書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(江利子×祐麒)】イエロー・マジック・オーナメント <第八話>

更新日:

 

~ イエロー・マジック・オーナメント ~
<第八話>

 

 

 バイトになど行く気分ではなかったが、体調不良で休んでしまっていたこともあり、そうそう休むわけにもいかない。幸い、祐麒とはシフトがずれていて、しばらくバイト先で顔を合わすことがないのだけが救いだった。
 しかし集中力を欠き、大きなミスこそしなかったものの幾つか小さなミスをしている。仕事にまで影響させてはいけないと、どうにか立て直そうと思っていると、麻友に肩を叩かれて更衣室に連れて行かれた。
「どうしたの、なんか今日はらしくないけど」
「すみません、あの、この後はちゃんとやりますから」
 腕を組んで江利子のことを見つめている麻友。
「いや、今日はもういいよ、上がっちゃいな」
「え、で、でも」
「そんな状態で居られるくらいならさ、すぱっと上がってもらったほうがいいし。ま、落ち着かないのも分かるけど」
 きっぱりと言われて項垂れるが、最後の一言に首を傾げる。
「え……と、何がわかるんですか?」
「何がって、ユキちゃんのことでしょ」
 図星をさされて、少し動揺する。
「あら何、どうしたの。喧嘩でもしたの?」
「喧嘩っていうか……最近、私、嫌われているんじゃないかって思って」
 口に出してしまうと、本当にそうなんじゃないかと思ってくる。
 しかし、江利子を見つめる麻友は目を丸くしている。
「は? ユキちゃんが? 江利ちゃんを嫌いになる? あははっ、そんなことあるわけないじゃん!」
「え? で、でも」
「あはははっ、何ソレ、そんな酷い喧嘩したの? もー、せっかくの日なんだからさ、さっさと仲直りしなさいよ。ほら、とっととユキちゃんとこ行っておいで」
「はっ? 麻友さん、何が」
 その時、江利子のロッカーの中から奇妙な音が聞こえてきた。バイブレーション設定にしてある携帯が震えているのだ。ロッカーを開けて携帯を開いてみて驚いた。
「あら、随分とメールが来ているじゃない。全部ユキちゃんから?」
 覗き込んできた麻友の言うとおり、祐麒からのメールが沢山届いている。バイト中は携帯をロッカーに置いてあるから気が付かなかったのだ。恐る恐るメールの内容を見てみると、今日、部屋に遊びに来てほしいという誘いのメール。
 実は昨日、一昨日にも同じようなメールが届いていたのだが、なんだか怖くて返信できていなかったのだ。
「ほらほら、呼ばれてるよー」
「でも、ですね」
「デモもモデムもないのよ、さっさと返事しなさい、鬱陶しい」
 いきなり麻友は江利子の手から携帯を取り上げると、ガツガツとメールを打ち始め、呆気にとられているうちに返信してしまった。
「はい、これから光速で行くってうっといたから」
「ちょっ、何を勝手に」
「いいから、さっさといってエネルギーチャージしてきなさいっての」
 携帯をポイと投げて返され、慌てて受け止める。
「そうそう、それに今日行かないとせっかく」
「おっと理於奈、そこまで」
「むぐぐ……」
 いつの間にかやってきた理於奈が何か言いかけたが、麻友が口を手で塞ぐ。
 そしてそのまま江利子を半ば睨みつけるようにして言う。
「とにかく、さっさと行きなさい。ここにいられても、困るの」
「は、はぁ」
 麻友に追い立てられるようにして仕事場を出ると、外は既に陽も落ちて夜が顔を見せていた。携帯のメールをもう一度確認し、目を閉じ、大きく深呼吸してから江利子は駅に向かって歩き出した。

 

 そうして今、江利子は祐麒のアパートの前に来ていた。
「はあ……」
 気が重い。
 祐麒の部屋を訪れるのは、実にいつ以来であろうか。先日は結局アパートに到着する遥か手前で引き返してしまった。部屋に入るとなると、夏休みに入る前のいつだっただろうか、とにかく大学入学以来、これだけ日にちを開けたことはなかった。あの狭い部屋の中で二人きりになったら、果たして今までと同じような態度を取れるか、今の江利子には自信がなかった。
 それにもし、前に想像したように室内に他の女性が訪れた痕跡でもあったらと思うと、心が萎える。僅かでもそういう痕跡があれば、見つける自信はあった。女は、その手のことには敏感だ。
 その手の事態を想定したことがないわけではなかった。仮に、そういう事態が起きたとしたら、江利子は敢然と立ち向かうつもりでいた。負けるつもりは無かった。
 ところが現実はどうだ、実際に蔦子という目に見える脅威が現れると、こんなにも弱気で、戦う気力が湧き上がってこない。むしろ、怯えているではないか。
 のろのろと、少しでも遅れて着くように足を進める。引き返してしまいたかったが、祐麒は待っていると言っていた。だから、とりあえず顔だけでもだそう。それで、具合が悪いとでも言ってさっさと帰ってしまおう。
 江利子は後ろ向きの気持ちを抱えながら、祐麒の部屋の前までやってきた。
 扉の前で、大きく息を吐き出す。
 インターフォンを押す。
『江利ちゃん?』
 中から声がかかり、びくっと体が震えた。
『開いているから、どうぞ入って』
 祐麒の声に、覚悟を決めて扉を開いて中に入る。
 入ってすぐに感じたのは、鼻孔をつく良い匂い。入ってすぐのキッチンには、何やら料理をした痕跡が残っている。もしかして、江利子が来ると思って夕食をずっと待っていたけれど、我慢できなくなって自分で何か作ったのか。そんなことを思わせ、させていたのだとしたら江利子の失態だ。
「あ、ご、ご、ごめんなさい。今日のお夕飯」
 泣きそうになる。
 こんなんでは、本当に愛想を尽かされるかもしれない。慌ててキッチンを抜け、祐麒の部屋の扉を開けたところで。
「――――え?」
 目の前に広がる光景にびっくりした。
 テーブルの上に並べられた料理もそうだが、それ以上に驚かされたのは部屋で待っていた祐麒の姿。
 白の半そでブラウスに赤いチェックのボウタイ、上にはベスト。タイと同じ赤いチェックのプリーツスカート、白のハイソックス。ウィッグを付けて、メイクも薄くだけど決めて、とても可愛らしい格好なのにさらにエプロンまで装備している。
「ゆ、ゆゆ、祐麒くん、ど、どうしたのっ?」
 口が開いてふさがらないとはこのことか。
 祐麒の女装姿は幾度となく見ているが、江利子のいないところでこんなにもバッチリ可愛く決めている祐麒は、今まで見たことがない。
「それに、この料理は」
 可愛らしいミモザサラダ、胡瓜のお浸し、チキンのバジル焼き、オニオンスープ。
「あはは……これでも一応、頑張ったんだ」
 全く意味が分からずに、江利子はテーブルの上の料理と、可愛らしい女の子の格好をしている祐麒を交互に見ることしか出来ない。
「え~っと、まだ分からない? あの……た、誕生日おめでとう、江利ちゃん」
「――――え?」
 そこではっとして携帯電話の液晶画面を見て、日付を確認する。

『8月4日』

 最近のドタバタで全く気が回っていなかったが、確かに江利子の誕生日だった。
 だとすると料理は理解できる。でも、祐麒の格好は――
「えと、ほら、江利ちゃんが喜ぶかなって思って。江利ちゃん、俺がこういう可愛い格好をするの、好きでしょう」
「あ……と」
「あの、本当にささやかで申し訳ないんだけど、誕生日パーティということで」
 恥しそうに頭をかく祐麒。
「いつも料理を作ってもらっているから、今日くらいは俺がと思って……あ、一応レシピみてちゃんと作ったし味見もしているから、そんな変なものにはなっていないと思います……けど」
 いまだ何も言わない江利子を見て、祐麒も不安からかわずかに声のトーンを落としたが、すぐに気を取り直したように明るい声を出す。
「どこかレストランを予約するのも考えたんだけれど、こうゆう方が、気持ちが表れるかなって。あ、だけどワインはいいやつなんですよ、コレ!」
 ワインを取り出すと、ワインオープナーでコルクを抜きにかかる祐麒。そのワインのラベルを見て、江利子は驚いた。まさに、江利子が大好きなワイン銘柄だったのだ。祐麒と一緒に飲んだ記憶は無いし、好きだと言った記憶も無い。たまたま購入したワインが、偶然にも江利子の好みのワインだった、なんていうことがあるのだろうか。
 確か、このワインを好きになったのは、いつか兄がお土産に買ってきてくれたときで、その後は蓉子達と食事をしたときに一度だけ――
「ほら、さっそく乾杯しましょうか」
 言いながら、ワイングラスに鮮やかな赤い液体を注いでゆく。このワイングラスは、実家で余っていたものを江利子が持ってきたやつだ。
 ワインを注ぎエプロンを外したところで、立ち尽くしたままの江利子を見て祐麒は首を傾げる。
「ほら座って江利ちゃん、乾杯しよう」
 促されて腰を下ろし、乾杯をする。
「あ、あの……そ、その前にちょっと、聞きたいことがあるんだけれど」
 誕生日のサプライズはともかくとして、はっきりさせておかないといけないことがある。
「さ、最近、その……せ、せせせせっ、聖と一緒にいたりしなかった!?」
 思い切りどもって、不審な聞き方になってしまった。
「え、ど、どうして!?」
「あ、あの……この前、街で一緒に歩いているのを見て……あ、あと、せ、聖の部屋に入って行くところも……」
「えっ!? み、見られていたんだ。えーっと、江利ちゃんの好みを知りたくて、色々聞いていたんです。実はこの好きなワインの銘柄も、聖さんに教えてもらって。プレゼントは自分で選べって言われちゃったけど。聖さんの部屋にいったのは、料理を教えてもらっていて」
 思わぬ展開に、言葉を失う。
 そんな江利子を見て祐麒が表情を改める。
「……そうですよね、そんなこと言う前に、もっと先に言うべきことがありますよね」
「え……ゆ、祐麒くん?」
 いきなり江利子の見ている前で床に膝をつき、更に両手をつき、額もつけた。
「ごめん、江利ちゃん!」
「ちょ、え、な、何っ!?」
 突然見せられる土下座に、もはや江利子はついていけない。
「不安にさせてごめんなさい。怯えさせてしまってごめんなさい。泣かせてしまって……ごめんなさい。全部、俺が悪かったんです。はっきりしなかった俺が」
 そうして謝った後、顔をあげ、江利子の顔をはっきりと見つめて祐麒は言った。
「俺が好きなのは江利ちゃんです。ずっと、口に出来なくてごめん。俺、江利ちゃんのことが、誰よりも好きです」
「え、え、で、でも、蔦子ちゃん……は」
 混乱しているためか、言わなくてもいいことを口にしてしまう江利子。それに対しても、祐麒は答える。
「蔦子さんにも、俺の気持ちをちゃんと伝えました。つまり、断りました」

 それは一昨日のこと。
 メールで蔦子に呼び出された公園で、祐麒は蔦子と相対した。
 夜、人気のない公園を少し歩いていると、不意に蔦子に手を握られた。さりげなく離そうとしたが、逆に強く掴まれ、更に身を寄せてきた。
 蒸し暑い夜、蔦子の体温を感じる。
「ねえ、祐麒くん」
 胸に埋めていた顔を少し離し、祐麒のことを見上げる蔦子。
「私……祐麒くんのことが、好きなの」
 眼鏡の下に光る瞳はとても綺麗で、そして僅かに揺れている。
「――蔦子さん」
 正面から逃げずに見つめ返す。
「好きになってくれてありがとう。でも俺、蔦子さんの気持ちには応えられない。ごめん」
 蔦子の肩を掴んで体を遠ざけると、そのまま頭を下げる。これで納得して貰えるかどうか分からないが、他に出来ることはない。
「…………どうして?」
「え?」
 顔を上げると。
 怒ったような、泣いたような、複雑な表情をした蔦子と目があう。
「どうして、江利子先輩がいいの? いつもいつも祐麒くんを振り回して楽しんでいるのに……それでも、江利子先輩がいいの? あんな、祐麒くんに無理やり女装をさせた楽しんでいるような人が。祐麒くんだって、女装は好きじゃないって言っていたじゃない」
「蔦子さん」
 人が少ないとはいえ、誰もいないわけではない。近くを歩く人が、興味深そうに祐麒達のことを見てくるが無視する。
「確かに江利ちゃんは俺を振り回すけれど、本当に俺が嫌なことはしないから」
「女装はどうなのよ」
「それは……確かに好きなわけじゃないけれど……でも、俺が女装すると、江利ちゃんが喜んでくれるから」
「…………な、何よ、ソレ……」
「そりゃ、部屋の中くらいならともかく、外にまで連れ出されて恥ずかしいし、誰かにバレたらって気が気じゃないけれど……江利ちゃんが凄く嬉しそうにしてくれるから」
「それって、単に祐麒くんを玩具にして楽しんでいるだけじゃないの?」
「違うよ、純粋に俺の女装姿が好きなんだよ、江利ちゃんは」
「そりゃまあ……確かに凄く良く似合っていたし、私もパッと見は分かんないくらいだったけれど」
「オレだって女装が好きなわけじゃないけれど、それ以上に、江利ちゃんが喜んでくれる姿を見るのが好きなんだ。だから、続けちゃうんだ……ああ、そうか、なんで好きでもないし断ればいいのに女装していんだろうって思っていたけれど、そういう理由だったんだ」
「……は?」
 最初にウェイトレスとして働き続けたのは、江利子から脅しともとれることを受けたわけだが、強制力があるわけではなかった。それでもなぜか続けてしまったのは、きっと女装した祐麒の姿を見て喜ぶ江利子に心を奪われていたから。
「何よ、それ……そんなの」
 俯き、喉から絞り出したような声で呟く蔦子。
「そこまで言われたら、もうしようがないもの。でも祐麒くん、それじゃあ一つ教えて」
「何?」
「と、いうことはよ? 女装して外を出歩くのは、心の底から嫌ではない、っていうことなのかしら……?」
「えっ? あ~~、いや、出来れば遠慮したいけど、それでもしてあげたいと思うくらい、俺はいつしか江利ちゃんに……江利子さんにとらわれていたんだ」
「――分かった。最初から勝ち目が少ないのは分かっていたし、こうしてはっきり言ってくれた方が私もいいわ。でも」
 目を吊り上げて睨みつけて。
「だったら、最初からそう言って断って欲しかった。江利子先輩にも、失礼でしょう」
 何も言い返すことができなかった。蔦子の言うとおりだから。
 次の瞬間。
 左の頬に衝撃がはしった。さらに続けて右頬にも。
 驚きで、すぐに痛みを感じない。祐麒は往復ビンタをかましてきた蔦子をに目を向ける。
「まったく……こんな女装好きの変態さんのことを好きになるなんて」
「へ、変態って」
「だって、事実でしょう?」
 そう言う蔦子の瞳が、街灯のあかりを受けて光ったように見えた。
「――これでおしまいよ。さよなら」
 軽く左手をあげ、くるりと背を向ける蔦子。
 声をかけようとして、何もかけるべき言葉など持ち合わせていないことに気が付き、祐麒は黙って見送るしかなかった。

 

「そ、そうだったんだ……」
「本当にごめん。俺が最初から、きちんと態度を示すことが出来ていれば、江利ちゃんを不安になんかさせなかったのに。それに、江利ちゃんの誕生日を祝いたくて内緒で動いていたんだけど、それで江利ちゃんを不安にさせたら意味がないよね……何もなかったとはいえ、女性の部屋に上がるとか浅慮だった」
「や、やめてよ。私だって、信じきれなかったわけだし」
「でも、怒っている時は、怒って欲しい。そうじゃないと俺、鈍感だから色んなことに気が付かないと思うし」
「うん、分かった……でも、今回はもういいや」
「どうして?」
 そこでようやく、祐麒が顔を上げた。
 江利子もしゃがみ込んで、目線をあわせる。
「だって今日は、私のために準備してくれたのでしょう? そんな日に怒るなんて、できないもの」
「江利ちゃん……」
 思っていること、言いたいことは勿論色々とあるけれど、祐麒が今日、江利子のために色々と準備してくれたこと、そして先ほどの告白で、全て吹き飛んでしまったようだ。これじゃあ安い女だと思われてしまうだろうか。
「じゃあ、改めて乾杯しましょう?」
「う、うん。それでは……江利ちゃん、誕生日おめでとう」
 ワインの注がれたグラスを軽く合わせ、乾杯をする。口をつけると、芳醇なワインの味わいが口に広がってくる。
「ふう、美味しい…………って、え、あ、あの、江利ちゃんどうかしたの?」
 突然、祐麒がうろたえだした。
「え……なに、が?」
 答えながら、江利子も気がついた。
「あれ、どうしたのかしら……なんで私、こんな」
 溢れ出した熱い滴が、頬を伝い流れ落ちていた。止めようとしても止められず、堰切ったように零れ落ちてゆく。
「ご、ごめんなさ……あれ、やだどうして」
「す、すみません、何か気に入らなかったですかね、こんなんじゃ」
「ち、違うの、そうじゃないの。ただ……ひっ、あ、やだ」
 声にならず、ただ瞼がどんどんと熱くなり、涙は流れる。指で拭ってもすぐに次の滴が膨れ上がり、手を、頬を、濡らしてゆく。
 だけど江利子は、涙の理由を理解していた。
 安心したのだ。
 嬉しかったのだ。
 今までの不安と、恐れと、怯えから解放されて、心の奥底に溜まっていたものが一気に破裂をしたのだ。
 江利子は今まで、勘違いをしていた。
 祐麒のことを巡っての蔦子とのやり取りは、高等部時代に令を間に挟んで由乃とやりあっていたものに似ていると思っていた。互いに引かず、真剣に向かい合い、心が痺れるような関係を築いてきた。
 しかしそれは、祐麒と蔦子では似て非なるもの、いや、全く別のものだった。
 由乃と令とのそれは、いわば予定調和の関係でもあった。由乃と令の繋がりは深く、決して切れることなど無い。江利子と令との繋がりだって、時間は短くともきちんと結び合っていた。そして、江利子と由乃の間にも確かな線があった。だから、本気でやりあっても、不快感も恐怖感もなかった。
 祐麒を巡っての蔦子との関係は、違う。三人が同じような深さで、強さで、結びつくことなどありえないのだ。
 江利子が祐麒と結ばれれば、蔦子と祐麒の間の線は切れる。逆もまた然り。三人の関係は、簡単に壊れ、ばらばらになる。
 今まで江利子は、そこまで考えるに至らなかった。それはおそらく、祐麒との関係が初めての恋愛経験であったし、江利子の方こそが祐麒と強く結びついているという自信があったから。
 だが祐麒と蔦子が楽しそうにデートをしていて、二人きりで部屋で何かをしているように思って、さらには祐麒と聖が一緒に仲良く歩いているのを見て、二人で部屋に入るのを見て、江利子自身が祐麒から避けられているようなのを感じて、一気に今までの考えが覆されたのだ。
 この数日、江利子は闇の中をさまよっていた。
 しかしその闇は錯覚だった。
 闇が消え去れば、そこには変わらぬ祐麒の姿があった。しかも祐麒は、嫌がっていたはずの女装を、しかもとびっきりの可愛い格好をして江利子を出迎えてくれた。それは即ち、江利子のことを本当に受け入れてくれたからではないか。
 蔦子に指摘され、いつしか女装のことが足かせとなって江利子に重くのしかかっていた。普段と変わらないようにしようと思いつつ、意識しないわけにはいかなかった。祐麒はそれを解き放ってくれた。
 だから。
「違うの……嬉しいの……だから……」
 声にならず、ただ手で顔を覆う。
 体が震える。
 その、震える肩を。
「江利ちゃん」
 そっと祐麒が、抱きしめてくれた。

 

第九話に続く

 

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