書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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はやて×ブレード

【はやて×ブレードSS(ゆかり×瞑子)】たまさかの逢瀬

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~ たまさかの逢瀬 ~

 

 

 寮の室内で、瞑子は思い悩んでいた。
 原因はいわずもがな、染谷ゆかりの行動であった。
 ゆかりとは、敵対関係にあったといってもいい。とゆうか、そもそも瞑子には友好関係にある剣待生などいないのだが、その中でもゆかりは激しく瞑子のことを憎んでいてもおかしくないはず。何せ、あの顔の傷の直接の原因なのだから。
 剣待生とはいえ、ゆかりも一人の女の子であることに変わりはない。顔に、一生消えない傷をつけられた相手を、許せるはずがないだろう。
 一体、何を考えてあんなことをしてきたのか。
 ふとしたはずみで唇の感触を思い出すと、自分らしくなく体が熱くなる。
『……どうしたメイ、今日の動き、おかしかったぞ』
 二段ベッドの上段から顔を覗かせ、炎雪が聞いてきた。自ら口を開くことの少ない炎雪から聞いてきたということは、よほど変だったのだろう。瞑子の動きがおかしかったとしても、炎雪が負けなければトータル的には良いのだが、気分的に良いわけがない。
「ねえ、炎雪。あなたは……キスしたことって、ある?」
『きす……?』
 炎雪が、何やら考える顔つきになる。
 言ったあとで、何を聞いているのだと赤面しそうになる。今まで、炎雪とそのような話しをしたことなどないし、そもそも、ほぼ野生児の炎雪にその手の話が通じるとも思えない。いまだに困惑しているのか、血迷っているのか、自分が情けなくなる。
『きす……知っているぞ』
 しかし、思いがけない答えが返ってきて、思わず炎雪の方を見てしまう。炎雪は何かを思い出すかのように、視線を天井の方に向けた。
『あれは確かそう……刺身が美味かった』
「……それは魚の鱚よ。貴女に聞いた私が馬鹿だったわ」
『む……?』
 首を傾げている炎雪。
 無視して考え込む瞑子。
 今のままというわけにはいかない。こんなことで心を乱され、揺れていて良い自分なわけがない。一番、早くて確実な方法は、根源を断つことだろう。
 瞑子は一人頷き、立ちあがった。

 

 数日後。
「――くっ!」
 迫ってきた剣を弾き返し、ゆかりは体勢を整えた。
 距離を置いて、対峙するのは瞑子。
 しばらく前に瞑子から、「次の鐘のときは、私達と剣を交えなさい」と申し込まれた時は、「やはりきたか」と思った。
 あんなことをしでかしておいて、黙っている瞑子ではないと思ったが、直球で切り込んでくるというのは、想定外であった。何かしら陰険な策でも巡らし、ゆかりを陥れてくるのではと予測したいたのだ。
 槙と炎雪も剣を交え、すでにゆかり達の視界からは消えて見えなくなっている。ゆかりと瞑子、邪魔なものなく決着をつけようということか。
「染谷さん、一つ、約束をしてもらうわよ」
 剣先をゆかりに向けながら、瞑子が口を開く。
「この勝負、私が勝ったら、私の言うことを聞いてもらうわ」
「は!? なんですそれ一方的に。そんな約束、するわけないじゃないですか」
「あら、自信ないの? そんなわけないわよね、この前私に勝っているんだもの」
「それは……そうですけれど」
「それなら、問題ないでしょう? ふふ、安心して。あなたに消えることのないトラウマを植え付けてあげるから」
 振り下ろされてきた剣をかわし、受け流し、弾き返す。
「……それならっ、私が勝ったら、かわりに一日何でも言うこと聞いてもらいますよ!」
「定番ね」
 剣と剣が跳ね、お互いに距離をとったところで鐘が鳴る。3つめの鐘だから、あと2回分の時間。
 ゆかりは、攻めに転じた。
 約束のことはともかくとして、負けるつもりなどさらさらないし、負けていては頂上などいつまでたっても見えてこない。プレッシャーのかかる中でも勝てる心の強さと、ついてくる技術と体があってこそ、更に上のランカー達と渡り合えるのだ。
 とはいいつつも、なかなか思うように攻められない。
 野性的で、天性の才を持つタイプの炎雪ほど、瞑子の技量はずば抜けているわけではないと思うが、それでも元白服にかわりはない。ゆかりが簡単に攻撃できる隙を見せるわけもないし、もともと、間合いを狂わすのが上手い。
 前回に戦った時ともまた異なる間合いでの攻撃、守りを見せられ、ゆかりとしては調子が狂って仕方がない。前に戦った時の瞑子の残像が脳内にあり、どうしてもその時の間合いで戦おうとしてしまう。
 すぐに、ゆかりの方が守勢に回ることになった。瞑子の攻撃は、とにかくいやらしく、ゆかりの苦手なところを正確についてくる。
「くっ……!」
「ふふっ、どうしたの? 刃友のことでも気になるのかしら。大丈夫、今頃は炎雪がきっちりと壊しているわ」
 いつも通りの冷笑と口調で、ゆかりを惑わそうとしてくる。人心につけこむというのも、瞑子の手段だ。
 槙であれば、炎雪が相手でも簡単にやられるわけもないが、朱炎雪の動きは他の剣待生達とは明らかに異なるし、野生の動きは読みづらい。
 目の前の戦いに集中しなければと思うが、言われればどうしても気にしてしまう。
「何を考えているのかしら?」
 瞑子が間をつめる。
 反射的に剣を動かすが、それは誘いだった。懐に入ってきた瞑子の身が沈んだかと思うと、下から思い切りゆかりの剣を弾きあげた。
 勢いで、剣を握ったまま両手をあげるバンザイの形になるゆかり。隙だらけの、格好の標的状態だ。
 瞑子が口元を歪める。
 剣が、ゆかりの胴体に向かって振り下ろされる。
「――は、初キッスの味はどうでした!?」
「っ!!」
 咄嗟に出た言葉は、どうにか瞑子を崩したいという考えから発せられたものだが、ゆかり自身もそんなことを口にするとは思ってもいなかったので、自分でびっくりした。
 だが、それ以上に動揺したのは瞑子だった。
「な……っ」
 目を見開き、動きが一瞬、止まる瞑子。
 それを見逃さず、ゆかりは一旦、距離を取る。
「何、をっ……」
 体勢を立て直し、すぐに再攻勢をかけてこようとするが、瞑子の動きには明らかに冷静さが欠けている。動きは早く、鋭いが、単調になっている。
 瞑子の一撃を剣で受け止め、つばぜり合いになる。
 睨みつけてくる瞑子だが。
 至近距離でゆかりは、再び口を開く。
「氷室さんの唇、柔らかくて、とても美味しかったですよ?」
「な、な、なっ……!」
 怒りのためか、それとも羞恥のためか、瞑子の顔色が赤くなっていく。
「そ、それ以上、言うと……っ」
 力を込めて押してきた瞑子。
 そのタイミングにあわせ、ゆかりは力を抜いて体を横にまわし、瞑子の力を受け流す。力の行き場を失った瞑子が前のめりにバランスを崩し、慌てて立て直そうとしたところに。
「それに、すごく可愛かったですよ、氷室さん」
 と、耳元で囁くように言うと。
 瞑子の顔が一気に赤くなり、動きも止まって隙だらけになった。
 もちろん、それを見逃すようなゆかりではなかった。

 

 瞑子との勝負に勝った週の週末、ゆかりは遊園地に来ていた。隣には、仏頂面をした瞑子が立っている。
 なぜ二人がこんなミスマッチな場所にいるかといえば、もちろん、勝負の時の約束のためで、瞑子は今日一日、ゆかりの言うことを聞かねばならならいから。
 初め、何を命令しようかとも思ったが、特に思いつくこともなかった。別に何もしなくてもよかったのだが、丁度、前日の夜、順からなぜか遊園地のチケットを貰った。チケットの有効期限がこの週末で、どうせ暇だし、たまにはリフレッシュも必要だろうと思ったところで相手がいない。
 槙は何やら用事があるようだったし、今さら綾那を誘うことなんてできるわけもなく。他に適当な相手もいなかったので、そう、仕方なく瞑子を誘うのだと自分に言い訳をして瞑子に声をかけた。
 当然、瞑子は渋ったのだが、約束のことを持ちだして、こうして連れ出すことに成功したというわけだ。
「……なんで私が、貴女と遊園地なんかに」
「約束なんだから、文句言わないの」
「大体、どうせ行くならネズミが闊歩するところとかに、どうしてしないのかしら」
「仕方ないでしょう、貰い物のチケットなんですから」
 瞑子が口にしたのは、日本で一番有名で、一番人が多く入るテーマパーク。一方、チケットの遊園地は、比較的近場にある、そこまで有名というほどでもない遊園地。
「本当に、こんなとここ誰かに見られたら……こんな、まるで私が染谷さんとデートしているみたいじゃない」
「ば、ばばっ、馬鹿なこと言わないで、なんで私が、氷室さんとデートなんてっ」
 意識してゆかりが避けてきた言葉を口に出されて、ゆかりはどもってしまった。瞑子の方も、自ら口に出したことで自覚ししまったのか、気まずそうに顔をそらす。
「とにかく、せっかくリフレッシュできたんだから、楽しまないと意味ないわ。それに今日は一日、私の言うことをきく約束なんだから。いい、氷室さんも楽しむこと、これは命令よ」
 どうにか心に落ち着きを取り戻そうと、あえて命令口調で偉そうに言う。瞑子は無言だが、文句を言わないということは、納得したということだろう。なんだかんだで、約束を守ってこうしてゆかりについてきているのだから。
「それに、ここだって馬鹿にしたものじゃないわよ。休日で天気も良いし、お客さんだって随分と多いし……って、氷室さん?」
 振り返ると、いつの間にか瞑子の姿が見えなかった。
 まさか逃げたのかと思って、左右に視線をめぐらせてみると、少し離れた場所で立ち尽くし、困惑したように顔を動かしている瞑子の姿があった。
 人の間を縫って瞑子の元に近づき、睨みつけるゆかり。
「ちょっと氷室さん、何しているのよ。まさか、逃げる気だったとか?」
「違うわよ。ただちょっと、人込みは苦手で……」
 いつも人と距離を置き、誰とも慣れ合わず一匹狼的な瞑子。確かに、集団の中で動くというのは苦手そうだった。
 ゆかりは「はあ」と一つため息をつくと、しばし思案した後に、ちらりと瞑子の顔を見上げた。
 目を閉じ、自分の考えに躊躇しながらも、最終的には思い切って行動に出た。
 即ち、瞑子の手を握ったのだ。
「な、何よ?」
 手を握られた瞬間、ビクリ、と体を震わした瞑子。
「何って、はぐれないように手をつないだんでしょう? べ、別に変な意味なんてないから勘違いしないでよ。ここで離ればなれになって一人になる方が空しいし、仕方ないから、こうして手をつないであげるだけ」
 言いながら、口調がどんどん速くなるのがゆかり自身、分かる。手のひらから、指先から伝わってくる瞑子の手の感触が、驚くほど生々しい。
 剣を握っている者らしく、少し硬い皮。だけど、温かくて柔らかな感触も同時にあって、瞑子を感じられて、わずかに胸の鼓動が速くなる。
「ほら、早く行くわよ」
 自らの動揺を隠すかのように、ゆかりは瞑子の手を引っ張って園内を歩き出すのであった。

 

「……氷室さん、結構、楽しんでいる?」
「えっ? そ、そんなこと別に」
 午後になって、ジェットコースターの待ち行列に並んでいるときに、ゆかりは思っていたことを口にして尋ねてみた。
 はじめのうちこそ二人ともぎこちない感じだったが、しばらくアトラクションで遊ぶうちに、どうにか、それも薄れてきた。そうして感じたのは、瞑子が意外と楽しそうに見えたというところ。
 表情だけ見ると、あまりいつもと変わらないのだが、口数が徐々に多くなっているのだ。「こんなの子供だましだ」とか、「工夫が足りない」とか、アトラクションのことを悪く言ってばかりなのだが、その割には口調に棘がない。そして文句の割には、別に嫌がる素振りは見せない。
 遊園地というのを初デートにするには、待ち時間の会話が鬼門だときく。実際、最初の2つくらいまでのアトラクションの待ち時間では、お互いに何を話したらよいのか困る感じだったが、瞑子の悪口にゆかりが突っ込む、といった流れが出来てからは、息詰まる感じもなくなっていた。もともと、お互いに因縁もあるし同じ天地学園に通っている。共通の話題があることも大きい。
 今もこうして、普通に会話が出来ている。
「こういう遊園地に来るのって、結構あります?」
「ないわね。小さい頃……小学生の頃に来たことがあったかも」
「ああ、だから」
「だから、何?」
 睨まれて、口をつぐむ。「だから、楽しそうなのか」とは言えないし、言ったところで瞑子も認めないだろうから。
「あ、ほら、私たちの番ですよ。ラッキーですね、一番前の座席です」
「ええ……って、ちょっとコレ、大丈夫なの?」
 訝しげな顔をする瞑子。今回乗るコースターは、シートにがっしり固定されるようなものではなく、むしろお腹から上の上半身はフリーに動かせる感じ。初めて乗るのであれば、心もとないと感じるのも無理ないこと。
「大丈夫ですよ、それとも怖いんですか?」
「そんなわけ、ないでしょう」
 澄まして乗り込む瞑子だったが。
 いよいよ機体が動き出し、天高く向かって上昇しているとき、おそらく無意識にゆかりの手の甲に、自らの甲を重ねて来て、つい横目で瞑子の表情を盗み見て。
 なんか、ものすごく可愛いじゃないかと、全く違う意味でドキドキするゆかりであった。

 

「うーん、なかなか爽快だったわね」
 ジェットコースターから下りて園内を歩きながら、伸びをする瞑子。初めこそ僅かに不安があったようだが、いざ動き出すと、そのスピード感とスリルに魅了されたようで、横で様子をうかがうゆかりから見ても、楽しんでいるように思えた。ゆかりは元々、絶叫系のマシンには強いので、乗っている最中でもそれくらいの余裕はあったのだ。
 もっとも、瞑子とて午前中に乗った他の少し緩めのコースターで全く動じる様子はなかったので、大丈夫だとは思っていた。ただ、久しぶりなだけに、不安に思うところもあったのだろう。
「……それにしても染谷さん、これ、本当に、まだつけてないと駄目なの?」
「当たり前じゃないですか、今日は、私の言うことを聞く日でしたよね」
 瞑子が手で触れているのは、頭に飾られたカチューシャだった。リボンのついた可愛らしいカチューシャは、この遊園地のマスコットキャラクターがつけているのと同じもので、ゆかりが購入したのを瞑子につけさせているのだ。
 罰ゲームだ、なんて瞑子はつぶやいているが、ゆかりにしてみれば普段は見ることのできない瞑子の姿を見て、実はかなりグッときていて、持ってきていたデジカメで何度も隠し撮りをしていた。
「じゃあ、次はどこへ行きましょうか」
 園内の地図を睨みつけながら、真剣に考え込む瞑子。すっかり、楽しんでいるようにしか見えない。
「ゴーストハウスなんてどう? あ、もしかして氷室さん、そういうの苦手?」
「まさか、そんな非科学的なもの。ま、でも別にそこでもいいわよ」
 と言い、地図でゴーストハウスの位置を確かめた瞑子は、体の方向を変えて歩き出す。
「あ……」
「どうかしたの、染谷さん?」
「あ、いいえ、別に」
 瞑子の後に続くゆかり。
 歩きながら、そろりと瞑子の様子を窺うが、特に変わったところはない。
 と、いうことは……ゆかりは、視線を下方に移す。目に入ったのは、瞑子の手とつながれたゆかりの手。瞑子は、歩き出そうとした時、ごく自然にゆかりの方に手を伸ばして掴んできたのだ。
 午前中からずっと、意地のようにゆかりが手をつないできたのだが、それで慣れてしまったのか、初めて瞑子の方から手をつないできた。
 不思議だった。
 同じように手をつないでいるだけなのに、それまでとは全く違う感触のように思えるのだから。

 

 

おしまい

 

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