【作品情報】
作品名:代表取締役アイドル
著者:小林泰三
ページ数:320
ジャンル:エンタメ
出版社:文藝春秋
おススメ度 : ★★★★★★★☆☆☆
会社に勤めている人は感じるところがあるかも度 : ★★★★★★★★☆☆
こういう人におススメ! : 会社に疑問を抱いていない人
地下アイドルとして活動していた河野ささらは、ある日の握手会イベントの事件を機にアイドル活動ができなくなってしまう。
そんなささらに対し、ある会社からいきなり「代表取締役」になってほしいとのオファーがある。
何の冗談かと思ったが、ワンマン社長の経営する会社で、その社長がたまたまテレビに出ていたささらの発言を気に入り、気まぐれで実行したもの。
ワンマン社長とイエスマンばかりの取り巻きの中、ささらはどうにか自分に出来ることはないかと動くのだが。
会社の闇を切り取った、皮肉な企業小説。
大きな会社の代表取締役にアイドルが起用された。
その一言のあらすじだけで想像したことは、アイドルの音の子が会社に勤めている頭の固い役員たちとは全く異なる発想で、ダメな会社を良くしていく、そんな痛快な物語。
いや、こういうテンプレ展開を想像してもおかしくないと思います。
でも、そうしないのが小林泰三ということか。
レトロフューチュリア株式会社は、ちょっとした偶然から凄い発明品が出来上がり大企業となった会社。
そして創業者一族が会社の中枢で権力を握り、会社経営を行っている。
社長のワンマンであり、その取り巻きは社長の言葉には絶対服従のイエスマンばかり。
ささらが就任後に発令された、
「目指せ、世界一」や「売上1兆円」(今の10倍の売上)
といった何の実現性もない目標に対しても、社長が言ったのだから社員は達成するのが義務であり出来なければ背任罪だ、などと平気で口にするような会社です。
そうなればもう滅茶苦茶です。
目標を達成するためにデータ改竄や不正などが当たり前に行われる。
その指示に従わない社員は上司から陰湿ないじめ、パワハラにあう。
物語ですから大げさに、阿保みたいに大げさに上司像が描かれているかもしれませんが、いやこれ、実はそんな大げさでもなんでもないかもしれません。
今時の大きな企業であればそうはないと思いたいですが、ありますね。
時に新聞でも不正や改竄のニュースが出ますが、そういうのって結局は同じ構図なんでしょうね。
ここまで酷くなくても、働いている人だったら感じるところはあると思います。
「上の人は掛け声だけで良いけれど、実際に実現方法を考えるこっちの身にもなってくれよ」
的な。
そしてそんな中、タイトルにも表紙にもなっているささらは全然目立ちません(笑)
この会社の中にあって、アイドルのささらの方が一般常識のある普通の人で、会社の人達がおかしな人ばかりという、当初想定と真逆の構図。
一般目線で見ると変なことばかりなのに、この会社ではその変なことが常識でまかり通るという皮肉。
いやこれ、本当に痛烈な皮肉ですよ。
会社って要は一つの小さな世界で、その世界だけの常識ってあるんですよ。
だから転職すると、今までの常識が異なることに驚くというか愕然とするというか、全然常識でないことに気付かされるというか。
上司の人も、部下の人も、たまにはこういう作品を読んでみてはいかがでしょうか。
内容が内容だけに、皮肉ではあるけれど、痛快というか爽快さはないですね。
ささらが頑張ってくれたら違ったのでしょうけれど、小林さんが書きたかったのはそういうのじゃなかったのでしょうから。