俺の名前は……まあ、どうでもいい。単身者用のマンションに住んでいる、しがない大学生である。
マンションの立地には満足しているが、昨年、目の前に新しいアパートが建築され、景観が一気に悪くなったのが気に入らない。俺の部屋は角部屋でベランダ以外に窓があるのだが、その窓から見える景色がアパートによって潰されてしまったのだ。
とはいえ、景色など特に楽しんでいたわけではないし、洗濯物はベランダに干せるから、実害はさほどないといえばないのだが、思いがけない弊害が起きた。
窓から見えるのはアパートの外廊下なので、アパート部屋の窓から互いの部屋が見えるなんてことはないから、その点は良いのだが、色々と気になることが目に入るようになってくるのだ。
この春、アパートに新たな住人が引っ越してきた。季節的にも見た目的にも大学生が一人暮らしを始めたというところだろう。家族らしき人たちと引っ越しをして、暮らし始めた男の部屋が、俺の窓の目の前にある扉の部屋だった。
別におかしなところは何もない。そんな男に俺は興味ないし、自分の生活に害をなさない限り、何も思う所はなかったのだが。
それが変わったのは、四月のとある週末のこと。
俺は基本的に部屋にいるときはネットワークゲームをしていることが殆どだが、その位置からちょうど窓の向こうが見える形になる。常に目を向けているわけではないが、何か動きがあれば気が付くし、気にはなる。
金曜日の夕方、向かいのアパートの廊下に人の動く姿をとらえ、ちらと視線を向けて驚いた。
理由はいくつかあるが、一つはやたら背の高い女の子だったということ。おそらく身長180センチ以上はあるだろう、おまけに髪の毛も長い。
二つ目は、その女の子が着ているのが、お嬢様学校で有名なリリアン女学園の制服で会ったこと。
三つめは、横顔ではあるけれど、女の子が結構な美少女であること。
単身者用のアパートで女子高校生が一人で住んでいるわけもない、それに今まで見かけたこともない、となると誰かを尋ねてきたのであろうが、女の子が向かう先の部屋はこの前引っ越してきた男の部屋。
窓は開けており、風向き的にこの部屋だと声の大きさによって話し声も聞こえてくることが結構ある。
女の子がインターフォンを押してしばらくすると男が姿を見せる。
「……いらっしゃいカナコちゃん」
「来てあげたんだから感謝してよね、ユウキ」
そんな会話が聞こえてきた。
女の子はカナコちゃん、男の方はどうでもいいけれどユウキというらしい。ユウキはカナコちゃんをエスコートして室内に入れる。二人は付き合っている、ということだろうか。一人暮らしの男の部屋に上がるのだから、そういうことなのだろう。悔しいけれど、悔しがったところで仕方ない。仕方ないのだが……
翌土曜日の昼過ぎ、夜遅くまでゲームをしているので、俺の生活リズムとして土曜の昼過ぎに目覚めるのはいつも通りのことだ。起き出し、顔を洗い、ミネラルウォーターを取り出していつものポジションに座ってPCを立ち上げる。ペットボトルのキャップを開き、口をつけてぐっと飲み込んだ瞬間、窓の外に見える扉からカナコちゃんが出てきた。
「ぶふっ!?」
思わず水を噴き出す。
「げほっごほっ! かはっ……はっ、くはっ!」
びしょびしょに濡れるシャツの胸元だったが、PCに水がかからずにとりあえずホッとするが、そんなことよりも重要なことはカナコちゃんだった。一人で噎せている間に見逃してしまったが、しばらくすると戻って来た。
服装は昨日の制服姿ではなく、パーカにクロップドパンツというラフな格好になっており、髪の毛は後ろで束ねている。そして、手には新聞を持っていて、そのままユウキの部屋の扉を開けて入っていった。
「なっ……お、お泊まりしたってことか!?」
確かに昨日、帰宅した姿を見なかったが、俺だってひと時も目を切らさずにいるわけではないし、ゲームに集中したり、トイレや風呂に入ったり、食事で席を離れたりすることもあり、気付かないうちに帰ったのだろうと思っていたのだが。
まさか、リリアン女学園に通う女の子が学校帰りに彼氏の家に行ってお泊まりするなんて思っていなかった。
「ということは……ヤッたってことか!?」
彼女と一晩一緒に居て、何もしないなんてことはないだろう。となればヤることなど一つ、まさか夜通しオンラインゲームにはまっているなんてこともないだろう。
俺が生まれてこの方彼女などいない童貞だというのに、方や美人なお嬢様を彼女に持って既にヤッている奴。単なる僻みと言われても仕方ないが、この時から俺はユウキを敵とみなすようになった。
☆
「いらっしゃい可南子ちゃん。どうぞ、中に入って」
大学生になって始めた一人暮らしのアパートに、初めて可南子がやってきた。しかも学校帰り、一度家に寄ることもなく、まっすぐに来てくれたのは嬉しかった。可南子の家まで戻っていたら逆方向で時間がかかりすぎるというのもあるが、リリアンに通う可南子が校則を破ってまで来てくれたというのが何より嬉しい。
「お邪魔します……へえ、ここがユウキの部屋なんだ」
おそるおそる、といった感じで1Kの部屋の中に足を踏み入れる可南子。緊張している様子だが、祐麒だってもちろん緊張している。
「ああ、好きな場所に座ってていいから」
とりあえずお茶でも出そうかと思った祐麒だったが。
「待って。何よ、こんなごちゃごちゃした部屋に座らせるつもり? もうちょっと片付いていると思ったけれど、やっぱり駄目ね」
「えっ……そうかな、そんなに汚れてる?」
「女の子を部屋に呼んでおいて、これはないでしょう。立って、掃除するわよ」
「ええっ、これから?」
「文句言わない、ほら」
と、上から睨まれて言われては、祐麒も素直に従うしかない。
ではどこから片付けようかと思っていると、可南子が通学鞄から何かを取り出した。
「……何よ?」
「いや、別に」
怒られないように横目で見ていると、掃除の邪魔にならないよう長い髪の毛をゴムで手早くまとめあげ、さらに持参してきたらしきエプロンを身に付ける。制服姿にエプロンという可南子の格好がツボに入り、横目ではなくじっと見てしまう。
「せ、制服が汚れたら嫌だから、当然でしょう?」
わずかに頬を赤くして言う可南子だったが、ということは最初から掃除をしてくれるつもりだったのか。
「ほ、ほら、ぼーっとしてないで、ユウキは出しっぱなしの本とか服とか片付けて。私はこっちをやるから」
「あ、はい、はい」
ビシッと指をさされ、慌てて指示に従って掃除をする。年下の可南子ではあるけれど、別に悪い気はしない。
たいして広い部屋でもないし、荷物だって今のところさほど多くないので、二人で片付けて掃除をすればさほど時間もかからずに終えることが出来たが、始めた時間がそもそも遅いので、既に陽も暮れている。
掃除を終えて一休みしたところで、タイミングよく、注文しておいたピザの宅配が届いた。良い匂いが室内に広がる。
「ピザ? そんなのばかり食べていると、体によくないわよ」
「いや、今日は作る暇なかったし、いつもじゃないから」
「本当に? あやしいなぁ……やっぱり、たまにはどんな食生活をしているか、監視しにくる必要がありそうね。掃除だってあやしいし」
それ即ち、ちょくちょく遊びに来るということを言っているのだろうか。祐麒としたらもちろん嬉しいのだが、可南子の表情と言動から推し量るのは今になっても難しい。
ピザとチキンとサラダを食べ終え、腹が膨れたところでDVD鑑賞。祐麒が大学の帰りに借りてきたのは、可南子が好むフランス映画。祐麒はさほど面白いと思えないのだが、可南子が好きなものを優先した結果である。実際、可南子は食い入るように観ているので、チョイスとしては成功したということだろう。
しかし祐麒にしてみればさほど映画に集中できず、だからといって途中で可南子にちょっかいを出したら本気で怒られるので、辛抱して待つしかない。時折、真剣な表情で画面に見入っている可南子の横顔を見て、映画の退屈さを紛らわす。
やがてようやく、映画がエンディングに到達する。
「…………うん、面白かったわね。いい作品だったわ……て、ユウキ?」
我慢しつつも、少しずつ可南子との距離を詰めていた祐麒は、映画の終わりを確認して可南子の肩を抱いて顔を寄せる。
「ちょ、ちょっと……ん……っ」
キス。
可南子が手で祐麒の顔を挟んで押しのける。
「ちょっ……ピザとチキンがまだ残っているのに」
「構わないし、俺の我慢が限界なんだけど」
「な、なんで、いきなりがっついてくるのよっ。いつもは……」
再び唇を重ねながら、制服の上から胸を撫でる。
「……っ、ちょ、ダメ、制服が皺になっちゃうじゃない」
「でも、制服姿の可南子ちゃんが可愛くて……ほら、制服でしたこと、なかったから」
「馬鹿じゃないの、なんでそんな……んっ、だから、もうっ…………」
スカートに包まれた太ももを撫でつつ、裾を少しずつたくしあげていく。可南子の言う通り、いつにも増して積極的な自分に驚くが、もしかしたら自分のテリトリーの中にいるからかもしれない。
「ユウキ、だから……もうっ」
強い力で離される。さすがに少し強引過ぎたかと反省して可南子を見ると、僅かに顔を赤らめて唇を手の甲で拭いつつ、鋭い視線で祐麒を見つめてくる。内心、ちょっとばかりビビる。
「ご、ごめん可南子ちゃん。あの」
「だから、制服が皺になって汚れちゃうから……で、してあげるから」
「俺も強引には…………え?」
「ほら、だから、さっさとして」
と、ベッドの上に座らされると、可南子は床に膝をついたまま祐麒のズボンに指を伸ばす。
落ちてくる長い黒髪を指ですくいあげて耳にかけ、赤面しながら手を動かす。
「別に、したくてするんじゃないわよ、制服が汚れるのが嫌だから、それだけだから……」
可南子の口が開き、小さな舌がそっと、優しく触れてきた。
「――――ああっ、もうサイアク!!」
いきなり、隣から大きな声が聞こえてきて目が覚める。
もぞもぞと毛布の中で寝返りを打ち、声のした方に顔を向け、いまだ半分くらいしか開かない目で見ると。
長い黒髪に隠れた背中のラインと白いお尻の割れ目が視界に入る。
「どうしたの……可南子ちゃん?」
「どうしたもこうしたも……制服が、あああ……」
床に脱ぎ捨ててあったリリアンのワンピースの制服を拾い上げた可南子が、絶望の嘆きを漏らしている。
よく見れば、いたるところに染みのような汚れが付着しているのが分かる。考えるまでもなく祐麒が放出したものによる汚れで、限界間近まできたときに、つい腰を引いたことでそのような惨事となった。
当然、その時に可南子は怒ったのだが。
「ちょっ……何してくれるのよ、ユウキっ!」
「あ、ご、ごめん」
「勿体ないじゃない!!」
――という怒りであり、べたべたに汚れてしまった制服については、その時点では一言も言及されなかったのだ。そして怒った可南子は祐麒を倒して上に乗っかってきて、激しく求めてきた。制服の上半身は祐麒のせいかもしれないが、下半身のスカートを汚しているのは祐麒のせいというよりも可南子自身のせいだと思う。
一度スイッチが入ると可南子は服の事とか気にしなくなるので、よく着エロになってしまうのだが、それはそれでエロいので祐麒としても悪い気はしない。ただ、終わった後に汚れた服を見て怒り出すのだけは勘弁してほしい。
「もう、クリーニングに出すの恥ずかしいじゃない、これじゃ……」
「俺が出しておくからさ、置いていってよ」
「えー、女子高校生の制服をクリーニングに出しに行くのって、変態くさくない?」
「じゃあ、可南子ちゃん自分で行く?」
「…………私の制服で変なことしないでよ?」
「しないって」
「本当に? あやしいわね……そんなにしておいて、説得力ないし」
と、可南子がちらりと視線を向けてきたのは祐麒の下半身。
「いや、これは朝の生理現象で……」
「もう、こんな状態じゃあ誰か女性を襲いかねないじゃない」
「俺は犯罪者か。そんなことするわけないじゃん」
「分からないわ、それじゃあ。被害者を出さないため、しようがないから……するだけだからね。勘違いしないでよ」
僅かに頬を赤くして言いながら、止める間もなくいきり立った祐麒のソレを指でつまみ、小さな口を大きく開いた。
「…………んっ」
喉を鳴らして、最後まで飲み込んだ。
口元を指で拭い、大きく息を吐き出す。
「…………ふぅ」
上気し、どこかうっとりしたような表情の可南子。
「まったく、こんな朝から二回もなんて、どれだけよ」
と言う可南子だったが、二回目は半ば無理矢理可南子に元気にさせられたようなものである。何せ、前立腺を刺激しながらしてくるのだから。どう考えても可南子の方がスキモノで、昨夜だって搾り取られたのは祐麒の方であるのだが、可南子曰く「ユウキが助平すぎるから仕方なく付き合ってあげている」ということらしい。
「二回目だっていうのに、こんなに濃い……」
唇に付着したわずかな量さえ勿体ないというかのように舌で舐めとる姿が堪らなくエロティックに見える。そういう姿を見せられるから、否応なしに元気にさせられてしまうのだ。
「か、可南子ちゃん」
抱き着く。
「ちょ、ちょっと、何押し付けてきているのよ!? まだ物足りないっていうの」
「可南子ちゃんがエロすぎるからいけないんだってば」
ぐいぐいと押し付ける祐麒だったが、可南子に押し戻される。さすがに強引過ぎたかと思う祐麒だったが。
「――ゴムも付けないで、やめてよね」
「あ、そ、そうか……って、しまった」
夜のうちに一箱を使い切ってしまい、手元に予備もなかった。底なしの可南子を相手にするのだから、準備不足といわれればその通りだが、まだ引っ越してきたばかりで日常生活に慣れることを優先していたのだ。
離れていく可南子を止めることも出来ず、仕方ないかと頭を振って俯いていると、その目の前に可南子の手が差し出された。手のひらの上には小さな箱が乗っている。
「可南子ちゃん、これって……」
「ユウキをそんな状態のまま放置したら危険だからね、もしもの時に備えて念のため持ってきていたの。仕方ないから、はい」
「あ、ありがとう可南子ちゃん」
まさかリリアンの学生服で購入したわけではないよな、そんなことを考えながら受け取り、新品の封を開ける。そのまま装着しようとして、ふと手を止める。自分は良いが、可南子の方はまだ準備が整っていないのではないかと。
しかし。
「……何、手間取っているのよ。仕方ないわね貸しなさい、私が着けてあげるから」
勘違いした可南子に取られて手早く装着させられ、そして肩を掴まれて押し倒される。
「さっさと収めないと駄目だから、こんな危険なモノ……」
言いながら祐麒の体を跨いできた可南子を見て。
既に準備万端な状態になっていることに気が付いたのであった。
「――――ちょっとユウキ、いつまで寝ているのよ」
シャワーを浴びてスッキリした表情の可南子が、いまだベッドの上で大の字になって寝ている祐麒の姿を見て呆れたように言う。
「ほら、新聞と郵便物、取ってきてあげたわよ。ダイレクトメールばかりだけど」
テーブルの上にどさりと置かれるのを見て、のそりと体を起こす。
目が覚めたのは十時前だったはずだが、いつの間にか午後になっている。どうやら満足したらしい可南子は表情も明るく爽やかな様相さえ見せるが、昨夜からこの朝と昼にかけて何度も相手をして、さすがに祐麒も疲れていた。
可南子はいつの間にか勝手に祐麒のシャツとパーカを着ていたが、特に文句を言うつもりは無い。
その後、祐麒もシャワーを浴びてさっぱりしてから遅い食事をとってから帰宅する可南子を見送り、部屋に戻るついでにクリーニング屋に寄って可南子の制服を出して戻って来た。
週末、一人暮らしの部屋に彼女が遊びに来て泊まっていく。これぞ一人暮らしの醍醐味だと思いつつ、逆に邪魔が入らない分、可南子も遠慮なく何度でも求めてくるのだからなかなか大変ではあるのだが。まあ、口ではどう言おうともエロいことが大好きだというのは歓迎である。
「……とはいえ可南子ちゃんも今年は受験生、我慢しないとな」
そう呟きベッドに横になると、置いてあったスマホが振動した。
画面に目を向けると――
☆
午後になるとユウキとカナコちゃんは二人して部屋を出て行った。カナコちゃんはリリアンの制服ではなく、シャツにパーカという先ほど目にしたのと同じ格好。昨夜どれだけヤリまくったのかと、何度考えてもいらついてくるが、そんなことばかり考えていても仕方がない。
どうせそのうち別れるだろう。あんな、たいして冴えない男にいつまでもカナコちゃんのような可愛い女の子が付き合っているとも思えない。リリアンに通っているのだからきっと世間知らずのお嬢様で、恋に恋してうっかりあんな男と付き合うことになってしまったのだろう。
ユウキに対する怒りをゲームにぶつけていると、やがてユウキは一人で部屋に帰って来た。さすがにもう一晩お泊まりなんてことはないのだろうと、内心でホッとする。
とりあえずカナコちゃんが帰宅したことで落ち着きを取り戻し、ゲームに集中すること二時間、そろそろ夕食のことでも考え始めた頃、カツカツとよく響く音が聞こえてきた。ふと視線を窓の外に向けてみると、一人の女性がアパートの廊下を歩いており、そのヒールの音が響いているのだった。
やや茶色の入ったセミショート、ブラウスの上にカーディガン、タイトスカートとどこかのOL風の装いの女性は見た目三十前後か。横顔はなかなか美人だが、その足の向かう先がユウキの部屋としか思えない。
母親にしては若すぎるし、歳の離れた姉か何かだろうかと思っていると、扉が開いてユウキが顔を覗かせた。
と、次の瞬間。
「ユウキくんっ!」
なんと女性がユウキに抱き着いていきなり頬に唇を押し付けた。
「……っ、ちょ、ミヅキさん、いきなりなんですかっ」
「だって、チャイム押す前に出てきてくれたから嬉しくて。あたしの足音だって分かってくれたんでしょう? それとも待ちきれなかった?」
「いや、ミヅキさんが出迎えろって言ってきたんでしょ」
「んふふ、いーからいーから、部屋に入りましょう」
ミヅキさんはユウキの腕に自分の腕をからめ、引っ張るようにして中に入っていった。俺はその光景を、ただ唖然として眺めていた。噴き出してしまったペプシを拭くことも忘れて。
「……ふ、二股だと!?」
しかもカナコちゃんのような可愛い女子高校生と、年上の社会人お姉さんの二人、それを同日に時間差で部屋に連れ込むなんて、どんだけ厚かましいというか図太い神経をしているのだろうか。
「……ユ、ユウキ、こいつは絶対に許さない……!!」
俺の呪詛にまみれた日々は、こうして始まった。
☆
可南子を駅で見送って部屋に戻った後、まるではかったかのように美月からメールが来たことには驚いた。内容は、『仕事が終わったのでこれから遊びに行くね! 土曜出勤の疲れを祐麒くんに癒してもらいたいな!』というもの。こちらの都合も聞かずに言ってくるところが美月らしいが、それを断れない自分もどうかと思う。
「ふうん、ここが祐麒くんの城なわけね……あら、これは」
「え? あ、いや、それはっ」
美月が床から拾い上げたのは長い一本の黒髪。使用していたシーツは汚れてしまったので真新しいのに取り替え、床掃除もしたが、完全に取り除くことは出来なかったのだ。
「分かっている、だって昨日あの子、友達の家、乃梨子ちゃんのところに泊まってくるって言ってたしね」
「いや……」
「大丈夫、あたしは気にしないし。あ、でもあたしの髪の毛は気を付けないとね?」
平然とそう言う美月に、祐麒も何と答えたらよいのか分からない。
お互いに具体的なことは言わないが、美月が気付いているのは確実で、可南子もおそらく知ってはいるのだろうが絶対に口には出さない。異常なことだし、自分がどうにかしなければならないと分かっているのにそれが出来ないのは、あまりに二人が魅力的だから。そして、美月の方が『都合の良い女』で良いと自ら納得して受け入れているから。
部屋の掃除をして、来る途中に寄って来たというスーパーで買った食材で夕食を作ってくれて、食べた後は二人並んでテレビを眺める。すると、隣にいた美月が祐麒の肩に頭をもたれてくる。
視線を向ければ、くつろいでいるせいでボタンを一つ外し、ブラウスの胸元が緩んだなめらかな膨らみが目に入ってくるし、タイトスカートから伸びたストッキングに包まれた形の良い太ももにも引き寄せられる。
休日出勤であればもっとラフな格好でも良さそうなのに、このような格好なのは明らかに祐麒の好みを考えてのことだと思える。そして、それが分かっていながらも逆らうことのできない祐麒。
美月の手の平が祐麒の足を撫で、やがて股間をやわやわと刺激してくると、祐麒も美月の胸元に手を差し入れる。首をひねって見上げてくる美月の表情は期待に満ちていて、艶めかしく光る唇は祐麒を吸い寄せる。
これから今夜から朝にかけて、どれだけ搾り取られることになるのか。何せ可南子の母親だ、しかも経験、テクニック共に可南子の比ではないし、現実的に祐麒も身を持って知っている。それでも逆らうことのできない肢体を誇る美月、おまけにドMで奉仕が大好きと来ているのだから。
この先、自分はろくでもない末路を迎えるのかもしれない。そう思っていても抜け出すことのできない魅惑的な川に首まで浸かり、深みへ深みへと溺れ沈んでいくのであった。
おしまい