書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(乃梨子×色々)】 雛鳥たちの囀る季節 1.いざないの歌

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~ いざないの歌 ~

 

 大学に入学してから早くも一年が過ぎ去っていた。あっという間の一年ではあったが、新しい友人も出来たし、講義だってなかなか面白いし、まあそれなりに充実している一年だったとは思う。
 リリアンとは異なる大学を志望し、無事に合格し、新たな世界で新たな刺激を得て生活している。菫子のもとを離れて、一人暮らしも始めている。順風満帆とまではいかないけれど、まずまずの大学生活ではないだろうか。
「二条さーん、合コンの話、考えてくれた?」
 声をかけられて振り返ると、同じ学科のそんなに親しくはない学生。確か、前に合コンに誘われていたことは確かだが、断ったはずなのに。
「そういわないでさ、今回は結構、相手もいいところぞろいだよ」
「ごめん、その日はバイトが抜けられないからさ、ね?」
「えーっ?」
「ごめんね、それじゃ」
 相手に頭を下げて、そそくさとその場を後にする
 別に自分が悪いわけでもないし、謝る必要もないのだが、あまりにつっけんどんでは相手の機嫌を損ねる。へりくだるつもりではないが、適度な社交性というか、人間関係をうまくいかせることを、多少なりとも覚えた。変に適当にあしらい、敵視されたりムカつかれたりするくらいなら、この程度のやり取りはなんてことない。
 実際それで、前に合コンにつきあわされて、それがきっかけで今回も声をかけられたのだろうが、それ以来たいして交友のない私を誘ってくるとは、よほど参加者が不足しているのか。
 正直、合コンには興味がない。一年の時にいくつか出席したけれど、さほど楽しむことが出来なかった。男の子との出会いの場、なんて浮かれて皆やってくるけれど、とてもそんな気分にはならない。
 一度だけ、断り切れずに合コンで知り合った男子からデートに誘われて行ったが、たいして面白くもなかったうえに、紳士的な素振りを気取りつつ下心丸見えで最後にはホテル街の方へ向かい出したので、丁重にお断りした。その後も誘いのメールやら電話やらが続いたのだ、携帯を変えてしまったくらいだ。
 男の子と付き合いたい、彼氏が欲しいなんて思ったことない。デートに応じたのだって、実のところ『阿修羅展』に行きたくて思わず誘いに乗ってしまったというのが大きかった。
 学生時代に恋をしないなんて損だ、なんて言われたりもするけれど、そういうものなのだろうか。乃梨子には今一つよくわからない。 「のーりこっ、おまた~」
 いきなり横から現れ、肩にタックルしてくる不躾な女。
「いったいなもう、光は」
 中学時代に仲の良かった来栖光と同じ大学になったのは、偶然以外の何物でもない。光は中学の頃から順当に成長していた。即ち、茶髪にゆる巻き、メイクも服装も決めてギャル手前といった感じ。はっきりいって乃梨子と合うタイプとも見た目だけなら思えないが、これで性格がさばさばしていて意外と馬が合うし、頭悪そうに見えて乃梨子と同じ大学に現役で入るくらいに頭がいい、というか要領がいい。
「あっはは~。で、何、合コン行かないの?」
「行かないよ。行きたいなら光、かわりに行けば?」
「え、無理。あの子達のグループとはあわない」
 げぇ、という顔をして舌を出してみせる光。
 見た目、同じようなタイプに感じられるのに、不思議なものである。
「それより光、今度紹介してくれるバイトは大丈夫なんでしょうね? この前みたいに、いきなり連れて行かれた先がキャバクラなんて、やめてよ」
「割りのいいバイトっていうからさー、どうしても水商売になるじゃん」
「却下」
 一人暮らしのために仕送りは受けているが、やはり親にあまり負担ばかりかけたくないからバイトで稼ぎたいのだが、風俗はさすがに嫌だ。
「ま、今回は大丈夫だから」
「本当かなぁ……」
 ジト目で見るが、光は肩を揺らして笑うだけ。
 いい加減な所もあるが、基本的には真面目な光、アルバイトの件だって真面目に乃梨子のために探してくれている。先日のキャバクラだって、非常に品の良い感じの場所ではあった。まあ、乃梨子的にはNGだったけど。
 なんだかんだいって、大学に入ってからは光と一緒にいることが多いのは、その辺の光の性格を知っているし、気楽だから。
「まあ、期待していてよ」
「はいはい」
 半分期待、半分不安の気持ちで、光と一緒に大学を出た。

 

「つっかれた~~っ」
 部屋に帰るなり、鞄を床の上に置き、上着を脱ぎ、そのままベッドに仰向けに寝転ぶ。
 光が紹介してくれたのは、高額アルバイトの定番、家庭教師だった。しかも乃梨子を安心させるためにか、実際に相手の子を呼び出して面通しまでさせてくれる用意の良さ。
 相手は高校二年生の女の子、光の知り合いを通してということだから、信用も置けそうであった。特に問題もなさそうな子だったので、OKしてしまおうかなと今は考えている。しかし実際に本人に会わせるとは、光もたいしたものである。これで断ったりしたら、会うことがないだろうとはいえ、非常に後味が悪いではないか。
「それも、考えてのことなのかな」
 むくりと起き上がり、部屋着に着替える。
 夜は軽く食べてきたので、バナナとヨーグルトを冷蔵庫から取りだして食べるだけにとどめた。
 単身者用のマンションは、ありがたいことに女性専用である。だからこそ、親も一人暮らしを認めてくれたということもある。
 間取りは1K、といってもキッチンはお情け程度のものなので、あまり料理を作ろうという気になってこない(言い訳かもしれないが)
 部屋は7畳ほどあるのであまり狭いとは感じないが、それでもベッドにテーブル、テレビや棚を置いたら余裕なんてあんまりない。
「まあ、それでも自分の城だしね」
 と、一人暮らしをしてから随分と独り言が増えたような気がする。菫子と暮らしていた時は、まだ会話があったけれど、今や会話をする相手が家にいないのだ。
 ヨーグルトを掬ったスプーンを咥え、乃梨子は一人コンポのスイッチをつけ、アイドルグループ『羆嵐』の曲を流してベッドの上に佇む。

 

 午前中の講義が終わり、学食で昼食をとる。
「乃梨子―、こっち、こっち」
 空いている席を探していると、乃梨子を呼ぶ声。目を向ければ、同じクラスの友人が手をあげて招いている。
 そこまであからさまに誘われて断れるわけもなく、定食の乗ったトレイを持ったまま向かい、空いていた席に座る。
 別に仲が悪いわけではないが、物凄く良いということでもない友人で、こうして一緒に行動することもしばしばある。女の子というのは大抵、行動するグループは固定化されるもので、こうして乃梨子のようにどこかふわふわしているのは珍しいタイプのようだ。でもまあ、だからこそこうして不特定のグループに声をかけられたりもするわけだ。
「どーもどーも、サンクス」
 当たり障りのない友人関係。
 リリアン時代の仲間達がある意味、非常に『濃い』関係性を保っていただけに最初こそ微妙に感じたが、もともと中学時代は何の変哲もない公立に通っていたわけで、むしろリリアンこそが特異だったとすぐに今の状態にも慣れた。
 お洒落、芸能人、男、恋愛、そういった話に花を咲かせる仲間達を、どこか少し冷めた感じで見つつ、昼食をすすめる。この辺はもう仕方ない、趣味の違いはどうしようもなく、中学時代に思い知っている。仏像好きな女子大生は、そうは存在しない。
「――ねえ、乃梨子、聞いてる?」
「え? あ、ごめん。なんだっけ」
「だからー、昨日の『ラスエグ』観た? ちょーかっこよかったよねー」
「あー、昨日はバイトだったから」
「マジで、すんげぇ良かったのに。今度、貸したげるよ」
 テレビの話のようだが、正直良く分からん。それでも場を白けさせるつもりもないので、なんとか適当に話をあわせる。
 しかし人間関係は大切だが、ストレスになるのも確か。一回一回はたいしたことがなくても、積み重なればそれなりに重くなってくる。解消するために、時に仏像展などをはしごしたり、一人カラオケで発散させたりするわけだが、だったらそもそも付き合わなければいいんじゃないかとも思うわけで、その辺のことに一人でもやもやする。
 もっとクールな性格だと思っていたのに、色々と周囲の人間のことを気にするようになったのは、成長ととらえればよいのか、それとも臆病になったのか。
 そんなお昼時の気怠くも変わり映えのしない光景の中、色あせた世界が急速に色彩に溢れたように感じた。いや、それも違う。ぼやけていた輪郭が明瞭になる、黒と白のメリハリがついた、うまくいえないけれどそんな感じ。
 テーブルの脇を横切って歩く、一人の女子によって空気は鮮烈にかきまぜられた。
 凛として涼やかな姿勢に、思わず目を奪われる。
「……やっぱ、なんか一人、雰囲気が違うよね彼女」
「え?」
 隣の席の子が、やはり彼女の後姿を目で追いかけて呟いた。
「なんだっけ、ヨーロッパだかどこかに留学していたんでしょ、彼女」
「蟹名さん、だっけ?」
 そう、彼女の名前は蟹名静。
 二年間留学していたとかで、年上だけれども同学年。二年年上というだけで、こんなにも大人っぽく、自分と違うのかと思ってしまう。
 話したことなんてないけれど、静の存在感にはいつも圧倒されそうになる。
「でもさ、留学したけれど失敗して帰ってきたんでしょう?」
「何しに留学したんだっけ?」
「確か、音楽かなんかじゃなかった。それでうちの大学にいるんだから、失敗したってことなんでしょ」
 乃梨子が通う大学の偏差値はそれなりに高いけれど、音楽大学というわけではないから、音楽を専攻して留学してこの大学にいるなら、それは駄目だったということなんだろうけど。
「そういう言い方、やめなよ」
 なんとなく馬鹿にしたような言い方が気に入らなくて、つい、口に出してしまった。
「何、乃梨子は蟹名さんの味方?」
「そういうわけじゃないけどさ、どこに留学してどこの大学に行こうが、その人の自由じゃん。それが成功なのか失敗なのかを決めるのだって、本人だし」
 肩をすくめる。
 あまりキツイ言い方にならないよう、なるべく一般論になるように。
「まあいいじゃん。それよりさー」
 実際、話はすぐに別の方向にそれていき、静のことなど何もなかったかのようになる。それが当たり前なのだけれど、なぜか乃梨子は彼女が歩き去っていた方に目が吸い寄せられそうになる。
「どうしたの、乃梨子」
「あ……と、ごめん。ちょっとお腹が。アレ、きちゃったみたいだから失礼するね」
 皆に断って席を立ち、食べかけだった食事をのせたトレイを返却し、食堂を出る。廊下に出て左右を見てみるが、既に静の姿はどこにもない。学生たちの間を縫うようにして急ぎ足で歩きまわり、静を探す。
 探し出して何をしようとしているのか、何を話そうとしているのか、そんなことは何も考えていなかった。我ながらあほらしいとは思うが、一度動き出すと止まるのも勿体ない気がしてひたすらに探す。
 だが、広い大学内でやみくもに動き回ったところで簡単に見つけ出せるはずもなく、やがて午後の講義の開始を知らせる鐘が鳴る。午後一の講義は必修だったが、一回くらい休んだところで問題はないはずだし、そもそも教室から随分と離れてしまったから面倒くさくもある。
 もはや、むきになっているだけだと自分でも分かるが、体は止まらない。
 人の少なくなった校舎内を歩き続け、そこでようやく気が付く。静も講義に出ているのであれば、教室以外を探し回ったところで見つかるはずないと。
「馬鹿か、私は……」
 頭をかき、足を止める。
 今さら教室に行く気もせず、かといって次の授業まで出ないわけにはいかないので帰るわけにもいかない。
 廊下の窓枠に手をかけ、外を眺める。
 講義の時間になっても、外には学生の姿が見られる。サボっているのか、講義がないのか、果たして。
 緩やかに吹き付ける風になびく髪の毛を手で抑えながら、何をするでもなく外を眺めていると、耳に飛び込んでくる音の中に何かひっかかりを覚えた。
 色々な音が混じっているけれど、その中で響いてくるものがある。首を傾げ、窓から身を乗り出して上を見てみるが、校舎の作り上良く分からない。時間も空いていることだし、気になった私はなんとなく歩き出した。
 おそらく気になる音の出どころは上の方で、とりあえず階段をあがるものの、屋上は出入り禁止のはず。屋上の扉へと続く階段にはロープが横に渡されているが、心理的に抑えるものであり物理的に進めないわけではない。乃梨子はロープをくぐって階段をあがり、やがて屋上へ続く扉の前に立った。扉には、いまどきなんでこんなの使っているの、と思える大仰な南京錠がかかっていた。
 これじゃあ無理だと思いつつ、南京錠に手を伸ばそうとして、かかっているように見えた南京錠が外れていることに気が付いた。
 階段の下に目を向け、誰もやってこないこと、人の気配がないことを確認して、ゆっくりと力を込めて扉を開いていく。
 細く開いた扉の隙間からするりと外に出て、扉を閉める。
 高い場所に来たからだろうか、春風がいつもより少し強めに肌を撫でてくる。東京といいつつ微妙に郊外にある大学のキャンパスは、周囲を緑に囲まれているため空気も爽やかで心地よく、排気ガスなんかとも無縁だ。
 そしてそんな屋上に出た乃梨子の耳に聞こえてきたのは、小さな歌声。不思議な声色に誘われるようにそっと移動すると、ほどなくして彼女を見つけることが出来た。
 貯水タンクか何かだろうか、屋上の上に設置されている巨大な物体のさらに上に乗って、歌っている。
 大きな声ではない。それでも不思議と耳にはしっかりと入ってくる。
 音楽関係で留学したというのは、歌か何かだったのだろうか。気が付かれないよう背後から近づき、貯水タンクの側で彼女を見上げる。
「――――あ」
 風にスカートの裾が翻り、細く滑らかでストッキングに包まれた脚、そして大人っぽい黒のショーツとガードル。
 なぜか頬が熱くなる。
「――――?」
 彼女の声が不意に途切れる。
 次の瞬間、彼女は首を捻って乃梨子の方を見下ろしてきた。一瞬だけ目があったが、まるで覗き見していたような自分が恥ずかしくて、私はすぐに回れ右をして走りだし、屋上の入口に向かった。
「あ――――」
 何か言いかけた彼女の声、それだけなのに心の奥まで滑り込んできそうで。
 乃梨子はただ、必死に逃げた。

 

 その日以来、静の姿を見かけると自然と目で追っていた。
 静は誰かとつるんでいることが殆どなく、いつも一人で行動していた。一年以上も同じ大学、同じ学科に通っていたがクラスは異なるし接点もなく、気にしていなかった。それが、どうして急にこんなにも気になりだしたのか私自身にも理解できなかった。
 ただ、他の学生とは異なる雰囲気を醸し出している静に、無意識のうちに興味を持っていたのかもしれない。一年間過ごして大学にも慣れて、二年生になったとはいえなんとなく同じような日々の中で刺激を受けたのかもしれない。
 とはいえ、いきなり話しかけられるわけもない。おまけに先日は屋上で顔を合わせたものの、何を言う間もなくいきなり逃げ出してしまって決まりも悪い。何を話せばよいかも分からないし、別に構わないかと心の中で言い訳しているうちに時間だけが過ぎていく。
「…………ねえ乃梨子、今日暇だったら合コンいかない? 急に一人、欠員できちゃってさぁ」
 そんなある日の午後の講義終了後、またしてもそのような誘いを受けた。本当、どれだけ合コン好きなんだよと心の中で舌打ちしつつ、表面上は穏やかに。
「えっと、今日はちょっと」
 正直、合コンとか行きたいと全く思わない。そこまでして彼氏なんか欲しいのだろうか。
「何、なんか用事? 確か今日はバイト、無い日だよね」
「最近、乃梨子つきあい悪くない?」
 最近も何も、いつもそこまで一緒に遊んでいるわけでもないのに、そんなことを言うか。合コンは行きたくないが、かといって変な断り方をして関係を悪くするのも嫌だ。今までなら、こんな無理に言ってくることはなかったが、さては今日の合コン相手が結構イケているということか。
 乃梨子がそのように返事に迷っていると。
「――あ、ごめんなさい。二条さんは今日、私たちと約束があるんです」
 いきなり背後から肩に手を置かれ、そんなことを言われた。
 はて、と思って首を傾けてみれば、ストレートロングヘアーの知らない人。
「そうそう、申し訳ないけれど、今日はあたしらの方が先なんで、ホントごめんねー」
 更に反対の肩に手を置いてもう一人。こちらはショートカットだ。
「ああ……まあ、約束あったなら仕方ないけど。それじゃ乃梨子、今度は絶対だよ」
「あ、う、うん」
 そうして去っていく友人達だが、乃梨子は新たな見知らぬ人たちに囲まれてしまい、戸惑うばかりである。
「見知らぬって、失礼だなー。一年も同じクラスで学んできたのに」
「え、あ、ごめん。私、あんまり覚えてなくて」
「相当に物覚えが悪いとか?」
「うひゃあっ!?」
 今度はいきなり頭を撫でられ、とびすさって振り向いて見れば、金髪で派手な女の子がひらひらと手を振っていた。
「そこまで驚かなくてもいいじゃん?」
「あははっ、二条さんって面白いのね」
「なっ……なんなのっ!?」
「まあいいから、とりあえず行きましょう」
「そうそう、話はお店についてから」
「って、え、ちょ、ちょっと~~~っ!?」
 ショートカットの子と金髪の子に両側から腕を取られて連行され、さらにその後ろから、ロングヘアーの子が穏やかな笑顔を見せたままついてくる。
「な、なんぞこれーーーーっ!?」
 叫びも空しく、私は三人組に拉致された。

 

 照明を抑えめにした、雰囲気の良い個室居酒屋でなぜか三人組と酒席をともにしていた。
「こうして実際に食事しないと、いざというときに嘘だとバレるでしょう?」
「それに、乃梨ちゃんと仲良くなるためにも、お酒の席はいいでしょ」
「わたしは、美味しいお酒が飲めればそれでいいけれど」
 三者三様の言葉を返してくる彼女たち。
 とりあえず最初に自己紹介はしていて、淡く茶色の入ったストレートのロングヘアー、落ち着いた感じの女の子が久保栞。
 セミロングの黒髪はウェイブヘア。大学生というよりも高校生くらいにしか見えない可愛いタイプ、背が低くてちょっと垂れ目で声の大きい葉山えりな。
 見事な金髪のショートカットに派手なネイル、スマートな長身で体のラインが分かりやすいぴっちりした服を着ているのが須永希海。
 乃梨子とえりなは同じ学科だが、栞と希海は別の学科だ。栞と希海が同学科で仲良くなり、えりなと希海が同じ高校で友達同士だったので、なんとなく三人でつるむようになったらしい。
 それは良いのだが、どうして乃梨子に声をかけてきたのかが分からない。助けてくれたことはありがたいが、彼女たちに得することなど考えられず意味不明だ。
「悲しいね、損得でしか物事を考えられないってのは」
「いや、普通は下心あるんじゃないかって、疑うでしょう」
「まあ、下心がないといったら嘘になるかな。乃梨ちゃん、これを機会に仲良くなって、試験前には是非、勉強を教えてください!」
 と、えりながテーブルに額をつけるほどに頭を下げる。
「あははっ、下心満載じゃん」
 けらけらと笑う希海。
 なぜ、こんなことになってしまったのか。流されてこんな場所までついてきた自分自身が恨めしい。
「へー、乃梨子って頭良いんだ?」
 今日初めて会ったというのに、希海は既に名前で呼んできている。別に構いやしないけれど、それもどうなんだと内心では思う。
「それで、私に声をかけた理由はなんなの?」
「友達になりたかった、じゃあ駄目かしら」
 おっとりとした口調で栞が言うが、とてもじゃないが本気で受け止められない。
「なぜ私をピンポイントで? 変じゃない」
「そうかしら。学科一優秀な人と仲良くなりたいと思うのは、理由にならないかしら」
 学科は異なるが同じ講義もある。確かに、仲良くしていて悪いことはないだろうし、そういう下心があるほうが、単に理由もなく友達になりたいなんて言われるよりよほど信用できる。
 だけど、乃梨子が彼女たちと友達になりたいかと言われると、それはまた別の話。
「もちろん、二条さんにもメリットはあるわよ。だって、こっちの学科のもっとも優秀な人と二条さんも友達になれるのよ?」
「…………へえ」
 ビールで喉を潤しながら、栞のことを見つめる。落ち着いた雰囲気、優等生然とした態度は伊達ではないということか。
「そう、この希海とね」
「――――えぁ?」
 ぽん、と隣に座る希海の二の腕あたりを叩く栞に、間抜けな声を出してしまう。そうして視線を転じて、金髪、ネイル、派手な服装の希海をまじまじと見つめる。
「二条さん。あなた今、"この派手な女が?"と思ったでしょう。外見で判断されるのは、愉快ではないわよね」
「あ、ごご、ごめんなさいっ」
「――別に、いつものことだから構わないけど、あたしは」
「希海ちゃん、すごい頭良いんだから」
「ちなみに私は、中の中ってところ」
「えりなはねー、下の中!」
「偉そうにいうことじゃねーだろ……」
 騙されているのではと疑いもしたが、希海とえりなの様子を見るに、どうやら本当のことらしい。栞に指摘されたとおり、見た目だけでありえないだろうと判断してしまっていた。頬杖をついて不貞腐れたように横を向いている希海に、申し訳なくなる。
「悪いと少しでも思ったのなら、友達になってくださる? まあ、これも一つのきっかけということで」
 あくまで人のよさそうな笑みを浮かべているが、この栞という女性がもっとも腹の底が読めない。
「……ま、別にいいけれど、それくらいなら。違う学科に人脈を持っていて悪いこともないしね」
「良かった。それじゃあ改めて乾杯しましょう。ワインを追加してよいかしら」
「私はハイボールがいいー」
「あたしは日本酒」
「私は……梅酒をロックで」
「あら、見事にバラバラね」
 それがさも面白いことのように、栞はくすくすと笑っていた。

 

 二時間ほど飲んで食べて店を出る。四人とも良い感じにほろ酔い加減になっている。
「次どうする?」
「カラオケー! カラオケいこうよう、しおりーん、希海ちゃん。乃梨ちゃんもねっ」
「私は、今日は遠慮するわ。少し飲みすぎたし」
 ぐにゃぐにゃと寄りかかってくるえりなを希海の方に押し返し、私は簡潔に断る。話してみて悪い人たちではないと思えたし、話も意外と合ったりしたけれど、なんとなく今日は気が進まなかった。あと、カラオケはそこまで自信がないので、まださほど親しくない人たちの前で歌うのが嫌だというのもある。
「そう? よかったら泊まって行ってもいいのよ。希海の部屋に」
「あたしの部屋かよっ!? って、別にいいけどさ、それくらい」
「うーん、やっぱり今日はやめておくわ」
「えーっ、乃梨ちゃん、一緒に歌おうよー」
「こら、えりな、あまり困らせないの。それじゃあ二条さん、また学校で」
「ああ、うん、じゃね」
 手を軽く振り、えりなを両脇から引きずっていく栞、希海に別れを告げる。私も踵を返して帰途に就く。
 まったく、思いもかけない事態になったものだと、酔った頭で考えながら。

 

 一方、乃梨子のことを見送った三人組。
「……ねえ、しおりん、乃梨ちゃん帰っちゃったけれど、いいの?」
「今日は友達になれてアドレス交換ができただけで充分よ」
 栞の腕に抱きつきながら尋ねてくるえりなに、栞は変わらぬ口調で答える。
「つか、栞の好みってあーいうのだっけ?」
「ふふ、どうかしら。ただ、色々と気になるのよ、二条さんは……ね」
 腕を組んで乃梨子が消えた方向を睨みつけている希海の問いには、曖昧に微笑んでぼやかす。
「栞の好みはてっきり……」
「あ~もう、とりあえずいいじゃんそれはさー。それよりカラオケいこーよー!」
「はいはい、そんなに引っ張らないで、えりな」
 組んだ栞の腕を引っ張って歩き出すえりな、手をあげて伸びをした後、頭の後ろで腕を組んで二人の後を追うように歩き出す希海。
 三人の姿は、夜の繁華街の人の群れに溶け込むようにして、消えてゆく。

 

 二条乃梨子、大学二年生の春。

 物語は、始まったばかり。

 

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