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ノーマルCP マリア様がみてる 蓉子

【マリみてSS(蓉子×祐麒)】心がラビリンス 第一話

更新日:

 

 ほんの数ヶ月前は、こんなことになるとは思っていなかった。
 それこそ、全く想像がつくはずもなかった。
 学園祭のときも、薔薇の館でのクリスマスパーティのときも、卒業を前にしてホットミルクの苺牛乳割を一緒に飲んだときも、彼女は私にとっては可愛くて仕方ない『孫』であった。
 いや、『孫』でしかなかった。
 私は、愛情を込めて彼女を呼んでいた。

『祐巳ちゃん』

 と。
 しかし今、私の立場は非常に微妙なものとなっていて、だからこそ彼女との関係も非常に不思議な状況になっていて。
 戸惑いやら気恥ずかしさやら、雑多の感情が混じりあった複雑な気持ちで私は立ち尽くし、目の前の彼女を見つめていた。

 彼女が先ほど口にした言葉を頭の中で反芻しながら―――

 

 ~ 心がラビリンス ~

第一話

 

 涼やかな秋の季節も終わりが近くなり、髪の毛を揺らす風も随分と冷たく肌を刺すようになってきた。必然的に身を包む衣服も枚数を増し、毎日の服装の組み合わせにも秋とはまた異なった苦労が出てきた。高校生のときは当然、制服であったから毎日毎日、何を着ていこうかなんて考えることもなかったが、大学生となり私服での通学となって、日々の格好に頭を悩ますようになるのは予定外だった。
「ああ、秋が終わり冬となり、可愛い女の子の麗しい肌も布の下に隠れてしまって寂しいわね。でも、今だからこそ楽しめるファッションもあるし、また来年の夏を楽しみにしましょうか」
「……氷野さん、あなた私の高校時代の友達に、どこか似ているわ」
「え?」
 きょとんとする氷野さんと肩を並べるようにして私、水野蓉子は大学の門を出て歩いていた。
 早いもので、大学生活が始まってから春、夏、秋と過ぎ、冬に入ろうとしていた。大学に入ってから色々と初めて経験するようなことも多々あり、まさに矢の如く時は流れすぎていった。
 隣を歩く氷野さんは、大学に入ってから得られた友人。会った最初の頃茶色かった髪の毛は、今では赤みがかった色になっている。髪型もソバージュから、ふわふわと柔らかいカールをかけた可愛らしいものになっている。
 一方の私はといえば、特に代わり映えはしない。強いて言えば、最近忙しかったせいか美容院に行く時間がとれず、髪の毛が肩にかかるくらいに伸びていたくらいか。せっかくだから、たまには髪型も変えようかしら、などと思うこともあるが、結局のところいつもと同じになってしまう。
 そんな私の内心を読んだのかどうかわからないけれど、氷野さんが私の髪の毛に手を伸ばしてきた。
「伸びてきたねー。せっかくだから、少し髪型変えてみない?いやーん、水野さん、絶対に可愛いよ。きっと"萌え萌え"だよ」
「ちょっと、ふざけないで」
 彼女の手を柔らかく払う。
 つきあっていて分かったが、どうも氷野さんは私に可愛い格好をさせたくてたまらないようだった。
 でも、とてもじゃないけれど私には可愛らしい服装とか、あるいは氷野さんがコーディネートするようなギャルっぽい(?)格好は似合いそうもない。それ以前に、恥ずかしくてちょっと出来ない。以前、一度だけ普段は着ないような可愛い服を着たことがあるが、それはアルバイト先の制服と言うことで、仕事だからと気持ちを切り替えて身に着けることができたのだ。
「勿体ないよ、水野さん、超天然素材なのに」
 口を尖らせる氷野さんだけれど、そういう氷野さんの方がよほど綺麗で格好いいと思う。今日だって、ミルキーホワイトのショート丈裏毛ジャケットに、広めネックのブラックカットソー、さらに大きく開いた胸元から覗くパープルネイビーのタンクをインに合わせて。スカートはブラックのミニ。
 スタイルが良くて、可愛くて格好がいいというのは凄いと思う。私には、やっぱり、とてもじゃないけれど無理だと思う。
「いいじゃない、どうせ、祐麒くんと会うときはお洒落しているんでしょう?」
「なっ」
「ああ、ひょっとしてあれ?祐麒くんの前だけでしか見せない、とかそういうこと~?」
 からかうように、目を細めてこちらを見つめてくる。
 今までに何度もからかわれているけれど、私はいつまでたっても慣れることができなくて言葉をつまらせてしまう。頬も、少しばかり上気しているかもしれない。
 祐麒くんというのは、私が現在お付き合いしている男の子で、リリアン女学園時代の私の孫にあたる福沢祐巳ちゃんの弟さん。すなわち、年下のカレということになる。
 夏にバイト先で出会い、いつの間にか祐麒くんの優しい雰囲気や純朴なところに惹かれ、夏が終わる頃に向こうから告白されてお付き合いを始めたのだ。
「……で、どうなの?」
 駅近くの喫茶店に入って、それぞれケーキセットを注文した後で、氷野さんが改めて口を開いた。
「どうなのって、何が?」
「何ってもちろん、祐麒くんのこと」
 頬杖をついて、楽しそうに聞いてくる。
 何でこう、多くの人は他人の恋愛話を聞くのが好きなのだろうか。
「別に、普通よ」
「えー、つまんないよその回答。もっとこう、ラブラブな惚気話を期待していたのに」
 そんな話を聞いて楽しいのだろうか。
 しかし、氷野さんは気を取り直したように、また質問してくる。
「じゃあさ、あっちの方はどうなのー?」
「あっち?」
「えっち」
「えっち……って、やだ」
 言葉に出してから、口元をおさえる。
 私の反応を見て、氷野さんはさらに勢いづいて。
「いいじゃない、ね、どうなの?やっぱり優しい感じ?それとも以外に祐麒くん、激しいとか?あ、それとも水野さんの方がリードしてあげてるとか、年上だし。身体の相性ってやっぱり大事じゃない、付き合っていく上で」
「え、あの、えと」
 氷野さんの言葉の奔流は止まらずに私を飲み込んでいく。
「性格がいくらよくても、そっちの方が合わないと長く付き合うのって辛いじゃない。その点、大丈夫だった?」
「だ、だから、その」
「祐麒くんってどういうのが好きなの?やっぱり、○○○とか××××に……」
 うわ、わ、わっ、氷野さんたらなんてことを口にして?!そんな開けっぴろげに、大胆なことを、よく平気で言えるものだ。それとも、今やそれが普通なのかしら。私はとてもじゃないけれど氷野さんの、そっち方面のトークについていくことができず、かといって全く分からないというわけでもなくて中途半端に想像だけが膨らんでしまって、どんどんと身体が熱くなっていく。
 お客の少ない時間帯で周囲に人がいないとはいえ、公共の場で口にして、氷野さんは恥ずかしくないのだろうか。自分の経験した話などを披露してくれたりもしたけれど、まともに聞いていられなかった。
「……でさ、その後、香奈枝ちゃんたら恥ずかしがっちゃって」
 って、いつの間にか相手が女の子になっている?!
「ちょ、ちょっと待って」
「ん?」
 ようやくのことで、氷野さんのトークを食い止める。ちょうどその時、注文したケーキセットを持って店員さんがやってきた。
 氷野さんもさすがにケーキには弱い。目を輝かせてフォークを手にする。
「……で、なんだっけ?」
「だから、その、私と祐麒くんは、まだ、そういう仲じゃないから……」
「ええっ?!嘘でしょう?!」
 心底驚いたとばかり、氷野さんはモンブランをフォークに刺したまま、身を乗り出すようにして大きな声を上げた。
 私は落ち着くように紅茶を一口飲んで、彼女を見つめる。
「本当よ。そんな、だって」
 だって、なんだというのか。私は赤面しながらも続ける。
「……だって、まだ、そんな、早いでしょう、そういうの」
「早くないよ!だって、付き合いはじめてからもう3ヶ月でしょう?」
「2ヶ月半よ」
「じゃあ、さ。いくらなんでもキスくらいはしているでしょう?」
 私は無言で首を振る。
 氷野さんは大げさなくらい、座席でずっこけた。
「だって、まだ2ヶ月半よ。まだ、お互いのことをよく知り合う時間じゃないかしら」
「だから、手っ取り早いのがえっち……」
「そういうのじゃなくて。お互いの考え方とか、趣味とか……」
「そんなの、付き合ってからは3ヶ月かもしれないけれど、その前までバイトで2ヶ月間、一緒だったじゃない。実質5ヶ月、およそ半年付き合っているんだから分かっているでしょう?水野さん、ちゃんと祐麒くんと会っているの?」
 その一言に、思わず詰まる。
 お互いに学生ということで、自由になる時間はありそうだが、現実にはそうはいかなかった。
 私が大学生、祐麒くんが高校生ということもあるかもしれないが、私は大学の講義やゼミの活動が思いのほか忙しく、祐麒くんは生徒会活動と土日はアルバイト。加えて、私には家の門限とかもある。
 そのせいか、正式に付き合い始めてからデートは数えるくらいしかできていない。会うときも、祐麒くんのバイトが始まるまでの少しの時間とかで、一緒にいる時間は実はかなり少ないのではないかと思う。
「……でも、毎日メールとかしてるもん」
 抵抗するように、小さな声でそんなことを言ってみるけれど。
「メールと実際に会うのとじゃ満足感、充足感が全然違うわよ。祐麒くんだって、物足りないんじゃない?」
 呆れたように氷野さんは首を振る。
 まるで自分たちのことが否定されたようで、悔しくて、私は負けずに言い返す。
「私も祐麒くんも私たちの関係を大切に育てていきたいと思っているの。祐麒くんだって今の関係に満足しているし」
「甘いわね。考えても見なさい、高校生の男の子よ。彼女ができたら、そりゃもう頭の中はえっちなことで一杯に決まっているじゃない」
「そ……そうなの?」
「そうよ。水野さんの方が年上だから言い出しにくいとか、水野さん、真面目だしそういうのはねつけるオーラとか出しているんじゃない?」
「そ、そんなことは……」
 ない、と言い切れるだろうか。
 確かに、年頃の男の子だし、私のことを好きでいてくれるならそういうことを望むのは当然だとも思うし。でも、私のことを大切に思ってくれているからこそ、そんな素振りを見せないのかもしれない。それとも、氷野さんが言うように、私のせいで行動に出したくても出せないのだろうか。
「祐麒くんの気持ちもそうだけど、水野さんはどうなの?」
「え?」
「イヤなの?祐麒くんと、するの」
「それは……」
 嫌なわけでは、ないと思う。
 好きだからお付き合いを始めたのだし、好きであれば求めたくもなるだろう。こっそりと、本とか雑誌とかを買って、その手の情報を集めて予習をしていたりもする。たいていは、読んでいるうちに想像して、赤面して、とてもじゃないけれど読み続けられなくて閉じてしまうのだけれど、少しずつ、知識は得ている……と思う。
 でも、実際にそういう関係になるのはまだ早いのではないかと思っているのも事実だし。今はまだ、『清い交際』を続けていたい。祐麒くんと一緒にいるだけで、暖かく、幸せな気持ちになることが出来るのだから、今の私にはそれだけで十分だった。
 だけれども。
「祐麒くんも、水野さんと同じ気持ちでいてくれるかは分からないわよ」
 最後の氷野さんの一言が、重く私の胸にのしかかるのであった。

 

 氷野さんとそんな会話をした数日後。私は、ファーストフードの一席で話題の中心であった祐麒くんと向かい合って座っていた。
 この後、祐麒くんがアルバイトにいくまでのわずかな時間。その少ない時間を、大切なものにしていきたい。
 二人でいるとき、いつもは他愛もない話をしているだけですぐに時は過ぎてゆくけれど、それでも時折、話題に困ることがある。
 それは私と祐麒くんの間にある、大学生と高校生という差のせいでもあるし、女と男という性別のせいもある。また、二人とも異性との付き合いに慣れていないせいだというのもある。でも、そんなことは大したことではなかった。ちょっとした、何の変哲もないお話をするだけで、二人の間の溝は埋まる。
「祐麒くんって、いつも美味しそうに食べるわよね」
 例えば、こんな一言で。
 ハンバーガーをぱくついていた祐麒くんは、私の一言に目をぱちくりとさせた。
「そう、ですか?それじゃなんか俺、いつもがっついているようじゃないですか」
「ふふ、いいじゃない。見ているこっちも美味しくなってくるわ」
「でも、すみません。こういうファーストフードとかばかりで」
「また、それ?だから、気にすることないのに」
 祐麒くんはどうしても、『リリアン』、『お嬢様』というイメージで私のことを見てしまうらしく、安っぽいファーストフードなんかあまり入らないだろう、洒落た喫茶店とかに通いなれているのだろう、という思いが入ってしまうらしい。
 祥子じゃあるまいし、ファーストフードくらい私だって何回も利用している。お互いに学生、特に祐麒くんは高校生なのだから身の丈にあっていて問題ないし、多少ざわついた空間は、逆に私たちの話も他の人にはあまり聞かれないという利点もある。
 だから気にすることはないのだ。それに、今はバイト前の祐麒くんの腹ごしらえの時間。おしゃれな喫茶店でそんなことをしたら、それはそれで勿体無い。
「……それと、祐麒くん。また、敬語になってる」
「あ、ご、ごめん」
 あたふたと、頭を掻く。
 年下ということを気にしてか、祐麒くんはいまだに敬語をつかってくることが多い。そしてそれは、お互いの距離がまだ近づいていないことも示しているのではないかと思うと、私としてはちょっとばかり気が沈む。
 今日も、一緒に過ごせる時間はあと僅かだし、明日だって……
「……ごめんね、祐麒くん」
「え、何が?」
「明日、せっかくアルバイトお休みなのに、私……」
「い、いや、それは仕方がないよ、大学のゼミなんでしょう」
 どうしてこう、うまいこと予定が合わないのだろう。ゼミが終わったら、皆でどこかへ飲みにでも行くことはまず間違いなく、一年生である私としては、断りにくいのが実情。それに、同じ大学の仲間との付き合いも大切だ。
 いつも、祐麒くんは優しく笑って許してくれるけれど、本心はどうなのだろう。氷野さんの言葉が脳裏に蘇り、私を揺らす。
「ねえ、祐麒くん。本当はさ、怒っていたりしない?せっかく私たち、つきあいはじめたというのに、あまり会うこともできなくて。しかも、多くは私のせいで」
「怒ってなんかないよっ。時間が合わないのは、それはお互い様だし。それに」
「……それに?」
 ちらりと、祐麒くんを見ると。
 祐麒くんは照れたようにちょっと斜め下を向くようにして。
「……たとえ少しの時間でも、こうして蓉子さんと会えて、一緒の時間を過ごしていられるだけで、すごく幸せだから」
 はにかんだ。
 ―――ううっ、ずるい。
 そんな台詞を、そんな顔して言われてしまったら、私は何をどう答えたらよいのだろう。でも、祐麒くんも私と同じ気持ちでいてくれた。そのことが嬉しくて、胸が温かくなって、だけどそれがくすぐったいくらい恥ずかしくて。
 だから私はつい、ひねくれたことを口にしてしまう。
「もう、祐麒くん。そうじゃないでしょう」
「え?」
「だから、私のこと」
「あ……」
 3ヶ月も経ったというのに、いまだに祐麒くんは慣れてくれない。
「えと、あの、ごめん」
 すぐに謝るのも、祐麒くんの悪いところだ。
 でも。
「えーと……俺、こうして少しでも……よ、蓉子ちゃんと一緒に居られるだけで嬉しいから」
「…………っ」
 わざわざ、言い直すなんて。
 急に、体温が上昇する。
 いや、私のせいだというのは分かっているのだけれど、あえて言いなおされると照れも倍増するもので、ある意味自爆してしまった。

 

 結局、私のほうも3ヶ月経った今でも、呼ばれ慣れていないのであった。

 

第二話に続く

 

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