【作品情報】
作品名:断罪のネバーモア
著者:市川 憂人
ページ数:320
ジャンル:ミステリー
出版社:KADOKAWA
おススメ度 : ★★★★★★★☆☆☆
どんでん返し度 : ★★★★★★☆☆☆☆
こういう人におススメ! : 警察小説と本格ミステリをあわせ読みたい
度重なる不祥事から警察の大改革が行われた日本。
変革後の警察にブラックIT企業から転職した新米刑事の藪内唯歩は茨城県つくば警察署の刑事課で警部補の仲城流次をパートナーとし殺人事件の捜査にあたる。
刑事課の同僚たちの隠しごとが唯歩の心を曇らせ、7年前の事件が現在の捜査に影を落とす。
ノルマに追われながらも、持ち前の粘り強さで事件を解決した先に、唯歩を待ち受ける運命は――。
リアル警察小説と本格ミステリをあわせた一作。
警察小説と本格ミステリー。
警察が動く殺人事件ならミステリーになるのでは? とも思えるが、両者は近いようで意外と遠い。
警察小説は警察官という職業に関わる特殊性であったり、警察という世界に切り込んだ小説であり、ミステリーである必要はありません。
特に本格ミステリーとなると、むしろ謎解き、トリックに主眼を置いたものになるので、逆に警察小説と相性も悪く感じます。
しかしながら本作は、その両方に挑んでいるといえるでしょう。
警察の度重なる不祥事により、なんと警察が民営化されたという架空の日本を描いています。
架空と言いながら、民営化されたのは2000年代の設定なので、その設定だけが異なった現代といっても良いでしょう。
新型ウィルスの流行により社会情勢も変わっているという、まさに現代を舞台としていながら、警察の問題点に切り込んでその問題点を解決するために構築された新たな社会、そしてその新たに作られた警察でもまた発生している問題点。
そういったところにも踏み込んでいる。
一方で発生する事件に関しては本格ミステリーの様相で謎解きが展開されます。
主人公は、一般企業から民営化された警察に転職した藪内唯歩。
物語としては、唯歩が複数の事件に関わり、その中で事件に隠された謎を解き解決に導いていきつつ。
それら複数の事件が結びつきあって、最後に新たな絵面ができあがって、それまでの事件で見えていたものが新たなものに塗り替わるという。
連作短編の形式をとっている。
最初の話からあやしさを匂わせつつ、それを最後にあかしてひっくり返して見せる連作短編はうまくハマれば読んでいても実にスカッとする。
ああ、そういうことだったのか!
と読者に感じさせられれば最上だと思うが、本作に関しては、まずまずといったところか。
警察小説、本格ミステリー、連作短編と、3つを同時に挑戦してまとめている。
ただ、どれを一番描きたかったのか、届けたかったのか。
そこが読んでいて伝わりづらかったようにも感じる。
本格ミステリーの謎解きと連作短編の仕掛けを含ませているので、警察小説としての書き込みは一冊だけじゃ伝わりづらいのかも。
ただ、近未来SF的な世界観を作った中で本格ミステリーを構築する作者の手腕はさすがだなと思います。
マリア&漣シリーズのように、本作もシリーズされていくのか?
むしろシリーズ化されないと、この世界観の深みは出て行かない気がします。
また、主人公の唯歩が愚直に、苦しみながらも、真実を追い求めていく姿。
そしてこの世界で唯歩が辿り着く先は見てみたいと思わせられる。
連作短編としての最後のひっくり返し。
ただ、その事実はどうなのだろうか、と思っちゃう人も多いのではないだろうか。
ミスリードの仕方もそうだし、なんというか、「え、これ?」感があるのは否めない。