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ノーマルCP マリア様がみてる 三奈子

【マリみてSS(三奈子×祐麒)】めいっぱいの時間を

更新日:

~ めいっぱいの時間を ~

 

 クリスマスを目前に控えた冬の一日。
 祐麒は学校の図書室で勉強をしていた。受験生には、クリスマスなど関係ない。あと一ヶ月もすれば受験本番が控えているのだから、まさに追い込みの最重要時期。
 今までの蓄積が大事、積み重ねが大切だというのももっともであるが、直前の一ヶ月だって重要だ。本気度だって変わっているだろうから、集中力だって増しているはずである。この一ヶ月でいかに上乗せするかが勝負の分かれ目である……と自分に言い聞かせ、勉強に没頭していた。
 正直、今の時点で将来どうなりたいか具体的な像は思い描けていない。だから、どの大学のどの学部に申し込もうかというのも、曖昧だ。就職も厳しくなっている時代、明確な目標を持って大学を選んでいる生徒も多い中、自分はこんなんでいいのだろうかと、時に不安になる。
 それでも、進むしかない。漠然とした思いだとしても、選ばなくてはならない。

「そんなに思いつめなくても、大学に入ってから考えたっていいんだよっ」

 不意に、明るい声が脳内に響く。
 彼女なら、曇りの無い笑顔でそんなことを言ってくれるかもしれないと思い、ふっと肩の力が抜ける。
 実際にこの場にいるわけではないのに、不思議なものだった。
 図書室が閉まるまで、あと一時間ほど。
 祐麒はもう一度気合を入れなおし、参考書に向かうのであった。

 

 日は過ぎてゆく。
 祐麒は受験勉強に集中していたし、三奈子はアルバイトに明け暮れているようで、会う機会は全くなかった。時間もいまひとつあわないので、電話もしていない。メールを時々送るくらいしか三奈子との接点はなかった。
 それでも、今は仕方が無いと自分に言い聞かせていたし、またあまり考えるだけの余裕もなかった。
 模擬試験で小林の高得点を見たり、なかなか上がらない自分自身の成績に落ち込んだり、精神的に焦り始めていたのだ。
「あんまり考え込んでも、いいことないぜ」
 祐麒のことを心配してか、小林がそんなことをいいながら肩を叩いてきた。祐麒はゆるゆると首を振る。結果の出ている人間は、余裕だって出てくるものだろう。
「じゃあ、また明日な」
 小林も、余計なことを口には出さず、それだけ言って帰ってゆく。
 小さくなってゆく小林の後ろ姿を見ながら、祐麒は周囲に聞こえるような大きいため息を吐き出すのであった。

 

 家で机に向かっていても、焦燥感を覚える。
 焦ったところでどうしようもないことは、心の中では理解できるのだが、現実に冷静でいられるかとなると別の話だ。
 受験だけで人生が決まるわけではない、失敗したからといって死ぬわけではないし、一年浪人するくらいおかしいことでもない。それでも、プレッシャーというのはのしかかってくる。
 だから、余計なことを考えないように勉強に集中する。今の時点でこんな状態では、年が明けたらどうなるのだろうと、自分のことながら心配になる。
 まあ、自分のことを心配できるだけ、まだ余裕があるのだろうとは思うが。
 とにかく、今は目の前の問題に注力するしかない。日本の学問が、受験のための勉強に成り下がっていると言われていても、日本で生きているのだから今はそうするしかない。大学に入れば、何かが変わる。大学に入ってから何を成すかは個人次第だから、大学生活を無駄にしないようにだって出来る。
 だがそのためには、まず入らなくてはならない。そのために、受験のための勉強に没頭する。
 そんな日が、続いていた。

 

 十二月二十五日のクリスマス当日は、予備校での模擬試験が行われた。受験生にはクリスマスなど無い、そのことを忘れるなと言われているような気になるが、周囲の顔を見回してもあまり浮かれている人はいないように見受けられた。
 手ごたえがあったような、無かったような、中途半端な状態で試験を終えて教室から外に出る。
「よう、どうだった?」
 声をかけてきたのは、予備校で知り合った他校の男子生徒。確か真田だったか。
「どうだろう、なんか自分でもよくわかんなくて」
「俺も。あー、こんなんじゃA判定出ないよなー」
 苦笑いを浮かべながら、頭をかく。
 そのまま、適当に話をしながら歩く。どの問題が分からなかったとか、この前の模擬試験の結果がどうだったとか、話の内容はどうしても受験中心になる。
「あーあ、世間はクリスマスだってのになー」
 伸びをしながら、真田はぼやくように呟く。
 受験生でも、クリスマスを堪能している者はいる。余裕のなせるわざなのか、たまには息抜きが必要ということなのかは分からない。
 分かるのは、今この場にいる人間はそういう気分でないものが殆どだということ。
 もっとも、模擬試験も終わったことだし、これから遊ぼうという人も意外といるのかもしれないが。
 そんなことを考えながら予備校の外に出ると、十二月の風が体を切り裂いてくる。
 思わず身震いしながら歩き出したところで。

「あ、祐麒くーんっ」

 三奈子の声が響いた。
 声のした方に顔を向けると、三奈子が駆け寄ってくる姿が見えた。

 既に夜で周囲はさほど明るくないし、模擬試験を終えた学生達が集団で歩いている中、よくも簡単に祐麒を見つけることが出来たものだと、そんなことを感心しながら三奈子が近づくのを呆然と見ていた。
 冬だというのに、三奈子は元気なミニスカート姿。ストッキングに包まれているとはいえ、寒くないのだろうかと心配になる。
「どうして、ここに?」
 目の前で立ち止まった三奈子に、問いかける。
 三奈子は後ろで結った髪の毛を揺らしながら、いつもの笑みで答える。
「今日、模擬試験だって言ってたでしょ。だから、待ってれば会えると思って」
「いや、そういうことじゃなくて」
「去年は、祐麒くんが待っていてくれたでしょ? だから今年は、私が」
 言われて、思い出す。
 確かに去年、イブの日に三奈子を待ち受けていた。そして、具合の悪かった三奈子を家まで送り届け、そのまま三奈子の家に泊まった。
「えー、覚えていないの?」
 無言で佇む祐麒を見て、三奈子は祐麒が去年のことを忘れたと勘違いしたのか、不満そうに口を尖らせた。
 手を腰に当て、セーターを着ていてなお、形の良い胸を突き出してくる。
「ひどいな、もう」
「あ、ちょっと三奈子さん」
 ここでようやく、祐麒は周囲の注目をひいていることに気がついた。何しろ、予備校の出口の真ん前である。帰り際の学生達が、二人のことを何事かという感じで見ながら帰途についてゆく。中には、立ち止まったまま見物するかのような姿も見られる。
 三奈子の声はよく通るし、容姿だって目立つ。本人には自覚が全く無いというのが、非常に性質が悪いのだが。
 隣にいる真田も、どうすればいいのか困ったような表情をしている。というか、色々と聞きたそうな顔をしている。
 とりあえず場所を移したかったが、そう思ったときには遅かった。
「あの日初めて、祐麒くん、うちに泊まっていったじゃない」
 そんな三奈子の発言が、飛び出したから。
 本当に、言葉のとおりに泊まったというだけで、二人の間には何もなかったのだが、こんな思わせぶりな言葉を聞いてそう思うものは多くあるまい。
 実際、真田を含めて周囲の目つきが変わったような気がする。
 どうにか三奈子を止めようとするものの、祐麒ごときで止められるわけもない。
「ほら思い出した? うちの両親が旅行で留守で、一緒にケーキ食べて」
「お、思い出した、思い出したから!」
 どうしてこう、余計な一言をつけるのだろうか。完全に、両親が留守の家に二人っきりで一晩を過ごしたように思われたではないか。いや、確かに間違ってはいないのだが。
「……この時期に女とイチャついて、余裕だな」
「可愛い顔して、結構、やることやっているのねあの子」
「くそっ、見てろよ! 俺だって来年は……」
 様々な言葉が聞こえてくる。大きな声ではないが、別に小さな声で聞こえないようにしているわけでもない。
 予備校に通っているうちに見知った顔となった学生もいるが、明日からどのような顔をして会えばよいのやら。
「福沢」
 その中の一人である真田が、真剣な瞳を祐麒に向ける。
 手を突き出してきて、親指を立てる。
「……落ちろ。地獄に。そして大学に」
 手首を返し、親指を地に向けるようにして振り下ろす。
 おそらく、正直な今の気持ちなのだろう。真田は、悔しくなんかないぞ、とか言いながら夜の街に消えていった。
「祐麒くんの友達って、面白い子が多いよね」
 首を斜めにして真田を見送りながら、つぶやく三奈子。
 別に面白い奴ばかりではないのだが、三奈子を前にすると変になってしまうのだ。主に、三奈子のせいで。
「まあいいや。私達も行こ」
 並んで歩き出す。
 すぐに、周囲の注目もなくなる。受験生だからといって、男女カップルがいないわけではないのだ。
 三奈子の横顔を見て、少し胸が高鳴る。
 普段、三奈子はあまり化粧をしないようだが、アルバイトをしているときは店にあわせた化粧を施している。今日も、アルバイトだったのか、街灯に映える顔はいつもより大人びて見えた。
 どんどんと大人になり、魅力を増してゆく三奈子。
 もし、このまま受験に失敗したら、三奈子との差は開いてゆく一方なのではないかと不安になる。
「――痛っ」
 気が沈みかけたところ、不意に額に痛みがはしった。
 視線をあげると、正面にまわった三奈子が指を向けてきていた。どうやら、デコピンをされたようだった。
「暗い。暗いよ、祐麒くん。もー、せっかくクリスマスなんだからさ、そんな顔しないの」
「別に、そんな顔して……いひゃひゃ、ひ」
「暗いってばー」
 左右のほっぺたをつままれ、両側に引っ張られる。
 痛いけれども、ひんやりとした三奈子の指が、模擬試験を受けている間に熱を持った頬に心地よかった。
 ぐにょーん、とそのまま横に引っ張られ、ぎりぎりのところで指を離される。
 ひりひりとした痛みに頬をさするが、悪い気分はしない。
「しょうがないなー、そんな祐麒くんには、はいコレ」
「え?」
 勢いにおされるように、出されたものを受け取る祐麒。
 それは、綺麗にラッピングされた小箱。
「えっと、これって」
「うん、クリスマスプレゼント。ごめんね、今日までずっとアルバイトで、こんな遅い時間になっちゃって」
「いや、そんな」
「ほら、開けて、開けて」
 言われるがままに、ラッピングをほどいていく。小箱の蓋をあけてみると、そこには綺麗な色艶を放つ財布が置かれていた。
 目を上げると、満面の笑みを浮かべた三奈子。
「祐麒くんのお財布、随分と傷んでいるようだったし、新しいのが欲しいって前に言っていたから」
 確かに、そろそろ新しい財布が欲しいと思ってはいたが、そんなことを口にしたという記憶は全く残っていなかった。きっと、日常の会話の中で意識することなく口から出たのだろう。
 だけど三奈子は、そんな祐麒が発した一言を覚えていたのだ。
 しかし、随分と高級そうな財布だと思い手にとってみると、有名なブランドのロゴが目につき驚く。
「三奈子さん、これ……」
 言いかけて、口を噤む。
 このブランドであれば、安いものでもそれなりの値段がするはずである。これまでの付き合いで、三奈子は決してお金持ちのお嬢様というわけではないし、有り余るほどのお小遣いを持っているわけではないことも知っていた。
 考えなくても、すぐにわかる。しばらく前から三奈子が始めたアルバイトは、この日のために始められたのだ。
「ん、なに?」
「いや……ありがとう三奈子さん。すげー嬉しい」
「へへー、どういたしまして」
 ここで三奈子のことを気遣うよりも、嬉しいという思いを、気持ちを、素直に三奈子に返すことこそが、プレゼントしてくれた三奈子に対する礼儀のような気がした。
 そしてそれは、弾けるような笑顔で嬉しさを表す三奈子を見て、正解だったのだと悟った。
 しかし次の瞬間、大事なことに思い至った。
「あ、俺、何にも用意していない……!」
 クリスマスだということは、分かっていたが、ここ最近の祐麒はあまり余裕もなかったし、三奈子と会う約束もまったく入っていなかった。そもそも三奈子と顔を会わすのは、三奈子がアルバイトをしていることを初めて知った日以来だった。
 言い訳にもならないかもしれないが、だから祐麒は忘れていたのだ。
 こんなにも立派なプレゼントを貰いながら、何も返すことが出来ない自分自身を、祐麒は呪った。
「いいよー、祐麒くんは受験生だし、これは私が好きでやったことだから」
「え」
 "好き"という言葉に思わず反応するが、三奈子は別に告白とかそういう気持ちで口にしたわけではないだろう。
 あっけらかんとした顔が、それを表している。
「でも、そう言われてもなあ」
 年下だけれど、男として女の子からプレゼントをもらうだけ、というのはあまりに情けない気がする。
 三奈子はいいと言っているが、祐麒のほうがあまりに気にするようだったので、とうとう三奈子も息を吐き出し、諦めたように肩をすくめた。
「んー、そこまで言うんじゃ、プレゼント、もらおうかな」
「あ、うん。絶対、明日には渡すから」
「駄目。クリスマスは今日だけだよ」
 ツンと、そっぽを向く三奈子。
 しかしそんなことを言われても、すでに夜の九時を過ぎたこの時間に、どこで何を買えばよいのかすぐには思い浮かばない。というか、よくよく考えれば先立つものがないから、明日になったところで、ろくなものが買えるとも思えない。
 焦るが、焦ったところで無いものは、無い。
「だから今日、ちょうだい」
「う、あ、その」
 服やコートのポケットを探ったり、鞄の中を探ったりしてみたところで、何か入っているわけもない。
 本気でどうしようか困り始めたところで、三奈子が声を押し殺したように笑い出した。
「な、なんですか、いきなり」
「あー、ごめんごめん、あまりに一生懸命なのがなんか可愛くて。でもね、私は別に何か物が欲しいとかそういうわけじゃないの。祐麒くんの気持ちが、欲しいな」
「えっ」
 それはどういうことなのか。
 祐麒の『気持ち』が欲しいとは、この場で告白して色々なことをハッキリさせろということなのか。それとも逆に、三奈子からの告白なのか。
 急激に心臓の動きが速くなり、顔が熱くなってくる。
 確かに、今日はクリスマスだし、そういうことには最適の日かもしれないが、果たして三奈子が望んでいるのはそういうことなのだろうか。
 そもそも、祐麒自身が望んでいることなのだろうか。
 何か言わなければならないと思っているのに、口が動いてくれない。熱い息が、ただのどの奥から吐き出されるだけ。
 ある意味、追い込まれた祐麒だったが。
「だから、この後の一時間――祐麒くんの時間を、私にちょうだい」
「……へ?」
 三奈子は、いつもの調子と変わらない。
「これからの一時間、私をめいっぱい、楽しませて」
 両手を広げ、三奈子は祐麒を招く。
 そういうことだったのかと、祐麒は納得する。
「楽しませるって……どうやって?」
「それを考えるのは、祐麒くんでしょ」
 片目を瞑る三奈子。
「一時間だけでいいんですか?」
「あれ、そんな簡単そうに言うけれど、結構大変よ。一時間ずっと、私を楽しませてくれないといけないんだから」
「そう……ですか? 俺と一緒にいれば、三奈子さんは楽しいのかと思ってました」
 祐麒としてみたら、かなり思い切った発言だった。
 いつも三奈子の言動にドギマギさせられているお返しのつもりであった。果たして、三奈子がどんな反応を見せるかと思っていると。
 二、三回目をぱちくりさせたあと三奈子は。
「うん、そういえばそうだねー。それじゃあ、いつも以上に楽しくさせて」
 と、照れもせずに言ってのけた。
 真正面から切り返されて、むしろ祐麒の方が恥しくなる。
 結局、三奈子にはかなわないのだ。
「……よ、よしわかりましたよ。それじゃあいつも以上に楽しくしましょう」
 先ほどの三奈子のように両手を左右に大きく広げ、なかば開き直ったように祐麒は宣言する。
「さっすが祐麒くんっ」
「うわっ」
 すると三奈子は祐麒の行動をどう受け取ったのか、広げた手の中、正面から飛びつくようにして抱きついてきた。
 細い腰を抱き、背中を反るようにして、三奈子を受け止める。
 胸に押し付けられる感触は、変わらずに柔らかく暖かい。
「じゃあ、まずは何をしてくれるのかな?」
 目の前に、瞳を輝かせた三奈子の顔。
「そうですね、それじゃあ」
 三奈子をそっと、地に降ろす。
 吐き出された白く、甘い息が祐麒を包む。

 聖夜だからといって、特別なものなど何も必要ないのだということを、祐麒はこの夜に知ったのであった。

 

「ただいまー」
 三奈子と一緒のひと時を終え(本当に一時間で三奈子は帰って行った)、自宅に着くと二十三時近くになっていた。
 試験や、日々の勉強の疲れはまだ残っているものの、不思議と気分はすっきりとしていた。おそらく、三奈子との一時間が程よい息抜きになったのだろう。
「お帰り、遅かったね」
 二階から降りてきた祐巳が、リビングに入ってきた。祐巳も受験組だから勉強していたのだろうが、祐麒が帰ってきたのを契機に休憩に入ったのだろうと予測した。
「ああ、帰りに友達と軽く食べてきたから」
 無難な返答をしたのだが。
「……あれっ、これ何、祐麒?」
 迂闊にも、三奈子からのプレゼントをリビングテーブルの上に無造作に置いてしまっていた。
 今さら隠そうとしても遅く、とっくに祐巳の手に取られていた。
「あ、これクリスマスプレゼント? ひょっとして彼女から? うわ、何、いつの間にそんな人がいたの? 帰りが遅くなったのって彼女と会っていたせい? どんな女の子なの、紹介してよ」
 興奮気味に、一気に訊ねてくる祐巳。明らかにクリスマスプレゼント用と思われるラッピングが施されており、否定するのも難しい。
「その、別に彼女ってわけじゃ」
「うそだー、じゃあ、このカードは何?」
「カード?」
 祐巳がカードをつきつけてくる。
 三奈子から貰ったときは、ただ開けて見ただけだから気がつかなかったが、ラッピングと箱の間に小さなカードが貼りついていた。
 そしてそこには。

 

"Merry Christmas!
  受験勉強大変だろうけれど、体に気をつけてね。
  そして来年のクリスマスは、二人とも受験なんてなく楽しめると良いね!
                                  祐麒くんへ、愛をこめて"

 

「明らかに女の子の文字だし、もう、すんごいラブラブじゃない!」
「ちちちちちがう、これはそういう意味じゃないって」
「じゃあどういう意味なのっ!?」
 いつも通りの三奈子なのだ。
 でも、それを口に出すことは躊躇われる。何しろ、恥しい。
 一方の祐巳の方も、思わぬ展開に顔を赤くし、鼻息も荒くしていた。
「知らなかったなー、いつの間に作ったの? てゆうかこのブランド、結構高いよね。となると、同い年くらいよりかはむしろ年上……?」
 妙なところに鋭く、驚かされる。
「それと、なんだろう。なーんかこの字、見たことあるような……」
「き、気のせいだろ。女の子なんてみんな、丸っこい字を書くじゃん」
「うーん、それにしても……ってことは、女の子から貰ったことは認めるんだ」
 また余計なことを口にしてしまった。
 どんどんと、追い込まれていくようだった。
「別にいいじゃない、教えてくれたって。それとも、紹介できないような人なの?」
「そ、そんなことないよ。そりゃ、ちょっとは変かもしれないけれど、可愛いんだからみ」
 そこで慌てて、口を閉じた。
 祐巳が変な目をして見ている。
「……"み"? 最初の一文字かな。苗字か、名前か」
「も、もういいだろっ。い、いずれそういうときが来たら教えるからっ」
 祐巳の手から財布を取り返し、鞄の中にしまう。
 なぜか祐巳は、嬉しそうに笑っている。
「……なんだよ、何、笑ってんだよ。不気味だな」
「えへへ、だって楽しみじゃない。祐麒の彼女がどんな子かなって。いい子だったら、楽しそうじゃない。一緒にお喋りとか、お買い物とかして」
 その言葉に、思わず三奈子と祐巳、二人に引きずりまわされてげっそりしている自分自身の姿を想像してしまう祐麒。
「勘弁してくれ……」
「えーっ、なんでさ、教えてよどんな子なのか」

 聖なる夜、束の間の休息。

 果たして、先ほど思い浮かべてしまったような未来がやって来るのかどうかは分からないけれど、まずは目の前のことを一つ一つこなしていくしかない。

 

 なんだかんだ言って結局、沢山のプレゼントを貰ったのは自分の方なんだなと祐麒は改めて思い、笑いを噛み殺すのであった。

 

おしまい

 

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