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【マリみてSS(志摩子×乃梨子)】キミのチカラ

更新日:

 

~ キミのチカラ ~

 

 

 今年の夏は猛暑となるでしょう。

 ここ数年、同じ言葉をずっと聞いているように思う。本当に、地球温暖化の影響は大きい気がする。とはいっても、エアコンを使わずにはとてもじゃないけれど耐えられない。ヒートアイランド現象だってなかなか抑えられる様子も見られないし、結局、どうにかしないといけない、と思いつつも、人々は目先の涼しさにとらわれてしまうのだ。
 そう、それは誰にとっても等しいわけで。

「……暑い……」
 寝付くことができずに、乃梨子はその夜、何度目かわからない寝返りをうった。
「…………」
 暑さのせいか、呼吸をするのも苦しくなってくる。せっかくお風呂にも入ったというのに、寝てもいないのに寝汗で台無しになっている。
「うう……」
 額に前髪が張り付くのがうっとうしい。
「あー、やっぱりダメ」
 寝る努力を放棄し、乃梨子は布団の上に体を起こした。浴衣の前ははだけて胸元はあらわになり、ショーツも顔をのぞかせ健康的な腿がにょっきりと出ている。だけれども、色気を全く感じさせないのは、暑さで単にだらしなくなっているから。決して、幼児体系なスタイルだから、というわけではない。
 本来であれば、浴衣も脱ぎ捨ててしまいたいところではあったが、さすがにそこまでは出来ない。なんといっても、今は小寓寺にいるのだから。

 夏休みを利用して、志摩子さんの家に泊りがけで遊びに来た。
 ご両親にも歓迎され、特別なことをしたわけではないけれど志摩子さんと一日を過ごし、夕食の後にはスイカを食べて花火をした。すごく楽しかったけれど、まさか夜にこんなことになるとは、思っていなかった。
 客間にはエアコンがなかったのだ。
 いや、客間だけではなく、志摩子さんの部屋とか他の多くの部屋にも設置されていないらしい。しばらく前までは、それこそ一台もなかったらしいが、さすがにそれでは大変ということで居間などには設置されているが、大きなお寺全体を冷やせるわけもなく。
 立地柄、都会のマンションなどよりはそれでも涼しいが、最近の猛暑の前ではその涼しさも霞む。
「駄目だ……外、風でもあるかな」
 諦めた乃梨子は、ぼさぼさの髪をかきながら部屋を出た。
 音を立てないように廊下を歩き、縁側に出たところで足を止める。
「あ…………」
 そこには、月の光を浴びた天使がたたずんでいた。
 立ち止まったというよりは、動けなくなったというほうが正しいだろう。時を止めてしまうぐらい、志摩子さんは美しかった。
「―――乃梨子?」
 気配に気が付いた志摩子さんが顔を向けてくる。
「あ、わ、志摩子さん……て、あわわっ」
 呆けていた乃梨子だったが、浴衣がぐちゃぐちゃになっていたことを思い出し、慌てて身だしなみを整える。焦ったせいか、なかなかうまく綺麗にそろえることができず、そんんな乃梨子の様子を見て志摩子さんはくすくすと笑っていた。
 ようやく浴衣を直した乃梨子は、志摩子さんのすぐ隣まで歩いてゆく。
「ごめんなさいね、浴衣しかなくて」
「ううん、自分がドジなだけだし」
 自身の寝巻き(シャツと短パン)に着替えた後、ちょっとしたことから汚してしまった乃梨子は、代わりに浴衣を借り受けたのだ。
「どうかしたの、乃梨子。こんな時間に」
 隣に腰を下ろした乃梨子に尋ねる志摩子さん。
「えっと……ちょっと、寝付けなくて」
「つくづくごめんなさい。暑くて寝られないのでしょう?」
「いや、そんな、ほら、文明の利器に頼りすぎていた自分がいけないから」
 申し訳なさそうな顔をする志摩子さんを見てフォローしようとしたが、結局、志摩子さんの言葉を認めてしまっている乃梨子。
「本当に、時代外れでしょう」
 苦笑する志摩子さん。
 横顔は本当に美しく、ふわふわの髪の毛も月の光に映えている。見た目は西洋人形のようなのに、どうしてこうも浴衣姿が似合うのだろう。そして、同じような浴衣を身につけているのに、どうしてこうも差があるのだろうかと乃梨子は思ってしまう。
「でも、嫌いじゃないよ。むしろ、結構好きかも」
 本心から、乃梨子は言った。
「小さい頃、友達の田舎に遊びに行ったことあるけど、似たような感じで。夜だって、すごい静かだしね。聞こえるのは、虫の声くらいで」
 本当は、志摩子さんがいる場所だから好きなんだよ、って言いたかったけれど、無性に恥ずかしい気がして口に出せなかった。
 変わりに口にしたのは別のこと。
「志摩子さんは、どうしてここに?」
「―――私?」
 すると志摩子さんは、乃梨子の方に顔を向けて。
「乃梨子が、来るような気がしたから」
 と言ってにっこりと笑った。
 あまりのストレートな物言いに、乃梨子の方が赤面する。
「志摩子さんは、超能力者だ」
 照れを隠すかのように、冗談めかして乃梨子は言う。しかし志摩子さんは、乃梨子の上をいっていて。
「―――そうね、なんとなく分かるのよ。お姉さまのこととか、乃梨子のこととかになると。姉妹限定の超能力ね」
 などと、口元を手でおさえて笑う。
 つられるように、乃梨子も笑ってしまった。
「私も欲しいな、そんな力」
「あら、乃梨子はもう、持っているわよ」
「えー、そうかな?」
 あまり、そういう自覚はなかった。確かに、志摩子さんのことであればかなり分かるとは思うけれど、言い切れるほどのものであろうか。
「乃梨子は気づいていないかもしれないけれど、私には分かるのよ」
「ふーん。じゃあやっぱり、志摩子さんは超能力者だ」
 また、笑いあう。
 そんな何でもないようなことが、とても幸せで、楽しくて。
「あ……風」
 ふわりと、志摩子さんの髪の毛が揺れる。
 吊り下げられている風鈴が、透き通るような音を鳴らす。今まで、風鈴の音で涼しくなることなんかない、と思っていたけれど、今は不思議と涼しくなったように感じられた。おそらくそれは、純粋に風が気持ちよかったのだろうけれど、今日だったら風鈴のおかげかなと思ってもよいような気がした。
「ううん……ここだったら、寝れそうな気がするんだけどな」
 乃梨子は両手を上にあげて、伸びをしながら言った。
 すると。
「じゃあ、ここで寝てしまう?」
 と、志摩子さんが小首をかしげる。
「ええっ?!やだなあ、冗談だよ。こんなところで寝たらさすがに、マズいでしょう?」
「でも、ここなら涼しくて乃梨子も寝られるのでしょう」
「いや、だからって……」
「大丈夫よ、ほら、私も一緒に寝てあげるから」
 と、いきなり志摩子さんは体を後ろに倒し、ごろんと仰向けになってしまった。
「し、志摩子さんっ?!」
「あら、本当、涼しいわ。床も冷たくて」
「志摩子さん……」
「ほら、乃梨子もしてみたら」
 無邪気に微笑む志摩子さんを見て。
 ため息をつきながらも、乃梨子もならうようにして、ごろん、と仰向けになる。
「―――どう?」
「うん、気持ちいい……でも、ときどき志摩子さんのことが分からなくなる」
「そう?」
「うん。でも……」
 そっと手を動かして、志摩子さんの手を握ると、志摩子さんもそっと握り返してくれた。
 わずかに吹く夜風も、ひんやりとした床の感触もとても気持ちよく、ここならよく眠れそうだった。
「……ま、いっか」
 呟いて、乃梨子は目を閉じた。
 感じるのは、風と、床と、握られた志摩子さんの手の感触だけ。
 そして。

 

 広大な夜空の掛け布団が、二人を覆っていた。

 

 

おしまい

 

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