市民プールにしてはかなり立派なウォータースライダーだった。人気もあるようで、順番待ちの行列もできていた。
誰か来ていないかと思って上がってきてみると、案の定、知った顔が見える。
「あ、祐麒お兄ちゃん、こっちこっち!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにして、手をあげて左右にふっている笙子。その傍らにはもちろん、乃梨子の姿も見える。祐麒は二人の方に向かって歩いて行く。笙子は笑顔で迎えてくれるが、乃梨子は不機嫌そうな顔で、実に対照的である。ちなみに、胸の大きさも対照的だな、なんてことは心の中で思っても口には出さない。
「お兄ちゃんも一緒に滑ろうよ」
「えー、なんでこの人も一緒に」
腕を取ってくる笙子に、文句を口にする乃梨子。しかし、待っている人も多い中でうだうだとしているわけにもいかず、結局は三人で待ち行列に並ぶ。人は多いが、スライダーは複数あり、回転も速いようで、さほど待つということもなく列は進んでいく。
しかしこうして間近で見ると、本当に、いつの間にか笙子も立派に育ったものだと感心してしまう。
「うわぁ、いやらしい目、してる」
「な、なんだよ。別に俺はそんな目をしていない」
「してますよ。やだやだ、変態」
とにかく、祐麒のことを毛嫌いしている乃梨子は、ことあるごとに憎まれ口を叩いてくる。仲の良い笙子が祐麒と親しげにしていることも、乃梨子の反感をかっている一因となっているのだろう。
そうこうしているうちに、祐麒たちに順番がまわってくる。
「笙子、先に滑っていいぞ」
「えー、なんか怖いかも。ねえ祐麒お兄ちゃん、先に滑って、下で私のこと受け止めてよ」
「大丈夫だから、滑ってみなって」
と、二人でどっちが先に滑るか話していると、横の乃梨子が苛立ったように頭をかく。
「いいから、後ろも詰まっているんだからさっさと行ってくださいよ」
手で、肩を押してくる。
「う、わっ!?」
バランスを崩す祐麒。
そのままスライダーに倒れこんでいきそうになり、咄嗟に手をのばしてつかんだものは。