書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(景×菜々×祐麒)】ルートK⇔7 第十話

更新日:

 

~ ルートK⇔7 ~

第十話 『カーニヴァル・デイ』

 

 

 夏は地獄だった。
 仕事だけの話ではない、むしろ週末の休日にこそ地獄は待っていた。
「ね、眠い……」
 瞼が落ちそうになるのを必死に堪える。
「ほら、福沢君、もうちょっと頑張れ!」
 なぜ、こんな目にあわなければならないのか。
 ここは、とあるアパートの一室。たいして広くもない部屋に六人という人数が集まっており、エアコンこそ効いているもののかろうじて我慢できる暑さである。
 何をしているかといえば、漫画を描いている。正確にいうならば、祐麒は消しゴムをかけているばかりだが。
「うぐぐ……まぅぁ~」
 隣で変なつぶやきを発している菜々は、主に枠線&ホワイト担当。
「な、なぜ私まで……」
 反対隣りで頭を振っている景は、ベタ担当。
「いやぁ、ありがたいね助っ人として来てくれて。持つべきものは友人の友よね」
 少し離れたテーブルでメインとして漫画を描いているのは、ゴールデン・ウィークにイベントで出会った景の友人という女性だった。名前は、東城つかさというらしいが、本名ではなくペンネームらしい。
 祐麒や菜々がなぜこんな場にいるかといえば、夏のビッグイベント『コミック・カーニヴァル』に参加する、つかさのサークルの助っ人に駆り出されたからだ。
 つかさの友人である景だけならともかく、うっかりノリで仲良くなってしまった菜々、ついでに祐麒まで引っ張り出されてしまったのは迂闊としかいいようがない。他にアテがなかったのかと文句も言いたいが、ないから呼び出されたのだろう。
 イベントまで時間もないということで、仕事で疲れているにもかかわらず、土日もほとんど潰すようにして原稿を描いている有り様だ。時間が足りないならページ数を減らすなり、クォリティを落とすなりすればとも思うが、その辺はプライドが許さない。
「福沢くんは、時間がないからといって仕事の手を抜くの? そんなことをされたとしたら、君のクライアントは喜ぶの?」
 と問われては何も言い返せなかった。
 だからといって、祐麒に手伝えというのはお門違いという気もしたが、引き受けてしまった以上は真面目にやるしかない。
 他に二人の男性がいて、やはり原稿を描いている。
 初めこそ、エロ同人の原稿に戸惑っていたものの、すぐに内容を気にしている余裕などなくなっていた。つかさの所属しているサークルはBLを売りにしている、それなりに名の売れたサークルでファンも多い。今回はBLに加えて一般的なエロ作品を出すということで、量も増えて苦戦しているのだ。
 印刷もしなくてはならないから、時間的に余裕があるわけではない。サークルの主力メンバーが盲腸で急遽いなくなってしまったのが響き、祐麒たちにまで助けを求める声がやってきたのだ。
 通常業務と同人誌の手伝い、両方をどうにかこなし、這う這うの体でようやく原稿を仕上げた頃には意識が朦朧としていた。それでも、これでようやく自由になれると解放感に浸ったのもつかの間、またも祐麒は場違いなところに連れ出されていた。

「な……なぜ……い、いつの間に俺はこんな場所にまで……」
「いやぁ、ははは、せっかく手伝ってもらったんだもの、そのお礼もかねてね」
 笑いながら祐麒の肩を叩いているのは、つかさである。
「つかささん……して、その心は?」
「人手不足なので手伝ってください」
 頭を下げるつかさを、呆れた目で見る。
 ここは『コミック・カーニヴァル』の会場である。つかさのサークルも出店していて、そのブース設営を祐麒は手伝っていた。
 久しぶりに予定も何もない休日、お盆の時期ではあるが疲れ切っていて実家に帰るのも面倒くさく、部屋でだらだら過ごそうと思っていたはずなのに。嵐のように襲撃され、あれよあれよという間に連れてこられた。
「ちゃんとバイト代は出すから、ね、お願い……たいした金額は出せないけど」
 この手の活動では、よほど大手でないと儲けなど出ないときく。つかさのサークルも、経済状況的に余裕があるわけではないのだろう。
「……別に、お金はいいんですよ」
 肩を落とし、製本された同人誌を見つめる。
 まあ、色々と言いたいことはあるが自分が手伝ったものがこうして製品となり、見知らぬ誰かに買われるのかと思うと、それはそれで楽しみではある。というか、そう思わないとやってられない。
「ま、バイト代以外にも、君には良い報酬があるから」
「は? なんですか、それ」
「まあまあ、楽しみにしていて」
 祐麒の肩を軽く叩き、笑いながら準備を続けるつかさ。
 意味がわからなかったが、とりあえず支度を続ける。
 同人誌の数を確認し、お釣り用のお金を確認し、見本誌を準備し、他にもいくつかブースに必要なものを設置する。
 しかし、なぜ祐麒ばかりがこうもこき使われなくてはならないのか。さすがに少しばかり不満を覚え始めた頃、それはやってきた。
「うわーっ、私、こんな風にお客としてじゃなく、サークル側として開始前から会場にいるなんて、初めてですよーっ」
「……私は初めてじゃないけど……ちっとも嬉しくないわ……」
 明るく弾むような菜々の声と、どこか諦観じみた景の声が聞こえてきた。
 朝から見かけなかったが、やはりこの二人も呼ばれてきていたのかと、声のした方に振り返ってみれば。
 真っ白なブラウスの上から水色のジャンパースカート、ブラウスの胸元には赤いリボン。茶色に染めた髪の毛を、赤い髪留めでツーサイドアップにしての登場は菜々。
 胸元を着崩した白いブラウスにはグリーンのボウタイ、赤を基調としたチェックのミニスカートで、すらりとした足はストッキングに包まれている。赤いフレームの眼鏡、髪の毛はカチューシャで留めて両耳の後ろくらいでまとめてから胸の方に垂らしている。そんな格好をしているのは景。
「おおーっ、やっぱり二人とも似合う! かっわいぃ~~!」
 黄色い声をあげるつかさ。
「ね、ね、祐麒先輩、どですか?」
 近寄ってきて、くるりと一回転してみせる菜々。スカートがふわりと舞い上がり、健康的な太ももが眩しく目に映る。
「あ、う、うん……似合っていると思うよ」
 元ネタはよく知らないのだが、それでも素直にそう言うと。
「ふ、ふんっ。別にアンタのためにしているわけじゃないんだからね。大体、あたしが可愛いのなんて当たり前なんだから、分かってるの?」
 なぜか、急に怒り出した。
「あははっ、うまいうまいっ!」
 どうしたのかとびっくりしたが、つかさが笑いながら拍手しているところを見ると、どうやらコスプレしているキャラの真似をしていたらしいと知る。
 ほっとして息を吐き、今度はちらりと景に目を向けると。
「あ、はは……」
 なんともいえない表情で、照れ笑いを浮かべている景。
「加東さんも、似合っていますよ」
「そ、それはどうもありがと……あはは……」
「ちょっとぉ、景ちゃんももっとキャラになり切ってくれないと駄目じゃない」
「私には無理って言ったでしょう!?」
「あ~、確かにぃ、景さんじゃあそのキャラには無理がありますよねぇ。胸のサイズ的にも、年齢的にも」
 菜々が早速横槍を入れてきた。
「ふ……ふん、中学生のコスプレに違和感がない菜々ちゃんは、さすがよねぇ~」
 口の端をヒクつかせながら、すぐさま景も応じる。
 なんだか数か月前を思い起こさせるやり取り、状況だ。これがデジャヴというやつだろうか。
「ほらほら、福沢くんを中心に二人寄り添って……うん、イメージぴったり!」
「え……俺も、ですか?」
 驚き、自分の格好を改めて確認する。確かに、朝起こされほぼそのまま会場まで拉致られたので着の身着のままだったから、だらしないからと到着するなり着替えを渡された。真新しい白いシャツにズボンという何の変哲もない服で、とてもコスプレとは思えない。どちらかといえば、懐かしい中学・高校時代の夏服みたいな感じだ。
「優柔不断な感じがバッチリよね! さすが福沢くん、ちゃんと勉強してきてくれて、雰囲気出ているわよ!」
「いぇ……これは祐麒先輩の素だと思います……」
「そうね……それは否定しないわ……」
 菜々の言葉に、景も賛同する。祐麒だけが一人意味が分からず、首を傾げる。
「ところで、私達だけなんですか? もう一人、肝心なキャラがいませんが」
 首を左右に振って何かを探す菜々。
「ああ、それなら、私がこれから着替えてくるから。そうしたら、三人で福沢くんの取り合いっこしましょ」
「む……それは却下です」
「馬鹿なこと言ってないで、着替えるなら早く着替えてきなさいよ。ここは私達が見ているから」
 景に言われ、つかさも着替えのために席を外す。
 ブース内には三人が残され、微妙な空気が流れる。
「あ……あの、福沢くん。今回もなんだけど、その、くれぐれもこのことは……」
「あ、大丈夫です。誰にも言いませんから」
「そう。ありがとう」
 祐麒の言葉にホッと胸を撫で下ろす景だが。
「いいじゃないですかー、別に知られたって。あ、さすがに中学生女子のコスプレとか、イタすぎますか?」
 先ほどの舌戦を蒸し返してくる菜々。
「……まだお肌にだって自信あるし、福沢くんだって似合ってるって言ってくれたし」
 ムッとしつつ、冷静さを装い言い返す景。
「そりゃー、会社の上司ですからお世辞くらい、祐麒先輩だって言いますよー。ねえ、せんぱい?」
 なぜか身を寄せつつ上目づかいで問いかけてくる菜々。腕に触れる、菜々の腕の肌触りがすべすべして心地よい。
「こういう場でのお世辞は不要よ。ね、本当に思っているんでしょう?」
 と、こちらはストッキングに包まれた脚が祐麒の足に触れてくる。微妙に下から覗きこんでくる体勢で、ボタンの外れたブラウスの胸元が色っぽい。
「むむむむぅ~~~~っ」
「う~~~~っ」
 祐麒を間に介在して牽制し、唸り合う両者。
「あ、あの、二人とも……」
「なんですか!?」
「何よ!?」
 同時に睨みつけられ、祐麒としては身をすくませるしかない。
 するとそこへ。
「……福沢くん。ぽかぽかして、あったかい」
 いきなり背後から頭を抱きしめられ、そんなことを言われた。
「あ、ちょ、つかさ!?」
「つかささんっ、卑怯ですっ!」
「あはははーっ、なんつってー」
 祐麒の頭から手を離して正面に回ってきたのは、体のラインがピチピチに浮き出るノースリーブでタイトミニのワンピース姿のつかさ。景や菜々と異なりムチムチの色気を漂わせ、迫力のある胸を揺らしている。
 ということは、先ほど後頭部に感じられた柔らかさは、アレだったのか。
 菜々と景も、ソレを見て言葉に詰まる。
「ぐっ……大事なキャラって、そっちですか!?」
「仕方ないじゃない、私にあうのはコレだし」
「だ、だからって、福沢くんに変なことすることないでしょう!?」
「堅いこといわないの、サービスサービスぅ!」
 つかさのハイテンションに呆れたか、菜々も景も先ほどまでのぎすぎすした雰囲気はなくなり、どうにか通常の状態に戻ってきた。
 休日だというのに、どうして余計な気苦労までしなくてはならないのか。
 スピーカーから流れだした開幕のアナウンスとともに、祐麒は細く長い溜息を吐き出したのであった。

 

 恐ろしい程の人がイベント会場内に押し寄せていた。
 人いきれで内部は熱気にまみれ、空調が効いているはずなのに暑くてたまらない。
 人気のあるサークルには長蛇の列が出来上がり、いったいどこが最後尾なのか、そもそもどの行列がどのサークルのものなのか、景には判断がつかなかった。数年前、友人であるつかさから助っ人を泣きついて頼まれ、情を出してしまったのが運のつき。それから毎年、いくつかのイベントに呼ばれるようになってしまった。
 景が行うのは当日のコスプレと販促の手伝いだが、コスプレは何度やっても恥ずかしい。それなのに、いざコスプレして人前に出ると、恥ずかしいながらも楽しさがあることも確かで、ずるずるとやめられずにいるのだ。
「すみません、写真、よろしいでしょうか」
「あ、はい」
 新たな客に頼まれてポーズをとる。
「あの、できればお二人一緒に、いいでしょうか」
「はい、いいですよー」
 近くにいた菜々もやってくる。
「それじゃあ、サービスにっ」
 と、調子にのった菜々が景に抱きついてきた。
 カメラを手にした男性の目の色が変わるのが分かる。女二人で抱き合っている景と菜々を見て、百合な想像をしているのだろう。
 汗ばんだ衣装を通して、菜々の胸と自分の胸が押し付けあわせられ、脚と脚が絡む。恥ずかしいけれど、自分じゃない、コスプレしているキャラなんだと思うと不思議と我慢することができるし、表情まで作ることができる。
 男性が満足げな顔をして去っていくのを見て、景はそこでようやく口を尖らせる。
「……菜々ちゃん、いくらなんでも、やりすぎでしょう?」
「あはは……つい、作品に影響されて」
 照れたように笑う菜々の言葉の意味を、景もすぐに理解した。
 すぐ目の前のテーブルで売っているサークルの同人誌、今回の作品では景と菜々、それぞれがコスプレしているキャラが絡んでHしている。先ほど、菜々が抱きついてきたようなシーンもあった。そして、それ以上のシーンも。
 余計なことを考えてしまいそうになり、慌てて頭を振って変な考えを打ち払い、自分の仕事に集中する。
「あの……すみません、私ちょっと、しばらく出てきてもよいですか?」
 そんなことを菜々が言い出したのは、何時ごろだったか。
 どうやら、お目当てのサークルへ買い物に行きたいようで、特にその手の望みを持っていない景は特に異論ない。つかさも許可したので、一旦、菜々がブースから抜ける。それ自体は別に全く問題ないのだが。
「――なんで、福沢くんまで一緒に連れて行くのよっ」
 コスプレしたまま人ごみの中を歩くから不安だし、荷物が重くなるから手助けしてほしいと、理由としては納得いくものなのだが、どうにも苛々する。連れて行く菜々もそうだが、それ以上に、ホイホイとついていく祐麒にも腹が立つ。
「あらあら嫉妬? 可愛いわねぇ~景ちゃん」
「なっ……そ、そんなんじゃないけど、別に」
 そういえばまだ、つかさがいたことを失念していた。うっかり、変なことを口走ってしまったことを悔やむ。
「一気に人員が減ると、残された方が大変じゃない。それだけ」
「別に、売り子だったら二人いれば十分じゃない。その間は、コスプレ撮影は控えてもらっていいから」
「そ、そう……」
 ぶすっと頬を膨らませて椅子に腰をおろす景を、にやにやと面白そうに見つめているつかさ。
「ねえ景ちゃん、正直に言ってどうなのよ、福沢くんとは」
 客の流れが途切れたこともあってか、つかさが絡んでくる。
「どうもこうも、単なる会社の後輩よ。それ以上でもそれ以下でもないから」
「そうなの? でも、こうしてコスプレ姿を見せるくらい、心を許してはいるんでしょ?」
「これは、前の時に見られちゃったから」
「でも、嫌だったらもう二度と見せないでしょ、景ちゃんの性格的に。それでも、恥ずかしがりつつも見せているのは、やっぱり見せても良いって思っているから」
「ちーがーうっての。もっと恥ずかしい姿見せちゃったから、ある意味吹っ切れたっていうか……って」
 言うと、つかさが急にギラギラとした目つきで景のことを見つめてきた。
「え、何、もっと恥ずかしい姿って、ヤッちゃったってこと? え、いつの間にー? ちょっと、教えなさいよっ」
「え……あ、違うって、そういうのじゃないからっ」
 余計なことを言ってしまったと思ったが時すでに遅く、つかさは興味津々という感じで喰いついてきて、話すまでは離してくれそうもない。仕方なく、できるだけソフトに、起こったことを教えると。
「何ソレ、超フラグ立てまくりじゃん! いいじゃん福沢くん、可愛いし素直だし、美味しくいただいちゃえばいいじゃん! てか、いらないなら私に頂戴よ、私も一年も彼氏いないんだから」
「それはダメ!」
「へぇぇ、独占欲は強いんだ」
「そっ……そうじゃなくて、つかさなんか相手じゃ、可哀想だし」
「へぇ、ほぉ」
 いやらしい目つきで見てくるつかさに、頬が熱くなるのを感じる。
「まあ、いいけど。菜々ちゃん積極的だから、指くわえてみているだけじゃ、逃げられちゃうよ?」
「関係ないし」
 あくまで言い張る景に、やれやれとばかりに肩をすくめるつかさ。
 そうこうしているうちに、菜々と祐麒が両手に戦利品の紙袋を持って帰ってきた。ほくほく顔の菜々は、希望していたものが手に入ったようだ。大手の人気作品はあっという間に売り切れてしまうが、そういうのではなかったのかもしれない。一方で祐麒は、疲労が顔に滲み出ている。
 つかさは祐麒に悪いと思いつつ、口を開く。
「それじゃあ、今度は景ちゃん、出かけてきていいよ」
「え? 私は別に欲しいモノは……」
「これ、私の希望するサークルのリスト。申し訳ないけど行ってきてくれない? 連日の缶づめで腰が痛くてさー」
「まあ……別に、いいけど」
 と、景が立ち上がったところで。
「福沢君、悪いけど景ちゃんと一緒に行ってくれる? これも結構な量になると思うの」
「……わかりました」
 何か文句を言おうとして、諦めて祐麒は立ち上がった。
 景がつかさのことを睨みつけたが、つかさは知らん顔をしてさっさと二人を外に追い出してしまった。
 残されるのは、菜々とつかさの二人。
「…………やっぱり、つかささんは景さんの味方ですか?」
「まあ、高校時代からの付き合いだからね。それに、こうでもしないと景ちゃん、頑固だから」
「私にとってはありがたくないですけどね」
 会場を歩き回って汗をかいた菜々は、ペットボトルの水をごくごくと飲んでいる。
「本当だったら、今日だって先輩と二人でコミカンデートだったはずなんですけど」
「あはは、それはごめん、でも本当に助かったわー。お礼にほら、頼まれていたサークルの最新BL本はちゃんとゲットしてるから」
「おぅふ!! こここ、コレですよ、コレ! 絶対に手に入らないと思っていた……ふ、コレのために受けたようなもんですけどね」
 涎を垂らさんばかりの菜々に、苦笑するつかさ。

 そんな感じで、なんとか大きな問題もなくイベントは終了し、片づけを行って打ち上げへと繰り出した。
 疲労はしていたが達成感もあったし、お酒くらい飲まないと、という気分である。
 今回も、他の仲の良いサークルと合同での打ち上げとなり、濃いメンツに囲まれての飲み会となった。
 景と菜々に両隣を位置どられ、正面につかさというポジションは、他に知り合いのいない祐麒にとってはベストな配置である。
「やっぱ、『天正剣王記』が私的ベストなわけですよーっ。その中でも天×翔がー」
「えー、私は翔×天だと思うけど?」
「そのリバは私的には無しです!」
「ってか、リバじゃないし、こっちの方が表カプよ」
 相変わらず菜々と景は、乙女ゲーというか、BLモノに関して熱い意見をかわしあっているのだが、だったら祐麒を間に挟まないで隣同士になればよいのに、と思ってしまう。
 左右から意見を求められることもあるのだが、BLについてなど分かるわけもなく、助けを求めようとつかさを見れば、にやにやと笑っているだけ。
「ちょっ……つかささん、笑っていないで助けてくださいよ」
 辛抱堪らず、つい声をかけると。
「え? そうねえ、天×翔カプ論は確かにホットだけど、今の私が気になるカップルは、違うところにあるのよね」
「ほ~う、つかささん、それはなんですか。気になりますです」
 既に少々寄っている菜々が、呂律もあやしく尋ねてみると。
 つかさは一気に爆弾を投下した。
「うん――で、結局のところ福沢くんは、景ちゃんと菜々ちゃん、どっちの方が好きなわけ?」
「え――――」

 その瞬間、凍りつく場。
 いや、他の面々は相変わらず騒がしく盛り合っているわけで、祐麒のいる一角だけが鎮まり返っていた。
「え、えーと、つかささん? その、酔ってます? 困りますよねえ、そんなこと言われても、ねえ菜々ちゃん、加東さん?」
 と、困惑しつつも笑って誤魔化そうとした祐麒だが。
「ちょっとぉ、なにへらへら笑ってるんですかぁ、先輩。はっきり言いなさいよね、こぉの、バカユーキ!!」
「なぁによぉ、わたしのこと裏切るんじゃないでしょうねぇ。キミは私のワンコ君なんだからね」
 菜々も景も、なぜか絡んでくる。普段、酒を飲んでもこんな風になったところを見たこと無いのに、ここ数日の疲労のせいか、それともイベント終了後のテンションのせいか。
 両方から回答を迫られ、正面からは目で『逃げちゃダメよ』と制され、追い詰められていく。なんで、いきなりこんな展開になったのか。
 唾を飲みこむ。
 何やら、答えないことには済まされなさそうだが、どう答えろというのか。
「お……俺は……」
 三人の視線が集まる。
「ど……どっちのコスプレも、凄く似合っていて最高だと思いました! 優劣なんてつけられませんよ!」
「はぁ? ちょっと福沢くん、そんなんで逃げられると……」
 あえて曲解しての祐麒の答えに、つかさは当然、非難の声を浴びせようとしたが。
「――おお、まさにその通り! 有馬さんも加東さんも、まさにハマり役としか思えないコスプレでした!」
「もう、ウチのサークルと専属契約しちゃわない?」
「カメラ小僧、ローアングラーも凄い喰いついていたもんなー」
 大声を出した祐麒の発言に、他のメンバーが食いついてきた。途端に、景や菜々も他のメンバーに話しかけられたり、座席の移動も入ったりと、とても話の続きをする雰囲気ではなくなっていた。
 祐麒はホッと胸を撫で下ろしたが、そんな祐麒を冷めた視線で見つめるのが一人。
「……先延ばしにしたって、いいことはないわよ、福沢くん?」
 その言葉は、喧騒の中に紛れて祐麒の耳には届かなかった。

 

 

第九話に戻る       第十一話に続く

 

 

~なかがき~

菜「うわぁ、またしても無理あり過ぎなコスプレですねぇ。どうして胸のあるキャラ選ぶんです?」
景「私が選んだわけじゃないし! そういう菜々ちゃんだって、胸は無理があったじゃない」
菜「わ、私は別に、相応ですから大丈夫ですもん」
景「いやいや、無理しないでいいから」
菜「……プラグスーツが着られなかったのは残念です。あれなら先輩をノーサツできたのに。景さんもそう思いますよね?」
景「(想像してる)…………むむむ無理無理、あんな格好!(←赤面)」
菜「あー、あれじゃあ胸の大きさとかモロにわかっちゃいますもんねぇ」
景「そうだけどそうじゃなくて、恥しいだけだってば」
菜「でも、それで先輩をノーサツできるなら、良いと思いません? 何しろほら、あれだけヘタレさ見せられてるわけで」
景「確かに、あの答えで逃げたつもりかしら…………って、べ、別に私は福沢くんとはなんでもないしっ」
菜「本当ですか? それなら私に譲ってください」
景「譲るとか、譲らないとかじゃないでしょ、こーゆーのは本人の意思というものが……」
菜「今は揺れ動いているところですから、こう、私の方に押してくれれば」
景「わざわざ、そんなことするわけないでしょう」
菜「ま、いずれにしろ、そろそろ仕掛けないと私の不利は拭えなさそうなので……そしたらどうしますかね、景さんは?」
景「えっ!? わ、わたしは…………」

 

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