書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(景×菜々×祐麒)】ルートK⇔7 第四話

更新日:

~ ルートK⇔7 ~

第四話 『真の姿!?』

 

 ゴールデン・ウィークを直前に控えた四月の終わり。
「――うがーーっ、お、終わった!!」
 唸るようにして言うと、祐麒はそのまま机に突っ伏した。
 その様子を、風見を含むチームのメンバーが生ぬるい目で見つめていた。
「おめでとう、ちゃんとおわったじゃーん」
 風見が労うように肩を叩いてくれた
 どうにかこうにか、散々苦労しながらも予定期間内に予定していた仕事を終えることが出来て、一安心である。大丈夫だとは思っていたが、最後に景からOKが出るまでは、下手したらゴールデン・ウィークのどこかで出勤か、という恐れまであったのだから。
「これで、心置きなく飲みにいけるね」
 時間は二十時手前だが、これなら遅い内には入らない、むしろ早い方であろう。今日は現在のプロジェクトが区切りのよいところまで終わったということと、景の歓迎会を兼ねてチームメンバーで飲みに行こう、ということになっていた。これで祐麒が一人、仕事のせいで参加できない、などとなったら情けない。
「すみません、すぐに準備します」
「焦らなくても、まだ時間早いから大丈夫だよ」
 そう言ってくれるが、祐麒以外のメンバーは既に本日の仕事の方をつけて、いつでも出ることができる状態になっている。焦らずにはいられなかった。
 メンバーは全部で六人、祐麒と風見と景以外に、プロパーのベテラン男性社員が一人と、協力会社のメンバーが二人である。
 急いで後片付けをしてメンバー揃って会社を出たのが二十時過ぎ、繁華街の方に出て店に入り、乾杯をする。一件目として入った店は、風見の選んだ刺身をはじめとする新鮮な魚介類の美味しいお店。旬だという蛍烏賊と鮎並などを頼み、舌鼓を打つ。刺身には日本酒があうなどといって、皆お酒もガンガン飲みまくる。基本的にメンバーは全員酒好きなのだ。
「こら福沢君、一人だけなんでサワーなんて飲んでるのよ、男らしくない!」
 風見に背中を叩かれ、むせる。
 そんなことを言われても、祐麒はそこまで酒に強いわけではないのだ、他の皆と同じペースで飲んでいたらすぐに潰れてしまう。
 どうにかペースをおさえながら、二件目へと突入した。
 二件目は適当に選んだ店だったが、良かったのか悪かったのか、日本酒が非常に充実している店だった。
 案の定、酒が進む。
「福沢君はねぇ、段取りが悪いのよね」
 正面に座っていた景が話しかけてきた。眼鏡の下の目は据わっているようにも見え、またもや説教モードに入りかけているようで身構える。
「あーほら、加東さん、それよりあの映画観ました? ほら、原作が有名な」
 六人という人数で説教モードに入られてはたまらないと、すかさず風見が別の方向に話をそらせてくれて、胸を撫で下ろす。景はなおも説教したそうな素振りを見せていたが、風見が色々と話題を振ったり、男性陣が日本酒をすすめたりして、どうにかお堅い話になるのを避けることが出来た。
 出来たのだが、それには一つの代償があった。

「……ごめん、福沢君、終電があるからっ」
「あ、はい、大丈夫です」
 飲みに飲み、話しに話し、時間を忘れるほど盛り上がったのは良いのだが、それ故に店を出るころには日付ももう変わろうかという時刻になっていた。
「加東さんは俺がタクシーに乗せますんで」
「ごめんね、じゃ、また、うわ、ダッシューーーー!」
 携帯で時間を確認した風見は、申し訳なさそうな顔をあまり見せずに駅に向かって走っていった。他のメンバーも既に帰宅の途についていて、残されたのは祐麒と景だけであったが、その景はといえば近くの電柱に抱き着いていた。
 景の歓迎会を兼ねていたわけだから、当然のように飲み会の主役は景で、おまけに説教モードを避けるためにお酒を勧めていたため、景はぐでんぐでんに酔っぱらっていた。一人で立つこともままならない状態で、まともな意識を保てていない。放っておくわけにもいかないが、他のメンバーとて明日の休みに予定もあれば終電の都合というものもあり、結局、一番年下の祐麒が景をどうにかすることにして他の皆は帰したというわけだ。
 幸い、学生時代から社会人まで、何度も酔っぱらった仲間を介抱した経験がある。翌日の休みに予定があるわけでなし、祐麒自身は帰れなくなってもネットカフェにでも行けばすむので、景さえなんとかできればよい。
「えーっと、加東さん、タクシー捕まえましたよ、帰れますか?」
 電信柱に寄りかかっている景の肩を叩くと、ぐらりと体が揺れ、祐麒の方に倒れかかってきた。
「うわっ、だ、大丈夫ですかっ!?」
 かろうじて支えるが、景はほとんど体に力が入っておらずに祐麒に凭れ掛かってきている。非常に、重く感じるのは失礼だろうか。
 どうにかタクシーまで連れてきたものの、どこまで運んでもらえばよいのか分からないし、聞き出そうにも景は反応を示してくれない。どうしようかと困っていると、景が何かを手渡してきた。見ると、財布だった。
「えと、加東さん?」
 景の手が財布を探り、免許証を取り出した。当然、そこには住所が書かれている。
「ああ、なるほど、じゃあここまで……って」
 それですべての力を使い果たしたのか、完全に落ちたようだ。このままタクシーに乗せて行き先を告げるだけでも良いのだが、果たして家に着いたとして、起きて一人で部屋まで戻れるだろうか。タクシーの運転手に多大なる迷惑をかけないだろうか。
「はあ……仕方ないか」
 祐麒は一緒にタクシーに乗り込むと、運転手に免許証に記載された住所を告げた。

 

 案の定、マンションの前まで到着しても景は意識が戻らなかった。散々ゆすって起こそうとはしたものの、わけのわからないことを言い返してくるだけで、自力で立って歩こうとはしなかった。
「ああ、畜生っ……」
 二人分の鞄を持ち、一人の身体を支えるというのは重労働だった。どうしようかと考えたが、思い切って抱き上げることにした。いわゆる、『お姫様抱っこである』。
 見た目まだ新しく、お洒落な感じのマンションで、祐麒の住むマンションと随分と違って見えるのは気のせいか。申し訳ないと思いつつ景のバッグの中から部屋の鍵を取り出し、エントランスのオートロックを開けて中に入る。幸い、住人に会うこともなく景の部屋の前まで辿り着いた。
 405号室が、景の部屋だった。
「加東さん、部屋に着きましたよ、ほら起きてください」
 腕の中でぐったりしている景に声をかけ、揺すってみるものの、起きる気配はなかった。
「参ったな……」
 勝手に人の部屋に、しかも女性の部屋に入ってよいものだろうか。こんなことなら、景を連れてカラオケボックスにでも行って朝まで寝かせておくべきだったと思うが、今となっては後の祭りである。
 祐麒は大きく息を吸い込むと、覚悟を決めた。部屋の中はなるべく見ずに、何も触ることなく景をベッドに寝かせて、帰るのだ。帰り際にドアの鍵をかけ、鍵は郵便受けの中に置いておき、その旨を書き置きとして残しておけば大丈夫だろう。
 手にした鍵を、ドアの鍵穴に差し込む。景を抱き抱えたままなので非常に苦戦したが、どうにか開錠に成功して一息つく。だが、ここで気を緩めてしまっては決意が萎えてしまうと思い、勢いに任せてドアを開け、背中でドアが閉じるのを抑えながら内側に滑り込むようにして入った。
 玄関で靴を脱ぎ、短い廊下を歩いて扉を開ける。中は当たり前だが真っ暗で、とりあえず壁際を探って電気のスイッチを探す。何をするにも景を抱えたままなので大変だが、あと少しだと我慢して探り当ててスイッチを押す。
 闇に包まれていた部屋に、明かりが灯る。
「――――っ」
 そこで祐麒は、息をのんだ。
 目の前に広がるのは、おそらくダイニング・キッチン。左手にシンクが見えるからそうなのであろう。あろうが――
 一言で表現するならば、『惨状』であろうか。
 ダイニング・キッチンという名がついておきながら、そこは本来の機能を果たしているとは到底思えなかった。
 様々なものが散乱し、室内を覆い尽くしていた。
 大きな姿見、使用しているとは思えない中古のパソコンにディスプレイ、積み上げられた段ボール箱。さらに多いのは、何が入っているのか分からないがデパートの袋が床を覆い、靴やブーツが入っていたらしき箱がかなりの高さまで積まれている。あまり床も見えない有り様で、とても料理が出来る部屋とは思えなかった。
「……み、見なかったことに……」
 室内をおそるおそる進み、隣の主寝室と思われる部屋の前にやってくる。おそらく、ダイニング・キッチンを物置代わりに使用しているうちに、荷物が増えすぎてしまったのだろう、そう考えて扉を開き、考えが甘かったことをすぐに理解させられる。
 主寝室は、輪をかけて酷い状態だった。
 衣類が散乱し、大量の本が幾つも山を作り、CDやDVDのパッケージも同様。ローテーブルの上にも雑誌やらペットボトルやらが所狭しと置かれている。前の部屋はまだ床部分が見えたが、この部屋ときたらどこを歩いて良いのか分からない。かろうじて、歩けそうな場所に足を運び、これまた脱ぎっぱなしのパジャマと思われるスウェットや他の衣服の乱れたベッドへと近寄っていく。
 ゆっくりと景の身体をベッドに横たえ、布団を被せてようやく一息つく。
「今日の記憶は消してしまおう、うん、加東さんのためにも」
 振り返り、寝室からダイニング・キッチンまで通して見渡してみて、眩暈がしそうになる。
「汚部屋だ……」
 まさか、有能でバリバリに仕事をこなす景が、こんな汚部屋の住人だったなんて想像もしなかった。
 頭を振り、帰ろうと足を踏み出したところで、床に積まれていた雑誌を踏んで足を滑らせた。
「っ!?」
 尻から落ち、そのままの勢いで倒れた祐麒の頭部に激しい衝撃が与えられ、瞬間、目の前が真っ暗になる。
 どうやらテーブルにぶつけたようだと無意識下に悟ったが、明確な意思を保てたのはそこまでだった。床に倒れた祐麒の意識は、深い谷底に吸い込まれるかのようにブラックアウトした。

 

 体が痛くて、目が覚めた。
 全身が凝り固まっていて、動かそうとすると関節が軋むような気がする。安物とはいえベッドのマットレスの上のはずなのに、こんなにも固いのはなぜだろうか。とにもかくにも、起き上がらないことにはこの痛みは消えそうにないと、手をついて上半身を起こした。
「痛っ!!? おごっ!?」
 たいして上半身を起こす前に、勢いよく頭が何かにぶつかり、そのまま倒れて今度は後頭部を強打した。額と後頭部の両方を手で抑えながら声も出せずに悶絶する。数分、そのまま痛みをこらえてようやく、閉じていた目を開けると、視界に入ってきたのは木目。
 なんだろう、と考えてようやく思い当たる。これは、ローテーブルだ。寝ている間にローテーブルの下に入り込んでしまい、起きた拍子にテーブルの腹に思い切り頭をぶつけてしまったようだ。
 体が痛いのもさもありなん、床で寝ていたのだから当然のこと。カーペットこそ敷かれているものの、それだけでは寝やすいとは言い難い。そもそも洋服や雑誌やその他もろもろの物に覆われて、カーペットがあること自体、良く分からない。
 テーブルの下から這い出し、体を起こしたところで激しい頭痛に襲わた。
「ぐっ……あっ……タマ痛ぇ~~~っ!」
 二日酔いと殴打によるダブルパンチだ。
 スーツのまま寝てしまったからヨレヨレになっているし、酷い有様だった。
「……ん~~、っるさい~~」
 そこで、傍と気が付いた。というか、意識的に忘れていたことを思い出した。
 声のした方に目を向けると、こちらも昨日の服装のままベッドで寝ていた景が、うつぶせの格好から顔を祐麒の方に向けてうっすらと目を開けていくところだった。
「ん…………?」
 顔を顰め、眉間に力を入れて目を細めているのは、眼鏡を外していてよく見えないからであろう。景は枕もとを探って眼鏡を手に取り、装着する。
 そして。
「え……っ…………」
 ようやく目の焦点が合い、祐麒を見つめて絶句した。
「ど、どうも、こんにちは」
 我ながら間の抜けた挨拶だと思ったが、他に思い浮かばなかった。
 景は両手をついて上半身を起こし、口をぱくぱくとさせた後。
「――ん?」
 神速とはまさにこのことか。
「うがぁっ!!!?」
 目にも止まらぬ平手打ちが祐麒を張り飛ばし、床へとダイブさせられる。衣類や雑誌類に埋もれながら起き上がろうともがいているところ、頭上から声が落ちてくる。
「な、な、何しているの福沢君っ!? はっ、ま、まさか、私が酔ったのをいいことに、変なことをしたんじゃないでしょうねっ!?」
 ベッドの上から景が襟首を掴んできて、前後に激しく揺さぶってくる。
「ちょ、ちょっと、落ち着いてください、か、加東さん、昨日の服着ているじゃないですかっ」
「そんなの、脱がせてからまた着せたのかもしれないじゃないっ!」
「いやいや、そんな無茶苦茶な!?」
「じゃあ、その頭に被っているのや、手に掴んでいるのは何よっ!?」
「な、何って……げ」
 頭に乗っかっていたものをつまんで目の前まで持ってくると、それは淡い水色のブラジャーだった。非常に手触りがよく、コットンと思われた。更にもう一方の手を開いてみると、握りしめていたのはパステル調の可愛らしいパンティ。なんというお約束。
「こ、これは、違うんですよっ!」
 と、左右の両手にパンツとブラを握り締めて力説しても説得力がないが。
「な、何が違うっていうのよ、この変態っ……」
 両手でシャツを掴まれ、高速でシェイクされているとどんどん気持ち悪くなってくる。何せ二日酔いなのだ、勘弁してほしい。
「……っぷ」
 不意に、シェイクが止まった。
 目の前には、真っ青な顔をした景。
「――――え、まさか?」
 逃げたいが、しっかりとシャツを掴まれていて身動きが取れない。
 そして。

「――――――――うっ、ぎゃああああああああああああっ!!!!!???」

 決壊した。

 

「ごめんなさい」
 深々と頭を下げる景。
「いえ、まあ、いいんです。誤解されるような状況であることは俺も分かってましたから」
 なんとも微妙な空気が漂っている室内。
 景のダムが決壊した後、なんと祐麒も貰い××をしてしまったのである。お蔭で、休日の朝から二人して××まみれになるという大惨事。
 景、祐麒の順にシャワーを浴びて、どうにか綺麗になって今に至る。ちなみに祐麒は、シャワーを浴びている間に景が駅前のデパートで買ってきてくれた服を着ている。何せ上下共に汚物まみれになってしまい、景の部屋には男物の服など存在せず、どうしようもなかったのだ。
「なんか、申し訳ないですね」
 自分の格好をまじまじと見つめ、軽く頭を下げる。服がないことには帰れないので当然のこととも思えるが、景が購入してきた服がセンス良くて申し訳なく感じてしまう。母や姉以外の女性に服をコーディネートしてもらうなんて、初めてのことだ。
 チェックのカジュアルシャツにメッセージプリントされたダブルジップパーカ、カーゴパンツという組み合わせだ。
「私が悪いんだし、気にしなくていいよ」 「そ、そうですか」
「う、うん」
「…………」
「…………」
 何を話したら良いものか、微妙な沈黙が二人の間に横たわる。
 言葉に詰まり、とりあえず室内に視線を巡らす。
「な、なんか、凄い部屋ですね」
 そうとしか、言いようがなかった。まさか、堂々と「汚いですね」とまでは口にできなかった。
「え、あ、えと?」
「えーと……え、そう思わない、ですか?」
「そ、それはまあ、 "少しは" 散らかっているかもしれないけれど」
 ほんのりと顔を赤くしながら言う景。
「いやいやいや、 "少しは" どころじゃないでしょう、これは!?」
 さすがに突っ込みを入れずにはいられず、思わず立ち上がって力をいれてしまった。
「で、でも、別に生ごみとか溜めているわけじゃないし、ほら、臭くないでしょ?」
 祐麒の剣幕に驚いたのか、ちょっとおどおどした感じで言ってくる景。
「それに、どこに何があるかは分かっているし」
 と、そこで何かくぐもった音が響き出した。
「何の音ですかね」
「多分、電話だと思う」
「――で、その電話はどこにあるんですか?」
「えと、多分、その変に埋もれているはず」
 積み重なっている衣服やその他をかき分け始める景。電話機を発掘しようとしている時点で、どこか間違っているし、結局、見つかる前に留守電になってしまった。
「加東さんて、もしかして『片づけられない人』ですか?」
「そ、そんなことないわよ、これでも学生時代は綺麗な部屋だったのよ。ちょ、ちょっと社会人になって忙しくなっただけで」
「……本当ですか?」
「ほ、本当です!」
 拳を握って主張してくるが、イマイチ信用できない。
 なので、実際のところどうだったかを、ちょっと聞き出してみた。
 話の内容を総合してみると、それは綺麗に片づけられていたというよりかは、単に物が非常に少なかった部屋だったとしか思えない。要は、大して片づける必要もない程であったと。とある家の離れを間借りしていたということ、学生であったこともあり、あまり物がなかったのであろう。
 色々と突っ込みたいところはあるのだが。
「――ね、本当でしょう?」
 なぜか少し得意げな景が、オフィスでは見せない雰囲気で、やたら可愛らしく感じたので突っ込みを控えていた。
「でも、さすがに、恥ずかしくないんですか? 俺に見られて……」
「え……あ」
 指摘されて初めて、景は気が付いたようだ。
「あはは、ちょ、ちょっと待ってね」
 今更片づけようとしたところで遅いし、そもそも片づけが出来ないから今のような状態になったのではないだろうか。
「大体ですね、不要なもの捨てた方がいいんじゃないですか? ほら、こういう賞味期限の切れたパンとか」
「で、でも、それ『井村屋』の人気のやつで、ようやく手に入れたやつで、ちょっとくらいなら過ぎても……」
「だったら、なんでさっさと食べないんですか」
「勿体ないから、とっておこうと思って」
「もう、カビ生えかけてますけど」
「嘘っ!? え、でも、少しくらいなら、そこだけ削れば」
 あ、駄目だこの人は、と思ってしまった。おそらく景は、『捨てられない人』なのだ。積み重ねられた本や雑誌も、服も、靴も、それ以外の物も、いつか使うと思って捨てられないのだ。食べ物系は賞味期限があるから消費するか、どうしようもなければ捨てるのだろうが、それでもこの有り様だ。確かに、生ごみ系はないから不潔というよりは物が溢れている感じだが、それが原因だろう。
「……とにかく、これは捨てます」
「ああっ!?」
 悲しそうな顔をする景。
 本当はもっと色々と片づけたい気はしているのだが、さすがに女性の部屋、そこまで親しい相手でもないので自重する。
 そして、部屋の惨状に目がいっていたが、実は他にも気になるものがあるのだ。
「あの、加東さん、この際だから質問しても良いでしょうか」
「な、何かしら?」
 身構える景に対し、祐麒は顔を壁に向け、指差して尋ねる。
「あの、あれは加東さんの服ですか?」
「え……うああああっ!!?」
 悲鳴をあげて頭を抱える。
 昨夜は室内が暗くて気が付かなかったのだが、祐麒が指差した壁際には服がつるされていた。その服というのが、疑問符がつくものばかりで。
 紺のブレザーにグレーのプリーツスカート。黒のジャケットに、裾に白いラインの入ったグレーのプリーツスカート。紺のベストにチェックのプリーツスカート。そして、セーラー服。どれもこれも、女子高校生の制服にしか見えないのだが。
「こここ、これは違うのっ! 友達から預かっているだけだから、本当にっ!」
 慌てて吊るされた制服を回収する景。
 非常に怪しいが、これ以上は触れない方が良いだろうと判断して顔を背けた。背後でごそごそと、服を片づけている気配がする。
「ええと、それじゃあ俺、そろそろ帰りますんで」
「そ、そう? 服は、洗濯して返すから」
 さすがに居づらくなり、祐麒は暇を告げることにした。景も、引き攣った笑顔で応じてくれる。
 どうにか無事だったスプリングコートと鞄を手に取り、魔境のような部屋とダイニング・キッチンを抜けて玄関に到着する。
「それじゃあ、これで……」
「はい、どうも」
 お互いにぎこちない挨拶を交わす。
 マンションの外に出て、振り返って見上げる。
 何も言わず、歩き出す。昨日から続いていた長かった夜が、この昼過ぎになってようやく終わるのだ。
「はあっ……あ、そういえば」
 歩きながら祐麒は思った。
「駅まで、どうやって行けばいいんだ……?」

 結局、見慣れぬ街で駅と反対方向に歩いてしまい、更に無駄に一時間ほど浪費した休日となった。

 

第三話に戻る
第五話に続く

 

~なかがき~
菜「うわ~、なんかこれって作戦ですか?」
景「は? どういう意味よ」
菜「あれですよね、会社ではデキる上司、家ではだらしない姿、そのギャップに萌えさせるという」
景「そんなわけないでしょう!?」
菜「大体、幾らなんでも男に家まで送らせるって、その時点で見え透いているといいますかー」
景「ず、随分と言ってくれるじゃない?」
菜「だってありえないですもん。後輩の人とかに最初から言い含めてたんじゃないですか? 祐麒先輩に送らせるようにって」
景「ま、ありえないといえば男三人の中に女の子一人のグループって。下心あったとしか思えないけど」
菜「そりゃそうですよ、そうじゃなきゃないですね」
景「…………」
菜「ということで、次は私のターンで場に伏せていたカードをオープン! 更に新たに一枚ドロー!」
景「…………こ、このコ……」

 

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