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ノーマルCP マリア様がみてる 菜々

【マリみてSS(菜々×祐麒)】ポイント二倍

更新日:

 

~ ポイント二倍 ~

 

 

 土曜日、学校もないので家でのんびりしていようか、なんて計画は脆くも崩れ去っていた。思いのほか強い日差しに目を細めながらやってきたのは、某所の体育館で、今日はそこで剣道の大会が行われていることを菜々の姉たちからのメールで知ったのだ。もちろん、菜々も試合に出るということで足を向けたわけだが、肝心の菜々本人から教えられていないので、来ても良いものかどうか迷った。そんな祐麒を後押ししたのは、やはり菜々の三人の姉たちであった。
『――応援に来なかったら、次の太中女学園の学園祭で「祐麒総受け本」を作るからね?』
 と。
 むしろ脅されたといった方が正しいが、それでも祐麒が向かうだけの理由をつけてくれたことには感謝したい。
 そんなわけで祐麒は、来たことも無い地の体育館へとやってきたのだ。今日は、何とかいう大会の地区ブロック予選を行っているらしい。
「そっか、菜々ちゃん、剣道やっていたんだよな」
 すっかり頭の中から消え去っていた。何しろ、菜々の印象といえばネットゲームでのもの、一緒にゲームをして遊んでいる姿、BL本に夢中になっている姿と、完全にオタク趣味丸出しのインドアガールで、活発に剣道をしている姿など思い浮かばないのだ。
「あっ、祐麒、こっちこっち!」
「え……? って、瑠々さん」
 敷地の入口手前に立っていた女の子が祐麒の名を呼び、手を振ってきていたので見てみると、それは菜々の上の姉である瑠々だった。
「もー、同じ学年なんだから、さん付けなんてやめてよ。瑠々でいいよ、瑠々で」
「いや、さすがにそういうわけには」
「何よ、ノリが悪いわね。エロゲの展開って、大体こんなもんでしょ?」
「そんなこと言われても……それより瑠々さん、あまり大きな声でエロゲとか口に出さない方が良いかと」
 瑠々は祐麒と同じ学年なのだが、なんと女の子のくせにエロゲが大好きという猛者で、そのことを祐麒に対しても隠そうとしていない、というか菜々にバラされたから祐麒に対しては隠す必要がなくなったらしい。
 ショート丈のへそ出しキャミにショートパンツという露出度の高い格好で、目のやり場に困って視線を外すと、回り込むようにしてやってくる。
「ちょっと、人と話すときはちゃんと目を見ようよ」
「そ、ソウデスネ……」
 前屈みになって上目づかい、ほんのりと膨らんだ成長途中の胸の谷間がキャミソールから覗いて見え、やはり目をそらしてしまう。
「あー、何、おっぱいが気になるの? それくらい、菜々のおっぱい、いくらでも見たり揉んだりしてんじゃないの、って、あそうか、菜々のちっぱいじゃあイマイチなの?」
 と、指先でキャミの胸元を広げて自分の胸を見る瑠々。
「……瑠々さんて、ビッチなの?」
「なっ、し、失礼ね、ぴちぴちの処女に対して! ただこう、ほらうちの学校もそれなりにお嬢様学校だから、女子高とはいえ女子校ノリ? みたいなのが少なくて、抑圧されていたものがつい解放されて」
「もういいや、俺は菜々ちゃんの応援に行くんで、それじゃ」
「あ、酷い、待っててあげたのに!」
 慌てて追いかけてくる瑠々をお供に、体育館の中に足を踏み入れると、熱気とが出迎えてくれる。

 さて、応援に来たのは良いが、菜々はどこにいるのだろうか。そもそも、菜々から教えられていないということは、来てほしくないという意思表示かもしれず、来ていることを悟られても良いものだろうかと悩む。菜々が見られたくないと思っているのだとしたら、こっそりと気付かれないようにしなければならない。
 会場内の多くは各中学校の出場者と部員と教師で、それ以外の一般の観客はさほど多くなさそうだった。あまり目立つような行動は控えた方がよいだろうと、こそこそと動く。
 菜々の姿を探すが、皆似たような格好(胴着姿)の生徒が多いため、うまいこと見つけられない。
「……こういう時、例え菜々が面をつけていようと見つけるもんじゃない、彼氏なら?」
「現実はそううまくいきません」
 そもそも、正式な彼氏というわけではない。
 瑠々をはじめとする菜々の家族や、菜々の学園の友人達には彼氏と認識されているようであるが、好きだの付き合ってだの、告白をしてどうこうとしていない。
 いやでも待て、周囲から認められている時点で、それって付き合っていると言えるのではないか、とも思うがどうなのだろう。
「あ、ほら、菜々いるよあそこ」
「え、どこ?」
 と、瑠々の指さす方向に目を向けて探し続けていると、垂に『有馬』とネームの記されている生徒を発見することが出来た。決してどこにでもよくいる苗字ではないと思うので、おそらく菜々で間違いないだろう。
 しばらく様子を窺っていると、菜々が試合会場に姿を見せた。
「試合が始まるね」
 自然と、祐麒の方が少し緊張して力が入っていた。
 中学生とはいえ剣道をきちんと習っている生徒同士の対戦である、
「あ、祐麒さ、剣道の試合で声援は禁止だから気を付けてね」
「あ、そうなんだ」
 勝ったら声をかけようと思っていただけに、先に瑠々に注意されてホッとする。言われてみれば、会場内で聞こえてくるのは選手の放つ気合の声ばかり、周囲の観客席からは拍手が送られるのみだった。
 応援方法を理解し、改めて観覧席から試合場を見下ろすと、菜々はまだ頑張って試合を続けていた。

「……菜々ちゃんって、強いの?」
「うーん、それほどでも」
 体の小さい菜々は、よく相手よりもよく動いて攻撃を仕掛けていたが、なかなか一本をとるまで至らないが、それでも終盤で見事に胴を決めて勝利した。
「あ、でも勝ったみたい」
「まあ、相手もさほど強くなかったし」
 試合は団体戦で、菜々の勝利もあって見事、リリアン女学園は4-1で一回戦を突破した。
 生徒達が場所を移動するのを見ていると、面を外した菜々の顔を見ることが出来、その真剣な表情に少しドキッとする。更に言えば、いまだ少し上気して桜色に染まった頬、額に光る汗、乱れた髪の毛など、まるでいつもの菜々とは別人の凛々しい女の子に見えたというのもある。
 菜々は観客席に祐麒が来ていることなど知らないから、目を向けようともしてこないが、今はそれでよいと思えた。試合に集中してほしい。
「――ねえ、祐麒さ」
「ん、何か?」
「祐麒はこう、いつも菜々に『突き一本!』みたいな感じで決めているの?」
「…………サイテーだ。サイテーの下ネタだ。瑠々ちゃん、キミ本当に剣道を好きなの?」
「失礼ね、だ、だからこその剣道下ネタじゃない」
 言いつつも、さすがに今のはどうかと自分でも思ったのか、瑠々は赤面していた。いつの時代の親父ギャグだか。
 そんな風に瑠々と馬鹿な話をしているうちに、リリアン女学園の二回戦が開始された。菜々の位置はどうやら中堅のようだった。
「頑張れ、菜々ちゃん」
「んー、でも相手も結構、強いとこだからね」
 隣で瑠々が呟くように言った通り、先鋒、次鋒と立て続けにリリアン側が負けて、早くも後がなくなった状態で菜々の出番となった。非常にプレッシャーのかかる試合だが、果たして菜々は平常心で戦えるだろうか。
「うわ……相手の子、大きいな」
 見る限り、明らかに菜々より頭一つは背が高く、迫力もあるように感じられる。
「大きいだけじゃない、強いよ、あの子も」
 不安を増加させるような瑠々の言葉だが、見ている祐麒には何もできない。菜々を応援するために声をかけることすらできない。
 試合が開始されたが、瑠々の言う通り相手の方が強いようで、小さな菜々は機動力を生かしてよく動き、かく乱するようにするが相手は冷静に応じてくる。単に体の大きさを生かすだけではない、剣道の技量の差というものが素人の祐麒にもなんとなく感じられるような気がした。
 先に胴で一本を取られ、後のなくなった菜々は懸命に攻めつづける。最低でも引き分けに持ち込まなければいけないのだから、攻めるしかないのだ。
「よく動いているけど……菜々はまだ、体力もない」
 動けばそれだけ体力も消耗する。ただでさえ体格でも圧倒されているのだ、はた目にも肩で息をしているのが分かる。
「――――あっ」
 鍔迫り合いで押された菜々は、懸命に踏ん張っていたがとうとう耐え切れず場外に吹っ飛ばされてしまった。
 握る拳に力が入る。
 菜々が立ち上がる。
 圧倒的に不利な状況、それでも諦めることなどないよう、胸を張って堂々と戻る。面を通して一瞬、目があったように思えたが気のせいだろう。菜々の目は、戦っている相手の事しか見えていない。
「……剣道ってのは、自分自身との戦いだから」
「え?」
「ほら、よそ見してないで、ちゃんと菜々のこと見てあげて。彼氏なんでしょ?」
 そう言われて、瑠々の方を見かけた視線を菜々に戻す。
 試合が再開し、気合の声と共に攻勢に出る菜々。
 そして。

 

 全ての試合が終わり、表彰式も済み、会場の熱気も静かに冷めてゆく。
 最後まで見ることになった祐麒は、会場の外に佇んで余韻に浸っていた。
「いやー、中学生女子が汗を滴らせ頬を紅潮させ、荒い呼吸をしながらガンガン突き合い、ヤリあう姿は燃えるよねっ」
 余韻を台無しにするような発言が隣から投げかけられたが、とりあえず無視して歩き出す。
「え、ちょっと待って、どこ行くの?」
「どこって、帰るんだけど」
「なんでよ、菜々、待っててあげればいいじゃん」
「別に、約束しているわけじゃないし、俺が来ていることも知らないだろうし。それに」
 今は、会いたくないのではないかと思ったから。
 結局、菜々は攻勢に出たものの見事にカウンター気味に面を決められて負けた。その後、リリアン側も意地を見せて副将、大将と連勝したのだが、中堅の菜々が負けた時点で三敗を喫していたのだから負けに変わりはない。
 ただそれだけに、菜々は自分が勝ってさえいれば、という思いも強く抱いていることだろうし、悔しくてたまらないはずだ。剣道における菜々のことは詳しくないが、ゲームをしている菜々はとにかく負けず嫌いだったから。
「だからこそ、会って、慰めてやってよ。姉からなんやかんや言われるより、彼氏がそばにいる方がよっぽど、効くでしょ」
 そうだろうか。
 菜々は、祐麒のことをどうゆう風に思っているのだろうか。こんな時に傍にいたところで、邪魔にしか思えなかったりしないだろうか。
 野球をやっていた時のことを思いだせば、もしも自分が滅多打ちにあって負けたら、そんな情けない姿を彼女に見られたらと思うと、とても顔を合わせたいとは思えない。慰められたりしたら、余計に惨めになりそうだ。
「それに、部活の仲間と一緒だろうし、そういうわけにもいかないでしょ」
 会ったところで、どうやって慰めたらよいのか、どうしたら菜々が元気になるのか分からないのもある。だから、言い訳のような言葉を発する。
「大丈夫だって、それくらい、先輩たちも空気読んでくれるでしょ。てか、女子高だからむしろ合コンとか頼まれるかもね」
 そうこうしているうちに、会場からリリアンの制服に身を包んだ少女たちが姿を見せ始めていた。
「それじゃ、頑張って」
「え、帰っちゃうの?」
「当たり前でしょ、そんな野暮はしないって……と、そうそう」
 去りかけた瑠々だったが、くるりと半回転して再び祐麒に歩み寄り、秘密めかして言う。
「菜々、確かに『今は、まだ』強くないけれど。でも、有馬の家に入ったというのはね、それだけのものがあるってことだから」
「それって」
「あ、でも、祐麒のエロテクでエッチなことにはまって堕落したら駄目かも。ちゃんとその辺は、うまくやってよ? 性欲で出来ているような、やりたい盛りの男子高校生くん?」
 そんなんじゃないと言い返す前に、瑠々はさっさと身軽に去って行ってしまった。一人残され、さてどうしようかとリリアンの集団に目を向ける。
 小さな菜々の姿はすぐに見つけられなかったが、やがて同級生らしき女の子と一緒に歩いている菜々を発見する。
 菜々の目は赤く充血し、目の周りも少し腫れぼったくなっているようで、どうやら泣いたようだった。悔しそうに、それでも唇をキュッと引き結んでいる菜々の表情に、胸を揺り動かされる。今まで見たことがない菜々の姿に動揺すると同時に、可愛いと思ってしまう自分がいる。
 しかし、ここはやはり何も言わずに去った方が正解かもしれない。泣いたところなんて知られたくないはずだ。

「――――ん?」
 踵を返そうとしたが、遅かった。
 顔をあげた菜々の目が祐麒をとらえ、足が止まる。茫然としたように、祐麒のことをぽかんと見て立ち止まってしまう。
「どうしたの、菜々さん?」
「足でも痛いのでしょうか」
 止まってしまった菜々に気が付いた女生徒が心配そうに声をかけるが、どうも菜々の様子がその手の類の変化ではないことを察し、首を傾げる。
「……な、祐麒先輩っ? な、なんでここにっ」
 菜々があげた声に、他の女子生徒達も何事かと立ち止まる。
「あら、もしかして、菜々さんがお付き合いされている殿方では」
「まあ、菜々さんを迎えにいらしたのね」
 菜々は自分の失言に気が付いたが時すでに遅く、集まってきた先輩や後輩にもバレてしまい、珍しく狼狽している。以前、祐麒のことをわざわざリリアン女学園中等部正門前まで迎えに来させ、他の生徒の前で一緒に帰ったこともあるのだが、どうやら不意打ちには弱かったようだ。それとも、やはり負けた試合を見られたことが気になるのか。
 とにかく、見つかってしまった今から去るというのも格好悪いので、祐麒は多少の気まずさを覚えつつ菜々の方へと足を向ける。
「――やあ、菜々ちゃん」
「な、な、何が、『やあ』ですかっ。なんで此処に先輩が」
「応援にきたんだけど……駄目だったかな?」
「当たり前です、なんで教えてもいないのに、来るんですか」
「いや、だから応援に」
 そうやって二人で言い合っていると。
「…………いつも冷静な菜々さんが、あんなに……」
「やっぱり、お付き合いしている方の前だと変わるんですね」
「菜々さま、可愛い……」
 など、周囲の剣道部女子からひそひそと冷やかしともなんとも言いようのない声があがり、菜々はさらに頬を赤くする。
「と、と、とにかく。試合は終わりましたが、私はまだ部活動の途中なんです。ですから、今はこれ以上は」
「えー、いいじゃない菜々さん、少しくらい」
「そうですよ、せっかくここまで菜々さんのために応援しに来てくださったのに」
「ねえ、部長?」
 との声が出ると、一団の中の一人の少女に注目が集まった。どうやらその女子が部長のようだが。
「……女子校の中で、なんと羨ましいことね、菜々さん。でも、私だって鬼ではないわ、二分間、時間を与えましょう」
「なっ……」
 むしろ、皆の前で時間を与えられるなんて、それこそ鬼ではないかと思えたが、菜々の方が狼狽しているためか、意外と祐麒は冷静でいられた。もちろん、恥ずかしいという気持ちだってあるのだが。
 皆に押し出されるようにして、ややふて腐れ気味の菜々が祐麒の前までやってくる。他の女子達はガン見してきている。

「……もうちょっと離れた場所に行けないのかな」
「い、今さら何言ってるんですか駄目ですよ。こうなったら、先輩も恥をかいてください」
 怒っているのか拗ねているのか分からないが、いつもより子供っぽい姿の菜々に頬が緩みそうになるのを必死に堪える。見せたらきっと、後で酷い目にあわされる。
「とにかく、お疲れ様でした、菜々ちゃん。初めて試合見たけれど、格好良かったよ」
「負けましたけどね」
「それでも、格好良かったよ。びっくりしたくらい」
「負けたのにいつまでもそんなこと言わないでください」
 菜々は不満のようで口を尖らせる。
「……うん、ごめん」
 そんな菜々を見たら、ごく自然と手が動いて菜々の頭を撫でていた。
 見守っていたリリアン剣道女子から黄色い声があがる。
「きゃっ、頭なでなでが出ましたわっ!」
「い、いつも、あんなふうに甘えているのかしら」
「菜々さま、可愛い……」
「はいはい、あと一分でーす」
「――――先輩、状況、分かってるんですか?」
「ごめん、つい」
 赤面する菜々だったが、頭に乗せられた手を振り払うわけでもなく、頭を振るわけでもないから、嫌というわけではないのかもしれない。
「どうせなら、もうちょっとまともな慰めはないんですか? 気が利かないですね」
 照れ隠しか憎まれ口を叩く菜々だが、迫力はない。
 とはいえ菜々の言う通り、もう少しまともにというか、菜々を元気づけてやりたい。多少、いつもらしさが出てきたとはいえ、やはり今の菜々は少し元気がないように思える。いつものように、元気よくなって欲しい。
「それじゃあ、菜々ちゃん」
「……なんですか」
「今日は菜々ちゃんのため、好きなだけ付き合うよ」
 もちろんネトゲである。菜々の好きなものといったらゲーム、ストレスを発散したり、嫌なことを忘れたりするのに丁度いいし、オンラインなら時間を気にしなくても済む。幸い、明日は日曜日で休みということもあるし。
「いつも、俺の方が先に落ちちゃうけど、今夜は……って、なんで引いてんの?」
 見ると、菜々は変な顔をして祐麒のことを見つめていた。
「そりゃ……引きます、っていうか、そういうこと言いますか、ここで」
「え、なんで。好きだったよね、菜々ちゃん、何連戦でもやり続け――」
「ああああもうっ、せ、先輩はこれ以上、喋らないでくださいっ!」
 真っ赤になった菜々が、手をぶんぶんと振って止めてくる。なんだと思っていると、後ろにいる剣道部員達の様子も少しおかしい。
「……菜々さん、す、凄いです」
「既に大人の階段まで登っていたなんて」
「菜々さま、そんな何連戦もなんて……」
「――――はい、二分です。これでお終い、と思ったけれど、ああもう分かったわよ。菜々さん、今日はあなた、彼氏さんと二人で帰って構いません。そのかわり……週明けに詳しいことを私たちに話しなさい。いいわね」
「ちょ、ぶ、部長、違うんです、誤解ですからっ……」
 慌てる菜々をよそに、剣道部員達はぞろぞろとその場から歩いて離れてゆく。ある者は羨望の眼差しを向け、またある者は恥ずかしそうに祐麒と菜々を見ながら。

 残された祐麒と菜々は、互いに顔を見合わせる。
「えーと、気を利かせてくれたってこと?」
「馬鹿じゃないですか? あーもう、週明けが面倒くさいです、どう説明すれば」
 頭を抱えてうんうんと唸って悩む菜々
 しばし待っていると、息を一つ吐き出した後、しゃきっと背を伸ばして真っ直ぐに前を向いた。
「ま、いいです。こうなったら祐麒先輩をエロエロに脚色して伝えておくだけです」
「ちょっ!? いきなり何言ってんの?」
「あ、別に脚色するまでもなく先輩はえっちでエロエロで変態さんでした」
「酷くなっている!?」
「まあ、でも…………」
 ちらりと、横目を向けてくる菜々。
 そして、コホンと小さく咳払いした後に口を開く。

「……今日、私のためにここまで来てくれたことは、評価します。ポイント二倍、差し上げてもいいです」
「喜んでいいのかな、それは」
「当然です、何言っているんですか」
「ちなみに俺、それで累計何ポイントなの?」
「マイナス25です」
「マイナスかよ!? つーか、ポイントためるといいことあるの?」
「そうですねー、それは」
 と、人差し指で唇に触れて菜々は。
「貯まってからの、お楽しみということで」
 にっこりと笑う。
「で、先輩、それよりさっき言ったこと、忘れてないですよね。今夜はオールでクエストいきますよ。せっかくですから、この前ロック解除したクエストいきましょう。ふふふ……腕が鳴ります、今夜は寝かせませんよ?」
「おう、こっちの台詞だ、って、そういう台詞は誤解されるから……って、あ、もしかしてさっき皆が変な目で見てきてたのって!?」
「うわー、今さら気が付きましたか。おっそー」
「ちょっと菜々ちゃん、頼むよ、うまいこと説明しておいてよ」
「はい、先輩がエロエロで、私が女の悦びを教え込まれていると言っておきます」
「なんで!?」
 いつも通りに戻った菜々と、賑やかに帰途につく。
 そんな、夏の夕暮れだった。

 

 

おしまい

 

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