書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

はやて×ブレード

【はやて×ブレードSS(順×夕歩)】オレンジ

更新日:

 

~ オレンジ ~

 

 腰に差した剣を抜く機会は、あまりない。

 一つ、星獲り自体にそれほどの興味がない。お金にも、学園の頂点という権力にも興味がないから。

 一つ、夕歩が強いから。地の星である順が剣を抜かなくても、夕歩は二人を相手にするくらいわけない。少なくとも、今のBランククラスでは。

 

 一つ、そもそも星獲りに参加する機会が少ない。体の弱い夕歩は、定期健診や風邪で学校を休みがちだし、出席していても体調があまりよくないときは無理させないようにしている。本人は、不満のようだが。

 そういうわけで、順はここしばらく、まともに剣をふるっていない。この前、剣を抜いて戦ったのはいつだったろうかと思い出してみても、記憶がぼやけている。戦った記憶はあるが、夕歩があっさりと相手の星を獲ってしまっているから、順はただ横で見ているだけだった。
 腕がなまっている、という自覚はあったが、積極的に戦おうという気も起こらない。
 今日もまた、星獲りは行われたが、まともに参加することなく終えている。

「……ごめんね、順」
「んー、何が?」
 放課後、背伸びをしながら歩いている帰宅途中、不意に夕歩がつぶやいた。
 隣を歩いている夕歩の横顔を見つめてみるが、いつもと同じような少しぼーっとした、何を考えているか分かりづらい表情。
「今日も、星獲りに参加できなくて」
 登校はしていたが、さほど調子のよくなかった夕歩。夕歩自身は戦いたいという思いがあったが、順に止められてしまったのだ。とかく、夕歩のこととなると順は過保護になりがちだが、致し方ないところであろう。
「焦らなくてもいいって。別にあたしら、お金に困っているとか、天地の頂点を取ろうとかってんじゃないし」
 ことさら能天気に順は言ってみせるが、夕歩の顔は晴れない。
 むしろ、更に拗ねている感じ。
「せっかく順、強いのに。私がもっと体、強ければ」
「だから、いつも言っているけど買いかぶりすぎだって。あたしそんなに強くないから。大体、ここまで来るのだって夕歩一人で勝ってきたようなものじゃない」
「……それは、順がサボりすぎだから」
 夕歩の鋭い視線に、思わず動揺する順。
 いつもヘラヘラしている順だが、夕歩にだけは弱い。
「いやー、ははは。強い刃友を持つと、サボりがちになるもんで」
「嘘ばっかり」
「え、あ、夕歩?」
「順の部屋はあっち。私の部屋はこっち」
 有無を言わさぬ口調で、順が何かを言う前に背を向けて歩いていってしまった。どうやら、怒らせてしまったようだと順は落ち込む。

 

「―――綾那ぁ~ん。失意の順ちゃんを慰めてっ」
「いきなり抱きついてくるな!」
 部屋の扉を開けるなりダイブして飛んでくる順を、カウンターで打ち落とす綾那。床に落ちて痙攣している順を見下ろし、ゲームのコントローラを手にする綾那。相変わらず、プレイしているのは恋愛シミュレーションゲーム。
 一方の順は、殴られた頬をさすりながらゆっくりと起き上がり、綾那の背中に視線を向ける。
「ちょっとくらい、聞いてくれてもいいじゃない」
「失意の人間はあんな元気に飛ばない。というか、煩悩全開の顔してたぞ」
「あー、綾那の後ろ姿見ていたら、ついムラムラっと」
「つい、で抱きついてくるな」
「じゃあ、今から抱きつきます」
「宣言しても駄目なものは駄目だ!」
 叫んでから、綾那はコントローラを投げ捨てた。そして、頭をばりばりとかきむしりながら振り向く。
「……で、何がどうした」
「え。ああ、実は」
 思いのほかあっさりと綾那が聞く体制に入ったため、つられるように順もすらすらと先ほどの夕歩とのことを話してしまった。
 そして、話を聞き終わるなり、綾那は再び背中を向け、ゲームを始めてしまった。
「あの、綾那さん?」
「何かと思えば下らん。さっさと夕歩のところに行ってこい」
「だからさあ、その夕歩を怒らせちゃったわけで」
「知らん。夫婦喧嘩は夫婦間で解決しろ」
「や、夫婦だなんて照れちゃうなぁ、いやー。てゆうか何、ひょっとして綾那、嫉妬?」
「やかましい、さっさと行ってこい!」
 追い立てられるようにして部屋を出る。
「うわっ、なんでそんな怒ってるの……綾那、アノ日?」
「直接、口に出して言うな!」
 今度こそたたき出された順は、廊下で首を捻りながらも、刃友の部屋へと向かって歩き出すのであった。

 

 夕歩は自分の部屋で着替えを終え、何をするでもなく座り込んでいた。ルームメイトの増田恵は、夕歩の雰囲気を察して部屋を出て行ってくれている。この辺、敏感なルームメイトの気配りに感謝する。
 落ち込んでいるのは、自分自身に対して。
 順に対して、素っ気無い態度を取ってしまった。いつもだったら、足払いの一つでもかけて終わるところ、無視するという最悪の手段をとってしまった。無神経に見えて、順は意外なところで繊細である。
 苛々していたのは事実であったけれど、それは順に対してというより、自分に対して。順が本気で戦わない理由は、夕歩にあるから。そもそも、天地に入って戦いたいと望んだのは夕歩であるし、体の弱い夕歩のことを立ててくれているというのも分かっている。
 それでも時折、頭にくる。
 いつも、どこか諦めたような笑顔をしている刃友に。そして、親友にそんな顔をさせてしまっている自分自身に。
 夕歩はただ、全力で戦う順の姿が見たいだけなのだ。
 純粋に剣を振ることを楽しんでいた、あの頃のように。

 思考は、控えめなノックの音により中断させられた。
 こっそりと、夕歩の表情を窺うようにして入ってきたのは、予想通り順。まだ着替えてもいなくて制服のままだ。
「―――どうしたの」

 

 夕歩の表情は、先ほどと変わらないように見えた。即ち、機嫌はまだよろしくないということ。
 後ろ手で扉を閉めながら、順はおそるおそる口を開いた。
「いやー、あの、さっきのことを謝ろうかと」
「謝るのは、何に対して?」
「えーと、態度が悪かったことに対して?」
「……やっぱり、分かっていない」
 口をとがらせる夕歩。どうも、ますます不機嫌にさせてしまったようで、内心うろたえる。そして、無理矢理に順を送り出した綾那を恨む。
「順。こっち来て」
「ぃえ!?」
「いいから来る」
 逆らうことが出来ずに、忍び足で近寄っていく。
 どこか、怯えてしまう。
「あの~、ごめん、あたしバカだから」
「分かってる」
 最後まで言うことすら許されず、順はどうしたら良いのか戸惑う。付き合いの長い夕歩だけれども、分からないことは沢山ある。
「分かってるよ、順。順がどれだけ私のこと、考えてくれているか」
「え?」
 順には、夕歩が何を言っているのか分からなかった。
 夕歩は、怒っているのではなかったのか。
「だから、悪かったのは私。ごめん」
「え、え、なんで夕歩が謝っているの? どういうこと」
 混乱する。
 すると、夕歩の眉がまたつりあがる。
 怒っているのだかいないのだか、どっちなのか。
「順」
 近寄ってきた夕歩に、髪の毛をつかまれて引っ張られた。
「あ痛たたたた、ちょ、痛いってば夕歩……っ!?」
 髪の毛を引っ張られて前かがみになったところ、唇に何かが触れた。いや、何かというか、それは明らかに夕歩の唇なわけで、柔らかくて気持ちよくて、目の前で目を閉じている夕歩が物凄く可愛くて、頭の中がパニックになって。
 ようやく口が離れると、顔を赤くした夕歩が立っていて。
「あの、夕歩?」
「……これで、許す」
「は?」
「いいから。もう、出てって」
 背中を押されて、部屋の外に押し出される。
 怒っていたかと思ったら謝ってきて、そうかと思うとまた怒って、キスして許すって、さっぱり分からない。
 だけれども。
「……うひゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 唇に残っている感触だけは分かっている。

 

「綾那、綾那、愛してるっ!!」
「だああぁっ! なんなんだお前はっ!」
 部屋に戻るなり、綾那に抱きつく。今回は、順の方が速かったようで、綾那が反応する前にしがみついていた。
「この感激を貴女にも。プレゼントフォーユー! あたしの全てをあげるっ」
「いらんから離れろ!」
「ほら、背中に胸、あたってるよー、というかあてているんだけど、ほらほら」
「やかましい、というか露骨に分かりやすいやつだな。夕歩とは仲直りできたようだな」
「あー、ま、お陰様で」
「……良かったな」
「ありがと」
 照れくさいので、綾那の髪の毛に顔を埋めたまま、口にする。
 綾那は綾那でやっぱり恥しいのか、無視してゲームをしているけれど。
 わずかに首筋が赤くなっているのを目にして、思わず笑いそうになってしまった。

 

 夕歩は一人となった部屋で、佇んでいた。
 どれくらいそうしていたのか、不意に部屋の扉が開いた。
「あ、恵ちゃん」
「ただいまー……って夕歩、何か良いことあった?」
「え?」
「顔色が良くなっているし、なんだか嬉しそうな顔しているよ」
 恵が、楽しそうな顔をして聞いてくる。
 そうか、自分はそんな顔をしていたのかと思いながら、夕歩はそっと唇を指でなぞった。
「うちのバカがね」
「ん、久我さん?」
「本当に、バカだなって」
「―――へぇ。そうなんだ」
 なぜか、にこにこと笑う恵。
「どうして恵ちゃんが嬉しそうなの?」
「そう見える?」
 夕歩のことを見つめる恵の表情を目の当たりにしていると、なぜか逆に夕歩の方が気恥ずかしくなってきてしまい、顔を背けた。
 恵は自分の机に向かって歩き、買ってきた缶ジュースを置きながら楽しそうに口を開いた。
「夕歩が、嬉しそうだったからね」
「私が?」
 首を傾げると。
「うん。バカって言うとき、凄く嬉しそうな顔してた」
「―――!」
 素直な恵に素直に言われて、顔に熱が上る。
「あははっ、夕歩、真っ赤だよ」
「ゆ、夕陽のせいだよっ」
 そう言う夕歩の横顔は、窓から差し込む陽の光りを浴びて本当に赤く染まっていたけれど。
「そういうことにしておこうか」
「ど、どういう意味よ」
「はい、オレンジジュース。夕歩の分、買ってきたよ」
「ありがと……ってそうじゃなくて、恵ちゃん」
「あははっ、夕歩、かわいいね」
「も、もう」
 照れを隠すように口をつけたオレンジジュースは。

 ちょっと酸っぱくて、でもとても甘かった。

 

おしまい

 

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