<1>
「ちょ、ちょっ、ちょっと、どーゆーことですかこれはっ!?」
気が動転しているのも丸出しに、乃梨子は叫んでいた。
乃梨子が驚いて目を剥いているのも致し方ないか。なぜなら目の前で祐麒と祐巳がイチャコラしていたから。
いや、イチャコラなんてものではない。目も当てられないような破廉恥なことをしていた。
「だって、つきあってもう随分と経つのに乃梨子ちゃんたらまだキスしかさせてあげてないんでしょう?」
「なっ……そ、そんなこと祐巳さまと、どんな関係が」
「それじゃ祐麒、可哀想じゃない。男子高校生がそんな我慢なんてできないだろうから、こうして私が……」
そう言いながら祐巳は祐麒にキスをした。
「可哀想な弟を慰めてあげるのもお姉ちゃんの役目でしょう? 祐麒だって散々甘えてくれて、私も嬉しかったし」
ちゅっちゅしながら、祐巳は下着に包まれた胸を祐麒に押し付けている。
祐麒は彼女である乃梨子を前にしてどうにか抵抗しようとするも、祐巳の魔力に翻弄されどうにもできない。
トランクスの上からでも分かるくらいに怒張したモノを、祐巳の指がまさぐっている。呆然と立ち尽くすしかない乃梨子。
「大丈夫、お姉ちゃんとするのはえっちの回数に入らないから、そういった意味ではまだ祐麒のDTは乃梨子ちゃんのものだよ」
「仕方ない、乃梨子ちゃんが悪いんだよ? だって乃梨子ちゃんは祐麒にこんなこと……してあげられないでしょう?」
「役割分担だよ、乃梨子ちゃんは祐麒の彼女で間違いない。私はお姉ちゃんだから、祐麒を慰めて元気にしてあげるの」
とんでもないことを口にする祐巳、そして離している間にも祐巳の口は、舌は、指は、祐麒を快楽に落とし込む。
「…………わっ、私だって、できるわよ! わ、私がするんだから!」
生来の負けん気に火が付いたのか、乃梨子は勢いよくやってきて祐巳と並んで祐麒の前にしゃがみ込んだ。
「わ、私がしてあげますから、祐巳さまはもう結構で…………ッ!?」
文句を言う乃梨子に、不意に唇を重ねる祐巳。顔を両手で挟み逃がさないようにする。目をむく乃梨子。
しばらくもがいていた乃梨子だったが、やがて動きが鈍くなる。頬が赤くなり、目がとろんとしてくる。
「……ふふ、乃梨子ちゃん可愛い。それじゃあ、二人で一緒に祐麒を気持ちよくしてあげようか?」
言いながら祐巳の指が魔法のように乃梨子の服を脱がせていき、下着姿にさせてしまう。
「そうだ、私も乃梨子ちゃんも一人じゃ無理だけど、二人で協力すれば胸でしてあげられるんじゃないかな?」
「え、ちょ、ちょっと……」戸惑いを見せると、軽く嘲るような笑みを祐巳に見せられ、カッとなって対抗してしまう。
「そうこなくちゃね。ふふ、ほら乃梨子ちゃん、こうやって……」
もはや引き返すことは出来ない。こうして乃梨子は、福沢姉弟に絡め取られていった。
<2>
最悪だった。絶対に見られてはいけないはずのものを、見られてしまった。
「令さま、私びっくりしました」
油断していたところ、菜々に見られてしまったのだ。
「令さまがBL好きなのは知っていました。とゆうか、私の好物でもありますし……交換っこもしていましたし」
『ホモが嫌いな女の子はいない!』という誰だかの名言の通り、令も菜々も腐女子道まっしぐらであった。
「でもまさか、令さま自信が薄い本を制作していたなんて……超、興奮です!!」
「や、やめてーーーー!」泣きたくなる。まさか自分で描いているものを知り合いに見られるなんて、恥ずかしすぎる。
「どうして恥ずかしがるんですか、いいじゃないですか、私は知ってますし。しかし、優×祐ですか!」
趣味で描いているわけで、どこかに出そうとかそういうつもりではなかった。単なる妄想の産物だったはずなのに。
「自分の彼氏を題材にしてしまうところとか、尊敬します! さすが令さま、パネぇっす!」
なぜか目をキラキラと輝かせている菜々。この子も相当に変だ。
「……でも、ちょっと物足りない気がします。こう、表情にしても、台詞にしても、なんでしょう、こう……」
首を捻っている菜々だったが、しばらくしてパチンと指を鳴らし、立ち上がって高らかに言う。
「分かりました、リアリティが足りないんですよ! となると、やはり体験してもらうのが一番かも……」
「え、た、体験って……あの、何を……」嫌な予感しかしなくて後ずさりする令だったが、素早く菜々に手を掴まれる。
「大丈夫、ちゃんとほぐしてから入れますから」
「ど、どこをほぐすの!? そして何を入れるのっ!?」
更に逃げようとする令の脚にタックルして倒す菜々。後ろからタックルしたため、丁度這いつくばってお尻を上げる格好に。
「丁度良かったです」
「ひいっ、ちょ、やめて菜々ちゃんっ!」令の悲鳴を無視して、下着ごとズボンを引きずり下ろしてしまう菜々。
「これが、令さまの……綺麗ですよ」見つめていた菜々が、軽く『ふぅ』と息を吹きかける。
「ひぁっ!? そ、そんなところ駄目だってばぁ、菜々ちゃん……」
「安心してください、令さまだけにそんな目には合わせません。私も一緒に……」
と、這いつくばっている令の視界に入ったのは、うねうねと動く一本の棒状の物体。
「ひ……やぁ……だってまだ祐麒くんにも……や、や、やめてーーーーー!?」
この日令は、何かを得ると同時に大事なものを失くしたのであった
<3>
体だけの関係のつもりだったし、ずっとそう思っていた。なぜって相手は男子高校生、大してこちらは学校の教師。
倫理的にも、世間的にも、関係が認められるわけがない。相手だって、どうせそのうち若い子に飛びつくに決まっている。
ずっと続いていたのは、お互いの関係を割り切っていたから。
「私もあなたも、お互いに気持ち良くなればいい、それだけの関係よ」
そう言って、ただ悦楽を貪っていた。いずれは別れる関係だと頭の中で理解しながら。
だけど、今。練習がないはずの道場、一人で素振りをしたくて訪れた先で目に入ってきたのは。
「…………っ!? や、山村先生っ!?」
「野島……さん? な、なんで……」
道場の中では、獣のように愛し合っている二人の男女。一人は剣道部主将の野島。そしてもう一人は。
「ゆ、祐麒くん? ど、どうして……」
最初に覗き見て呆然としつつも、そのまま逃げようとした。だが、知らぬ間に中に入り二人に姿を見せてしまっていた。
「あ、あの、先生これは……ひぅっ」何かを言おうとしながら、祐麒に貫かれ喘ぐ野島。
道着は乱れ、はしたなく涎や汗、他の液体を床にしたたらせている野島に普段の凛々しい面影は全く見られない。
「どうしたんですか……どうせ俺と山村先生は体だけの関係だったわけで、俺がどうしてたっていいんでしょう?」
そう思っていた。だけど、今こうして他の女の子との姿を見て、心の奥底から異なる思いが迸ってくる。
「違うの……私……私……」道着をはだける。袴の下は、二人の情事を見てから濡れている。
「私……祐麒くんじゃないと駄目な体になっちゃったのよ! お願い、私を捨てないでっ……!!」
もはやプライドも何も無かった。それくらい、いつの間にか祐麒の体に溺れてしまっていたのだ。
「…………あっ、うあああああっ!!」バシーン、という乾いた音とともに悲鳴があがる。
「や、山村先生がこんな……あぁ」竹刀を手に、四つん這いになってお尻を向けている山村を見下ろす野島。
「自分の竹刀で教え子にお尻を叩かれて感じるなんて、凄いですね、山村先生」
野島も、信じられないと言いながら、いつしか恍惚の表情になって竹刀を振り下ろすようになっていた。
「あっ、はあああっ!」鋭い一撃が振り下ろされ、大きく弓なりに背を反らすと、股間から小水を噴き出した。
教え子に叩かれて漏らし、神聖な道場を汚してしまっているというのに、そのことが更に昂らせていた。
「先生ってそんな人だったんですね……」野島がのしかかり、二人で肌を重ねる。野島の股間からも暖かい液体が出てかけられる。
さらに二人に覆いかぶさってくる祐麒。この日、道場から激しい声が消えることはなかった。