかも、それは全員女性だ。確かに、味は美味しいし、女性にうけるのも分かるが、普通の洋食店であり男性が来てもおかしくないのだが、あまり見かけない。
 常連とはいっても景は働いているわけで、お喋りをするわけにはいかない。そうこうしているうちにも、また新たなお客が店に入ってくる。女性の二人組で、景は初めて見る顔だった。
 他のウェイトレスが席に案内し、注文を取る。景は景で、片づけをしたり、料理を運んだりと忙しく動き回る。
 事件が起きたのは、しばらくしてから。
「きゃあっ!?」
「あ、も、申し訳ございません、お客様っ」
 先ほどの女性二人組の客に対し、ウェイトレスの誰かが粗相をしてしまったらしい。
「いかん、加東くん、よろしく頼むよ」
「ああ、はい」
 オーナーシェフに言われて、景は現場に向かった。なぜか分からないが、景がシフトに入っているときに限って、やけに他のウェイトレスがミスする割合が高かった。そしてそのたびに景が相手をなだめる役に回るのだ。
 今日の客は二十代半ばのOLといった感じの二人組で、ご丁寧にも二人ともにワインをぶちまけたようで、見事に服にワインの色がついてしまっている。
「ちょっとこれ、どうしてくれるのよ? この服、お気に入りなのに!」
 口調も表情も強気な、ショートカットの女性が景を睨んでくる。
「水穂、お、落ち着いて」
 セミロングの女性は、なだめるようにしている。
 頭を下げながら、景はとりあえず二人を店の奥に案内する。片づける必要もあったし、他の客の注目も浴びてしまうから。
「こんなところに連れて来て、どうするつもり? 店長と談判でもさせようっての?」
 ショートカットの女性は腕を組み、目を吊り上げている。
「いえ、まずは汚れてしまったお洋服と肌を、綺麗にしていただきますので」
「そうよ、この服、お気に入りで……って、ちょっと、何をっ」
 女性の正面に立つと、景はワインの染みたカーディガンのボタンを外して、するりと脱がせる。現れたのは、キャミソールに包まれた肢体と、そしてキャミソールを押し上げるような立派な胸の膨らみと谷間。キャミソールと肌にも、ワインはかかっていた。
「あー、これはキャミソールも染み抜きをしないと駄目ですね」
「や、やだ、脱がさないで……」
 恥しがる女性だが、脱がさないと洗うこともできないので、景はいつの間にか会得していたスキルで、するするとキャミソールを脱がせてしまう。
「ああ、下着まで、ですね」
「こ、これは、駄目」
「大丈夫ですよ、女同士ですから」
 上半身下着だけの姿になったショートカットの女性は、恥しそうに腕で隠す。しかし景は前から抱きつくようにして腕を背中にまわし、ホックを外してしまう。景の吐息が首筋にかかり、女性は切なく鼻を鳴らし、腕の力が緩んでしまった。その一瞬の隙をのがさず、景は下着を取る。
「替えの下着もありますから、大丈夫です」
 言いながら景は女性の背後にまわりこんで、後ろから両手で胸を掴む。
「やあぁんっ」
「んーと、65Eですね」
 測定して手を離すと、女性はへなへなとしゃがみこんでしまった。
「それから、貴女は」
「えっ、わ、私は大丈夫ですからっ」
 セミロングの女性は、慌てたように首を振るが、そういうわけにもいかない。景は事務的に近寄ると、女性のパンツに手を伸ばす。ホワイトのパンツなので、ワインの色は目立っている。
「こちらを脱いでいただいて」
「だ、駄目です、そんなところを触っては……あ」
 景の指が触れると、女性はふらふらと力を失ったように、後ろにあった椅子に腰をおろす。景はその前にしゃがみこみ、手を伸ばす。
「えーと、それじゃあちょっと失礼しますね」
 ベルトを外し、ボタンを外し、ジッパーを降ろし、パンツを下ろす。女性はごく自然に腰を浮かせていた。
「あっ……と、下着の方まで染みちゃってますね。えと、さすがにこちらを私が脱がすのは、まずいですよね」
 景が首を傾げると。
「そ、そんな、染みちゃっています……か?」
「はい、かなり、しっかりと」
「あああぁ、恥しい、そんな私、染みるほど……。恥しくて、私、脱げません」
「そうですか? それじゃあ申し訳ありませんが、失礼して」
「ひっ、あ、ああぁ」
 ショーツに指をかけると、景はするすると女性のショーツを脱がせてしまった。
 上半身と下半身を裸にした女性二人を、今度は順に着替えさせていく。二人は呆けたように、ただ景に身を任せるだけ、時に色っぽい声をあげるくらいだった。
 そうして、店が用意してある服に着替えさせ、深々と頭を下げる。
「本当に、申し訳ありませんでした。今日のお食事代はサービスとさせていただきます。あと、お食事されている間に、服の方もなんとか致しますので」
 なぜか店のすぐ近くに、専門のプロがいて、いつもそこで超特急で、どうにか我慢出来るレベルにまでしてもらうのだ。
 実際、彼女達が食事を終える頃には、完全には落ちていないが、目立たない程度にはなって戻ってきた。それを二人に景が着させて、見送る。
「あの、私達、またこのお店に来ますっ」
「はい、お待ちしています。今日は申し訳ありませんでした」
「とんでもない、とても、素晴らしい日でした」
 二人を見送る景の背後で。
「……これでまた、常連が増えたなぁ」
 そんなことを呟くオーナーシェフの姿があった。

 

 バイトを終えて帰途につく。夕食は、バイト先で済ませているので、あとはお風呂に入って寝るだけである。風呂から出てみると、そこにはいつの間にかアルバイト少女の姿があった。
「お姉さまっ、お待ちしておりました」
 三つ指をついて出迎えてくれるが、その格好はナース服だった。
「アルバイトちゃん、もう遅いから、帰らないと駄目じゃない」
「大丈夫です、今日は、友達のおうちに泊まってくるって言ってますので」
「そうは言ってもねぇ」
 髪の毛をタオルで拭きながら、天井を見る。
「そうですよ、景さまが困っているじゃない」
 タオルが取られ、ドライヤーの風が髪の毛を揺らす。小さな手が、景の髪の毛を撫でるように梳かしていく。
「えへへー、一度、こうして私が景さまの髪の毛、乾かしてみたかったんです」
 パジャマ姿の祐巳が景の後ろに立ち、髪の毛を乾かしてくれていた。暖かなドライヤーの風と、祐巳の指の刺激が心地よい。
「もう、しようがないわねぇ。こんな時間に、一人で帰すわけにもいかないか」
「わーい、やったー! お姉さま、大好きっ!」
 抱きついてくるアルバイト少女。
「あっ、ずるいっ、私もーっ」
「こらこら祐巳ちゃん、やるなら最後までやってちょうだい」
「あわ、ご、ごめんなさい」
 苦笑する景。
 やがて髪の毛を乾かし終わり、あとは寝るだけとなる。
 景は立ちあがり、布団に手をかける。
 すると。
 布団の中に横になっていた蓉子と目があった。
 ベビードールに身を包み、景のことを上目づかいで見つめてくる蓉子。朝の簀巻き状態からどのように脱出したのかは、あえて聞くまい。
 そして蓉子は、恥しそうにしながら訊いてくる。
「景さん、ご飯にします? お風呂? それとも……わ・た」
「死」
「がふっ!」
 景のチョップが炸裂し悶絶する蓉子だが、このくらいでは諦めない。景の足にしがみついて、どうにか寵を得ようとする。
 しぶとい蓉子を拘束衣で自由を奪ったところで、ようやく落ち着いて就寝。布団に入りこむと、今日の抱き枕である祐巳がすり寄ってくる。景は無意識のうちに祐巳のパジャマのボタンを外すと、露わになった肌を抱き寄せ、柔らかな感触を楽しむ。
「うーん、やっぱりこの抱き心地よね、たまらないわ」
「ふあぁ、景さまぁっ」
 祐巳の甘い声が響く。

 そう、これが、加東景の特別でないただの日常なのであった。

 

「…………って、そんなわけあるかーーーーーーっ!!!!?」
 絶叫が轟き渡った。
 祐巳とアルバイト少女が、きょとんとして見つめている。
「なんで朝目が覚めたら裸の美少女が隣に寝ていて、あまつさえ人間抱き枕って何よ、抱き枕だなんて可愛い言い方しているけれど、いくらおっぱいが大きくて弾力性充分で気持ち良く立って、それって傍から見たら私が脱がせてエッチしているようにしか見えないじゃないっ。なんで高校生が二人も部屋に泊まって、朝ごはんの支度なんてさせて、私は何者ですか!? しかもキッチンで働く姿がバニーコスにエプロンってどんだけマニアックなのか! 裸の美少女とバニー少女と囲む朝の食卓ってシュールを通り過ぎてただの変態じゃないっ、あーもうっ。大学は大学で、真昼間のキャンパスで堂々と服の中に手を入れて乳を揉む、どんな痴女だよ私は。ってかそれで落とされるのか!? それだけじゃない、バイト先でワインこぼしたのって、あれ、明らかにわざとでしょう? 私に対応させるために。でもなんでワインこぼしたからって、店で着替え用意しているとかありえないでしょ!? それを私が着替えさせるなんて、上乗せしてあり得ないでしょ、触っただけでブラのサイズわかるとか、パンツまで脱がせて履き替えさせるとかどんなプレイだよ!? え、そりゃまあ、役得と思うけどさあ。胸の感触とか、恥しい姿とか目の前で見られてさあ、生唾物ですよ。って、違うっ、それじゃ本当に私は変態痴女か!? 帰宅したら帰宅したで、当然のように待ち構えられているし、朝とはメンツ違うし、コスも変わっているし、囲っているわけでもないってのに! とゆーか、蓉子さんは何?? 簀巻薔薇さまですか、何しに来ているのですか、何で私は当たり前のように拘束衣を着させますか!? こんなのが日常なわけあるかーーーーーーっ!!?」
 髪の毛を振り乱し、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返し、月夜の差し込む室内をギラついた目でねめる。
 景の真面目な良識が、景に気づかせ、咆哮させたのだ。
 月光を浴びて立ちつくす景を見上げて、祐巳は首を傾げる。
「えーっと、でも景さま……全てを成し終えた後にそのようなことを言われても、全く説得力がないかと」
「いやーーーーーーっ!!?」
 布団に突っ伏す景。
 優しく景の背中をさするアルバイト少女。
「大丈夫ですよ、お姉さま。無意識にしてしまうくらい、景さまにとっては呼吸をするも同然なんです! 私はそんなお姉さまが好きなんですから!」
「フォローになってないよ、アルバイトちゃん……」
 滂沱の涙を流す景。

 そんな景達を、薄闇の向こうから拘束衣姿の蓉子が、声もなく見守っていた。

 まあ、声を出したくても出せない状態ではあったが……

 

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