【作品情報】
作品名:ワン・モア・ヌーク
著者:藤井 太洋
ページ数:603
ジャンル:エンタメ
出版社:新潮社
おススメ度 : ★★★★★★★★☆☆
改めて2011年以降のことを考えさせられる度 : ★★★★★★★★☆☆
こういう人におススメ! : 2011年を知る人に
東京五輪を間近に控えた日本。
そこに、「核をもう一度」と、核を持ちこんだテロリスト。
爆発は 3月11日午前零時。 福島第一原発事故の日を指定したそこに、どのような真意があるのか。
ただ壊滅をもくろんだテロではない。
それは、二人のテロリストの歪んだ理想を実現するための手段だった。
欺き合うテロリストとテロリスト。
追う警察、CIA。
緊張と興奮が錯綜するサスペンス。
時は2020年3月。
東京オリンピック開催を控えた日本、東京を舞台に、核を保有したテロリストとの攻防を描いたサスペンスです。
ですが、単純なテロリストたちとの攻防というわけではありません。
テロリストには、
- 中東からやってきた核物理化学者のイブラヒム
- 日本でモデルをやっている但馬
- そして母親のお腹にいる間に核実験で被爆したシェレペット
生まれも違えば育ちも違う三人。
だから、核でテロを起こしたいという行動目標は共通していても、その根底にある理念は異なる。
テロリスト同士の間でも考えが異なり、裏切り、騙し合いがあり、それゆえに一筋縄ではいかない攻防となる。
テロリストvsテロリストの複雑かつ高度な心理戦、情報戦。
そしてそんなテロリストを追いかける警察、そして国際原子力機関(IAEA)にCIA。
複雑に絡み合った様相が、読み手をグイグイと引っ張っていってくれる。
特に情報戦は、よくもまあ、そんな風に相手の考えや行動、その真意を読み取れるものだなあと感心させられる。
この作品のテーマにある核。
それは、2011年の東日本大震災で発生した福島の原発事故に端を発する。
「今度こそ、政府に本気で説明させようとしているんですよ-「安全」の意味を」
除染は終わった地でも、まだ汚染されている、住める場所ではないという刷り込みがある。
震災の直接的な被害者だけでなく、風評被害によって間接的に亡くなっている人もいる。
そしてテロにはしった但馬もまた、自分の意図に関わらず関与してしまっていた。
だからこそ、今回のテロに至るわけで、その過去と事実を知った時は、なんかもう、胸が痛くなる。
善意が人を殺すこともある。
それを知った時、但馬の心に押し寄せたものは何だったのだろうか。
テロの動機、そしてテロの実現方法を知ると、「ああ」と思わされる。
本当にそうだよなと思わせるものが、今の日本にはあるということ。
重いテーマを扱いながら、物語はスピーディに展開して一気に読ませてくれる。
騙し合い、相手の先の先の先を見る動き、複雑なのに分かりやすいとでもいおうか。
2011年3月。
あの時を生き、今も生きている人に読んで欲しい一作。
ラスト。
希望はあったのか。
あとイブラヒム部隊メンバーの深堀があると良かったけれど、分量的に難しいか。