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ノーマルCP マリア様がみてる 江利子 蓉子

【マリみてSS(蓉子×聖×江利子×祐麒)】新たなる刺客!

更新日:

 

~新たなる刺客!~

 

 

「行ってらっしゃーい」
「ほ、本当に一緒についていかないで、いいかしら」
「帰ってきたらいいことしてあげるからね~~っ」
 順番に聖、蓉子、江利子の言葉。
 今日から大学が始まるのに対し、三人がマンションの玄関で見送りをしてくれたのだ。三人も大学はあるようだが、朝イチの講義はないのでまだゆっくりできるらしい。最初、余裕があるということで三人とも祐麒の大学についてこようとしたので、必死に説得してなんとかそれだけはやめさせた。
 初日から年上の美少女三人を侍らせて同伴登校するなんて、一体何様だと思われてしまう。ごく普通の女の子が相手ならまだ目立つことはないだろうが、三人が三人ともタイプの異なった特級品の美少女なのだ、周囲の目をひかないわけがない。それは、高校の卒業式の日に身に染みて分かっている(もっともアレは、別の意味で目立っていたというのもあるが)
 平穏な大学生活を送りたい祐麒は、どうにか三人を振り切って通学する。幸い、祐麒が通う大学は他の三人とは全く異なる大学なので、余程のことがない限り大学まで押しかけてくるなんてことはないだろう。

 一方、遠ざかってゆく祐麒を見送った三人は。
「……ああくそっ、初日からインパクト残したかったのにな」
「しようがないでしょ、祐麒くんに迷惑をかけたら駄目よ」
 まだ残念そうに呟く聖に、蓉子がごく真っ当に叱ってみせる。
「ん~、でも、聖の言う通りじゃない?」
 江利子がけだるげに髪の毛をかきあげながら言う。
「大学なんて誘惑の多い所じゃない? 新入生なんて、あらゆるサークルやクラブから勧誘を受けるし」
「ゆゆゆ誘惑っ!? ゆ、祐麒くんがそんな誘惑に乗ると!?」
「はいはい、どうどう、落ち着いて蓉子。祐麒くんはそんな誘惑には乗らないと思うけれど、ほら祐麒くんの魅力に引き寄せられて女の子達が言い寄ってきたり、色目を使ってきたりする可能性はあるじゃない」
「確かに、祐麒は母性本能をくすぐるタイプだからなぁ、初々しい新入生となると、目をつけてくるのがいるかもしれない」
「そ、それじゃあ、祐麒くんがビッチな人たちに取り囲まれ、む、無理矢理に貞操を!?」
「だから、蓉子は妄想が飛躍しすぎ」
 普段は真面目で優等生の蓉子だが、生まれて初めての感情に蓉子自身が振り回され、こうして時に変になる。朝は特にその傾向が大きい。
「いずれにせよ、祐麒くんには私達がいますよってことを、祐麒くんの大学の女子達にアピールはしておく必要があると思うのよ、下手に手を出してこないように」
「そうねー、それじゃあ近いうちに襲撃かけますか。また卒業式の時の格好でいく?」
「同じじゃあつまらないわ。あと、ネタだと思われても困るから、きちんと考え抜いた格好でいきましょう」
「ちょ、ちょっと、普通でいいじゃない」
「蓉子が一番、露出度高いのでね」
「な、なんでよ!?」
「え、だって蓉子が一番、胸もお尻も小さいから、セクシーさをアピールするために」
「な…………」
 蓉子だって別にスタイルは悪くないのだが、形の良い豊満なバストを誇る江利子、顔と同様に外人モデルのようなプロポーションを誇る聖と、比較対象が悪すぎる。
「よっし、やる気が出てきたわ」
「今度こそ祐麒をあたしにメロメロにしたるかー」
「ちょっと、へ、変なことはしないでよっ」
 三人で姦しく室内へと戻っていく。
 祐麒の大学生活は、そんな感じでスタートした。

 

 大学に通い始めてから数日が経過したが、蓉子たちが心配しているようなことなどあたりまえだが発生せず、ごく普通の学生として過ごしている。もちろん、聖たちが企んでいることも知らないわけではあるが……
 蓉子たちとの同居生活も、今のところ大きな問題は発生していない。心配していた夜についても、部屋に鍵をかければ勝手に侵入されることもないわけで、貞操は守られている。
 美少女三人に好意を寄せられて何もしないなど、男としておかしいのではないかと思われるかもしれないが、三人が三人ともあまりに魅力的すぎるため、逆に均衡してしまって何もできないのだ。
 これが、誰か一人だけを明確に物凄く好きになることが出来たら、物事は簡単なのかもしれないが。
 悪く言えば単なる日和見、優柔不断としかいえないが、蓉子たちも祐麒に焦って決めさせるつもりはなく、だからこそ同居生活で三人の良いところを見つけて欲しいと願っているわけでもある。
 とはいいつついつまでもダラダラ続けるわけにはいかないし、三人にも申し訳ないので、この一年の間に何らかの結論を出したいとは思っているのだ。
「おーい、福沢っ」
 呼んでいるのは、大学で知り合った奴だ。なかなか気の良いやつで、うまくつきあっていければ大学で初の友人になる。
「分かってるな、今日は新歓コンパだからな」
「分かってるって」
 肩を叩かれて頷く。
 取り立てて祐麒は興味のあるサークルではなかったのだが、そいつに誘われて祐麒も参加することになった。別に参加するからといって必ずサークルに入らなければいけないわけではなく、むしろコンパでサークルの雰囲気を掴めばよいと言われた。そういうものなのかと、とりあえず付き合うことにしたのだ。やはり友人づきあいをするにも、最初が肝心だ。
 そういえば、と考える。
 蓉子たちも大学生なわけで、となると同じように新入生を歓迎してのコンパを行ったりしているのだろうか。
 正直、あまりそういうイメージは無かった。
「楽しんでいこうな」
 少し軽そうではあるが悪い奴ではなさそうで、とりあえずは祐麒もともに行動をとろうと、肩を並べて歩き出すのであった。

 

 祐麒の住むマンションでは、既に大学やアルバイトから帰宅していた三人がリビングでだらけていた。
 ちなみに蓉子は家庭教師、江利子は飲食店でのウェイトレス、聖は意外にも事務仕事。こうして比較的早い時間帯から三人が揃うことは案外少なかったりする。
「しまったぁ、祐麒は今日、新歓かぁ」
「だ、大丈夫かしら祐麒くん」
「別に合コンじゃないし、平気でしょう。大学だって、ガラの悪い所じゃないし」
 せっかく三人が揃ったのだから、祐麒も交えて楽しく夕食でもと思っていたら、肝心の祐麒は不在というわけである。
「聖も今日、合コンとか言っていなかったっけ?」
「声かけられたけど、あたしがそんなのに出るわけないでしょ」
「付き合いも大事よ?」
 聖たちはその見た目の良さから、他校の良い男たちを誘い出すためのエサとして、合コン参加を頼まれることがしばしばある。「彼氏いないでしょ?」と言われれば、確かに彼氏がいないのは事実でもあるし。
 友人づきあいもあり、蓉子や江利子は断り切れずに渋々と参加することもあるが、聖は全く参加することはない。
「いや~、可愛い女子大の子達が相手なら考えるけど。あとは、看護師さんとかー、CAさんとかー、キャンギャルとかー」
「はい、聖は祐麒クン争奪戦から脱落……と」
「あああ、嘘だって、冗談だってばー」
「まったく……」
「しかし祐麒のやつ、一緒に住めばもうちょっと攻めてくるかと思ったのに、ガード固いなぁ」
「……普通、逆よね」
「夜も、鍵締められちゃうしね。何度か夜這いをしようと試みたんだけど」
「ちょ、江利子いつの間に!?」
「いや、蓉子だって祐麒の部屋の前で鍵と悪戦苦闘していたじゃない」
「な、せ、聖、見ていたのっ!?」
 もはやかつての三薔薇様の威厳などあったものではない。本来、蓉子たちもそこまでするキャラではないのだが、祐麒が煮え切らないというのと、お互いをライバル視して引くに引けない状況もあり、積極的になっているのだ。
 果たして、誰が最初に祐麒に手を出されるのか。誰が祐麒に選ばれるのか。誰であってもお互いに恨みっこなしというのは、事前に合意している。
「でもさ、もしも祐麒クンが私達三人ともエッチしたら、どうする?」
「それだけの甲斐庄があるかなぁ」
「誰もなかなか選べなくて、だからつい、三人ともなんてことありそうじゃない」
「確かに……そうなったら、寝技で祐麒を虜にしたのが勝ちってことか」
「ちょっ、聖、江利子もそんなこと……」
 祐麒がいない時は、それなりにあけすけに互いの気持ちを話したりしている。そうでなければ、四人でのルームシェアなどなかなかうまくやっていけない。お互いに譲れないところはあるが、妥協すべきところは妥協するし、どういう想いと決意を持っているか知り合っているからこそ決断したルームシェアなのだ。
「ま、当分は今のまま、単なる共同生活でも楽しいけどね」
 気軽に言う聖の言葉だが、それもまた一つの真実。
 一緒に暮らすようになって距離が近くなると、今まで知らなかったことも色々と分かってくる。
 三人で祐麒を巡って騒ぎ合うのも、また楽しい。
 性格的に、祐麒がすぐに誰かを選ぶのが難しいだろうことも分かっている。態度を見ても、まだ誰か一人に心を決めたというわけでないことも。
 ならば、少しくらい時間をかけても構わない。三人だってまだ二十歳を超えたばかり、時間はあるのだから。
「あーあ、しかしこうして年頃の女が三人も一緒に住んでいて、しかも三人とも処女なのに手を出してこないって、あたし達に魅力が足りないのか?」
「うーん、逆に未経験だから、足りないとか?」
「で、でも、祐麒くん以外の男の人となんて、嫌よっ」
「うん、とりあえず祐麒もいないし、飲むか」
 立ち上がってキッチンに入ると、冷蔵庫からビールやらチューハイやらを取り出してくる聖。
「あのね、聖。そうやってすぐにお酒を」
「はいはい、蓉子は梅酒? あたしと江利子はビールでいいよね最初は」
「ピザ取ろうよ、せっかくだし」
「う……太りそう」
 祐麒(男)がいないと、蓉子たち(女)は意外とだらしなくなる。蓉子も一人ならともかく、聖や江利子が一緒に居るとどうしても流されやすくなってしまうのだ。
 こうして、女三人での酒盛りが開始される。
 三人ともそれなりにお酒には強い。
 ビール、チューハイ、焼酎、日本酒と、様々なお酒を開けていく。宅配ピザも届いて、段々と秩序も乱れていく。
 三人の中でもっとも酒に強いのは江利子だが、さすがに様々なお酒をちゃんぽんして飲みまくったためか、悪酔いしてしまった。
 やがて三人はそれぞれ酔いつぶれてしまうのだが。
 この日に限って前後不覚になるまで飲んでしまったことを、三人は深く後悔することになる。

 

 猛烈な頭痛と吐き気をお供にして、江利子は目を覚ました。
「うぅ……気持ち悪…………」
 ついでに体の節々も痛い。
 気が付くと、どうも飲んだ後そのままリビングの床に突っ伏して寝てしまったようだ。ラグが敷いてあるとはいえ、寝るのに適しているとは言い難い。
 起きるのは辛いが、このまま寝ていられそうもない。とりあえず強引にでも這い上がり、洗面所に行って顔を洗った。
「……さむっ……」
 ぶるっ、と体を震わせる。
 寒いのも当然、江利子はパンツ一枚の格好になっていたから。寝るときは基本的にこのスタイルになるので、酔っぱらって記憶をなくしているが、無意識のうちに脱ぎ捨ててしまったのだろう。
 洗濯籠にシャツがあったので手に取る。
「あ……ラッキー、祐麒くんの匂い……はぁ、はぁ」
 置いてあったのは祐麒のシャツだった。思わず江利子は顔を埋め、匂いを堪能してしまった。
 相当に昨日の酒が効いているようだ。本来、この手の変態的行為は蓉子が実施するようなことなのだ。「祐麒くん分補充~~っ!!」とか言って、色々とやらかしている。(優等生だけに、箍が外れた時の行動は結構ヤバい)
「あ……でも、蓉子の気持ちちょっと分かるかも。祐麒くんに包まれるような感じ……やば、少し濡れちゃうかも」
 もじもじしながら祐麒のシャツを羽織ってリビングに戻る。
 ソファでは蓉子が寝ており、ローテーブルに突っ伏して聖が寝ている。
 周囲には飲んで空になったお酒類の缶、瓶がゴロゴロしており、ピザやおつまみ類も散乱している酷い有様だ。
「とりあえず……悪戯よね」
 酒に強い江利子は立ち直りも早い。頭痛、吐き気、気持ちの悪さが消えるわけではないが、意識は徐々にしっかりしてくる。
 まずは蓉子のおっぱいとお尻を揉んで感触を堪能したあと、穿いているパンツを脱がせてアダルトグッズのえっちな下着を穿かせる。
 続いて突っ伏している聖の背後から、やはりおっぱいを揉みしだいて堪能する。座っているので蓉子のようにパンツの変換は難しそうだと思ったが、手を入れてみると幸いにもサイドで結ぶタイプのやつだった。結び目を解いて、するりとパンツを取り出すと、踵を返して蓉子の頭にかぶせて結ぶ。

「……あ、祐麒くん!」
 ここでようやく気が付く。
 装着したシャツからは、まだ祐麒の匂いが濃く感じられる。即ち、脱いでから物凄く時間が経った物ではない。少なくとも、ここ数時間のことだろう。まあ時間的にも当たり前だが、既に昨夜の新歓コンパからは帰宅しているはず。
 聖と蓉子はまだ起きる気配がない。
 これはチャンスとばかりに、祐麒の部屋へと近づく江利子。
「まあ、鍵がかかっていたら意味がないけど……あれ、開いてる……?」
 思いがけない事態に、江利子も一瞬呆けてしまったが、すぐに気を取り戻す。こっそりとリビングに戻って様子を見るが、蓉子も聖も先ほどの体勢からぴくりとも変わっていない。
「こ、これは、絶好のチャンス……!?」
 どうやら新歓コンパで酔っぱらいでもしたのか、あるいはリビングでの惨状を見て油断をしたのか、鍵をかけ忘れて寝てしまったようだ。江利子は音を立てないよう、こっそりと祐麒の部屋へと忍び込んだ。
 ベッドの上、布団が盛り上がっていて祐麒が寝ていることが分かる。
 江利子は、自分の心臓の動きがどんどん速くなるのを感じていた。いきなりのことで心の準備が完全に出来ているわけではないが、この機会を逃すつもりもない。なんとなく、祐麒の気持ちは比較的蓉子に傾いている気がしているので、劣勢を跳ね返す必要もある。
「え、えと……ど、どうすればいいのかしら……?」
 考える。
 せっかく気持ち良く寝ているのであれば、無理に起こすのは忍びない。となると、寝ているままで更に気持ち良くなってもらうのが良い。今だと、男性の生理現象として"朝勃ち"しているかもしれないから、それをどうにかすれば良いのか。
 一番ノーマルなのは手ですることだろうが、それでは普通すぎる。となると、やはり口でしてあげるべきか。だが、様々な色仕掛けをしてきたが、実際的には性的経験ゼロの江利子にとって、いきなり男性器を口に含むというのは抵抗も大きい。
「だ……ダメよ、こんなことで恥しがってちゃ」
 ぷるぷると顔を左右に振り、逡巡を振り払う。
 大丈夫、出来ると自己暗示をかけ、ベッドに手をついたとき、ボリュームのある自分の胸が揺れて暴れた。
 それを見て、江利子は思った。そうだ、蓉子や聖が持っていない武器が江利子にはある。いや、蓉子も聖も勿論あるのだけど、やはり江利子のが一番だ。それは、三人で幾つかの野菜を挟んで確認してみて分かっている。江利子の胸ならば、確実に全体を包み込むことができる。
 幸い、袖を通しただけの祐麒のシャツは、前が開いている。あとは、覚悟を決めてやるだけ。
 胸でしてあげたあとのこともシミュレーションする。もちろん、その勢いで最後までいくしかない。体勢的に江利子が上になるだろう。恥ずかしいが、頑張るしかない。大丈夫、兄貴達の隠していた様々なエロDVDを拝借して色々と研究してきたのだ、一応、知識だけなら聖や蓉子に負けないはず。あとは実践あるのみ。
 ちなみに、兄貴達の持っていたDVDには、妹モノや女子校生モノが多く、江利子は激しく幻滅したのだがそれは別の話。
 とにかく、やることを決めた江利子は思い切って足元から布団をそろりと捲っていく。
 すると。
「…………ん?」
 薄暗い部屋の中で見間違いだろうか、足が四本あるように見える。
 移動して、少しだけカーテンを開いて明かりを入れ、更に布団を捲る。

「―――――――Oh!! Noォォォォォォォォォッッ!!??」

 江利子は絶叫した。
 その悲鳴を聞いて、聖と蓉子も目を覚ました。二人は慌てて起き上がると、頭痛と吐き気を堪えて悲鳴の出所に向かった。
 部屋の鍵をかけ忘れていたのは、江利子も緊張していたからだろう。二人はなだれこむように祐麒の部屋に駆け込むと、ベッドの脇で立ちすくむ江利子の姿を認めた。
「ちょ、江利子、あんたいつの間に抜け駆けを!?」
「え、江利子、まだ何もしていないでしょうねっ!?」
 とりあえず、江利子がパンツを穿いたままであることを確認して安心するが、どうも江利子の様子がおかしい。
 近づいて、江利子が凝視するベッドの上に目を向けて、聖と蓉子も固まった。
 そこには、祐麒に抱きついて寝ている素っ裸の女がいたから。さらに、祐麒もトランクス一枚という格好だ。
 女の脚は祐麒の足に絡みついており、祐麒は腕枕をしている形になっている。
「ど、どどど、どういうこと、これはっ」
「ちょっと……景さんがなんでここにいるのっ!!?」
 裸の女は、加東景だった。
 眼鏡こそ枕元に置かれているが、間違いようはない。
「ふ、二人とも、ココを見て……」
 震える江利子の指先が示す点を見て、二人とも青ざめる。
 シーツの上に、赤黒い染みが出来ているのだ。
「なな、ま、まさか……」
「こら景さん、起きなさい! 説明しなさいどういうことか!!」
 肩をつかんで揺さぶるが、景は祐麒にしっかりとしがみついて離れない。
「…………ん……何よ、騒がしいわね」
 やがて、そんなことを呟きながら景が目を覚ました。
 片腕をついて上半身を起こしつつ、落ちかかる黒髪をかきあげる仕草がなんとも艶めかしい。枕元から眼鏡を取ってかけると、三人の顔を順に見つめる。
「……どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよっ!?」
「それはこっちの台詞だっての!!」
「さ、昨夜、祐麒くんと何があったの!!?」
「ん…………ああ」
 景は自分の裸身を確認し、続いて寄り添って寝ているパンツ一丁の祐麒を見て、納得したように頷いた。
「昨日のコンパでお持ち帰りされたわけだけ……ど?」
 と、ほんのり頬を赤らめながら言う。
「お、おおおお、お持ち帰り、された?」
「え、てゆーか、昨日の合コンて祐麒の大学と? え、新歓コンパじゃなかったの、祐麒は!?」
「新歓コンパだったわよ、そう言っていたじゃない。リリアン女子大と合同サークルの」
「え……ああああああっ!?」
 頭を抱える聖。

「てゆうか、なんで景さんがお持ち帰りされるのよっ!? 大体、景さんだって知り合いなわけだしっ」
 聖と同じリリアン女子大である景は、いつしか普通に蓉子や江利子とも仲良くなっていて、その関係で祐麒とも知り合っていた。たまに一緒に食事をしたことだってあるし、顔なじみでもある。同時に、聖たち三人と祐麒の関係も知っているのだ。
「えぇと……私もコンパとか苦手だったけど、佐藤さんが逃げちゃったから人数的に断れなくて参加することになって。そうしたら祐麒クンがいたのよ」
「聖ぃ……」
「いや、し、仕方ないじゃん!?」
「最初は席も離れていたんだけれど、なんか私、変な男に話しかけられて嫌だったし、祐麒くんもなんだか初めてのコンパで落ち着かないようで、なんとなく中盤くらいから隣の席になって話しはじめて」
「あぁ、思い浮かぶわ、その流れ、その光景……」
「……それで、祐麒くんに口説かれて、キュンとなっちゃって」
「そこダウト! 祐麒くんがそんな場で景さんを口説くようなこと口走るわけがない!」
 今までの展開は、話を聞いて想像できたが、そこは納得できなかった。一体、どのような口説き文句を言われたのか、更に聞いてみる。
「ええと…………『景さんは、眼鏡が似合って素敵ですよね。眼鏡美人ですよね』って」
「あああそうだっ! 祐麒のエロDVDにその手の沢山あった!!」
「そんな風に言われたの生まれて初めてで、祐麒くんは前から知っていて安心感あったし、優しくて良い子だというのも分かっていたし、佐藤さんたちもいつまでもウダウダしてケリがつかないようで祐麒くんも今のところ誰とも付き合ってないみたいだから、ほら」
「ほ、ほら、って言われても……」
 真っ青になって、ガタガタブルブルと震えている蓉子。
「でも、私もさすがにこのマンションに来たときは、何もないと思ったわよ。だって、あなた達がいる場所で何かできるわけもないでしょう? ところが着いてみたら、あなた達は三人とも酔い潰れて目を覚ます気配もないじゃない。リビングは酷い惨状でいられなかったし、それで祐麒くんの部屋に二人で避難していたら……まあ、そうなるじゃない、ねえ?」
「うううううう嘘よ、今まで私達に何もしなかった祐麒くんが、そんな、景さんみたいに比較的なだらかな体型の女性に欲情するなんて……」
「何気に失礼ね、蓉子さん」
 確かに景は、他の三人と比較すると一番スレンダーなボディだ。むしろ痩せぎす気味といってもいいかもしれない。
「い、いや、その系統も祐麒のエロコレクションには多数、秘蔵されていた。覚えているんだ、意外と目立ったキーワードは……『お姉さん』、『黒髪ロング』、『メガネ』、『スレンダー』、『微乳、貧乳』といったもの!」
「ぜ、全部、景さんに当てはまる!?」
 思いがけない強敵の出現に衝撃を隠しきれない三人。

「で、まあ…………よ、夜のことまでは言わなくても、いいわよ……ね?」
 恥ずかしそうにしなを作り、顔を赤らめながらシーツに残された血の跡にちらりと視線を送る景。
「うううっ…………」
 腰が砕けそうになる。
 と、その時。
「ん…………な、なんですか、朝から…………」
 祐麒が目を覚ましかけていた。
「ちょっ……と、とりあえず景さん、何か着なさいよ!」
「といっても、何もないので……」
「仕方ないわね、ほら、これ!」
 ベッドの脇に落ちていたTシャツを頭からかぶせる。祐麒のTシャツだから景には大きく、かろうじて大事な個所を隠すことが出来た。
「あれ……み、皆……どうして、こんな場所に」
 ゆっくりと目を開く祐麒。
「ふ……ふふ、祐麒くん。ちょ~~っと、昨夜のことを詳しく聞かせてくれるかしら?」
 目が笑っているけれど、笑っていない蓉子。
 隣にいて、久しぶりに江利子は恐怖を覚えた。
「待って、そういうことをするのは、野暮ってモノじゃないかしら?」
 間に割って入る景。
「景さんはどいてください、私は祐麒くんに訊いているんです」
 景の肩を掴んで押しのけようとする蓉子。
 すると景は、バランスを崩し、前のめりになってベッドから落ちそうになった。慌てて目の前にあったもの、即ち蓉子の足にしがみつく景。
「――あ痛っ!」
 しかし、結局そのまま床に落ちてしまった。
 顎を撃ち、顔を顰めつつ目を上げると。
「…………わぁ。蓉子さん、随分と…………凄い趣味の下着なのね」
「えっ? え…………きゃああああっ!?」
 蓉子の足にしがみついた景は、蓉子のズボンを掴んだまま床に落ちてしまったのだ。
 そして蓉子のパンツは先ほど江利子が穿きかえさせた、えっちな下着だ。ちなみにどんなものかというと、フロント部分にフックが付いていて、フックを外すとオープンされるというもの。
「あと、なんで頭にパンツ被っているの?」
「え……って、え、あれっ? そのパンツって……ええっ!?」
 蓉子の頭上に目を向けて何かに気が付いた聖。慌ててズボンを下ろしてみると。
「穿いてない!?」
 咄嗟に降ろしてしまったが、急いで引き上げる。
 江利子はシャツの前がはだけているし、更に言うならベッドから落ちて床に這いつくばっている景は裸の上からTシャツを着ただけで、祐麒に向けて下半身丸出し状態である。
 そして、とどめをさすように、衝撃で少し緩んでいた蓉子のパンツのフックが外れ、ふわりとオープンされる。
「いっ…………いやああああああああっ!!!!!!??」
 凄まじい悲鳴とともに、蓉子の神速の延髄蹴りが祐麒に炸裂した。
 声もなく失神する祐麒。
 聖のパンツを被り、パンツのフロントをオープンさせたまま逃げ出す蓉子。もそもそと起き上がる景。落ち着きなく下半身を手で抑えている聖。
「あれ……なんか私だけ損した気分?」
「いや、こんな形で見せたくなかったんだけど……」
 納得いかないように首を傾げる江利子に、恨みがましい視線を送りつける聖。
 こんな風にして祐麒の大学生活は波乱の幕開けとなった。

 ――ちなみに、寝起き且つ昨夜の酒が抜けきっていなかった祐麒は、四人のあられもない姿は残念ながらまともに認識できていなかった。

 

 その後、ようやく復活した祐麒から真実を聞き出した。
 実際には、遅くまで飲んで終電を逃したため、比較的近い祐麒のマンションに行こうということになっただけらしい。
 マンションに到着して中に入ると、蓉子たちはリビングで酔い潰れていたので、好きな部屋を使って寝ていいと景に勧めた。
 先に景にシャワーを使わせ、祐麒もシャワーを浴びてパンツ一丁の姿で部屋に戻ると、そこには全裸の景がベッドインして待ち構えていた。
「え、け、景さんっ!? な、なんで俺の部屋にっ」
「え……だ、だって先にシャワー使っていいって、その、そ、そういうことじゃなかったの……? 祐麒くん、結構強引なんだなって思ったけど、私も祐麒くんなら初めてを捧げてもいいかなって思ってて……てゆうか、佐藤さんたちじゃなくて私を選んでくれたってことでいいんだよね、これ?」
「え、ちょ、ヤバいって景さん、み、見えるからっ!」
 毛布から艶めかしい肩を出して起き上がり、祐麒の腕を掴んでくる景。
 わたわたと暴れる祐麒。
 はらりと落ちる毛布、祐麒の目に映る景の肢体。
「ぶっ!?」
 たらり、と鼻から滴り落ちる鼻血。
 景に引っ張られ、前のめりに倒れた祐麒は、そのまま景の頭と正面衝突。二人はもつれあうようにベッドに倒れ込み、そのまま意識を失った。

「…………シーツの血は、その時の鼻血というわけで」
「ってゆうか景さん、あんた確実に確信犯じゃない!?」
「でも、コンパで口説かれたのは事実だし、キュンときたのも事実だし」
 口を尖らせて拗ねている景。
「いやそれ、祐麒くんは口説いているつもりなんか絶対ない天然よ?」
「天然でもいいの、私がそう受け取ったんだから」
「あぁ……喪女は男慣れしていないから、持ち上げられるとすぐに」
「やかましい、そんなんじゃないわよっ! あれよ、私も今まで祐麒くんとはあなた達を通して付き合いがあったわけじゃない? でも、今まではあなた達の気持ちを知っていたし、自分がどうこうとは思っていなかったけれど、昨日の合コンで思いがけず二人きりの時間ができて、色々と話したり接したりしているうちに、口説かれて、ときめいて、祐麒くんっていい子だよなーって思ったら、ちょっと手に入れたいなって思って」
「……ん? ちょっと待って。二人きりの時間って何? 合コンでしょ」
「ああ、うん、でも合コンうるさかったから、途中で二人で抜け出してバーに行ったの」
「な、何ソレ、聞いてない!」
「えーと、じゃあハイ、プレイバック」

 

 落ち着いた雰囲気のバーのカウンターで、並んで座る二人。
 景の前にはマティーニ、祐麒の前にはジンバック。
「景さんって、黒い服が好きですよね」
「え? あぁ、うん。もう少し明るい服も着ればってよく言われるけどね」
「でも、景さんの白い肌と凄く合っていると思いますよ」
「ありがと」
「それにこうして、お酒でほんのり桜色になっていると、凄く色っぽくて綺麗です」
「あ…………ありがと」
「あ、お世辞だと思いました? そんなんじゃないですよ、本当に、いつもそう思っていたんですから。ほら、蓉子さんたちが飲んで乱れている時も、景さんは一人、クールに飲んでいるじゃないですか。その姿を見て、格好いいなって」
「も、もう、やめてよ、恥ずかしいじゃない」
 正面から褒められて、もじもじと照れる景。
「景さんでも恥ずかしがるんですね」
「当たり前でしょう、私をなんだと思っているのよ?」
「あはは、すみません。あ、でもなんか景さんてクールなイメージがあったから、恥ずかしがる景さんって、可愛いですね」
「か、可愛いっ!?」
「はい」
 慣れないことを言われて落ち着かない景は、間をもたせるかのように髪を指で梳き、耳にかける。
「前から思っていたんですけど、景さんの髪の毛って綺麗ですよね」
「そっ、そう?」
「はい、俺、好きなんですよ景さんみたいな人」
「す……好きっ…………」
「こう、綺麗な黒髪、っていうんですかね」
「あぁ……髪の毛…………」
「少し、触ってみていいですか?」
「ええっ!? でで、でも」
「ちょっとだけですから、お願いします」
「えと、じゃあ、ちょ、ちょっとだけなら……」
 勢いに負けたのか、頷く景。
 祐麒の手が伸びる。
「…………あっ……ん……」
 耳の後ろに指を通され、軽くうなじをなぞるように髪を梳かれ、ぞくぞくと震える景。そこは弱い部分なのだ。
「ゆ、祐麒くん…………あふっ……」
「凄い、さらさらで心地よい手触りですね」
「そ、そう? あんっ……あ」
 体が火照ってくる。
「本当に、これいつまででも、ずっとこうしていたくなりますよ」
「いつまでも、ずっと一緒に……そ、それってもしかして、プロポ」
「あ、すみません、なんか調子に乗っちゃって」
「あ……」
 手が離れる。ちょっと残念そうに俯く景。
「でも今日、景さんがいてくれて本当に良かったですよ。合コンが嫌いってわけじゃないですけど、今日のサークルのノリはちょっと苦手な感じで」
「そうだったんだ」
「なんか、景さんもそんなように見えたんですよね」
「あ……もしかして、それで、こうして私と抜け出して?」
「間違っていたらすみません」
「そんなことない、私も、同じこと思っていたから」
「良かった。景さんと一緒だと、なんてゆうかこう、落ち着くんですよね。一緒にいて安心できるというか」
「わ……私も、同じ、かも……」
「そうですか? 嬉しいなぁ」
 邪気なく微笑みかけられ、景はほんのり顔を赤くしてグラスを口にする。
 話しは弾み、気が付けば電車もない時間になっていた。
「あ……と、ど、どうしようかこれから?」
 ちらりと、上目づかいで祐麒の様子を窺う景。そわそわと落ち着かない様子ながらも、何かを期待しているような、そんな表情。
「そうですね、良かったらこれから俺の部屋に来ます?」
「あ…………う、うん」
 真っ赤になりながらも、コクリと頷く景。
 バーテンの渋いおじさんが、プロらしく表情こそ変えないものの見つめてきているのを感じて、更に恥ずかしくなる。
 そんな視線を避けて椅子から降りようとして、バランスを崩す。
「おっと、危ない」
「あ……」
 景の肩を抱きかかえるようにして、支えてくれる祐麒。思ったよりもたくましい胸に顔を埋め、景はドキドキする。
「大丈夫ですか? 少し飲みすぎましたかね。歩けますか?」
「う……うん、さ、支えてくれれば」
「はい、それじゃあ行きましょう」
 景は祐麒にしなだれかかるようにして歩き出す。
「――ありがとうございました」
 背中に、バーテンの渋く低い声がかかる。
 店を出て、火照った顔に春の夜風を受けながら景は思った。

 ああ、私は今日、この人に抱かれて初めてを捧げるのだと――――

 

「……ってわけよ、こんなの惚れちゃうでしょーーーーーーーーっ!!!!??」
 説明を終えて絶叫する景。
「ちょ、祐麒、どこのプレイボーイだよ、あんた」
「てゆうかさ、これ景さんの妄想携帯小説かなんかじゃないの?」
「じ・じ・つ・よ!! 祐麒くんに訊いてみなさいよ」
 視線が祐麒に集まる。
「え……と、ええ、まあ、確かにそういうことは言った記憶ありますけど……ちょ、ちょっと美化しすぎじゃないですか?」
「本当に言ったんかい!? やったんか!?」
「いや、でもほら、私たちの時も同じような感じじゃなかった? なんかこう、ここぞというときでやってくれるのよね……」
「た、確かに」
 ヒソヒソと話し合う三人。
「まあ、そういうわけで、私は昨夜祐麒くんに抱かれたわけです」
「抱かれてないでしょ、勝手に既成事実を作らないでよ」
「ちっ…………まあでも、裸で一晩抱き合って寝た事実は変わらないわ。これはもう、お嫁に貰ってもらわないといけないレベルね」
「黙りなさい」
「あ痛っ」
 聖に頭を叩かれる景。
「……景さんってこんなキャラだっけ?」
「隠していたのよきっと」
 蓉子と江利子は不審の目で景を見ていた。

 そして、その後景は自宅へと戻って行ったが、同日の夜に再びやってきた。
 大きなボストンバッグを手に現れた景を、驚きの表情で見つめる祐麒たち四人。
「これからお世話になります」
「あの景さん、どういうつもりかしら? なんでこうなるの?」
「だって……」
 ちらりと祐麒を見つめてから、景は言う。
「いつでも、ずっと、好きな時に触りたいっていう祐麒くんのために」
 艶やかな黒髪を指でいじりながら。
「それに、あなた達三人の中に祐麒くんを置いておくなんて危険なこと、できませんから。私が監視します」
「景さんが一番危険でしょうが!? 大体、うちにはもう部屋は空いてないから」
「あ、それなら大丈夫です。私は祐麒くんと一緒の部屋で」
「な、なんていけずうずうしい……」
 きいぃっ! とハンカチを噛みしめる蓉子の前に、景は携帯端末をずいと突きつける。
「な、何よコレ……」
 不審に思う蓉子たちに対し、端末から音が再生され始めた。
『…………ねえ祐麒くん。私がもし今の家を出て他に行く場所がなかったら、祐麒くんの部屋に住まわせてくれる?』
『え? 何かあったんですか?』
『うーんと、ちょっと』
『はあ……そうですね、俺は別に構わないですけど、今さら景さん一人増えても。蓉子さんたちさえ……』
『本当!? ありがとう!!』
 と、そこで音声は切られる。
「な……何よ、それ」
「証拠です。言っていたでしょう、祐麒くん。『俺は別に構わない』って」
「だ、だけど、私たちの許諾が」
「あら、『祐麒くんの部屋』に住むのに、あなた達の許諾まで必要かしら。まあ、同居しているから最終的には必要でしょうけれど、『祐麒くんの部屋』に関しては祐麒くんが権利を持っているのでしょう」
「え……あ、あれ?」
 首を傾げる祐麒。
 そう、祐麒は『祐麒が住んでいる部屋=蓉子たち三人と暮らしている4LDK全体』と理解したのだが、景は純粋に『祐麒の使用している主寝室』の意味で言ったのだ。そして、言葉通りにとらえるならば、景の理解が正しいと言われて間違っているとも言い切れない。
「とゆうことで、不束者ですが末永くお仕え致しますので、よろしくお願いいたします」
 ぺこりと、深々と頭を下げる景。
 呆然と見つめる祐麒。
「ちょ……ちょっと、どうするのよ。聖、どうにかしなさいよ」
「な、なんであたしが。無理無理、景さんにはあたし、頭上がらないんだから」
「ああもう、一番手強そうな人が……」
 戦々恐々の江利子、聖、蓉子の三人。
「おほん。えっと、それじゃあ、これ私の枕。ちなみにいつでも『Yes』だから」
「だから、待て待て待てーーーーーーいっ!!??」

 春の嵐は吹き荒れる。
 この一年で三人のうち一人を選ぶつもりが、スタートから変更になってしまった。

 祐麒の羨ましくも苦しい大学生活は、こうして幕を開けた。

 

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