書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 真紀

【マリみてSS(真紀×祐麒)】なんで……

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~ なんで…… ~

 

 卒業式から新一年生の迎え入れ、新たな授業カリキュラムの作成、クラス分けなど、慌ただしく三月が過ぎ去って四月となり、新年度が始まった。
 気持ちも新たにスタートを切ろうと動き出したが、どうしても気になってしまうのは祐麒から受ける視線。
 よりにもよって、三年生になった祐麒のクラスの担任となってしまい、祐麒からの熱い視線を毎日感じるのはどうにもこうにも落ち着かなかった。
「鹿取先生」
「どうしたの、福沢くん」
 周囲に生徒がいるから変なことを言ってくるとは思っていないが、心の中では身構えてしまうのは仕方ない。
「今度、練習試合で月光館に行くので、許可をいただきたくて」
「ええ、分かったわ。手続きはしておくから」
 なるべく用事を素早く終えて、祐麒と接する実感を減らそうとする。祐麒も分かっているから、部活や授業、クラスの用事などで真紀に接しようとしてくるのだ。
 新年度が開始して一週間くらいは色々と行事もあって慌ただしく過ぎ去り、少し落ち着いてきたと思えるある日の事、仕事を終えて校舎を出ると外は既に薄暗い。そんな中で校門を出て少し歩いたところで、祐麒の姿を目にした。
「鹿取先生も、今から帰りですか」
「……ええ。福沢くんも?」
 真紀が出てくるのを待っていたのではないか、そんなことを口にしそうになって慌てて口もとをおさえる。何の証拠もないのに生徒を疑うなんて、してはいけない。今までだって機会はあったのに、そこまでしてくることはなかったのに。
「嬉しいです、先生と一緒になるなんて」
 周囲に他の人の姿がないせいだろうか、学校内にいる時よりも少しばかり嬉しさを見せてくる。ここであからさまに避けて別々に帰るのも大人げなく、同じバスに乗るしかないので一緒に帰ることになる。こういう時に限って、他の生徒の姿はない。
 とはいえ他の客が全くいないわけではないので、適当に学校に関する当たり障りのない会話をすることで時間をやり過ごし、二人が使用するJRの駅へと到着する。
「先生、良かったら何か食べて行きませんか」
「何を言っているの、もう遅いんだし、まっすぐ帰りなさい……」
 と言ったところでタイミングよく真紀のお腹の虫が鳴いた。
 漫画のような展開に赤面する真紀。
「ほら、先生だって、お腹空いているんじゃないですか」
「そ、それとこれとは話が別……」
「大丈夫です、別にレストランに入ろうってわけじゃなく、あそこの商店街で売っているメンチカツが激ウマなんですよ」
「いや、だから」
「あれ食べたら、先生もきっとやみつきになりますって、だから是非」
「あのね、福沢くん……」
 どう説得しようか、真紀は頭を悩ませたのだが。

「――うわ、何コレ、美味しい」
 ホクホクのメンチカツを齧った瞬間、目を丸くして真紀は言っていた。サクサクの衣に歯を噛み入れると、中はホワッと熱くて肉汁が口の中に染みこんでくる。何も付けずにただそれだけで美味しい、驚きの一品だった。
「そうでしょう?」
 真紀の反応を見て嬉しそうに言ってくる祐麒に、慌てて顰め面をしようとするものの、メンチカツを頬張るとどうしても表情が緩んでしまう。熱々の出来立てを頬張るというのもまた良いのだろうし、こうして店先で齧るというのも良いのだろう。
 なんだかんだと説得できず、だからといって無視して帰ってしまうのも教師としてどうかと思い、後をついて来たら店先から良い匂いが漂ってきて再びお腹が鳴ってしまった。客が並んでいたがすぐにはけるので、素早く購入した祐麒に一つ手渡され我慢できずに口にしてしまったのだ。
「……確かに、美味しいわね」
「でしょ。でもこれで鹿取先生も共犯ですね」
 無邪気に嬉しそうに笑いながら言う祐麒に、おもわず「かわいいなぁ」なんて心の中で思ってしまい、自分でそのことにびっくりする。
 いや、自分の生徒のことを可愛いと思うのは当たり前のことだし、変な意味はないよなと言い聞かせて一人頷く。
「他にも美味しい惣菜屋さんあるんですよ、見ていきませんか?」
「これ以上食べたら、夜ご飯が食べられなくなるわよ」
「見て回るだけですって、また次回のために」
「次回って……ちょ、ちょっと福沢くん」
 先に商店街の中を歩いてゆく祐麒。どうしようかと思いつつも放っておけず、片手にメンチカツを持ちながら追いかける真紀。
 そして。
「うう……あの大判焼きはお腹にに溜まったわ」
「美味しかったですよね。チョコレートもいいですけど、カスタードがやっぱり良いかな」
 甘くてボリュームのある大判焼きを二種類購入し、二人で半分に分けて食べるということをした結果、真紀は随分とお腹が膨れてしまった。
「私は良いけれど福沢くん、夜ご飯大丈夫?」
「これくらいなら楽勝ですよ、男子高校生の食欲をなめないでください」
「ぷっ、何よそれ」
 思わず笑ってしまったが、よくよく考えてみなくても教え子と夜の街を食べ歩きなどよろしくない。しかし、仕事をしてお腹を空かしていた真紀には逆らい難い匂いだったのも確かなのだ。
 教師として注意しなければならないのに、最初にメンチカツの誘惑に負けてしまったばかりに言えなくなり、ここまできてしまった。自分の弱さに情けなくなる。
(……でもあんなに追いそうな香りを漂わせていたんだもの、仕方ないじゃない。それに、楽しいし)
 学校帰り、夜の街、買い食い、リリアンに通っていた真紀が学生時代には殆ど出来なかったこと。大人になった今ならなんでもないことだけど、なぜか不思議と楽しく感じるのは、やはり一人ではないせいだろうか。
 そこまで考えて、それじゃ駄目だろうと思うのだが。
「先生、こっちこっち、早く」
 無邪気なのか、それともこれが作戦なのか分からないが、人懐こい祐麒の笑顔や態度にはどうしても心が甘くなりそうになる。
「こっちじゃないわよ、もう疲れちゃったわ」
 本当はそれほど疲れているわけではないのだが、あえてそう言うことで祐麒の行動を制しようと思ったし、実際にこれ以上つきあわされてはまずい。
「ええー。まだもう少しだけ、いいじゃないですか」
「そんなこと言われても」
「俺……もっと鹿取先生と一緒にいたいです。俺の気持ちは今でも変わらないですから」
「福沢くん」
 急に真面目になって言われて、真紀も動揺する。
「期待しちゃうじゃないですか、こんな風に一緒に遊んでくれて、凄く楽しくて嬉しくて」
 心が苦しくなる。
 言われた通り、付き合ってここまで来たのは祐麒のせいではなく真紀自身に因るものなのだから。
「好きなんです、鹿取先生のことだ。他の誰かなんて考えられないくらい」
「福沢くん……」
「鹿取先生、俺と付き合ってください。本気なんです」
 痛いほどに突き刺さってくる祐麒の想いに、真紀も胸が苦しくなる。
 いつの間にか祐麒に手首を掴まれていることに気が付き、そしてそれが嫌ではない自分に気が付く。
「駄目よ、離して」
 手を振り解くと、これ以上近くにいて親しくなってはいけないと自分に言い聞かせ、慌てて祐麒に背を向けて駆けだした。
「先生、危ないですって」
「とにかく、今日はもう帰りなさい」
「だから先生、あぶな――」
「え?」
 周囲に目を向けていなかったから、車道に飛び出てしまっていたことに気が付かなかった。そして、飛び込んでくる車のライト。真紀がいきなり飛び出してきたからか、ドライバーも驚いた顔をしているのがなぜかよく分かった。
 逃げなければと思うけれど、体が動かない。思考は回転するけれど、体がいうことをきかないのだ。
 このままでは車に衝突されてしま――
「鹿取先生っ!!」
 祐麒の叫ぶ声が聞こえた直後、どん、というような鈍い音と衝撃が真紀に伝わって来た。
 跳ねられたのかと思ったが、不思議と痛みが感じられず、もしかしたら痛覚も失ってしまったのか、なんて考えたりもしていると目の前の世界がぐるんと回転して転倒する。
「いっ…………つぅ……」
「あ……ふ、福沢くんっ!?」
 転倒したけれど痛みを感じなかったのは、祐麒が下になって真紀をかばっていたからだったし、その前も車と真紀の間に入って衝突から庇ってくれていたのだ。車は速度を落とす様子もなく走り去っていってしまったが、そんなことより気になるのは祐麒の体の方だった。
「だ、大丈夫!? 頭打ったの?」
「あ、いえ大丈夫です、ちょっと腕を……イテテ」
 ゆっくりと上半身を起こす祐麒だったが、左腕を右手でおさえて顔を顰める。
「腕? 病院に行きましょう」
「え、大丈夫ですよ、痛みはありますけれど、別に折れているとかそんな感じはしないですし」
「何言っているのよ、ちょっと待ってて、タクシー呼ぶから」
 まだ何か言おうとする祐麒を無視してタクシーを探すと、有無を言わさず近くの病院まで連れ込んだ。
 結果、単なる打撲ということでようやく胸を撫で下ろす真紀。
 日も落ちて暗くなった道を歩きながら、どっと疲れが体に広がってきて思わずため息を吐き出してしまう。
「だから、大丈夫だって言ったじゃないですか」
「それは結果論でしょう。もしも何かあったらどうするのよ」
「それでも、鹿取先生を怪我させちゃうよりマシですよ」
 言われて、そういえば自分がそもそも道路に飛び出したことが起因だったと思いだす。謝らなければと思い、事実、謝罪の言葉を口に仕掛けた真紀だったが、その前に祐麒の方が真紀を見て口を開いた。
「好きな人が無事でいてくれたら、その方が嬉しいですから」
 邪気のない笑顔で、するっと言う。
 その祐麒の表情に、言葉に、胸が疼く。
「――馬鹿、それで自分が怪我したら、私が嬉しいとでも思うの?」
 小声で呟くと。
「ん、なんかいいました?」
 軽く顔を寄せてくる祐麒。
 それを見た真紀は。
「――――っ!?」
 祐麒が驚きに身をすくめた。
 唇に、温かくやわらかな感触。
 そして、離れてゆく。
「………………」
「…………え……せ、せんせ……?」
 呆然としたような祐麒の声に、真紀も我に返る。
「あっ…………じゃ、じゃあ、ゆっくり休むのよ、お休みなさい!」
 くるりと背を向け、走り出す。
 祐麒の視線を背中に感じながら。

 

 マンションの自室に戻った真紀は、玄関の扉を閉めるなりその場にしゃがみこみ、両手を頬にあてて心の中で絶叫する。
(――な、な、何をしたの私ってば! 福沢くんに、き、キスなんてしちゃって――――!?)
 顔が近づいてきたのを見て、自然と手を伸ばして祐麒の耳から後頭部のあたりに触れると、自ら首を伸ばして唇を重ねていた。
 頭を抱える。
 なんであんなことをしてしまったのだろうか。
 おそらくは、色々な要因が重なってのことだろう。
 真紀のことを自らの身を挺して守ろうとして怪我をした祐麒に対する感謝の思い、そこまで自分のことを想ってくれていることの嬉しさ、ストレートに伝わってくる好意、あの場の雰囲気。そして商店街を一緒に食べ歩いた時の楽しさ。そういったことが全て混じり合い、重なり合い、そしてそっと顔を寄せられて。
 祐麒の方にそのような意識はなかったのだろうが、真紀は「そう思って」しまい、動いてしまった。
 即ちそれは、祐麒の気持ちを受け入れてしまったということなのか。
「違うわ、ちょっとムードにのまれてしまっただけよ」
 誰にともなく呟き、首を振りながら立ち上がり部屋の中に入る。
 忘れようとしても忘れられないままに朝となり、学校へと足を向ける。
 授業に集中すれば忘れることも出来るけれど、すぐにまた思い出してしまうのは、当の本人が学校にいて顔を会わせる機会も多いから。
 祐麒が声をかけようとしてきても気付かないふりをし、目もあわせないようにし、授業中も祐麒の視線に耐え、数日を過ごす。
 このまま連休まで突入して時間を置けば、少しは落ち着くだろう。そもそもいくら生徒とはいえ、30過ぎた自分がキス一つでおたおたするなんてみっともない。あれはほんの気まぐれ、助けてくれたことへのお礼で特別な意味などないとはっきり伝えてしまえば良いのだ。
 例え向こうがどのように思おうが、真紀が突っぱねてしまえばそれ以上のことはできまい、そう考えて気を落ち着ける。
「――――と」
 階段を上り、廊下に足を出しかけて止まる。廊下の先に祐麒の姿が見えたからで、道を変えて行こうと思う真紀だったが。
「ふっくざっわくーんっ!」
 という明るい女の子の声に足を止め、ちらりと廊下の方に顔を出してみてみると、テニス部で真紀も指導している桂が祐麒に親し気に話しかけているのが目に入る。桂は明るくて色々な子と仲が良いし不思議なことではない。
 しかし、腕に触ったり背中を叩いたり、随分と距離が近くはないだろうか。女子同士ならばともかく、男女であればもう少し適切な距離の取り方があるのではないか。そうやって見ていると、やがて桂は手を軽く振って去っていった。
 どうやら本当に単なる雑談だっただけと見え、ほっと息を吐き出す真紀。
(…………って、なんで私が安堵したような形になっているのよ!?)
 自分の挙動にツッコミを入れる真紀だが、その間にもまた祐麒の近くで新たな動きが出ていた。
 筒井環が現れ、祐麒と並んでゆっくりと歩いている。二人は同じ競技かるた部員だし、話をしてもおかしくはないのだが。 「――あの、福沢くん、今週末って時間あいてないかしら?」
「え、何かあるの?」
「ええと、その、部の今後について話し合わないかしら? それで良かったらその後」
 顔を赤らめ、ややもじもじしつつも少しつっけんどんな感じで言う環の態度に、真紀は環の気持ちを感じ取った。
「その後、良かったらカラオケでも……」
「――ちょうど良かったわ、福沢くん」
 廊下に足を踏み出し、二人の会話に割って入る真紀だったが、その時点で内心では"しまった"と思っていた。
 何も考えてないまま出てしまい、何が丁度良かったのか分からないし、そもそもこれではまるで環の邪魔をしに出てきたみたいではないか。
「この前の進路調査の件で話があるから、ちょっといいかしら。筒井さん、ごめんなさいね、お話し中に」
「え、あ、いえっ」
 黙っているわけにもいかず、それっぽいことを口にして歩き出し環に背を向ける。後ろから祐麒がついてくるのを感じつつ、ちょうど近くにあった進路指導室へと入る。
「…………えと、進路調査の件って、なんですか」
「そ、それは、これから行う予定よ」
 祐麒に背を向けたまま、苦しいながらもそんなことを言う。三年生であるし、進路調査を行うことに間違いはないのだから。
「何か話があったんですか?」
「別に、そんなんじゃないわ」
 自分でも酷いと思うが、機嫌悪そうに告げると、祐麒が困惑するのが手に取るように分かった。
「えーと、それじゃあ、俺はいきますね」
 祐麒も今の真紀に対しては何を言っても良い方向にはいかないだろうと察したのか、いつものような粘りもなくあっさりと引き下がろうとした。
「――そういえば筒井さん、話の途中だったよな。まだ追いつけるかな」
 と、その言葉を耳にした真紀は、咄嗟に祐麒の制服の袖を掴んでいた。
「どうしたんですか、鹿取先生?」
「こ、この前のこと、聞きたいんじゃなかったの?」
 何も思い浮かばなくて、一番強く頭の中にあったことが口に出てしまった。
「この前のことって、その」
 祐麒も思い出しているのだろう、顔が赤くなる。
「聞いて、いいんですか? 先生あの日からずっと俺のこと避けていたから……」
「それは、そうだけど」
「じゃあ……あのとき、どうして俺に……その、き、キス……してくれたんですか?」
「そ、それは……」
「教えて、ください。俺は鹿取先生のことが好きです。先生は、俺のことをどう思っていて、どうしてキスしてくれたんですか?」
 いつの間にか祐麒に押され、壁を背に追い詰められていた。
「先生」
 右手を壁について迫ってくる祐麒。
 真摯な瞳で見つめられ、まさかの『壁ドン』を初めて体感して真紀は、確かにこれは"ヤバい"威力があるかもと思った。
 だからだろうか、迫られた真紀は思わず瞼を閉じ、軽く顔を上に向けてしまった。これではまるで自分からキスを求めているだけではないかと思いつつ、今さら逃げ出すことも出来ずにその時を待つ……のだが。
 一向に祐麒がこないので目を開けてみると、顔を赤くしながらも凍り付いたように硬直していた。
「あ……あの、ええと、それって?」
 その言葉、態度、表情にムカッと来る。
「なんでここで躊躇うのよ!? 分かるでしょう、それくらいっ」
「分かるって……え……」
 言ってから、急激に顔面温度が上昇していく真紀。
「わ、分からないですよ、ちゃんと言ってくれないと。鹿取先生、どういうことですか」
「ど、どういうことって……」
「教えてください、先生、どういうことなんですか」
 ぐいぐいと迫られ、追いつめられ、真紀は。
「だっ、だから……」
 口を開き。
「……わ、私と……付き合ってみる……?」
 そう、言っていた。
 なんで、教師である自分が生徒の男子に対してこんな風に言わなければならないのか。そう思いつつも、どこか、胸の苦しさが取れたことに気が付いた真紀であった。

 

おしまい

 

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