それはまだ夏休みの最中、お盆の少し前のことである。美月に頼まれていた買い物に可南子と二人で商店街に出かけ、そこでよくある福引をやって。幾ら以上の買い物で補助券が一枚、十枚集めると一回出来るとかそういうやつだ。今までの買い物でたまっていた補助券とあわせ、可南子と二人で三回ずつ福引を行った。昔ながらの、ガラガラと回して中から色のついた球が出てくるやつである。
一つだけ可南子が500円分の商品券というのを当てたが、それ以外はすべて参加賞で最後の一回。祐麒が回して出てきた球の色は銀色、なんと見事に温泉の宿泊チケットを当ててしまった。
祐麒は美月に譲ろうとしたが、引いたのは祐麒だからと断られる。互いに押し付け合い、このままでは答えが出ないではないかというところで、美月がようやく折れた。
「――分かったわ、それじゃあ、これは有難く受け取ります」
頑固な祐麒にため息を吐き出す美月だったが、ただでは折れなかった。
「ただし、祐麒くんも一緒に来ること。幸い、四人まで大丈夫みたいだし」
とのこと。
なんだかんだと断り切れず、最終的には美月たちと一緒に三人で九月の連休を利用して温泉旅行とあいなったわけである。もちろん、家族にそんなことをまともに言えるわけもなく、男友達の家に泊まりで遊びに行っていることにした。
そういうわけで美月の運転する車に乗り、件の温泉旅館へとやってきたのである。
「のんびりと温泉旅行ってのも、いいものよねー」
旅館に来るまでには時間的余裕があったので、近くの観光地を見て回ってきており、今は夕方の五時、チェックインにも差支えのない時間になっているし、食事の時間にもあと少しというところで丁度良いかもしれない。
「うーん、空気も綺麗よねぇ」
車から降りて伸びをしている美月。
カットソーチュニックの上からカーディガン、下はカーゴパンツというリラックスした服装で、つかの間の休息を楽しもうという感じが出ているように見える。
「ほら、可南子も早く来なさいよ」
「もう、人に荷物持たせておいて」
大きなバッグを担ごうとしている可南子は、Tシャツの上からチェックのシャツ、そしてデニムのスキニーパンツとこちらもラフな格好。長い髪の毛も活動しやすいように、後ろでまとめている。
「可南子ちゃん、荷物は俺が持つから」
「わ……私のは自分で持つから」
手を伸ばすと、可南子は自分のバッグは抱き込むようにして、美月の分だけを祐麒に任せる。ずっしりと重量感のあるバッグを担ぎながら、どうして女性というのはこんなにも荷物が多いのだろうと不思議に思う。たかが二泊の旅行、祐麒などちょっとした着替えとかくらいでたいした量にもなっていないのに。
「ほらユウキ、早く行くわよ」
長い足でさっさと歩く可南子を追いかけ、さらに先に旅館に入っていた美月の後を追う。中に入ると、美月はカウンターでチェックインの手続きを行っていた。
「――はい、承っております。細川さま、三名ですね」
女将らしき上品な女性が応対している。
それなりに老舗の旅館ということで、中は広くしっかりしている。きちんと手入れがされているのだろう、古いという印象は抱かない。
ロビーをそんな風に眺めていると。
「ご家族で旅行ですか?」
「はい、娘夫婦に招待されて」
「まあ、随分とお若く見えますけれど」
「二人とも学生結婚なもので」
「いえ、あ、それもそうですが、お客様の方がお若くてお姉さまかと」
「あら女将さん、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
カウンターでやり取りをする、美月と女将さんのそんな会話が聞こえてきていた。おそるおそる隣の可南子を見ると、それはもう恐ろしい形相をしていて、とてもじゃないが話しかけられる雰囲気ではなかった。
「――ちょっとお母さん、どういうことよ!?」
部屋に案内され、仲居さんが一通り説明を終えて部屋を出て行ったところで、可南子が金切り声をあげた。
「え、どういうことって、何が?」
「何がって、決まっているじゃない。どうして私がユウキなんかと……その……ふ、ふ、ふ……」
別に笑っているわけではない。可南子は逆に怒りで顔を真っ赤にしている。
「ああ、だってほら、全く他人の祐麒くんと宿泊するのって不自然じゃない。だから、夫婦ってことにしたのよ。それに、娘夫婦ってなんか響きが良くて」
悪気など全くない笑顔で答える美月だが、いくら可南子の背が高くて大人っぽいといってもまだ高校一年生であるし、祐麒だって童顔なわけで、この二人が既に結婚しているという設定の方がよほど不自然に思える。
「あ、それとも、私と祐麒くんが夫婦で、可南子が私の妹の方が良かったかしら?」
冗談ぽく言う美月だったが、その方がまだ不自然さは少ないかもしれない。美月と可南子が母娘だということも、見た目ではかなり不自然なほど美月は若々しいのだから。
「――知らないっ。私、ちょっと旅館の中を見てくるわ」
機嫌を損ねた可南子は、ぷいとそっぽを向くと、ずんずんと歩いて部屋を出て行ってしまった。
残された祐麒は、自分が悪くないにせよなんだか気まずく感じる。
「ごめんね祐麒くん、可南子ったら照れているだけだから」
「そうは見えませんでしたけれど……」
「女心が分からないのね。ま、祐麒くんらしいけれど」
美月はくすくすと笑うが、果たしてどんなものなのか。こうして一緒の温泉旅行に来ているのだから、嫌われているわけではないと思う。
「さて、と。私はせっかくだから夕食の前に温泉に入ってくるわ。祐麒くんはどうする?」
「俺は部屋で待っていますよ。可南子ちゃんが戻ってきたとき、誰もいないと困るでしょう」
「分かった、それじゃあよろしく」
着替えと部屋に備え付けのタオルを手にして、美月は温泉へと向かって行った。祐麒は一人部屋に残り、館内の案内であったり、部屋に置かれていた新聞を手に取って読んでみたりした。
静かな温泉旅館、美人の母娘と一緒の部屋に泊まるなんてとんでもないことだと思うが、美月のいつものペースに乗せられてあっさりとついてきてしまった。だが、いざ部屋に到着すると、本当に一緒の部屋で寝ることになるのかと改めて思う。部屋の広さ的に、三人なら布団を少し離して敷けそうだが、同じ室内、空間であることに違いはない。
三人いるし、間違いが起こるとは思わないが、危険ではある。特に、美月を必要以上に酔わせてはまずいだろうと思った。
「――――あれ、お母さんは?」
しばらくすると、外を歩いて冷静になったのか、少なくとも表情だけはいつも通りに戻った可南子が部屋に帰ってきた。
「温泉。可南子ちゃんも入ってくれば?」
「私は、食事の後でいいわ」
それだけ言うと、部屋の隅に置かれたバッグの元へいき、祐麒に背を向けたままバッグの中をごそごそといじっている。別に覗くつもりは無いが、それを示すために持ってきた文庫本を開いて目を落とす。
さらにしばらくすると、美月が戻ってきた。
「ふーっ、広いお風呂は気持ちいいわねっ」
既に浴衣に着替えており、湯上りでほんのりと桜色に染まった首筋が色っぽい。畳に腰をおろし、しなを作る姿もまた艶がある。こればかりは、今の可南子に出すことはできないものである。
美月が戻ってきて間もなく、夕食の時間となった。地元で採れた山菜と川魚の料理は文句なく美味しく、三人で舌鼓を打って完食。美月もビールを飲みはしたものの、この後にまたお風呂に入るということで量は控えめ、乱れることもなくてホッとする。
食事を終えて部屋に戻ると、布団が敷かれていた。もちろん三組の布団で、等距離間隔ではあるが、それでもドキッとしてしまう。どこで寝ようとも、どちらかとは隣り合うことになってしまうのだから。
可南子を見れば、唇を固く結んで黙って布団を見つめている。一方で美月は、そんな可南子と祐麒の様子を見て頷く。
「やっぱり、祐麒くんを真ん中にして、私と可南子でサンドイッチするのがいいわよね」
「なっ……ユウキと隣で寝ろっていうの? そ、そんなの」
「それじゃあ、祐麒くん端っこで私が真ん中ならいいかしら?」
「そ、そんなのも駄目よ」
「何よ、ダメ出しばっかりして、どうすればいいのよ」
祐麒を無視して二人で言い合いを繰り返し、結局は当初のように祐麒を真ん中にして左右に可南子、美月が寝る形で収まったが、祐麒との布団の距離を広くとることにした。
「もう、無駄に疲れちゃったじゃない。またお風呂入ってこようかしら」
「あ、じゃあ私も行く」
「祐麒くんも行くわよね?」
もちろんそのつもりで頷き、それではと勇んで浴場に向かおうとしたところで美月に呼び止められた。
「――あ、二人とも、そっちじゃないわよ」
足を止めて美月の方を見ると、意味深な笑みで手招きする。
可南子と顔を見合わせて首を傾げつつも後を追いかけていくと、するとそこには。
「え……何これ」
「じゃじゃん! 家族風呂です」
得意げに胸を張る美月に対し、驚いて声も出ない可南子。
こじんまりとしながらも、センスの良さを感じさせるその家族風呂は半露天風呂といったところか、夜空も見えるようになっている。
しかし、こんなものがあるなんて聞いていなかった。
「うん、内緒にしていたし、案内してくれた仲居さんにも説明は良いからって言っておいたし」
更に、部屋に到着してすぐに可南子は機嫌悪くなって旅館内探索に行ってしまったし、祐麒は室内でごろごろしていて家族風呂の存在に気が付けなかった。
「家族風呂があるから、可南子と祐麒くんは結婚していることにしたのよ。男女でいかがわしい行為に耽るような人がいるから、親子、夫婦じゃないとダメなのよね」
その論理で言うなら、明らかに祐麒は駄目だろうと思うのだが、美月の中では勝手にセーフだと変換されているようだ。プライベートに楽しめる家族風呂というのは確かに魅力的でもあるが、幾らなんでも無茶があり過ぎる。
「わ、私は入らないわよ。大浴場があるんだから、そこでいいじゃない」
踵を返そうとする可南子。
「ほら、祐麒も……」
と、祐麒の腕も掴んで一緒に引き返そうとした可南子だったが、一瞬早く美月の方が祐麒の腕を引き、可南子の手が空ぶる。
「祐麒くんは、家族風呂に入るよね?」
身を寄せて訊いてくる美月。
「え? いや、あの俺は――」
さすがにまずいでしょうと言いかけたところ、美月に小声で呟かれる。
「……可南子と一緒に入りたくないの?」
「あの、でも」
「頷かないと、あのこと、可南子に言っちゃうわよ」
「なっ……!?」
思わず絶句する。いや、『あのこと』がなんなのか分からないのだが、こうして意味深にいわれると何かあるような気がして落ち着かなくなる。
「――大丈夫、実はちゃんと水着、持ってきているから。可南子の分もね」
今度は声を大きく、可南子にも聞こえるように言う。
「入るわよね、一緒に」
見つめられると、もはや祐麒としては頷くしかなかった。
一方で可南子は、いくら水着があるとはいえさほど広くもない家族風呂に一緒に入ることを否定していたが、だったら一人で大浴場に行けばよい、美月と祐麒の二人で家族風呂を楽しむからと言われては、一人だけ出ていくわけにはいかなくなった。
こうして美月の策略通り、三人で家族風呂に入るという流れになる。
「――お待たせしました」
姿を見せた美月と可南子は宣言通りに水着姿だった。
ローズピンクのストラップレスベアトップビキニの美月に、花柄のショーツとイエローのバンドゥビキニ姿の可南子。
プールで可南子の水着姿は目にしていたが、美月の水着姿は初めてかもしれない。形よく程よい大きさのバストにキュッと引き締まったウェスト、ぷりっとした柔らかそうなヒップにすらりとした足。想像していた通りのスタイルは見事としか言いようがなく、細くて凹凸感というところではやや欠ける可南子と比べると、より女性らしい体型に見える。
何より、放たれる色気というか色香というかが、半端ない。
「どうかしら、今日のために新調しちゃった。この夏、祐麒くんには水着姿、見てもらえなかったしね」
「と、とても良く似合っていると思います」
「本当? 嬉しいなぁ、それじゃあ褒めてくれたお礼にサービスしちゃいますから」
美月は祐麒の腕を取って洗い場に腰を下ろさせる。
「ちょっ……と、なんでユウキは水着じゃないのよっ!?」
「そ、そんなの、用意してきているわけないだろっ!?」
タオルで前を隠しているだけの祐麒を見て、可南子が顔を赤くして怒るが、祐麒だってこんな状況を想定できるわけもないのだから仕方ないだろうに。
「男の子は堂々としていた方が格好いいわよ。なんならタオルも取っちゃったら?」
「や、やめてくださいっ」
慌ててタオルを両手でおさえる。
「お母さん、何やっているのよ」
「祐麒くんの体を洗ってあげるのよ。可南子もそれくらいしなさいよ、旦那様なんだから、お背中お流ししましょうか、って」
「できるわけないでしょうっ」
水着姿のまま仁王立ちで答える可南子だが、美月は気にした様子もなく祐麒に身を近づけるようにしてタオルを泡立てる。ベアトップのせいか、余計に胸の膨らみが目立つような気がして、そこに目が向いてしまう。
「何、恥ずかしいの? 水着姿くらい、プールで見ているでしょうに。体ばかり大きくなっちゃって、仕方ない、祐麒くんのことは私が全身くまなく、綺麗にしてるわ」
呆れたようにため息をついて見せた後、美月はにっこりと祐麒に微笑みかけ、腕を掴んできた。
「駄目駄目な娘にかわって、私がお世話させていただきますね」
タオルをこれでもかと泡立て、その泡が美月の胸に、お腹に、太ももに付着する。それだけなのだが、それが何ともいやらしく感じてしまうのは妄想しすぎだろうか。
「わっ……私だって、それくらいできるわよっ」
「え、可南子ちゃん? そんな無理しなくても……」
諌めようとした祐麒だったが、これが完全に逆効果だった。
「無理? 無理って何よ、お母さんにできて私にできないわけないでしょう。何よ、ただ体を洗うくらい、なんてことないわ」
可南子のプライドを無駄に刺激してしまい、阿修羅のごとき形相で可南子はタオルを泡立てると、殺気をまとったまま祐麒の背後に回る。そしておもむろにタオルを背中にあてたかと思うと、壁のしつこい落書きを消すかのごとく勢いで上下に往復させ始めた。
「ど、どうよ、ユウキ」
「あ、うん、き、気持ちいいよ」
本当は少し痛いくらいなのだが、ここで文句を言うとまた怒られそうなので黙っておくことにした。疲れた体には少し強いくらいの方がいいだろうと、なんの根拠もなく納得することにして。
「それじゃあ、私は腕を洗ってあげましょうかしらね」
美月に腕を取られ、こちらは丁寧に現れる。
「可南子、背中終わったら次は前を洗ってあげるのよ」
「はぁ!? ままま、前って、そんなこと出来るわけないでしょ、さすがにっ」
「あら、じゃあ、前は私ということで……」
「わ、私がやるわよっ」
「可南子ちゃん、前は自分で手が届くし」
「何よ、ユウキも私じゃ出来ないとでもいうの? 馬鹿にしないでよねっ」
とは言いつつもやはり恥ずかしいのか、正面にまわってくるようなことはさすがに出来ない可南子。ぐずぐずしていると隣にいる美月が意味深な笑みを浮かべるので、可南子はそれを睨みつけ、意を決したように手を伸ばした。
「……かっ、可南子ちゃん!?」
「う、動かないで、これでもちゃんと、前、洗えているでしょう」
「そ、そうかもしれないけれど……っ」
なんと可南子は、背後から前に手を回して祐麒の胸板を洗い始めたのだ。これならば確かに、お互いを見ながら洗う事態には陥らないが、二人の肉体接触率は急上昇する。先ほどから背中に、可南子の胸らしきものがかすめたり、あるいはそれ以上に触れたりして、なんだか色々とヤバい。
「可南子、そんな弱くじゃちゃんと洗えないわよ。もっとごしごしとしなくちゃ」
「そ、それくらい……」
「しようがないわね、手伝ってあげるわ」
そう言って美月はさらに可南子の背後に回ると、可南子の手を掴んで祐麒の胸をごしごしと洗い始めた。
「ちょ、ちょっと、お母さんっ」
「ふわっ!? かかかっ、可南子ちゃんっ!?」
美月の位置からだと間に可南子を挟むので、洗うために距離を縮めようとすると必然的に三人の体が密着するようになる。即ち、美月に押されて可南子は祐麒の背中に抱き着く格好になってしまった。
水着を身に付けているとはいえ、素肌の背中に押し付けられる可南子の胸。しかも偶然なのかわざとなのか、可南子の手を掴んで動かしている美月の指が、祐麒の乳首周辺を執拗に擦ってくるのだ。
「や……やばいって、可南子ちゃん、美月さん、ストップ、ストップ!」
「ん~~、何がやばいのかしら?」
「お母さん、押さないでよっ、もうっ……」
可南子も必死に抵抗し、ようやく三人の体が離れるころには、祐麒は相当に気疲れしていた。
ぜえはあと荒い呼吸を繰り返しつつ、母娘の方に目を向けてみれば。
「――それじゃあ、次は祐麒くんに私の体、洗ってもらおうかしら?」
などと言い出す美月。
「そんなの駄目よお母さん、こいつ、エッチなんだから、そんなことさせたら洗うのを口実に何されるかわかったもんじゃないわよっ」
「いや~、それを可南子が言う?」
「は? どういう意味よっ?」
三人で入ったお風呂は案の定とんでもないことにはなったが、幸いにしてこれ以上のハプニングは発生せずに終えることが出来た。祐麒としては思いがけないボーナスのようなものだったが、それ以上に気疲れ、精神的疲労の方が大きかったよう気がした。
「――お風呂上がりのビールは最高よね。可南子も飲む?」
「私は未成年」
「いいじゃない、親がいいって言ってんだから。つまんないわねぇ、それじゃあ祐麒クン、一緒に飲もう」
有無を言わさずに缶ビールを持たされると、乾杯とばかりに缶をぶつけてくる美月。確かに風呂上がりのビールは堪らないのかもしれないが、それ以上に今の祐麒には美月の方がヤバかった。
夕食前の時は部屋の外に出ていたこともあってか、浴衣の下にシャツを着ていたのだが、今は浴衣の下は何も身に付けていない。なぜわかるかというと、浴衣の胸元からチラチラと生の乳房の膨らみが見てとれるからである。
「ここから先はお酒を飲める大人だけの時間よ、可南子は子供なんだから、そろそろお布団に入りなさい」
酔っぱらってきた美月が、可南子をからかうように言う。可南子は最初、気にしていないとでもいうように本をに目を落としていたが、読んでいないのは明らかだった。
飲むごとに色香を増し、祐麒との接触回数が増えていく美月に業を煮やし、邪魔しようとするも「大人ゾーン」と言い張る美月にあしらわれ、とうとう限界突破した可南子は、美月が購入していたビールを冷蔵庫から取り出すと、プルタブをあけて一気に一缶を飲み干した。
思わず、「おおーっ」とか言いながら拍手してしまう美月と祐麒。
対して可南子は。
「…………これで、文句ないでしょ?」
目の据わった可南子がそこにいて。
そして二時間ほど過ぎた頃には。
「…………なんと、目に毒な……」
祐麒を間に挟んで、母娘で勝手に飲みあい潰しあいの様相を呈した挙句、二人とも寝てしまった。
胸元のはだけた美月は、形の良い胸が半分以上露出して、もう少しでその頭頂部までが見えてしまいそうになっている。
一方の可南子は裾が大きく乱れて長くすらりとした足がむき出しになっていると同時に、ショーツが見え隠れしている。
しかも二人とも、祐麒に割り当てられた真ん中の布団でダウンしてしまっている。
空いている左右どちらかの布団を使用すれば問題なく眠れるが、どちらかが目を覚ました時にまた騒ぎになりそうだし、なんとなく躊躇してしまう。
しばらく二人が目を覚まさないかと待ってみたものの、気配はない。どうしようか困った祐麒だったが。
「…………そうだ、今のうちに風呂にでももう一回、入ってこようかな」
食後の入力ではゆっくりと温泉を味わうことも出来なかった。
そうと決まれば話は早い、もう一度二人の様子を確かめ、起きる気配がないことをみてとり、祐麒は一人いそいそと風呂に向かったのであった。
つづくか?