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ノーマルCP マリア様がみてる

【マリみてSS(景×祐麒)】Yes,I’m your "Key" <第四話>

更新日:

 

~ Yes,I’m your "Key" ~
<第四話>

 

 

 いざ、景の連絡先を手に入れるべく、リリアン女子大前でストーキング、もとい待ち伏せを決行しようとしたのだが、そうはうまく事は進まなかった。
 実は一度決行したのだが、その際、正門の前でうろうろしていたのを怪しまれ、警備員に問い詰められるという失態を犯してしまったのだ。お蔭でそれ以降、リリアン女子大の前を歩いて通過するならともかく、留まって景を待つということができなくなってしまった。門の前を歩くのだって、短時間に何往復もしたらあやしまれるので、そんなに実行することは出来ない。
 結局、偶然に任せたところで都合よく景に出会えるわけもなく、いたずらに時間ばかりが経過していった。
 あまりに時間が空いてしまうと、そもそも接点がないのだから、景の中から自分の存在など消えてしまうかもしれないと焦り始める。
 そんな時に、聖から連絡が入った。
『やーやー青少年、元気にしているかね?』
 受話器の向こうから聞こえる聖の声は、なんとも能天気なものだった。
「佐藤さん、どうしたんですか、いきなり」
 実家に電話をされると、祐巳に疑いの目を向けられ後で説明をするのが面倒なのだ。
『何よー、カトーさんじゃなくてあたしからの電話じゃ不満だっての?』
「そんなこと言っていません。それで、本当になんでしょうか」
『ふっふっふ、ねえ祐麒、デートしよう!』
「…………は?」
 聖の提案に、本気で首を傾げる。
「あの、今、なんと?」
『だからー、デートだよ、で・え・と☆ 嫌だとでも言う気?』
「嫌というかですね、なんでいきなり」
『前にさ、埋め合わせするって言ったじゃん。それそれ』
 確かに以前、景とのことでそのような話になったが、デートがどう関係するのだろうか。景のことを好きだということは、聖も知っているはずなのに。
 そこでもう一つ、思い出した。
 埋め合わせとして、景の3サイズを聞き出してくると言うことを。もしかして、それを教えてくれるのだろうか。デートとは全く関係ないが。
『日にちと時間と待ち合わせ場所言うから、メモってねー。あ、ちなみにクラシックコンサートだから』
「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
 結局、聖のペースにまんまとはまってデート日程のメモを取る。
『それじゃ、当日ぴくよろー』
「…………」
 返事をする間もなく、電話は切れていた。
 受話器を無言で見つめ、降ろす。
「ちょっと祐麒、今回は聖さま、なんだって」
「べ、別にたいしたことじゃないよ」
「聖さまが祐麒に電話するって、なんなんだろう、気になる……」
 ぶつぶつ言う祐巳を尻目に、自室へと戻り、手にしたメモ用紙を改めて見る。
 クラシックコンサートでのデート、果たしてこれが何を意味するのか――

 

 日にちはあっという間に流れ去り、約束のコンサートの日となった。景とはいまだに会えていないが、せっかく今日は聖に会うのである、なんとか連絡先を聞き出そうと思う。人づてとか、もうその辺に構ってなどいられない。
 家を出るとき、何事かと祐巳が目を丸くしていた。それもそうだろう、シャツにネクタイにジャケットと、遊びに行くにしてはかっちりしすぎた格好をしているから。むしろ、こんな格好で外出した記憶などない。
 何か問いかけたそうな祐巳を無視して、待ち合わせ場所へと向かう。クラシックのコンサートなど生まれて初めてだが、この格好で正解だろうか。カジュアルなスタイルでも大丈夫だとネットで調べはしたが、安全策をとってきっちり固めてきたのだ。
 クラシックには今まで興味がなかったので、今日の内容についても殆ど調べることなくやってきた。『名曲コンサート』ということで、初心者でも比較的入りやすい内容だということは聞いたので、大丈夫であろうと思うことにした。そもそも、今日の主たる目的はデートの中身というよりは、聖から聞き出そうとしていることにあるのだから。
 時計を確かめると、待ち合わせ時間の五分前まで迫っており、気持ち足を速める。さすがに、遅刻するわけにはいかない。
 三分前に到着し、聖の姿を探そうとしたところで背後から声をかけられた。
「――あ、ちょっと遅れてすみませ」
 振り返りつつ返事をしようとして、固まる。
「え?」
「え、うえっ!?」
 てっきり聖だとばかり思っていたのだが、声をかけてきたのはなんと景だった。
「ああ、やっぱり祐麒くんだったんだ……祐麒くんも、誰かと待ち合わせ?」
 まじまじと、景を見つめてしまう。
 ベージュのシャツは胸元のピンタック使いが特徴の、細いストライプ柄。それに上下ブラックでテーラードジャケットとタックスカートをあわせた、シックだけどおしゃれさも見えるスーツスタイル。薄紅色のネックレス、赤いパンプスが、上下でアクセントをつけている。眼鏡は変わらずにかけているが、髪型がいつもと違い、軽くカールをかけたサイドアップで、可愛らしい大人っぽさを醸し出していた。
 そんな景の姿に見惚れてしまい、声も忘れる。
「ちょっとどうしたの、祐麒くん?」
 反応しない祐麒を訝しく思ったのか、目の前で手をひらひらと振ってみせてくる。
「ああ、いえ、す、すみません」
 我に返り、声を喉から絞り出す。
「それより、祐麒くんも待ち合わせ?」
「俺も、っていうことは、加東さんもですか」
「ええ、佐藤さんとね」
「えっ!?」
 思いがけない言葉に、つい声が大きくなる。
「待ってください、あれ、俺も佐藤さんにここに呼び出されたんですけれど」
「え? 変ね、今日は一緒にコンサートに行く約束で、チケットも先に渡されていたんだけれど」
 と言って景が取り出したチケットを見てみると、それはまさしく祐麒が誘われていたコンサートのものであった。
「ちょっと待って、私は、佐藤さんがチケット持っていると忘れそうだからって、二人分を事前に渡されたんだけれど……」
「俺は、佐藤さんがチケット二枚持っているから、此処に来てくれればよいって……」
 祐麒は気が付いた。これが、聖の言っていた"埋め合わせ"なのだと。
 景と祐麒、それぞれと同じ場所、同じ時間で約束をしておいて、自分自身は出てこない。祐麒と景の二人にデートをさせるための策略だ。それならそうと、事前に言っておいてくれればと思うが、悪戯好きの聖のことだからあえて言わなかったのだろう。
「はぁ……そういうこと」
 景も、聖のたくらみに気が付いたようだった。
 少しばかり眉を顰め、困ったように祐麒に目を向ける。
「え……と」
 思わず、どきりとする祐麒。そんな困ったような表情をするということは、祐麒と一緒に行こう、という選択肢はないということか。まあ、聖と一緒に観に行く予定で、知り合いとはいえいきなり男である祐麒と行くことにしよう、とはならないのかもしれないが。
 果たしてどんな判断を景はしてくるのだろうかと、息を殺して見つめていると、ふっと景の表情が和らいだ。
「それじゃあ、せっかくだし一緒に観に行く? このコンサート、前から観たかったのよ。あ、祐麒クンが興味ないなら、無理にとは」
「行きます!」
 即答した。
 あまりの勢いに、きょとんとする景だったが。
「……祐麒クンも好きなの、こういうの?」
 ふわりと微笑み、訊いてくる。
 その微笑みに、祐麒はただ無言で頷くことしかできなかった。

 

 初めて経験したクラシックのコンサートは、思っていた以上に楽しかった。二階席でオーケストラ全体を眺めることができて、色々な楽器を見ることができた。予習をしてこなかったので分からないことばかりだったが、隣に座る景が都度、あの楽器は何で、どういう楽器なのかということを簡潔に分かりやすく教えてくれたり、楽曲について教えてくれたりした。
 曲についても、「イングリッシュホルンていう珍しい楽器があるんだけどね、2曲目の冒頭で凄く綺麗なメロディを聴かせてくれるから、よく聴いてみて」、「シンバルは第4楽章で1回、叩かれるだけなの。よく聴いていてね」などと、聴きながら自然に、且つ豊富に、説明をしてくれた。
 おかげで、非常に楽しい時間を満喫することが出来たのだが、行く前に興味があるなんて頷いておいて全く知識もなく、それが恥ずかしかった。初めから分かっていれば勉強してきたのにと、お膳立てしてくれたとはいえ聖を恨みたくなる。全く見当違いの恨みだとは分かっているけれど。
「すみません、色々と教えていただいて。俺、全然詳しくなくて」
「ううん、自分の好きなことを話すのって楽しいから、全然大丈夫よ。むしろ、これで祐麒クンが興味を持ってくれたら嬉しいもの」
「あ、はい、それはもう。クラシックって今まで気にして聴いたことってなかったですけど、加東さんの説明を受けて聴いてたら凄く興味が持てました」
 これは全くの嘘ではない。景が好きなものだからというのもあるだろうが、実際に聴いて、その迫力や美しさに心をうたれたのは事実だ。
「本当? それなら良かった」
 こうなったら、これからクラシックを色々と聴きこんで勉強して、それをきっかけにして景と仲良くなってやると、内心で意気込む。
「さてと……お腹すいちゃったわね。どこかで食べていきましょうか?」
 会場の外に出ると既に真っ暗で、さてこの後どうしようと考えていると、先に景に誘われた。
「え……しょ、食事ですか」
「そう。あ、大丈夫よ、それくらいならおねーさんがご馳走してあげるわよ?」
「いえ、そんなんじゃないです! 自分の分くらい自分で払います!」
「あら、そう? それじゃあ、行きましょうか」
 誘われるままに連れていかれたイタリアンレストランで夕食をとり、さらにその後、景に連れられて、生まれて初めてバーに入る。
 店内はこじんまりとしているが、想像していたほど暗くなく、お洒落でカジュアルなバーのようだった。時間的にはまだ比較的早いので、店内に客の姿は少ない。
 祐麒と景は、カウンターに並んで腰かける。
「祐麒クンは、何、飲む?」
「え? ええと、じゃあジントニックを」
 まさかお酒を飲みに来るとは思っていなかったので、何も調べていなかった。とりあえず、知っているカクテルの名前を出す。
 そんな祐麒を横目で見て、景は微かに笑う。
「じゃあ、私はロングアイランド・アイスティーで」
 知らないお酒の名前を出される。いったい、どんなカクテル何だろうかと思い、つい景の方を見てみると。
「実は、私もよく知らないのよ。なんとなく、アイスティーっていう名前で選んじゃった」
 と、軽く舌を出して見せる。思いがけないお茶目なところに、ちょっと驚く。
「そりゃそうよ、私、まだ大学一年生なのよ? こんなバーに来るのだって、まだ3回目、かな? お酒にだって、そこまで詳しくないし」
 意外な気がした。祐麒から見れば、ずっと大人の女性に見えたから。
「それは、偏見ってもんじゃない?」
 他愛もない会話。
 そうこうしているうちに、目の前に頼んだカクテルが置かれる。
 細い指で、グラスを持ち上げる景。祐麒もグラスを手に取りグラスをあわせ、静かに、清らかな音色を店内に響かせた。
 景は饒舌ではなく、むしろ口数は少ない方だが、それでも祐麒の話す言葉にきちんと耳を傾け、相槌をうち、時には突っ込みをいれるなど、聞き上手であった。
 調子に乗って一杯目を飲みほし、二杯目を注文すると、景もあわせて二杯目の注文をする。景を見てみると、ほんのりと頬に赤みが差し、目もとにえもいわれぬ色気のようなものが漂い始める。
「ところで祐麒クンはさ、本当に今まで彼女とか、いなかったの?」
 そんなことを景が口にしたのは、話も落ち着いてきて、ふと無言の時間が一分ほど続いた後のことだった。
「いないですよ、男子高ですし。なんでですか」
「ん、なんとなく。高校生のくせに、こういうお店でも落ち着いているし、慣れているのかなって」
「ま、まさか。内心は緊張ですごいですよ、落ち着いて見えるのは、単に固まっているだけですよ」
「そうなんだ。でも、ごめんなさいね」
「何がですか?」
 マンハッタンに飾られた、マラスキーノ・チェリーの刺さったカクテルピンをつまみ、もてあそぶように口づけをする景。
「相手が佐藤さんじゃなくて。残念だったでしょう?」
「な――――」
「だって今日、本当は佐藤さんとデートだと思っていたんでしょう」
「あ――いや、それは」
 そうだ、景にはそのように思われているのだ。
 誤解されているままでは、進めない。
 祐麒はグラスに残っていたジンライムを飲み、気合いを入れた。
「あの、加東さん」
「あ、と、ごめんなさい。ちょっと、お手洗いに」
「あ……は、はい」
 席を立つ景。
 結局、この後は何も言うことが出来ずに店を後にした。

 

 帰り道、終電まではまだ余裕があるが、それでも随分と遅くなってしまった。アルコールが入り、景は少し陽気になっている。コンサートが良かったというのもあるかもしれない。
 一方で祐麒は、誤解を解ききれていないことで、落ち込んでいた。もちろん、そんな姿を景に見せるつもりは毛頭なかったが、無意識のうちにため息をついたり、呆けていたりしたようで、景に心配されてしまった。
「そんなに落ち込まないで。佐藤さんには、私の方からも言っておくから。なんなら、協力してあげるわよ?」
 厚意で言ってくれているのは分かるが、それほど辛いことはない。自分の好きな女性が、他の女性との仲を応援してくれるだなんて。
「……ち、違うんです」
「え?」
 タイミングが合わなかった、なんて言い訳を後でするなんて嫌だった。単に、自分自身の意気地の無さを棚に上げて誤魔化すなんて、耐えられない。
 漫画やドラマで恋の告白を見たりして、なんでもっと上手くやらないんだろうとか、自分なら勇気を出して言うのにとか、普通に思っていた。
 だけど現実は簡単なものじゃなくて、勇気を出せばとか、当たって砕けろとか、そんな軽く言えるようなことではない。期待を遥かに上回る恐怖。拒絶されたら、関係が消滅してしまったら、そう考えるとたった一つの言葉を口に出すことさえ困難極まる。
 一緒に居るだけで緊張して、声が上擦ったり言葉を噛んだり、言いたいことの十分の一も伝えることが出来なくて、情けないことこの上ない。
 初めて知った。
 こんなにも苦しく、大変なことだということを。
 こんな思いを乗り越えて、皆、相手に想いを伝えているのだ。
 自分だって、出来ないわけがないのだ。
「どうしたの、祐麒クン」
「違うんです」
「何が?」
「俺が……俺が好きなのは佐藤さんじゃないです」
 真っ直ぐ、景を見つめる。目を反らしたくなるが、懸命に堪えて見つめ続ける。
「え……っ、ちょ……待って、その……」
 おそらく、祐麒の気持ちが誰に向いているかを、景も察したのであろう。目を丸くし、息を呑み込み、動きを止める。
「だって、祐麒クンは、その……佐藤さんを」
「違います、俺が、俺が好きなのは加東さ――」
 近づき、逃げようとする景の肩を掴み、想いを告げようとしたところで。
「――――ッ!? い、嫌ぁっ!!」
 景の悲鳴と同時に、乾いた音が夜道に響き渡る。
 何が起きたのか、咄嗟に理解できなかった。
 顔が、右を向いている。そして、頬に熱と痛みが感じられた。
「あ…………」
 祐麒の頬を叩いた景自身の方が、驚いたように自分の手を見つめている。
「ご、ごめん、なさい……」
 呆然としつつ、景を見る。
 景は、怯えたような、泣き出しそうな、そんな顔をしていた。
「ち、違うの。ゆ、祐麒クンが嫌いとか、そういうわけじゃないの……でも……」
 自分の体を抱きしめるような景が、小さく見える。
 断られることは想像した。したくなかったけれど、どうしてもそういうイメージは出てしまった。勿論、受け入れられることも考えた。考えるだけで幸せな気持ちになれた。だけど、こういう反応は予想もしていなかった。
 なぜ、どうして、何が悪かったのか。
 拒絶される以上に、悲しい顔をされるのが辛かった。
「……っ、ご、ごめんなさいっ!」
 それだけ振り絞るようにして言うと、景は祐麒から逃げるように駆け出した。いや、実際に逃げたのであろう。
「――何、どうしたの、喧嘩?」
「あの子、彼女に振られちゃったのかしら、かわいそー」
「修羅場とか?」
 周囲の人たちが何か言っているが、頭の中には入ってこない。
 祐麒は一人、立ちすくみ、景が消えて行った空間を見つめていた。

 

 

第五話に続く

 

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