【作品情報】
作品名:宇宙戦争
著者:H.G. ウェルズ
ページ数:318
ジャンル:SF
出版社:東京創元社
おススメ度 : ★★★★★★★★☆☆
火星人の侵略のスリル度 : ★★★★★★★★☆☆
こういう人におススメ! : 今読んでも面白い古典的名作を読みたい
ある晩、人々は夜空を切り裂く流星を目撃する。
だがそれは単なる流星ではなかった。
巨大な穴を穿って落下した物体から現れたのは、V字形にえぐれた口と巨大なふたつの目、不気味な触手をもつ奇怪な生物。
彼らは火星人。
そう、火星人による地球侵略が開始されたのだ。
1898年にH.G.ウェルズによって発表された、SFの古典的名作。
1898年ですよ!?
その時代にこの作品を出したウェルズの想像力というか、先見の明というか、今になってその凄さが改めて分かるものです。
いわゆる火星人のイメージを世界中に定着させたのもこの作品でしょう。
この作品の凄さ、『宇宙戦争』というタイトルからは想像がつかないかもしれません。
宇宙を舞台に、宇宙艦隊でドンパチやるものを想像してはいけません。
火星人がやって来たのは19世紀の地球ですから、人間たちが宇宙で戦えるはずもありません。
そして地球に来るくらいですから、火星人の文明、科学力の方が圧倒的に先を進んでいます。
そこから導き出されるのは、一方的な侵略であり、暴力であり、虐殺。
火星人の心情、思惑が描かれているわけではないので、実際の所どういう意図で来たのかは分かりませんが、描かれている火星人の行為は明らかに敵対的なもの。
そして地球の科学文明では、それらに抗うことが出来ません。
なので作品内で描かれていることの多くは、火星人に一方的にやられているところばかり。
そんな状況下での人間の行動や、心情など、主人公の目を通して描かれるドラマというかドキュメンタリーの様も近いかもしれない。
宇宙戦争のタイトルから考えるような派手なシーン、描写はない。
あるのは、スリルと恐怖だ。
おぞましい火星人の姿かたちの描写であったり、彼らの人間に対する残酷な仕打ちだったり。
なんていうか、読んでいて想像させてしまうだけの力と、描写力があるのだ。
全てを描き切っていないから、自分の中で想像を膨らませていくことでスリルが増幅するところもある。
特に、主人公が副牧師とともに生き埋めになって十日間以上も火星人の拠点に閉じ込められているシーンは、狂気の一歩手前。
そういったところだけでなく、火星人が使用するのは熱戦を使用した兵器と毒ガス兵器。
冒頭にも述べたように、この作品が発表されたのは1890年代である。
更には、いわゆるパワードスーツ的なものも登場。
本当に、ウェルズ凄いな、と思える。
古典ではあるけれども、今読んでも決して面白さが損なわれているわけではない。
むしろ、今だからこそ感じる凄さがある。
そんな作品だ。
改善点ではないけど。
述べたように、タイトル通りの『宇宙戦争』を想像していると、ちょっと違いますよ、ということで。